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XINXIA-シンシア-  作者: 真白シグマ
7/7

#7 REON

5ヶ月ぶりの更新になります。

申し訳ございません

アイクスが先陣を切った。リオンの顔めがけてその拳をぶつける。が、すんでのところでその拳を払われる。


「温いな。さっきのが鋭かったぞ?」

「誰が1発で終わらすかよ、ボケナス!!」


悪態を吐き、敵に向けてラッシュを開始した。俺はそれに合わせて周りにアイコンタクトを送る。


「了解!行くぜパンドラ!」

「合点承知ィ!」


最初に動いたのは朝月とパンドラだ。2人はリオンの横を通り過ぎ、リオンの味方であろう男の前で止まる。


「動いたのは坊主だけか?随分と薄情だね?」

「いやいや……俺の見立てだとアイクスだけじゃ黒いトカゲにゃ勝てねぇ。だからあっち側に人数割いたってワケよ」

「……つまり、俺はナメられてるって事だ。おじさん悲しくなっちゃうよ?」

「見たところアンタにゃバックがいねえみたいだからな。大人にはそれくらいのハンデはいるだろ?」


言い切るや否やというタイミングで、男は拳銃を朝月に向ける。だが、彼は臆せずといった調子である。


「ハハ、ビビって声も出ないか?」

「そりゃ無いぜおっさん。その台詞、三流が吐くもんだぞ?」


男が弾丸を放つが、それを再びパンドラが箱の中へと閉じ込める。朝月は男の腹を蹴り、後ろに飛び退く。


「面白いチカラだ、気に入ったよ」

「そいつはどーも」



ナッツ、パラディン、コロナ、フレア、そしてアイクスの5人体制で黒い竜人「リオン」を相手取っているが、やっと互角といったところだ。そして、戦闘を開始して3分して、ある違和感に気づく。


「なあ、アイクス。なんか変じゃねえか?」

「……やっぱ、俺の勘違いじゃねえみたいだったようだな。勘違いで、あってほしかったが」


俺の見立てじゃ、さっき殴った時も、今殴り続けてる時も、アイクスの攻撃だけやけに通っていない。他のみんなの攻撃は僅かながらにダメージが入っている。俺たちが考えていると、ナッツから声がかかる。


「どうした、トカゲ!」

「みんな、一回攻撃を止めてくれ」

「何を考えている!?こいつは一連の事件の犯人なんだぞ!」

「俺は、俺たちはこいつに聞かなきゃいけない事がある。頼む、一旦手を引いてくれ」


リオンに対する攻撃が止み、辺りが静かになる。リオンは、可笑しそうにくつくつと笑っている。


「リオン……お前、何を隠してるんだ?」

「……"隠す"、と来たか。普通"知っている"、じゃないのか?」

「アイクスと姿が似ているし、アイクスの攻撃だけやけに効きが悪い。アイクスと何かあるのは目に見えて分かってんだ」

「随分と勘がいい。まあ、いずれはバレる話だ……昔話も交えて教えてやろう」


リオンは臨戦体制を解き、送風機の上にドカっと座り込む。


「あれは30年ほど前の話だ」



1984年。

イギリスのとある郊外に構える町医者があった。その医院長であるシンシア・クロニクスは、主に心療内科を担当していた。近年増加傾向にある人々の暴動と、その事件と合わせて必ず目撃情報が上がる未確認生物。彼女が診てきた患者がしきりにその話題を出すため、彼女自身も事件について診療の合間に調査することにした。


「シンシア先生よ、都市伝説なんか調べて……ついに気が触れたか?」

「都市伝説にしては偶然が重なりすぎてるし、単なる噂として片付けるには惜しい案件よ。それより、見習いは見習いらしくテキパキ手伝って頂戴」

「はいはい。人使い荒いなあ……」

「何か言った?」

「いいえ、何でもありませんよっと……」


彼女には愛娘のように可愛がっていた弟子がいた。弟子はシンシアの技術をバリバリ吸収していった。彼女は、弟子に多くの期待を寄せてただろう。


そんな日々を過ごしていた時だ。彼女の医院に多数の負傷者が担ぎ込まれた。そして、彼らはしきりにこう言っていた。


「化け物が……森の中に……」


彼女の疑惑は確信に変わった。これは単なる噂じゃないと。


「行くよ、見習い!」

「ええっ!?化け物いるんでしょ!そんなとこにノコノコ行くわけないでしょうよ!」

「もし本当に化け物が関与しているなら、被害を抑えることができる。それに、まだ倒れている人もいるかもしれない!」

「……わかりました。でも、もし危なくなったらその時は逃げますよ!私たちのするべき事は、生きて帰って、現状を伝える事ですから」

「いっぱしの口きくようになったじゃん。それじゃ、しばらく空けるから頼むよ!」


シンシアは、看護師に全てを任せて弟子と共に森に向かって行った。



「思えば、ここで森に向かわなければこんな事にならなかったのかもな?知らない方が良いこともあるってこった」

「どういう意味だ?」


リオンの挑発めいた物言いに俺はつい突っかかる。横にいるナッツが目を伏せているのに気づかず。


「シンシアはその弟子を養子にしててな。どうやら孤児だったらしい。そして……」

「それ以上言うな!お前が、お前が先生の事を語る資格なんて!!」


彼が雄弁と語っている最中に、ナッツが激昂する。しかし、そんな彼女を一瞥し、彼は冷たく言い放った。


「資格、か。あの日先生を守れなかったお前にその資格があるのか?」

「それは……」

「全く……"一番弟子"が呆れるな!ナッツ・クロニクス!!」

「……ッ!!お前が蒔いた、種じゃないか!!お前が、"王"を目覚めさせたから!!」

「冷静になれクロニクス!!」


ナッツを一喝したのは、フレアだった。彼は、俺たちとリオンの間に立ち、彼女を見据える。


「冷静に……?アイツに言われっ放しで構わないってわけ!?」

「……構わないわけないだろう!!」


今までの彼の印象とはかけ離れた、怒号が辺りを支配した。その手は、握り締められ、かすかに震えていた。


「フレアはさ、あの日からずっとあなた達に華を捧げてたんだ。あのクソ野郎に言われっ放しで、心底イラついてるはずさ」

「あの日から……?」

「私たち、ナッツが死んだと思ってたから、さっき見た時最初は嬉しさより驚きのが勝って、でも……今、またこうやって肩を並べられる事が、嬉しいんだ」

「コロナ……」


コロナはナッツの肩を抱き抱え、目を合わせる。


「シンシアを道具にした事、それで人を殺した事、言い訳するつもりは無い。それをナッツに謝るのはお門違いだと思ってる、でも……」

「もういいよ。だいぶ頭も冷えたし、それに、悪いのは全部あのクソ野郎だ。コロナ、フレア。また一緒に戦ってほしい」

「もちろん。ね、フレア?」

「ああ、願っても無い。人間、お前たちへ言わなければならない事が山ほどあるのは重々承知だ。だが、今は……」

「分かってるわよ。ナッツちゃん、全力で手を貸すわ」

「女の子を泣かすやつは俺とパンドラが許さねえってな!」

「……だそうだ。何だかアイクスとお前がどうだって話、どうでも良くなった。俺たちは今、負ける気がしねえ!」

「……成る程」


俺たちが構えた途端、フレアの胸から爪が突き抜けていた。その先にいたのは、他でもないリオンだ。


「自分が参加しない長話は退屈でね、話は終わったか?」

「フレア……?」

「が……はッ」


凶器が引き抜かれ、彼は前のめりに倒れる。俺たちは、余りに突然の出来事に何も出来なかった。


「負ける気が……何だったっけな?」

「フレアぁああああ!!!」


コロナが彼の元に走り寄る。が、隙だらけの彼女を、リオンの一撃が襲う。その爪が、横っ腹を深く切り裂いた。


「……馬鹿野郎ッ!何やってんだ……グッ!」

「ごめん……頭に血が上っちゃった……」

「……ッ!!」


その光景を見て、初めて動いたのはナッツだった。彼女が凄まじい速度で、2人を抱え俺たちの後ろに横たわらせた。


「……リオン、お前は…………」


彼女は、黒い光を纏い、その腕を巨大な鉤爪の付いたものに変える。


「絶対に許さない!!」

「……安っぽい台詞だ」

「らァッ!!」


軽く呟いたリオンに対して、アイクスが拳を入れる。


「お前の攻撃は通じない、それはさっき分かっただろう?」

「るせぇ!!効いてようがいまいが、俺はお前が気に入らねえから殴る!!」

「くだらん」


リオンがアイクスを突き飛ばすが、アイクスは受け身を取る。俺たちは、再び構えた。


「そこまでして死にたいか……良いだろう。冥土の土産に、アイクス……教えてやろう、お前の正体を」

「あ?」


今度は、臨戦態勢を解かずに、静かに彼は言い放った。


「お前は……俺から生まれた残骸だ」

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