他人に迷惑かけちゃいけない!
東の国を味わえるのは今日を入れて後2日。
その後1日は、準備の為に買い出しや情報収集等、それぞれやることがあるので出歩くことができない。
あともう一日は、出発する日で、堪能できるのはほんの数時間しかないのでないモノと考えた方が良さそうです。
今日は、ポール達と町を散策する為に、恵瑠姫から貰ったこの国の服を着て、髪を一つに纏めあげた。
藍色に、白い雪のような刺繍がしてある羽織というもので、下はズボンではなく、下が広がっている袴というものだそうです。
更に、姫がしていたのと似た面を貰ったので、部屋を出たら、マントではなくて新品の面を付けていくことにしました。
町の中を歩くんだから、マントじゃやっぱり暑いからね。
ポールは、いつもと変わらないラフな服装で、未だ鎧を購入していないのを不思議に思った俺は、思い切って聞いてみると、この国には金属だけで出来た鎧は少なく、デザインも相当変わっているので、途中の商団に自分の求めているような鎧がないか聞いてまわるそうです。
鎧を着てない騎士ってだけでもなんだか…物足りない感じがするけど仕方ありません。
以前着ていた鎧は、ここに着いてすぐに壊れて着れなくなってしまいましたから、新しい鎧を買うしか方法が残ってない。
鎧が無かったら、正直ただの町の力持ち程度にしか見られないかもしれないから、警戒されなくて逆にいいかも。
顔もそれっぽいし問題ない気もするけど、ここは黙っておきます。
言ったら、悪質なからかわれ方をすると学んでいるんですよ、俺だって。
「この国の兵士の子供みたいだな。」
「変じゃない?」
《《可愛い!》》
うーん…カッコいいって言われたかったんだけどなー…
姫は、似たような格好していたけど恰好良かったのに。
不満が顔に出ていたようで、ブルーノと伽羅がオロオロ俺の周りを回って顔色を窺ってきています。
「ぶっ細工な顔してないでそろそろ行くぞ。」
「うー…不細工は元からだよ!…それが婚約者に向かって言う言葉!?」
ちょっとムッときたので、仕返しにポールの腕に片腕で抱き着いて、空いている手でお面をくるくる回しながらニヤリと顔を見上げる。
うん…俺は、ポールに敵わないって心に刻まないとダメかも。
ポールが、顔を近づけてきて嫌な予感というか、キスされるのかと思って体をカチコチに強張らせちゃったんだけど、顔をスルーして耳元へ唇を寄せてきた。
〈婚約者の俺が居るのに、こんなお面で顔を隠すなんてしなくていいんじゃないか?〉
「ひにゃぁぁぁあああ!耳元で話さないでよ!!!えっち!変態!」
低い声で息を掛けながら話してくるとか…本当に!大人って!大人って!
くすぐったさの残る耳を片手で力強く抑えながら、逃げるように部屋を出て面をつけ、髪の色を隠すために頭巾を袂から出して被った。
背後から大声で笑うポールの声とガウガウ、シャーシャー威嚇しているブルーノと伽羅の声が聞こえてきている。
ちゃんと着いてきてはいるようです。
リビングでゆっくり支度をし始めている兄様たちに挨拶を手短にして、町へと繰り出しました。
相変わらず、大きな通りは色んなものが行き来していて賑やかで活気があります。
お店屋さんも出前って言うのが盛んで、箱を棒にぶら下げるような形状のものを担いで走ってる人が多いです。
あとは、楽な湯めぐり用の服装です。
大体、観光客はこういった格好で移動して、町を楽しんでる。
俺達も一昨日そうだったしね。
「また、温泉行きたいね。」
「東の国は、街道沿いにもいくつか自然にできた温泉があるらしい。これからいくらでも入れるだろ。」
《さすが…この子が寝た後でガイドブック読んでたから詳しいね。》
《ポールってええかっこしいなとこあるよなー。》
この二匹がいるとポールは、カッコいいところなんて無くなってしまうようです。
斜め上を見て、下手な口笛を吹いて誤魔化してる様子を見ると、なんだか笑ってしまいます。
「おい!我の婚約者エルグラン!!」
うっわー。いつの間に婚約者になったんだろう…
思いっきり顔を顰めて振り返っちゃったよ。
そこには、黒装束の部下を従えた本国のエルグランが、仁王立ちになって立っていた。
「婚約者になった覚えはないよ…」
次の言葉を続けようとしたら、目の前に大きな手が遮るように出され、ポールが一歩前に出た。
きゃー!婚約者的初仕事!
俺は期待と尊敬の眼差しでポールの顔を見上げながら背中へと隠れた。
「お会いするのは二度目ですが…貴方には感謝しなくてはなりません。」
「どういうことだ?」
「貴方のおかげで、エルとの停滞していた仲が進み、この度、エルの両親から許可も頂いて正式に婚約者になることが出来たからです。」
「なんだと!?」
……うっはー…当て馬だぜって発言じゃないか。
本国のエルグランの顔色がみるみる変わっていくのが、ポールの腕と体の間から見えた。
こっわ!怒りに我を失いそうになってるじゃないか!鎮めなきゃ!
ブルーノと伽羅は!?
慌てて二匹の出方を見ようと見るが、表情が無くなっている。
黒装束の方は…ええ!?すでに撤退してらっしゃる!?今、そこにいたよね!?
本国のエルグランを中心に瘴気がだんだん濃くなってきているのが分かる。
「ポール!なんであんな言い方したの!」
「事実を言った方が伝わりやすいだろ?」
《バカだ。》
《脳筋は、覚醒してもそのままだったんだね…逆に尊敬するよ。俺には無理だ。》
なんで、ポールしか婚約者役候補がいないんだろう!
こんなとき…ん?…こんな時、誰かいたような気がしたんだけどな…誰だったんだろう。
—ドゴォォオオオッ!!-
「な!?」
俺が他のことに気を取られ出していたら、魔力の塊のようなものが俺の横を通り過ぎ、地面に大きな穴を開けた。
ポールが、俺を抱いて飛び退いてくれなかったら当たっていた。
「ほほう…冴えない顔の割にはやるじゃないか。」
「どんな理由であろうと、一度好きだと言った者へ攻撃するとは…どうかと思うぞ。」
本国のエルグランの仕業かよ!
当たったらたまったもんじゃない!コイツも人の話を聞かない大馬鹿者だ!
俺に当たってもだけど、ここは町のど真ん中。他の通行人も沢山いるのに…自分のことしか考えてない…
頭の中でブチッと何かが切れる音が聞こえた。
「ポール…降ろせ…」
「エル…?」
怒りと共に体の底から何かが湧き出る感覚。
驚きつつも俺を地面へと降ろし、意図が分かったのかポールが俺から離れる。
「おい、少々オイタが過ぎるんじゃないのか?」
一歩一歩、混乱している相手へとゆっくりと歩み寄る。
「…エルグラン…?」
「こんな街中で…無関係の奴らもいるのに…魔法ぶっ放すなって教わらなかったのか!!!」
自分の声なのに、自分の声じゃないような咆哮。
視界が一気に藍色に変わる。
燻っていた火が、炎になって燃え上がる様に大量の魔力が俺を包む。
不思議と懐かしい。
「グラヴィティー…」
自然と口をついて呪文が出る。
手を前につき出して相手を重力で押さえつけ、俯せで地面へとめり込ませた。
同時に黒装束が飛び出てくるが、ブルーノと伽羅が飛びかかって取り押さえたのを目の端に入れ、相手の前にしゃがみこんだ。
「いけないことをしたら、お仕置きだよね…」
「グッ…なんて…力だ……」
「ごめんなさいは?」
顔を近づけて尋ねるが、目を閉じて口を開かない。
反省しないなら仕方がないな。
俺は片手を振り上げて、ペシッと音が鳴る様に尻を叩いた。
「ごめんなさいって言うまで、お尻ぺんぺんだよ…恥ずかしいねー。街中で、俺みたいな子に、軽い力でお尻ペンペンされ続けるなんて…」
《……黒い…懐かしい…》
《あれが…前世…怖っ!》
「…ちょっとしたプレイだよな…何かに目覚めたらどうすんだ?」
叩かれる度に、痛くないハズなのに目から涙が滲んでいる。
ちょっとやり過ぎかなって気もしているけど、ケガ人が出てからでは遅い。
思いっきり調教…じゃなかった、教えてあげないと!
「ごめんなさいは?」
「………ごめん…なさい…」
「二度としたらダメだよ!」
魔法解除と共に、藍色に染まった視界が元通りになり、横たわったままでシクシク泣いていた本国のエルグランの頭を撫で、ブルーノと伽羅に黒装束を解放するように促した。
解放された部下たちは、本国のエルグランに駆け寄り、支えるよう抱き上げた。
「君たち!しっかり、この子を叱らないとダメじゃないか!街中で強い魔法をぶっぱなすなんて裁判ものだよ!大体ね………」
俺は、両手を腰に当てて一人一人を指さしながら30分ほど本国チームに説教をしたところ、本国から全員出たことがなかった為、常識がかなり欠落していることが分かり、更にもう60分説教が延長したことは言うまでもない。




