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領主さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第2章 人国
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巨大スライムの使い方


巨大スライムが軽く飛び跳ねたおかげで、兵長さんとサフランが血相変えて飛んできたよ。

まぁ、振動だけじゃなくてこれだけ大きかったら遠目でも確認できるだろうけど。

スライムを見た途端騒ぎ出すかと思ったけど、デカいし喋ってるから驚くタイミングを逃したようで呆然と見上げたままになっている。


人数が増えても物怖じしない、意外にも図々しいモンスター巨大スライム。

さっきから恩返しがしたいって言ってるけど、これといって有効な用途が思い浮かばない。

みんなお風呂入れてないから、村人の体についた垢を食べてもらう?

でも、それってアダルトな空気漂う展開になりかねないよね。

綺麗な若いお姉さんなら見てみたいけど、兵長さんのような清潔感0な人が、恥じらいながらアンアン悶える姿は見たくない。

村人も見たらトラウマになっちゃうよ。


でも、森に帰したとしても特殊モンスターを逃したと捉えられて、ものすっごい理不尽な反感食らいそう…助けたはいいけど、その後のこと考えてなかった。

うーん…状況を整理すると、この辺りは水が不足してる。

コイツは水属性のモンスターだから…


「ねぇ、水脈ってわかる?」

《すいみゃく?かわのこと?》

「違う違う、土の中を走る…川って感じかな?冷たい水じゃなくても温かい水でもいいんだけど…」

《わかるよーーー!!》


ダウジングよりも効果的で、スライムが見つけた水源なら生活が潤うから…話通じるし、見ようによっては可愛この村で拾ってくれないかなぁ…

現実逃避的な考え方をしちゃったよ。

とりあえず、ライルと連絡を取ってエルグラン国で何とか受け入れてもらうか。

これが一番現実的だね。


巨大スライムに、移動する際跳ねることを禁止してズルズルと這って移動してもらうことにした。

これ以上のギャラリーは遠慮願いたかったが、まー集まる集まる。

そらそうだよね。

村の中心を現実逃避したくなるようなデカさのスライムが、プルプル移動してんだから!

気が付いたらハーメルン状態で、兵長さんに聞いたら村人全員が出てきてしまっているそうで…誤魔化し効かないね。


《ここだよー!!このしたからゴーってきこえる!!》


ゴー?水脈ってそんな感じなの?

…これは…何が出てくるかわからないな。

笑顔を引きつらせながらポールの肩を叩き、地面へ向かって攻撃しろと指示をした。


「…まさか、俺の攻撃で掘ろうとか考えてないよな?」

「それ以外ないだろ?」

「乱暴だな!本の読み過ぎじゃないのか?」


グッ…こいつめ!ポールのくせに生意気な!

化け物みたいな力持ってんだから拳一つで掘り当てられんだろ!もったいつけて!


「誰も地面を粉々にかち割れって言ってるんじゃないんだからいけるでしょ…できないの?」

「できたら俺に何かいいことあるのか?」

「サフランと一緒にお風呂に入れるよ。」

「嫌です!!勝手なこと言わないでください!」

「俺だってお断りだ。俺の体にサフランの体臭が付いて臭くなるだろ…いたっ!石を投げるな!」


うん、それは石を投げられるよ。

むしろ、刺されないだけマシだと思う。

行き遅れた女の人に容赦ないこと言うから…脳みそ筋肉だから仕方ないかもしれないけど。


俺たちのふざけ合いに呆れたイヴェコが、村人たちに話をして鶴嘴やスコップを持って掘り始めちゃいました。

やっぱり、まともな大人であるイヴェコがいてよかった。

ったく、力を出し惜しみしてる騎士と臭い役立たず巫女なんて生ごみよりも役に立たないよ。

…いけない。記憶を取り戻してから驚くくらい言葉遣いが悪くなってる。

前世は大事だけど、それに引きずられないようにしないと…口の悪さは特にね。


ギャイギャイ騒ぎ続けている二人を無視し、俺も小さめの鶴嘴を借りてカンカン地面を掘りだした。

魔法はさっき使っちゃったから使えない。

そうなると他人に頼むか、自分で動くしかないから一汗かくことにした。


「はぁー…俺が掘ってやるからお前たちは、スライムをどうするか村人会議でも集会所で開け。」


くしゃっと俺の頭を撫でてから兵長さんや村長さん達を離れた場所へ移動しろと指示をした。

そんなに派手なことになるのか?

そういや、ポールが剣で技を使うところを見ていない。

人間だった頃のは見たことあるけど…もしかして…


「ポール、技を出したらバレるのか?」

「そういうことだ…やっと気が付いたか。」


覚醒魔人だと分かるほどの力。

こんな人国の片田舎でお披露目なんてした日にはとんでもないことになるな。

魔国に居慣れてしまったから感覚がマヒしてる。

前世の感覚を思い出さないと…いつか取り返しようもない失敗をしてしまう。

ちょっとポールを見直した。


「サフラン、ポールを沢山扱き使うからサフランも村の人と一緒に行ってて?」

「…わかりました。何かありましたら、すぐに呼んでくださいね。」

「イヴェコをそっちの行かせるようにするから…あ、子供たちもちゃんと連れていって。」


巨大スライムは、狂暴性が全くなく、子供たちが短い時間で懐いてちょっとしたデパートの屋上にある風船遊具のようになっていた。

子供たちがお手玉のように空を舞ったかと思うと、ぽよんっと巨大スライムの上に落ちる。

村での名物にならないだろうか…


まだ遊ぶと駄々をこねて泣き叫ぶ子供たちを引きずるように連れて行き、水脈があるらしい場所には俺と、イヴェコ、巨大スライムだけが残った。

ポールは、大きな剣を鞘から抜いて瞼を閉じた。


「周りに気配はないからそろそろ始める。エルとイヴェコはスライムの後ろに隠れていろ。」

「…あんまり派手なことするなよー。」

「穴をあける程度だから安心しろ。」


スライムと俺たちは50m以上離れてポールを見守ることにした。

剣が怪しく光を帯びていく。

次の瞬間その場からポールが消えたように見えたが、イヴェコに言われて上を見るとかなり高く飛び上がっていた。

ちゃんと動きが追えてるあたり、イヴェコも凄い。

剣の光だけでポールのいる位置が確認できたと思ったら、急降下してくる。

そして、皆が掘り始めた場所の中心へと剣を突き立てた。


ーズゴゴゴゴゴゴゴっ!!-


剣の先からは光が無くなっていたが、ものすごい音が地面へと吸い込まれるように響いている。

稲妻のような魔力が地面を抉りながら掘っているようだ。

音が変化したかと思ったら地響きが大きくなって、下から何かが迫ってきた。


《うわー!おみずがたくさんくるよー!》

「…おいおい…それって…ポール!!!そこから離れろ!!!!!」


ージュワジュワジュワー

ーブッシャァアアアアアアア!!!-


ギリギリでポールが穴から逃げきれたが…すんげぇ熱いね…温泉だね!!!

掘り当てたポールが俺の元へとやってきて剣を鞘へ納めた。


「お前が風呂風呂連呼してたから温泉が出てきたんじゃないか?」

「…俺の話を聞いてくれるのは草木だけかと思ってたよ…」

《おいしいおみずー!!》

「水じゃなくてお湯ですよ。」


どうやらイヴェコも現実から逃避したいようだ。

巨大スライムに優しく微笑んで話してはいるけど、目から光が無くなってるよ。




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