#7 REON
5ヶ月ぶりの更新になります。
申し訳ございません
アイクスが先陣を切った。リオンの顔めがけてその拳をぶつける。が、すんでのところでその拳を払われる。
「温いな。さっきのが鋭かったぞ?」
「誰が1発で終わらすかよ、ボケナス!!」
悪態を吐き、敵に向けてラッシュを開始した。俺はそれに合わせて周りにアイコンタクトを送る。
「了解!行くぜパンドラ!」
「合点承知ィ!」
最初に動いたのは朝月とパンドラだ。2人はリオンの横を通り過ぎ、リオンの味方であろう男の前で止まる。
「動いたのは坊主だけか?随分と薄情だね?」
「いやいや……俺の見立てだとアイクスだけじゃ黒いトカゲにゃ勝てねぇ。だからあっち側に人数割いたってワケよ」
「……つまり、俺はナメられてるって事だ。おじさん悲しくなっちゃうよ?」
「見たところアンタにゃバックがいねえみたいだからな。大人にはそれくらいのハンデはいるだろ?」
言い切るや否やというタイミングで、男は拳銃を朝月に向ける。だが、彼は臆せずといった調子である。
「ハハ、ビビって声も出ないか?」
「そりゃ無いぜおっさん。その台詞、三流が吐くもんだぞ?」
男が弾丸を放つが、それを再びパンドラが箱の中へと閉じ込める。朝月は男の腹を蹴り、後ろに飛び退く。
「面白いチカラだ、気に入ったよ」
「そいつはどーも」
◇
ナッツ、パラディン、コロナ、フレア、そしてアイクスの5人体制で黒い竜人「リオン」を相手取っているが、やっと互角といったところだ。そして、戦闘を開始して3分して、ある違和感に気づく。
「なあ、アイクス。なんか変じゃねえか?」
「……やっぱ、俺の勘違いじゃねえみたいだったようだな。勘違いで、あってほしかったが」
俺の見立てじゃ、さっき殴った時も、今殴り続けてる時も、アイクスの攻撃だけやけに通っていない。他のみんなの攻撃は僅かながらにダメージが入っている。俺たちが考えていると、ナッツから声がかかる。
「どうした、トカゲ!」
「みんな、一回攻撃を止めてくれ」
「何を考えている!?こいつは一連の事件の犯人なんだぞ!」
「俺は、俺たちはこいつに聞かなきゃいけない事がある。頼む、一旦手を引いてくれ」
リオンに対する攻撃が止み、辺りが静かになる。リオンは、可笑しそうにくつくつと笑っている。
「リオン……お前、何を隠してるんだ?」
「……"隠す"、と来たか。普通"知っている"、じゃないのか?」
「アイクスと姿が似ているし、アイクスの攻撃だけやけに効きが悪い。アイクスと何かあるのは目に見えて分かってんだ」
「随分と勘がいい。まあ、いずれはバレる話だ……昔話も交えて教えてやろう」
リオンは臨戦体制を解き、送風機の上にドカっと座り込む。
「あれは30年ほど前の話だ」
◇
1984年。
イギリスのとある郊外に構える町医者があった。その医院長であるシンシア・クロニクスは、主に心療内科を担当していた。近年増加傾向にある人々の暴動と、その事件と合わせて必ず目撃情報が上がる未確認生物。彼女が診てきた患者がしきりにその話題を出すため、彼女自身も事件について診療の合間に調査することにした。
「シンシア先生よ、都市伝説なんか調べて……ついに気が触れたか?」
「都市伝説にしては偶然が重なりすぎてるし、単なる噂として片付けるには惜しい案件よ。それより、見習いは見習いらしくテキパキ手伝って頂戴」
「はいはい。人使い荒いなあ……」
「何か言った?」
「いいえ、何でもありませんよっと……」
彼女には愛娘のように可愛がっていた弟子がいた。弟子はシンシアの技術をバリバリ吸収していった。彼女は、弟子に多くの期待を寄せてただろう。
そんな日々を過ごしていた時だ。彼女の医院に多数の負傷者が担ぎ込まれた。そして、彼らはしきりにこう言っていた。
「化け物が……森の中に……」
彼女の疑惑は確信に変わった。これは単なる噂じゃないと。
「行くよ、見習い!」
「ええっ!?化け物いるんでしょ!そんなとこにノコノコ行くわけないでしょうよ!」
「もし本当に化け物が関与しているなら、被害を抑えることができる。それに、まだ倒れている人もいるかもしれない!」
「……わかりました。でも、もし危なくなったらその時は逃げますよ!私たちのするべき事は、生きて帰って、現状を伝える事ですから」
「いっぱしの口きくようになったじゃん。それじゃ、しばらく空けるから頼むよ!」
シンシアは、看護師に全てを任せて弟子と共に森に向かって行った。
◇
「思えば、ここで森に向かわなければこんな事にならなかったのかもな?知らない方が良いこともあるってこった」
「どういう意味だ?」
リオンの挑発めいた物言いに俺はつい突っかかる。横にいるナッツが目を伏せているのに気づかず。
「シンシアはその弟子を養子にしててな。どうやら孤児だったらしい。そして……」
「それ以上言うな!お前が、お前が先生の事を語る資格なんて!!」
彼が雄弁と語っている最中に、ナッツが激昂する。しかし、そんな彼女を一瞥し、彼は冷たく言い放った。
「資格、か。あの日先生を守れなかったお前にその資格があるのか?」
「それは……」
「全く……"一番弟子"が呆れるな!ナッツ・クロニクス!!」
「……ッ!!お前が蒔いた、種じゃないか!!お前が、"王"を目覚めさせたから!!」
「冷静になれクロニクス!!」
ナッツを一喝したのは、フレアだった。彼は、俺たちとリオンの間に立ち、彼女を見据える。
「冷静に……?アイツに言われっ放しで構わないってわけ!?」
「……構わないわけないだろう!!」
今までの彼の印象とはかけ離れた、怒号が辺りを支配した。その手は、握り締められ、かすかに震えていた。
「フレアはさ、あの日からずっとあなた達に華を捧げてたんだ。あのクソ野郎に言われっ放しで、心底イラついてるはずさ」
「あの日から……?」
「私たち、ナッツが死んだと思ってたから、さっき見た時最初は嬉しさより驚きのが勝って、でも……今、またこうやって肩を並べられる事が、嬉しいんだ」
「コロナ……」
コロナはナッツの肩を抱き抱え、目を合わせる。
「シンシアを道具にした事、それで人を殺した事、言い訳するつもりは無い。それをナッツに謝るのはお門違いだと思ってる、でも……」
「もういいよ。だいぶ頭も冷えたし、それに、悪いのは全部あのクソ野郎だ。コロナ、フレア。また一緒に戦ってほしい」
「もちろん。ね、フレア?」
「ああ、願っても無い。人間、お前たちへ言わなければならない事が山ほどあるのは重々承知だ。だが、今は……」
「分かってるわよ。ナッツちゃん、全力で手を貸すわ」
「女の子を泣かすやつは俺とパンドラが許さねえってな!」
「……だそうだ。何だかアイクスとお前がどうだって話、どうでも良くなった。俺たちは今、負ける気がしねえ!」
「……成る程」
俺たちが構えた途端、フレアの胸から爪が突き抜けていた。その先にいたのは、他でもないリオンだ。
「自分が参加しない長話は退屈でね、話は終わったか?」
「フレア……?」
「が……はッ」
凶器が引き抜かれ、彼は前のめりに倒れる。俺たちは、余りに突然の出来事に何も出来なかった。
「負ける気が……何だったっけな?」
「フレアぁああああ!!!」
コロナが彼の元に走り寄る。が、隙だらけの彼女を、リオンの一撃が襲う。その爪が、横っ腹を深く切り裂いた。
「……馬鹿野郎ッ!何やってんだ……グッ!」
「ごめん……頭に血が上っちゃった……」
「……ッ!!」
その光景を見て、初めて動いたのはナッツだった。彼女が凄まじい速度で、2人を抱え俺たちの後ろに横たわらせた。
「……リオン、お前は…………」
彼女は、黒い光を纏い、その腕を巨大な鉤爪の付いたものに変える。
「絶対に許さない!!」
「……安っぽい台詞だ」
「らァッ!!」
軽く呟いたリオンに対して、アイクスが拳を入れる。
「お前の攻撃は通じない、それはさっき分かっただろう?」
「るせぇ!!効いてようがいまいが、俺はお前が気に入らねえから殴る!!」
「くだらん」
リオンがアイクスを突き飛ばすが、アイクスは受け身を取る。俺たちは、再び構えた。
「そこまでして死にたいか……良いだろう。冥土の土産に、アイクス……教えてやろう、お前の正体を」
「あ?」
今度は、臨戦態勢を解かずに、静かに彼は言い放った。
「お前は……俺から生まれた残骸だ」