下調べとチュートリアルは紙一重
しばらく歩いていると地図に乗っているマンションに着いた。想像していたより新しいマンションだったので少し驚いた。
しかしこの時自分の部屋はどこにあるのか知らなかったことに気が付いた。地図をもう一度確認して見ると端のほうに「601」と書いてあった。部屋は6階にあるようだ。
エレベーターに乗ろうとしたとき主婦が乗ってきた。そして主婦は俺の顔をまじまじと見て「もう自殺しようとしたらダメよ」と言ってきた。ニュースが主婦の耳に届く早さは中々の物のようだ。俺は適当に返事を返し6階でエレベーターから降りた。
廊下を少し歩いて「601」を探していると6階の一番奥。角部屋が「601」だった。
医者に渡された鍵を使い部屋に入ると少しだけ人の家の匂いがした。それはいずれ慣れるので大した問題ではないだろう。部屋には最低限の家具や家電が置いてあった。どうせ夜眠るだけなのだから別に良い。家具はテレビ台、足の短い小さなテーブル、座椅子、ベッドの4つ。家電はテレビ、小型冷蔵庫、エアコン、扇風機の4つだった。テーブルに手紙が置いてあった。書いたのは医者らしい。
「この部屋はその娘が使っていた部屋です。妹夫婦は地方に暮らしていてその娘がこの辺りの高校への進学を希望したので私が用意しました。この部屋は一切手をつけていません。そこにある家具や家電もその娘が使っていたものです。大事に扱ってください。その娘が使っていた制服や学校で必要なものはクローゼットに入っています。9月11日に清楼高校という学校にその日だけ8時までに行ってください。その日以降は8時20分までに行けば大丈夫です」
手紙にはそう書いてあった。
今日は何日なのか確認するためスマートフォンを見てみると9月4日と表示されていた。つまり1週間後にその高校に行けば良い。
その日俺はスマートフォンを使ってその高校のことや現代の十代について調べた。すると3つの収穫があった。1つ目は高校の場所と行き方が分かったこと。2つ目は現代の十代はやりたいこととやるべきことが俺が十代だったときより多いこと。そして最後が高校生を中心に自殺数が増えていること。しかし最後は違和感を感じた。じわじわと自殺数が増えていくならまだ分かる。だが今年の十代の自殺数が現時点で去年の自殺数の3倍以上になっているのである。しかもほとんどの自殺に至った原因がハッキリしていないのである。俺は少し寒気を覚えた。
再び時間を確認してみると0時を過ぎていたので部屋の電気を消しベッドに潜った。少女の優しい香りが布団を包んでいた。その香りに気付いたとき俺はなぜ死を選んだのだろうと少し考えた後に眠りに入った。
次の日
久しぶりに気分の良い目覚めだった。しかしこの体にはまだ慣れていないので僅かに違和感があった。テレビを点けて見ると朝のニュース番組がやっていた。しばらく見ているとある特集が始まった。内容はなぜ自殺する人が増えているのかというものだった。なにやら胡散臭い専門家のような人物がそれらしいことを話していたがどこか信じられなかった。何か人知を越えたものが関わっているのではないかと俺は思った。
ニュース番組を見終わった後、冷蔵庫が空だったので近くのスーパーへ行った。スーパーには昨日の主婦がいた。俺を見つけるなり色々としつこく聞いてきたので俺は実は最近のことを覚えてなくて一時期に記憶が飛んでいると言った。すると主婦は満足そうな顔をして買い物の続きを始めていた。独身だったので何を買えば良いのかある程度は把握していた。まさかこんなときに独身だったのが役にたったとは。
買い物を済ませマンションに戻るとマンションの前で主婦たちがなにやら噂話をしていた。俺の存在に気づくと主婦たちは俺を囲みよくわからない励ましを始め出した。正直鬱陶しかったので適当に返事をしてマンションに入った。
部屋に戻った俺は再び現代の十代は普段どんな行動をするのか調べた。それにしても娯楽がスマートフォンとテレビだけでは何か寂しい。明日は本屋にでも行ってみようか。気が付くと外が暗くなっていたので晩御飯を作りテレビを観ながらそれを食べた。食べた後はすぐに食器を洗った。すぐに洗わないとあっという間にたまってしまう。なんでも簡単なうちに終わらせるのが一番楽だ。その後は動画サイトで幾つか十代が観そうな動画を観て0時頃ベッドに入った。