昔話でも始めよう 其の2 side仲間
番外編みたいなものです。飛ばしても問題ありません。
冷たく湿ったい岩に囲まれていた場所で目を覚ました時には、常に頭の奥が痛い状態で何かを考えるという事が出来なかったポール。
脳裏に浮かぶのは、一人の少年の姿と探さなくてはならないという気持ちだけ。
何も考えずに、彷徨い歩きながら少年をひたすら探す。
腹が減ると、腰に付けていた袋から金に代わりそうなものを出して店で買ったり、狩りをして生活した。
辺りの景色が変わり、自然と頭痛も取れてくると見たことのない景色が広がっていた。
モンスターや魔族という、今迄関わってきたことのない姿形の生命。
深く考えようとすると、頭痛ではなくて靄のようなものがかかる。
不快だから考えるのをやめて、その場でも子供たちの顔を見て捜し歩いた。
その頃、ストラトス達は、傷心のままリブラと連絡を取り、合流して今後の身の振り方を相談した。
少年から助けてもらった命。
少年に生きることの楽しさを教えてもらった命を無闇にすることは許されないと思い、冒険が大好きだった主の意思を継いで冒険者ギルドへと登録。
人国で登録することは、危険を意味するので、そのまま魔国で活動することにした。
両親を探そうと考えもしたが、もう随分成長して姿が変わっている。
今更、成人した子供が戻ってきても持て余すだけだろうと、探すことはしないで力を付ける為に、ダンジョンや獰猛なモンスターを倒したりして生活した。
本当に偶然、大きな仕事を終えた後、ギルドの募集掲示板に、護衛募集の張り紙があった。
Aランク以上の依頼というのは珍しく、護衛だけだというのにキナ臭い。
ギルドマスターに詳細を聞き、興味本位で面接を受けることに。
リブラもブルーノも反対する様子もなかったので、指定された面接場所へ移動すると、依頼主と見られる1人の男と護衛と見られる手練れの騎士が、殺風景な部屋で待っていた。
依頼主は、ストラトスとリブラの顔を見るなり、段々と目を大きく見開いて距離を縮めてきた。
”お前達、半魔族だな?両親は?”
よく聞かれる質問。
人と魔族の間に子供を作るという事は珍しい。だから、こんな質問にも慣れている。
”両親は、幼少の頃はぐれました。妹と二人で人国で奴隷にされていましたが、ある心優しい方に解放して頂きました。”
定型文のような言葉を口にするのは慣れているが、主の話をするときには毎回胸が締め付けられる。
それは、リブラもブルーノも同じだった。
正式な仕事の依頼は、すぐにギルドへと通達され、旅の支度もそこそこに城へと向かった。
身分が高い依頼主だろうとは思っていたが、まさか王様だとは思わなかったので、気合を全員入れ直し、王様との直接行われる打ち合わせに参加した。
王様は、終始ニヤニヤとしていて、緊張感がない人だと思っていた。
ニヤニヤしていた答えは数時間後明らかになった。
両親との再会。
自覚がなかったが、ストラトスもリブラも両親に会いたかったのだ。
再会した反応が少し怖かった二人の両親は、兄妹が無事成人していることを泣いて喜んでくれた。
そして、弟がいた。
ブルーノは、少年を思い出す不思議な匂いのする二人の弟に興味津々で、本能的に離れたくなかった。
二人も弟の存在が、妙に嬉しかった。
あの仲の良い兄弟を思い出し、自分たちも弟を大事にしようと考えた。
ブルーノは、一瞬だけど見えた弟の姿に、淡い期待を持ったが、それをストラトスとリブラに告げるのはやめておいた。
違っていたらショックが大きい。
同じ匂い。
似ている容姿。
それでも、決定打となる何かがあるわけじゃなかった。
何年かかっても癒えることのない傷を、憶測だけで抉るような真似は出来ないとブルーノは考えたのだ。
駄々っ子のようにマントに包まったままの男の子。
両親は、難しい問題を解決しようと馬車の外に出て、兄妹だけにしようと考え、翌朝、実行に移した。
目覚めた男の子の言葉。
”ストラトス…朝食の時間か?ポール達はどうした?”
奇跡だと思った。
寝ぼけた表情も仕草も口調もすべてが、目の前で消えてしまった主だったのだ。
昨日知り合ったばかりの弟が、会ったことのないポールの名前を出すことが決定打だった。
言葉よりも先に、涙と嗚咽が溢れて止めることができない。
ストラトスもリブラもブルーノも神に感謝した。
ここまで話が進んだ茶屋では、話しながら思い出してストラトスとリブラ、ブルーノが泣いていた。
つられて伽羅まで半泣きになり、ポールは目頭を押さえていた。
外から見たら、酒などでない場所なのに酔っているのか、はたまた誰か亡くなったのかと思うような異様な光景が展開されている。
一頻り落ち着くと話は、ポールと少年の話へと移った。
ずっと色んな子供たちを見てきたが、顔を見てすぐに直感で違うと判断できたが、少年に会った時は後ろからでも分かった。
モンスター達と遊んでいる声、仕草で胸がいっぱいになった。
”……お前だ…お前が俺の…主だ……見つけた……やっと…”
ジーンっと当時の気分に浸っていたポールにブルーノが尻尾で頭を叩いた。
「なんで叩く?」
《あの時、本当にびっくりしたから、今仕返し。》
《あ、俺も!!》
伽羅もポールの頭にへばりつき、頭をガジガジと齧り出した。
ポールは、仕方がないので諦めて、そのまま齧られ続けたが、見かねて苦笑していたストラトスが伽羅を抱き上げたことによって終了。
「それにしても…あの方が、私の弟になったかと思うと感慨深いですね…」
「分かりますわ…あの方が弟…」
《……あの兄貴に知られたらと思うとゾッとするね…》
その場にいる全員が青い顔をし、テーブルの木目に釘付けになりました。
あの兄貴とは、前世の少年の兄。
弟以外の物は何とも思っていない究極のブラコン。
「今は、私達の弟!全力で守ります!あの天使を魔王から!」
《…それ以外にもだよ…本国のあの貴族からも守らないと…求婚とか結構ヤバいんじゃないの?》
《ヤバいなんてもんじゃない!ヤヴァイ!》
《確か、前にも似たようなことがあったよね…求婚じゃないけどさ》
前世で村の男の子に恋心を寄せられて困ってしまったことを指しています。
当時は、ストラトスもリブラもいなかったので、兄妹と伽羅は首を傾げて一人と一匹を見つめている。
「あの作戦でいくか…」
《納得いかないけど、それが手っ取り早いんじゃない?》
回避できる作戦があるようで、その作戦を詰めるため、全員また頭を寄せ合ってコソコソと相談をし始めました。
店員さんが睨んでいることも知らずに。
皆の注文した品は、長い話の間に食べたり、飲み終えたりしているので空っぽ。
追加の催促に行こうにも、妙に凄みのある集団に近寄ることもできず、ただただ睨むしかできない。
「皆、なーにしてるの?」
両親を店の入り口で待たせ、少年だけ軽い足取りで澱んだ空気が流れるテーブルへと近づいた。
白いフードマントで姿を隠しているが、小さな鈴がなるような明るく澄んだ声の持ち主は、愛らしい仕草でポールへと背後から抱き着いた。
「遅いから迎えに来たよ?皆で”握り”ってのを食べに行こうー。」
「ああ、つい長居をしてしまったな。」
ポールは、優しく笑みを浮かべ、少年の腕を解いて体の向きを変えて慣れた手つきで少年を抱き上げる。
ストラトスは、全員の会計をさり気無く済ませ、リブラを促して両親の元へと向かった。
話し合った作戦を伝えるために。
伽羅は、納得しているけど腑に落ちない作戦に顔を顰め、不貞腐れたままブルーノの背中に跨った。
作戦とは、エルグランの婚約者は、前世からポールって決まってるんですよ作戦。
この場で血縁関係じゃないのは、ポールだけなので、今回は仕方ないです。
前回は、本人の嫌がらせからでしたが、今回は成り行き。
これから先、どうなることやら。
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