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領主さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第2章 人国
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大人げない大人達


ポヨンの村から旅立って一週間。

旅をするのに水の魔法が使えないのが少し不便だとアイツに言ったら、生活に使う分の魔法なら問題なく使えるようブレスレットの石を調整してくれ、水に困ることなくここまで来ている。


緑も多く目につくようになって来て、やっと生物が住む環境って感じになってきました。

正直、持たされた食料は少ないので狩りや野草を採って食事に変えないともたないわけです。

うちには、俺の3倍は食べる大人が二人もいますからね!

ってか、旅してんだから自重しろ。

ガチマッチョから二人揃って細マッチョにキャストオフしてください!


馬だって結構大変そうだからね。

この間、馬で揺られて暇を持て余していたので、無駄な世間話を沢山していた時の事。

最近、馬の息遣いが荒くなってきたという話をしていて、ついつい筋肉デブだから馬がしんどいのかもね。と笑いながら言ったら、ポールだけじゃなく、イヴェコも無表情で鎧などもすべてダッセル特製魔道具カバンへと入れ、上半身を晒したまま無言で半日馬に跨っていた。


二人とも大人げないです。


他の人が見たら、半裸露出オヤジ二人と少年の変態御一行様になるところだったけど、村から出て誰一人として会わなかった。

サフランにある程度聞いていたが、栄えている場所からの行商や定期便も来ないと言っていたので当たり前なのかもしれない。

行商も臭く貧しい村に、わざわざ危険と労力覚悟で行くわけないもんな。


今日も人に会うことなく、街道っぽいところで野宿をすることに。

街道っぽいっていうのは、草が生えているわけではないんだけど、ちゃんと整備されて道ではないので平らではなく、畑の畦道(あぜみち)に毛が生えた程度のものだ。

気候も過ごしやすいし、木が生えている森や林の側じゃないので見晴らしがいい。

地図と進んできた距離と時間を考えると、後少しでポヨンの村よりも栄えた次の村へと到着しそうだ。


「ねぇ、今日のご飯どうする?」

「もう鞄にストックがないのか?」

「ポヨンの果物もないですか?」


子供に対して大の大人二人が不安そうな顔して、質問を質問で返してこないでくれ。

あのね、俺は貴方達よりも子供なんですよ?

食べ物管理係じゃないし、飯炊き専用の稚児でもない。


「無いから言ってるの。ここら辺だと小さな獣しか捕れなさそうだね…ちょっと先に森があるみたいだから、ちょっと行って捕ってきてよ。」

「…エル、俺たちはお前を甘やかしてきたと思わないか?」

「そうですなぁ…少し過保護なところがあったかもしれません。」

「いいから……つべこべ言わずに行く!どうせ捕ってきたものは、俺が調理するんだから!訓練はめんどくさがらずに毎日二人してやるくせに、なんで最近狩りに行くの嫌がるの!?」


馬から降りて野宿の準備をしている最中、馬から毛布を引き下ろしている俺の後ろで可愛くないオッサン二人が唇を尖らせてブーブー言っています。

休憩の度に体が鈍るからと二人で訓練してたり、筋トレしたりしてるのに、狩りだけは嫌がります。

分かるよ?

人国の獣は、覚醒魔人のポールには弱すぎて張り合いが無かったり、傷つけすぎて食べる部分が少なくなって俺に叱られたりするし、イヴェコも強いんだけど、可愛い動物になると手が緩んでしまってより一層可哀想なことになってしまう。


サフランがいてくれたら…アイツは、食欲魔人なところがあったから、俺が料理をするというと喜んで取りに行ったのに…

じっとりと湿って責めるような目で二人を見てから、ふと良い考えが浮かんだので柔らかい微笑みを浮かべ、足取り軽く二人に近づいた。


「二人とも、日頃から鍛えていて強いじゃない?人国の獣は魔国よりも弱いよね?手加減も捕まえてくる量も質も下手な訓練より自分の力になるし、証明にもなると思わない?」

「「ふむ。」」

「戦闘技術の向上につながると思うんだよ…言いたいこと分かる?」

「俺とイヴェコでどちらが良質の獲物を持ってこれるかということだな。」

「そういうことなら、私も全力を発揮しますぞ!」


二人は何を思ったのか、馬に乗らず身体強化魔法を自分たちに掛けて走って行ってしまった。

戦闘馬鹿だとは思っていたけど、本当に戦闘馬鹿だった。

俺は、カバンの中から鉄の棒を三本取り出して地面に突き立て、馬を繋ぎながら大事な一言を添えるのを忘れていたことを思い出し、両膝をついて項垂れた。


「あー…ちゃんと量を指定しとけば良かった…」


後々もっと大後悔するということは、この段階でも分かるよ。

だって、あの二人だよ?

普段しっかり者のイヴェコだけど、戦闘が絡むと人が変わったようにセーブが利かなくなる。

ポールは…脳みそが筋肉かカニ味噌で出来てるからね。


沢山料理を作ってカバンに収納することを考えないとな。

辺りに散らばっている小枝と枯草を拾って、山積みにしてからカバンから調理器具と調味料を取り出し、何時でも調理できるようにスタンバイしていた。


パンを捏ねて発酵と二人を待っている間、姉様から借りた本を読んでいたが、文字が読みずらくなってきたので顔を上げる。

本に熱中しすぎて日が暮れていることに気が付かなかった。

出て行って結構経ってるのに、二人とも遅すぎる。


俺のこういう嫌な予感って当たるんだよね…


お腹が空いてきたので、ダッセル特製携帯パン焼き窯でパンを焼きながら森のある方角を見て目を細めた。

イヤな予感が大きな影二つになってやってきたよ!

本当に馬鹿なんじゃないの!?


雲がずれて月明りで二人が照らされた瞬間、額を片手で押さえた。

イノシシと象を足して二で割ったような、マンモスっぽいって言ったらいいだろうか…肉が柔らかくて美味しいのだけど、獰猛で子象位の大きさがあるから血抜きが難しい。

チンギファンテと呼ばれていて、肉も高額で取引されているが、血抜きが上手くいくと体を覆う長い毛が、焦げ茶から白へと変わって美しい輝きを放つ。

金持ちの間でも大人気の毛皮で一頭分の価格が家一軒分という代物なんだけど…あのオッサンたち馬鹿なのかな?

一人三頭も担いできてるよ…しかも走ってきてるし!

怖いよ!!月明りに照らされ、血を滴らせてる大きな獣を山のように担いで走ってくるオッサンとか!


「……夜泣きしそう…」


無言で口を開きっぱなしになってしまいそうだったが、一言どうにか呟き、ドヤ顔のオッサン二人は、互いを讃え合って地面に獲物を下ろした。

獣臭いし、汗臭い…加齢臭なんじゃないのか?

鞄から大きめの桶を出し、アイツから許可された分の魔法でお湯を出し、顎でクイッと汗と血を流せと言葉なく促した。


「おい、何か俺たちに言うことがあるんじゃないのか?」

「…加減ってものがあるだろうが!!この辺りのチンギファンテを根絶やしにするつもりか!」

「お前が俺たちを煽ったんだろうが!」

「そうですよ!誉めてください!!私は、誉められて伸びる方です!!」


…俺は大人にならなくてはならないようです。

感情を抑えるように一息吐いて獲物山へと歩いて行き、毛の色が変化を始めているチンギファンテを撫でながら二人へ視線を向けた。

イヴェコもポールも先ほどよりも自慢げに良い顔で見てくる。


「二人ともご苦労様。体を洗っている間に美味しい料理を作るから…次からは一人一体の獲物でいいからね。」

「「了解しました。」」


二人が狩りの話をしている側で一生懸命、血抜きと皮剥ぎをやらされる可哀想な貴族の少年。

前世の俺だったら、きっと怒りまくってるんじゃないかな…今の俺は、経験したことが無いことが溢れてるからそんなに気にならないけどね。


さすがに大物を6体だったから時間がかかったけど、皮を岩にかけて重石を置いて干し、肉を解体して一つ一つ袋へと入れてカバンへ押し込んでいく。

鞄の中なら時間が止まってしまうから悪くなることはない。

残った一塊をどうするか考えていたが、俺の背後で腹を盛大にならしている大人が居るので塩とスパイスで簡単に丸焼きにすることにした。

焼くだけだと文句を言うポールが、腹が減りすぎたからか何文句も言わず、切り分けた肉を貪り食べていた。


「エル様!この肉は生焼けです!」

「そうだよ?」

「お腹を壊してしまいます。」


普通はこういう反応するはずなんだけど、ポールは何も気にしていない。

イヴェコのこういうところは可愛いと思う…ポールは可愛くないままだな。

クスクス笑いながら、いつもイヴェコが携帯している毒見箱を借りて、小さく切った生の部分の肉を入れ、文字盤を見せた。


― 毒無 栄養上 旨味上 -


実は、北の国の一部では、捕れたての生肉を食べる地域があるのだ。

そこで出ている本をお父様が買ってきてくれたことがあって、同じ国なのに面白いなって思っていたんだ。

そこの一文に、生で食べられる肉や火を軽く通せば中身が生でも食べられる肉というのがあって、チンギファンテの名前が例として挙がっていた。

チンギファンテは、北の国でも取れるからね…かなり珍しいけど。

更に、前世の記憶からローストビーフや生肉のタタキが出てきたわけだ。


がっつきまくってるポールを無視し、酒や調味料、薬味を使ってソースを作り、ピンク色が美しい肉に掛けた。

するとイヴェコが良い笑顔で肉の乗った器を差し出してくる。

ちゃっかりしてます。

掛けてあげると無言でイヴェコは食に集中しだした。

気に入った食べ物だとこうなります。


「……エル!イヴェコだけズルいじゃないか!」

「先にがっついて食べて平らげたのポールじゃないか!…ったく、俺の少し分けてあげるから文句言うんじゃありません。」


肉を少し大きめに切って、ソースをたっぷりつけてから刺し、ポールへフォークを差し出した途端、待ってましたと言わんばかりの勢いで食いつかれた。

その様子を見ていたイヴェコは、取られまいと背中を向けてしまった。

俺たちの旅は終始こんな感じで進んでいる。


村に着かなきゃ平和なのかもしれないね…はぁ、サフランの話からして、次の村にも問題が待ってそうだから行きたくないんだけど、調味料や薬味とかも少なくなってきたから行かなきゃならない。

ポヨンの村じゃ調達できなかったから…辛いところです。


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