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偏在の理想ボーイ幻覚の普通ガール  作者: キャボション
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死んだと思いきや

午後7時

男はビルに囲まれた交差点を歩いていた。男にとってそれは日常であり退屈なものであった。

「つまらない」

男はそう呟いてみた。だが呟いたところでなにも変わるはずがない。この男は三十年ほど生きているが常に退屈に襲われていた。

「何か変わらないのか?」

男は再び呟いた。すると突然右が騒がしくなった。男が右を見てみると自動車が交差点に突っ込んできていた。運転している人はまるでジェットコースターを楽しんでいるような表情をしていた。そして男はその場を動かなかった。そして男は言った。

「やっぱり死にたくないな」

自動車は男をはね飛ばした。


午後7時

少女は自身の部屋でうつむいていた。十数年間の間に何かを感じたのだろう。天井からは縄が垂れていた。

「私の命は何があったんだろう」

少女は何かを考えている様子だったが、少女はすぐに考えるのを中止した。そして少女は椅子に乗り首に縄をかけた。


俺は気が付くと暗闇の中を歩いていた。どこまで行っても暗闇が続いている。そこは純粋な暗闇で星がひとつもない宇宙のようだ。

しばらく歩いていたら目の前に少女が現れ「はじめまして」と俺に言った。

「君は誰なんだ?」

「後で分かるよ」

少女は優しい笑顔だった。

「後で?」

「そう。後で色々分かるよ」

少女はそう言うと俺の頬にキスをした。

「じゃあ、後はよろしくね」

少女は消えてしまった。

「何だったんだ今のは」

俺がそう呟きながら前を見てみるとひとつのドアがあった。

「開けろってことか」

俺がそのドアを開けると視界が光に包まれた。


三日後

俺は目を覚ました。なぜか生きている。確か俺は車に跳ねられたはずだ。

「あー、久遠さん。聞こえますか?聞こえるなら瞬きをしてください」

医者が俺にそう聞いた。

俺は瞬きをした。

医者は少し安心しているようだった。しかし俺は少しだけ違和感を感じた。少し胸の辺りが重い。それに下腹部も何かおかしい。あるはずの物がない気がする。

「気づいたようですね。違和感に」

医者はまるでガンの宣告をするような表情になっていた。

「見るほうが早いでしょう。現実はしっかりと受け入れてください」

医者はそう言うと鏡を俺のほうに向けた。

俺は驚いた。自分の顔が少女のように、いや少女そのものになっているのである。

「これはどういうことなんですか!」

俺はそう言った。声も少女の声になっていた。

「久遠さん。落ち着いて聞いてください。あなたは交通事故で一度死んだんです」

「どういうことですか?」

「つまり脳以外がすべて死んでしまったんです」

医者は淡々としていた。

「でもその説明じゃこの女の子の体はどういうことか理解できませんよ」

「えぇ。なので今から説明します」

医者は少し重い表情になっていた。

「その女の子は私の妹のひとり娘なんですよ」

医者は歯がゆい表情をしていた。

「事故ですか?」

「いえ、自殺です。あんな悩みのなさそうな娘がなんで」

医者の目には涙が浮かんでいた。

「そしてその娘は脳だけが死んでしまったんです」

「でもそれだけじゃ俺の脳を移植する理由にはなりませんよ」

「あなたの脳とその娘の体が一致したんです。お願いです。久遠さん、その娘が自殺した理由を探してください!できるだけサポートはします!」

医者は俺に土下座をした。

「わかりました。じゃあこの娘の名前を教えてください」

「久遠乃愛です」

俺は少し驚いた。まさか自分と同じ名字とは思わなかったからだ。しかしそれなら少し楽かもしれない。

「先生、必ずこの娘の無念を晴らしてみせます。それで俺はどこに行けば良いんです?この娘の両親の家ですか?」

「いえ、この地図に乗っているマンションです」

医者は俺にA4サイズの地図を渡した。

「実はその娘が自殺したあと両親も後を追うように自殺したんです」

医者は暗い表情をしていた。

「で、この娘は何歳なんですか?」

「16歳です」

「高校生、死ぬには早すぎますね」

「では、久遠さん。よろしくお願いいたします」

医者は俺に深く頭を下げた。

「わかりました」

俺はこの娘の服に着替え、地図に乗っているマンションへと向かった。







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