#1-Rebellion-
2個目の連載作品です。全く違う方向性なのでバテずに突き進んでいきます。こちらの作品でもよろしくお願いします!
この世界に蔓延るヒトの穢れ、それが具現化したモノがシンシアと呼ばれる化け物だ。穢れというのは、憤怒・悲哀・強欲、ヒトのマイナスの心と受け取ってもらって構わない。
由来は1984年のイギリスの生物学者、シンシア・クロニクスが自らの名前を付けた事から来ており、彼女自身シンシアに殺害されるというのは酷く皮肉な結果だったが…………
「新月、教科書の14ページを……全く」
教師のような男性が、1人の学生の元に歩み寄り教科書でその学生の机を小突く。
「んあ……あ、先生おはよっス」
「おはよう、じゃないよ……お前は何度注意したら居眠り治してくれるんだ?」
俺は新月夜斗。月ヶ原高校の2年。入学説明会の頃から世話になってる担任の望月さんにこういうコントするのが鉄板だ。
「コントじゃないんだからしっかりしてくれ……ほら、12ページ読んでくれ」
そうして授業が終わり、昼休みに入る。早速俺の近くに1人の悪友が近寄ってくる。
「ははっ、またクラスの目線独り占めだな?居眠り番長!」
「るせぇ!何の用だ、朝月?」
こいつは小学校からの腐れ縁である朝月翔太。何かと軽口を叩いてくるが、根はいい奴と分かってるのでこちらも軽く受け流している。
「それより、良いのかよ?まだ現出してねえんだろ」
「だから俺にゃ才能無えんだって。大体『それ』できるやつの方が人口的には稀少じゃねえか」
シンシアの存在の確認後、その生態が徹底的に研究され、その対抗策を見つけるため、科学者達は奔走した。
そうして見つけた方法が『現出』だ。ヒトの穢れから生まれるのならば、ヒトの心、つまり脳を隅々まで調べれば原因が分かると踏んだ彼らは、脳の使われていない領域の一部から、シンシアによく似た成分を発する部位を見つけ出した。
そして完成したのは、穢れを生み出すシンシアとは反対に、穢れの無いシンシアと同質の生命体を誕生させる技術……それを『現出』と呼び、その生命体をシンシア-月の神-と同質の名前__セレーネと名付けた。
「大体セレーネってのはシンシアと同じバケモンだろ?」
「ったく、あー言えばこー言う……。ルナちゃ〜んどう思うよコイツのこんなとこ」
朝月が弁当を食べてる女子に話を振った。
「ルナって呼ぶな!それと夜斗、セレーネはバケモンなんかじゃないわ。完全な制御下に置けば、これほど心強い味方も無いわよ」
こっちは神代華流奈。あだ名でルナって呼ばれてるが、子供っぽいという理由から本人は嫌っている。
「あ、弁当忘れたわ……ちょっち売店行って来るわ」
と、俺は『不都合の無い理由』を立てて席を離れる。俺はセレーネが無いが、シンシアの気配を察知できる。俺が教室を後にしたのも、校内にシンシアの存在を確認したからだ。
「よおバケモン、こんな真っ昼間からご苦労さんだな?」
売店を通り過ぎ、階段の踊り場の裏に、シンシアがいた。形容するならトカゲ男といったところか。爬虫類みたいな頭部に痩せ細った人間の胴体がくっついている。俺が簡単に挨拶すると、そいつは酷くビビっている様子だったが、俺が人間だと分かると態度を急変した。
「に、人間かよ……ビビらせやがって!セレーネだが何だか知らねえが、本体殺せば問題ねえってワケよ!」
と、俺に向かって突撃してきた。そういえば、ここ最近やけにケガをする生徒が多いと聞いたな。
「最近、ここの生徒を襲ったのはお前か。」
俺の問いに驚いたのか、シンシアは動きを止める。
「へっ、啖呵切っといていきなり怖気付いたか?その通りさ、俺がここの人間を襲ってセレーネ3匹くらい食ったのさ」
自信満々に語るそいつを前に俺のイライラはMAXになった。
「今からお前に3秒与える」
「あ?」
「その内に詫びるか死にたいか選べ」
俺の提案に対し、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔でフリーズしている。
「ハハッ、何を言うと思えば……お前も俺を倒せると思ってるクチか?前のやつもそんな事言って返り討ちに遭って……」
「時間切れだ。今ここで、お前を殺す」
そう言い、俺は『現出』を行う。
「来い、アイクス!!」
そうして俺は、『シンシア』を現出させる。そのシンシアは、騎士の仮面のような物を被り角をその隙間から出し、身体はさながら竜人、そして竜翼を伸ばし俺の元に現れる。
「アイクス、狩の時間だ」
「いいねぇ……こいつからは美味そうな匂いがする」
「セレーネを3匹食ったらしい。脂はたっぷり乗ってるはずだ」
アイクス、こいつが俺が制御下に置いてるシンシアだ。俺はセレーネではなく、シンシアを使ってシンシア狩りをしている。
「お、おい……そいつシンシアじゃねえか!何でヒト風情が、俺らシンシアを操れるんだ!?」
「問答無用だ。行くぞ」
「おうよ」
アイクスが上に跳び、俺がシンシアの足元に滑り込む。敵が標的に戸惑っている間に、俺が足払いをし見事に引っかかる、
「ぐおっ!?」
「アイクス、やれ」
隙だらけのシンシアを、アイクスは一撃で屠った。そして、アイクスはその亡骸を頭から食らう。
「最後の一言くらい聞いてやったらどうなんだ?」
「食い物の断末魔なんて食う気失せるだろ?」
「言えてるな」
こんな具合で俺は隠れてシンシア狩りを行っている。シンシアであるアイクスが見つかっちまったら俺はシンシアを殺せなくなる、だから、影ながらやるしかない。
「しっかし、夜斗も気が長いねえ。妹さん、命に別状ないんだろ?」
「……命の有る無しじゃねえんだよ。あいつから光を奪ったアイツを殺すまでやり通さなければいけないんだ」
狩りの目的。それは、単なる復讐にすぎない。俺はこいつを復讐の道具に使ってるだけだ。にも関わらず付き合ってくれるアイクスには感謝しなければならない。
「いつもサンキューな、アイクス」
「気持ち悪っ!!何だよいきなり!?」
「いや、俺のワガママに嫌な顔せずに良く付いてくるなって」
俺の言葉にふむ、と考える素振りを見せたのち、アイクスは口を開く。
「お前に付いてけばエサには困らねえ。まあ共生ってヤツよ。余り気にすんな……それより」
アイクスは時計に目を移す。俺もそれに続いた。
「昼飯、いいのか?」
「あ」
俺の腹の中身など無視して、チャイムは無情に鳴り響く。
そして放課後。5限の遅刻に関しての反省文を望月さんの前で書かされるため、朝月達は先に帰っていった。
「で、またシンシア狩りしてたのか?」
「あ、分かっちゃいます?」
「バレバレだ。どうせ何も食ってないんだろ?」
と、俺の机にコンビニのおにぎりを置いた。
「え、貰って良いんスか!?」
「生徒の体調管理は教師の義務だ。さっさと食って終わらせろ」
望月さんは、俺がシンシアを現出できる事を知っている。というのも、俺の叔父にあたる人で、過去の事件とアイクスについても知っている。
「なあ、いつまで続けるつもりなんだ?」
「反省文っスか?」
「とぼけるな。シンシア狩りだよ。犯人は現行犯で逮捕されたんだから、躍起になる必要も無いだろう」
俺のおとぼけをスルーして、望月さんは俺に狩りをやめるように言ったが、俺は考えを改めるつもりは微塵もなかった。
「……妹の光を奪ったのはアイツのシンシアだ。それにアイツを裁いても、シンシアはまだ殺せてない。あのシンシアを殺して、初めて復讐が達成されるんだ」
「……まあ、決意が固いなら俺は止めねえけどよ。死なないよう頑張れ」
話が終わると同時に反省文も書き終え、俺は学校を出る。
「しっかし9月にもなると暗いなぁ……ん?」
物陰にさっと駆け込む何かが見えた。パッと見た感じ、シンシアのようなものに見える。
「アイクス」
「ああ、ありゃシンシアだ。狩りに行くぞ」
俺たちが物陰に入って行くと、1人の少女がシンシアと対峙している。
「ちっ、こんな時に……」
「おーい、お嬢さん平気か?」
俺の呼びかけに、その少女は驚いたようだ。
「し、シンシアが2匹!?」
「あー、こいつは味方だ。心配すんなって」
俺がそのシンシアに近づくと、そいつが振り向いた。そして、その顔に俺は見覚えがあった。
「……テメェ」
「大物が釣れたな、夜斗」
そのシンシアは10年前、俺を復讐の道に堕とした犯人そのものであった。
「あの時の小僧か。久しぶりだな」
「アイクス。やるぞ」
俺は、待ちに待った復讐を開始した。