婚約(仮)しました!
本編に戻ります。
いつもとは少し違う朝を迎えました。
いや、目の前にはいつものように全裸のポールが居るんだけど…
一緒のベッドに入っています。あ、俺は当然、寝巻を着てるよ?
昨日寝るときには、ポールも寝間着を着てたのに、目を覚ましたら全裸な上、腕枕をされていました。
本来なら大声でリアクションを取るところだけど、寝ぼけているせいもあって、叫ぶタイミングを完全に失ってしまった俺です。
今迄は、同室だったけど一緒のベッドに寝るなんてことはなかったんだよ?
でも、昨日の夕飯時にした話し合いの結果、ポールと俺はより一層、密に行動することとなった。
ブルーノとポールの提案で、偽婚約作戦を決行することが決まったんです。
お父様もお母様も初めは頭を抱えていましたが、ブルーノの巧みな話術により、1時間後には、案が可決されました。
あ、俺の意見は聞いてもらえるわけないと思って、ちゃんと黙ってたよ…昨日一日で話を聞かない人種がいるんだってよく分かったからね。
そうそう、ブルーノが、ポールを推すには訳があるんだって。
其の一、 魔国のエルグランとは、少なくとも夜会で必ず会うのだから、お父様が言うように国に帰ってからでは遅い。
其の二、 婚約だとブルーノや伽羅を紹介しても、モンスターってだけで鼻で笑われて終了しそう。
其の参、 ストアトスとリブラとは、血が繋がっていることが昨日の時点でバレている。
そうなると、残ったのはポールだけ。
この旅の間、なんだかんだ離れずに側にいるので、婚約者だと言っても今までとそう変わらないのだから丁度いいだろうというのだ。
確かに、ポールとは毎日側にいるし、寝る部屋も一緒。
馬車で移動してても、野宿するときは側にいる。
ただ、ポール以外の皆が気にかかっていることは、ポールの見た目と地位だ。
相手は、本国の貴族で顔も美形…勝ち目は薄い。
そこで、ブルーノから提案で、あの貴族は、俺と兄様が抱き合っているだけで嫉妬に狂った目を向けてくるんだから、ラブラブイチャイチャしていれば、付け入るスキがないと相手も諦める、または、嫉妬しすぎて近寄らなくなるだろうと…
自分で提案しているのに、ブルーノは、長い鼻筋に皺をいくつも刻んで、すっごく嫌そうな顔して言っていた。
その隣で兄様と姉様は奥歯をギリギリ鳴らしてたし…伽羅なんてポールに猫パンチを無表情のまま浴びせ続けていた。
皆的には、あんまり乗り気じゃないけど、それが手っ取り早い方法で、それ以外には思いつかないようだ。
俺のことでそこまで考えてくれたのだし、ポールとの距離感もそこまで変わらないのなら…ということで従うことにしたんだ。
でも、いきなり裸に腕枕ってどうなんだろ…
腕の中は初めてだけど、毎日のように裸を見ていたから慣れるのが早いみたいで、反応が苦笑いくらいで止まり、ポールの顎に生えている無精ひげを爪でチョイチョイ弾いた。
「ポール…朝だよー…」
「キスをしてくれないと起きない…」
《《はい、アウト――――!!成敗致す!!!》》
ブルーノと伽羅のハモる声と共に、二匹が凄いジャンプ力で飛んだと思ったら、上から勢いよくポールへと圧し掛かった。
そして、そのまま踏みつけるわ、噛みつくわ、引っ掻くわと攻撃し続けていた。
俺と二人きりにって言うのは、お父様も兄様も反対だったので、ブルーノと伽羅が監視役として側にいることになった。
いつまでも止むことのない攻撃の中、俺はというと、ポールの腕の中に抱かて守られながら、その振動をポールを通して感じ、やめてあげてと抗議するだけしかできなかった。
「ポールさん…弟は、まだ何も知らない子供です。」
「それなのに、全裸で…ぐふっ…キスを…ぐふふ…迫るとはどういうことですか?」
朝食を食べ終えてから、ペット部隊から詳細を聞いた兄様と姉様が、両親が部屋に戻ったことを確認して、床にポールを正座させて仁王立ちで立っていた。
兄様は、物凄く怖い顔をしていたけど、姉様は、全裸でキスという言葉に、鼻の穴をひくひくさせ、不気味な笑いを堪えながら話していました。
姉様は、自分の中の何かと戦っているようです。
「ただの冗談じゃないか…」
悪びれる様子もなく、正座したまま手をヒラヒラと上下に動かして笑っているポールに、兄様は更に目じりを吊り上げて声を荒げます。
「嘘を言わないでください。あの方なら冗談で済みますが、この子は純粋なんですよ!?」
《…ってか、そんな冗談言おうものなら魔法でペシャンコにされてるよ…》
「それか、ダッセルかイヴェコを呼びつけて無理やりキスさせてるでしょうね。いい笑顔で。」
ポールへのお説教が長くなりそうなのと、俺と伽羅には分からない話をし始めたので、伽羅を抱っこしたまま、そっとリビングルームを出て自分の部屋へと戻りました。
ドアを閉じでも、まだギャイギャイ騒いでいるのが分かる。
仲の良さが伝わり、なんとなくくすぐったい気持ちになって、ちょっと笑ってしまった。
「今日は、平和に過ごせそうだね…」
《でもさー、あと4日だけしかこの町に居られないから、どっか俺と観光に行こう!ママさんとパパさんも誘ってさー。》
あと4日でエルグラン国へと向かわなくてはならない事実を再確認した俺は、伽羅に対して曖昧な笑みしか向けられなかった。
浮ついた気持ちが、一気に沈む。
気晴らしにと、伽羅の提案通り両親も誘って出かけようかと思ったが、また本国の貴族に会う可能性があるので断った。
行くなら、ポールも連れて行かなくてはならない。
そうなると、両親の前でポールと手を繋いで歩くなんて恥ずかしくて…考えただけで顔が燃えそう。
「伽羅とブルーノとポールでなら、町の中を歩いても問題ないんじゃないかな?」
《あー…だよなー…まだ魔国の貴族居るだろうしな。わざと町をポールと練り歩いて奴に見せつけて止めを刺したらいいんじゃないか?》
そうと決まれば、早速支度をして散策開始!
伽羅をベッドに置いて、荷物からあれこれ服を引きずり出していると、パサッとくちゃくちゃになった袋が床に落ちた。
昨日、姉様に無理やり渡された下着屋さんの袋…背中にゾクリとする視線を感じて本能的に振り返ると、そこには、若干目の血走った伽羅が、退路を塞ぐようにドアの前で立っていた。
「…昨日も散々言ったけど…着ないからね…」
《今は…俺しかいない!》
「だから何だって言うの!」
言い争いながら袋を伽羅にぶつけたり、逆にぶつけられたりしている内に、袋の中から下着が、花弁のようにフワフワと漏れ出た。
…昨日は渡されただけで、中を確認しなかったけど…なんなの!?
スケスケでレースの小さいパンツと短いワンピースみたいなんだけど…確実に着たらパンツ丸見えだし、スケスケだし!
そんな下着が2セットも!
「なんなの!!!こんなの下着じゃないじゃないか!何にも隠せない!!」
《そこがいいんだろうが!》
「何を騒いで……」
藍色と黒のワンピースみたいなものを体に当てて、いかにスケスケかを説明しようとしているところに、兄様が乱入してきたんだけど…時が止まったようにドアノブを握り締めたまま兄様が動きません。
怖くなったので、伽羅と一緒に顔を覗き込みますが、瞬きもしませんよ!
「兄様!?しっかりして!!」
「…はっ!…着るならリブラも呼んでやらないと可哀想だ!」
「何言ってるの!!!」
下着を握り締め、兄様を呼び起こそうと体を揺すったら、とんでもないことを言い始めちゃいました。
着ないよ!!
女の人でも嫌がるんじゃないの!?
下着って機能をこれは放棄してるよ!
止めようにもスキルを使ってあっという間にいなくなったと思ったら、姉様までスキルを使って登場しました。
スキルの無駄遣いを目の当たりにしたよ!
「私のプレゼントをやっと…嬉しくて涙が…」
「姉様…大変言い辛いんですが、それは涙じゃなくて鼻血です。」
「私も涙が止まらない…」
「兄様…それも涙じゃなくて鼻血です。」
「「顔面から出たら一緒!」」
「違うからね!…まったくもう…これは返します!」
下着をそのままクルクル丸めて袋へともどし、鼻血を拭くための布と共に姉様に押し返しました。
こんなのいつまでも持ってたら、今度はポールまで何か言ってきそうだからね。
それに、ブルーノみたいに口が上手い相手だったら着せられそうで怖い。
取り敢えず、兄様と姉様には、退場して貰おう。
「兄様、姉様…お着替えするからリビングに居てくれる?」
《あ、ブルーノとポール連れて町を練り歩くから、お前たちもママさんとパパさんと水入らずで出かけなよ。》
俺と伽羅で二人をドアの外へと押しやって、笑顔で手を振りながらドアを閉め、更に鍵も閉めた。
鼻血処理が終わって、下着を突き返されたら困る!




