#5 Friends
ちょっと長台詞になっちゃったから見にくいかも。ごめんちゃい
「回復するシンシア、さてどうするか」
「華流奈様、次の作戦を」
「と言われてもねえ……」
脱皮による超回復と攻撃の出の速さ、この二つが両立したコブラ型のシンシア相手に朝月とルナが苦戦してる中、俺は見る事しかできずにいる。
本来人間を襲うシンシアである俺の相棒"アイクス"を現出させれば戦況はマシになりそうだが、はたから見ればコイツは人間の敵でしかない。事情を知ってる朝月ならともかく、ルナが協力してくれるかどうか……。
そう悩んでいると、誰かが俺の下に歩いてくるのが聞こえてきた。そして、その人物が俺に声をかける。
「トカゲの。何コソコソ隠れてんのよ、さっさと加勢しに行きなさいよ」
「なっ!?」
そこには先日助けた少女、ナッツが立っていた。コブラを目の前にしても動じず、むしろ俺を向かわせようとしてるようだ。
「お前、ルナんところにいるんじゃあ……」
「今日ガッコウ早いから帰ったら遊びに連れてってくれるって聞いたんだけど、帰ってこないから見に来たの。文句ある?」
「いや別に……しっかし仲良くなるの早えな、ってそうじゃなくて!」
話が微妙に逸れそうになるのを戻し、ナッツの方を向こうとした時、アイクスが半身だけ現出した。
「誰がトカゲだゴルァ!!見て分かんねえのかよ!この強靭な筋肉、カッコいい翼!!どう見てもドラゴン様だろうが!!」
「あーはいはい、熱弁お疲れ様」
「こんのぉおおお……」
怒りに震えるアイクスをよそに、彼女はまた俺に話しかけてきた。
「単刀直入に言うけど、あそこで戦ってるのはあなたのお友達だったりするの?」
「そうだけど、それが何だよ」
「私の知ってる知識じゃ、人間って友達の為に必死になって動く生き物らしいけど、私が間違ってるのかしら?」
「……ハッ、セレーネに説教受ける時代か」
俺の言葉に彼女は驚いた様だった。俺からすりゃバレバレなんだがな。
「何故私がセレーネだと……?」
「昔っから何となくわかんだよ、セレーネやシンシアの気配が。ずっとシンシア狩りしてるから染み付いたんだと思う。まあそれはそれとして、感謝するよ」
「感謝……?何によ」
「俺が大馬鹿者って事に気付かせてくれたことにだよ!」
そう言って俺は校門の影から飛び出し、二人の前に出る。この二人は俺のダチだ。なら、バカ正直に信じるのが礼儀ってモンだろ!
「待たせたな、二人共」
「……いいのか、お前」
「ダチを見捨てて生き残ってくほど賢くないんでね」
朝月が俺に確認してくるが、二人が傷つくよりマシだった。ルナが何の話だと言わんばかりに俺たちを不思議そうに見ている。
「ちょっと、何の話よ。というかあなた現出できないんじゃ……」
「今まで隠しててゴメン……来い、アイクス!!」
俺の後ろから真っ赤な光と共に、騎士の兜を付けた赤褐色の竜人が現出する。
「こいつが俺の相棒で……シンシアのアイクスだ」
「し、シンシア……!?シンシアがなんで人間の味方してるのよ!」
「こいつは元々セレーネだったんだ。ガキの頃よく遊んでくれてた……だけど」
俺はそこで言葉を詰まらせてしまった。あの出来事を話すのは辛かったが、この戦いをスムーズに終わらすためには言うしかないと腹をくくった。
「八年前、親がいねえ間に俺の家に連続強盗犯が侵入して来て、俺と妹の二人だけでセレーネで対抗しようとしたんだが、向こうの力のが数段上だった」
俺が簡潔に言葉を選んで話している間、ルナの顔は申し訳なさそうな色を浮かべている。
「その結果、妹のセレーネは喰われて妹は視力を失った。そっからだよ、アイクスがシンシアに変わっちまったのは」
「シンシアは人の心の穢れ……ってことは」
ルナが察したかの様に小さく呟いた。俺は頷き、言葉を続ける。
「ああ。そいつに対する殺意がアイクスに影響しちまったんだ。……そんな顔すんなって、シンシアになってもアイクスはアイクスだ。そんで、俺の殺意がそのまま反映されたアイクスは、そいつをボコボコの半殺しにした。だけど、そいつのシンシアはまだ見つけてない」
「だから、こいつはずっと人の目から隠れてシンシアを狩ってたんだ。その日のシンシアを呼ぶためにな。シンシアであるアイクスが見つかれば、夜斗は戦えなくなる」
朝月の補足もあり、ここまで聞いてルナは合点がいった様で、俺とアイクスに尋ねた。
「なるほどね、昨日ナッツを私に預けてさっさと消えてったのはそのトカゲさんを見られたく無かったから……でいいかしら?」
「だからトカゲじゃねえつってんだろ!!」
「あら、気に障ったかしら。まあ夜斗君に味方してるのなら、悪い奴じゃなさそうだし、共に戦いましょう」
ルナは再びコブラの方に向き、俺たちは臨戦態勢に入る。今のこの状況で、彼女がアイクスを信用してくれたのはすごくデカい。
「サンキューな、ルナ」
「だからその呼び方やめなさいって。それより、わざわざバレるの覚悟で来たんだから何か考えがあるんでしょうね」
「ああ、ただその前に俺の考えがあってるかどうか確認したい。アイクス!思うがまんまにぶん殴りまくれ!!」
「おうよ!」
俺の指示に従ってアイクスは空高く飛び、そのままシンシアにラッシュを浴びせる。
「二人も、それぞれ好き勝手に動かしてくれ」
「了解」
「……ちゃんと説明しなさいよ!」
パンドラとパラディンも各々攻撃を開始したところで、俺は二人を呼びつけた。
「さて、向こうに聞かれたらマズいから一回しか言わねえぞ。さっきの戦闘で、何か気づいた事はあるか?」
「気づいた事って言われても、煽りに弱いのとエグい回復してきたところくらいしか」
「そう言えば、何故か比較的動きが遅くて狙いやすいパラディンと朝月君より色んな道具を出せて素早いパンドラがいる私を狙ってきたわね」
朝月が頭を抱える中、ルナがハッとした様子で口を開いた。更に彼女は続ける。
「そのあと、確かパンドラが宝箱を閉じる際に……尻尾を、引いた?」
「……なるほどねえ。そういうことか」
朝月が俺の言いたい事を呼んだ様でニヤニヤしている。一方ルナは俺の狙いには気がついていない様だ。
「ルナちゃん、あいつの能力は超回復だよな?」
「ええ、そうね。だけど尻尾を引くのは何で?って……」
「そこなんだよ、アイツの弱点」
朝月が調子良さそうに決めポーズをしながらルナに解説しようとしてるのが何となくむかつくので、俺が割り込む。
「朝月、正解だ。あのシンシアの超回復の範囲は"表面上"のダメージ、たとえばアイクスの打撃やさっきの爆発とかだな。だけど……」
「……パラディンの斬撃みたいな破損ダメージは回復できない」
彼女の言葉の数秒後、シンシアはパラディンの一振りを尻尾で"剣の腹"の部分を叩いて防いだ。
「ビンゴ、だな」
「よし、そうとなれば……アイクスとパンドラで撹乱、パラディンでまずは邪魔な尻尾をどうにかしてくれ!」
「任せろ!」
「分かったわ」
◇
三人がシンシアと交戦しているところを観察していたコロナが、校門にいるセレーネ、"ナッツ"を発見し、腰を抜かした。
「何故……『アレ』がこの場所にいるの……?あの時……『王』に殺されたハズじゃあ…!?」
パーカーを着た少女は慌てた様子で普段共に動く青年、フレアに電話をかける。
「どうした?コブラのやつが倒れたか?」
「それどころじゃない!……クロニクスがこの場にいる!!」
「……何だと?」
ふと目を離した隙に先ほどまでの場所に少女の姿は無く、気づけばコロナの真横に立っていた。
「久しぶり、コロナ。電話相手はフレアかな?」
「何故、お前がここにいる?お前は王に殺されたはずじゃあ……!?」
「今は答えるつもりは無いよ。それでも聞き出したいなら……」
そこまで言って、ナッツは右手を黒い鉤爪の付いたドラゴンの様な腕に変化させ、戦闘態勢を取る。
「容赦はしないよ」
「……結局、こうするしか無いのね」