出来立ての兄弟
家族の仲間に入りそびれて、ネガティブな感情に押し潰されそうになっている俺を思って、お父様とお母様が、護衛である兄弟との仲が少しでも進展するように、俺だけを残して買い物行った日から数日が経ちました。
ネガティブな空気は無くなったけど、変な空気には変わりありません。
兄は、会った時から紳士的で、人当たりも良かった。護衛の仕事以外にも馬車を操作しながら色々と観光案内的に窓から見える光景を説明してくれたりする。
姉も言葉は少ないが気遣いが細やかで、対処も早いし丁寧。俺が退屈しないようにと、軽業を見せてくれたりもする。
ただ、あの一件以来、毎朝俺を起こすのが兄弟たちの役目になってしまった。
俺はまた変なことを言わないようにと、変に緊張して寝つきが悪くなったよ。
離れ離れになっていたのだから、両親と話をしたり等の何かしらのリアクションがあってもいいと思うんだけど…二人揃って、着替えや食事の度に俺に付きっきりになり、あれこれ世話を焼いてくる。
それを見ていたブルーノと伽羅は、共同戦線を張ったようで、事ある毎に二人に難癖をつけては、俺に止められるという毎日。
お父様とお母様は、初めは微笑ましく見ていたのが、俺に全く近寄れなくなってきたので、ヤキモキし始めて馬車にいる間は、交代交代で俺の隣に座っている。
大丈夫なの!?俺、もしかしたらエルグランに掴まっちゃうかもしれないんだよ?
そんなに俺にべったりで本当に大丈夫!?
「伽羅、ブルーノ…俺は、この甘々べったり状態を非常に良くないと思っています。」
《おお!やっと気が付いたか!俺もブルーノもそう思ってたんだぞ!》
《ガツンとあの二人に言った方がいいと思う!》
結構こそこそと二匹に話しかけていたと思うんだけど、気配を感じて咄嗟に振り返ると、いつの間にか背後に眩しいくらいの笑顔でストラトスが立っていました。
ど…どうしてだろう。ストラトスが兄だって認識してから、ちょっと怖い時があります。
二匹に縋り付くよう抱きしめて、少しプルプルと震えながら首を傾げて曖昧な笑みを向けてみる。
「再会したばかりの可愛い弟を愛でて何が悪いのですか?私は、両親と生き別れ、壮絶な生活の中、妹と支え合うように生きてきました。その妹は、もう立派なレディーです。」
「うんうん。大変だったとはブルーノから聞いてるよ?」
「そうです。そしてやっと、生活に余裕が出来て、両親に再会しても甘えることなどない大人同士。ならば、ぶつけたい家族愛を幼く可愛らしい弟にぶつけるのは普通です。」
「あの…大人でも親子なんだし…甘えてもいいと思うよ?俺だけに家族愛をぶつけなくても…ね?」
大人が大人に甘えるってちょっと想像できないけど、話をして互いの空いた時間を埋めていくとかそういうことは出来ると思うな。
というか…気が付くとストラトスと俺の距離がとっても近い気がする。
「あの……えっと…そんなに近づいたら話辛いよ?」
「こんな距離感なんてどうでもいい。問題は、貴方を愛でることを良しとしないことです。」
「ぁ…お兄…様…ちょっと……ぁ…」
顔と顔がというよりも、大人の艶っぽい唇と俺の小さい唇が、くっ付いてしまいそうなくらい近くて身動きが取れないし、視点も合わない。
下手に動いたら唇が触れてしまいそうだから、大声で抵抗するわけにもいかないし、唇が近いせいか声を出すのも恥ずかしくなってきて…なんだか大切なものが奪われてしまいそうなピンチ!さっきから胸がドキドキする上、顔から湯気が出そうなくらいとっても熱いです。
《こらぁああああああ!!そこまでだ!!》
《ストラトス!!!リブラに抜け駆けしたって言いつけてやるから!!》
「……チッ!」
舌打ち!?とっても意外で頭の芯が痺れそうなくらい驚いてしまいました。
伽羅とブルーノが、一斉にストラトスの背中に乗って取り押さえてくれたので、変な空気と距離がなくなり、ホッとしています。
でも、なんででしょう…遠くの方からもなんだか舌打ちが聞こえてきたような気がしなくもないです。
誰の舌打ちでしょうか?
助かった唇を指先で抑えている俺に、伽羅がチュッと朝の挨拶のようにキスをしてきました。
「っ!」
《はぁあああ!?なにしてんの!!!!!》
《何って…俺と此奴の日課だぜ?》
ストラトスは大人げなく殺気を伽羅に放っているし、ブルーノは毛を逆立てて吠えてて大変なことに。
そんな相手に対して、ふふんっと自慢げに鼻で笑っている伽羅が可愛いのにおかしくて、ドキドキしていた心臓が落ち着いてきたので、気がついたら笑いが込み上げてきた。
俺の笑い声が聞こえたようで、ブルーノがすごい勢いで飛びついてくると、顔中を大きな舌で舐め回してきて目が開けられません。
「うう…ブルーノ…重いし、くすぐったいよ…んんっ!」
《伽羅ばっかりズルい!俺もこれから顔を舐めるし、チューもいっぱいする!》
《はぁ!?後から来たくせに俺のもんに手を出すな!》
「二匹とも落ち着きなさい…今日からキスも舐めるのも全面禁止です!私だってしてないのに!まったく!!」
俺が倒れても舐め続けている大きいブルーノとギャアギャア騒いでいる伽羅、二匹をいっぺんに持ち上げてストラトスは、リブラと入れ替わるように離れていきました。
その場に残された俺は、ボロ布のような気持ちでしな垂れていて、顔と上半身は、唾液でベッタベタになり、服は二匹の騒ぎでボロボロ。
嵐の後、海岸に打ち上げられた旅人を思わせるような、酷いありさまの俺を見て、赤面したままのリブラが俺の服を遠慮がちに脱がせ、顔や髪、上半身を暖かい布でふき取ってくれて、みるみるうちに元通り。
「有難う…姉様…」
「その呼び方…採用です。これからもお姉様ではなく、姉様と…それか呼び捨てでお願いしますね。呼び捨ての時は亭主関白風が必須。」
「は、はい。」
姉様は、俺に対して感情が高ぶると無表情なのに鼻息が荒くなるので、兄様と違う意味で怖いです。
あ、リブラが姉様なんだから今度はストラトスに、兄様って呼んでみよう。
兄弟なんだから統一した方がいいよね。最近つまらないことでよく喧嘩するから防止策を取らないと。
姉様は、食事が用意できたと教えに来てくれたようで、俺の方から手を繋いでみんなの待っている焚火の燃えている方へ移動しました。
手を繋いで現れた俺たちを見て、両親は思うところがあったのか少し涙ぐみ、他の一人と二匹は不機嫌そうにこちらに向けていた視線をあからさまに外した。
大人げないですよ、特に兄様。
旅をするのに誰かが不機嫌なのはよくない。
仕方がないので、食事の入った器を持って兄様の隣に座り、機嫌を治してもらえるように微笑みかけた。
「に…兄様の隣で食べていい?」
「いいに決まってるじゃないですか…なんて可愛らしい弟なんでしょう…」
「今、口元しか見えてないんじゃないの?」
「口元しか見えて居なくたって、私の目にはしっかり顔が見えています…」
「………ストラトス、弟が可愛いのは分かったから鼻血を何とかしなさい。パパは、将来が心配だよ。」
俺の兄弟は、最近よく鼻血を出す気がします。
両親の前だろうが、襲い掛かってきたモンスターの前だろうが関係なく、俺関係のことで鼻血を出しまくるので、初めは驚いていたお父様もお母様も回数が多く場所を問わないので慣れて呆れてる。
流石に、俺も慣れてきたよ。