昔話でも始めよう 其の1 side仲間
現仲間達の前主人公亡き後からここまでの軌跡です。長くなるのであと一話続きます。飛ばしても問題ありません。
主とも呼べる少年の両親から宿を追い出された一行。
少年の兄であるストラトスは、妹のリブラから詳しい話を聞くため、少年の騎士であるポールを引き連れ、東の国では一般的な喫茶店と言える茶屋へと入った。
丁度いいのか悪いのか、入店した茶屋には、少年のペットであるブルーノと伽羅が、のんびりと甘味に舌鼓をうっていた。
二匹は、入店してきた仲間に尻尾を振るが、大好きな少年がいないことと、三人の空気があまりにも重いので素知らぬ顔を決め込もうと入口から目を背けた。
「おいおい、随分と冷たいじゃないか。」
ポールが、馴れ馴れしく声を掛けながら躊躇なくブルーノの隣へと腰を下ろした。
「あ、この子達と相席します。」
「あからさま過ぎていっそ清々しい…さて、早く品を決めて話を進めよう。」
続いてリブラもいつもと変わらないポーカーフェイスで店員に申告し、伽羅の隣へと中年女性の如く、ぐいぐいお尻でスペースを確保した。
それに倣うように、兄のストラトスも逆側から伽羅を押して腰を下ろし、伽羅がサンドイッチの具のように挟まれた。
強引な同席のやり方に、許可を出していないが、ここで反論したり下手なことを言うと後が面倒なので二匹は、視線で会話してからやれやれと溜息を吐くしかなかった。
三人は、二匹の様子に対してお構いなしに、お品書きへと目を落とし、迷うことなく品を決めると店員を呼んで注文を終えた。
《あのさ…どうした?って聞いた方がいい?》
「聞いても聞かなくても同じだ。」
《勝手に話すってことだな…》
さっきまで仲良くなっていったペット二匹で、あれこれ話しながら楽しい甘味タイムが、一気に重い空気耐久レースへと変化し、尻尾がしおしおと萎えていく。
注文した品が届くと、リブラが重い口を開いて先ほどあったことを話した。
自分の買い物中に、本国の夜会招待客と接触した際にあった出来事。
少年が、本国の俺様貴族に求婚されたこと。
求婚の話が出た時に、二匹はチビチビ食べていた甘味を喉に詰まらせそうになった。
《《んぐっ!…リブラがついてるのに何でそんなことに!?》》
「私が調子に乗って…下着を買いに行ってしまったから…」
リブラが肩を窄め、立場がないと言わんばかりに体を縮めて俯いた。
ポールは、届いたアツアツのお茶を一気に飲んで、机を挟んで座っているリブラの頭を撫でた。
「気にすんな。アイツが、トラブルに巻き込まれるなんてよくあることだろ。」
「そうだ。遅かれ早かれ相手には会うのだから変わらないだろ。」
この二人は、なんだかんだ言ってリブラに甘い。
唯一の女性であり、少年の次に年下だ。
しかし、ペット二匹は違う。
《甘いんだから…》
《大体、なんであの子と一緒に居るのに、下着屋なんか行ったんだよ。》
「………」
追及の手を緩めない二匹から視線どころか顔を背け、何とか誤魔化そうとしているリブラに、ジットリと湿ったような視線を向け、徐々に二匹はリブラへと顔を近づけていく。
《まさか…あわよくば、女性ものの下着をあの子に着けようとしたんじゃないよね?》
《更に言えば、店に入らなかったあの子をチョイチョイ眺めながら下着を購入したんじゃないよな?》
「……!?私の考えが読めるの!?」
その場の男性陣が、皆、盛大な溜息を吐いて頭を抱えました。
リブラは、数年前に旅で一緒だった女性二人に唆され、すっかり同性同士の恋愛事にハマってしまい、更にこの町の姫とお仲間になったことで、その趣味趣向が加速しているようです。
以前の旅だと、ストッパー役だった少年がいましたが、残念なことにその少年はいません。
「ちなみに、参考までに聞くが…その下着はどんなものを買ったんだ?」
ポールは、少年曰く、脳みそが筋肉で出来ていると言われるくらい、あまり考えないで言葉を口にします。
今回も単純に興味本位で聞いたようです。
それに色めきだったのは、何故か他の男性陣。
答えをまだかまだかと興奮気味に待っています。
「あの子には…白い総レースの下着を…あとは、あの方バージョンも!あの方には、藍色と黒の花をモチーフにしたセクシーなものを!」
「あの方のも!?」
「アイツのバージョンもかよ!ってか、セクシー!?」
現主である少年は、美少女の如き見た目と純真無垢な優しい性格で、兄ストラトスに言わせると天使。
前主、つまり現主である少年の前世は、美少年ではあるが、少々黒いところがある性格で、ポールに言わせると小悪魔。
伽羅以外の仲間達には、前世のイメージも強く残っている。
『宿に帰ったら見ることにしよう。』
《あの子ならお願いしたら着てくれそうだな…》
《…前のあの子だったら…ポールに無理やり着せそう…》
ブルーノの呟きに、想像がついた一同は、一気に閉口して目の前のお茶を啜るしかなかった。
《ポールに着せるって凄いことをする子だったんだな。》
自分の知らない前世の主の姿に、表情を顰めて呟いた伽羅の言葉が切っ掛けで、昔話が次から次へと飛び出してきた。
重力魔法が凄かったこと。
体がボロボロになっても他の人を優先していたこと。
お菓子作りや料理が上手かったこと。
女装して旅をしていたこと。
お祭り騒ぎが好きなのに、いっつも乗り遅れること。
話は、少年が亡くなったところへと進んだ。
無理をさせていることは、よくわかっていたが、彼ならなんとかしてくれると思っていた。
そう思わせるほど、少年は強く優しく美しかった。
辛いところなどほんの一瞬しか見せない。
まったく見せなければ、もう少し考えたりしたが、少年は微妙にそこいら辺の匙加減が上手かった。
それが、自分たちの見立てを狂わせたとストラトスとリブラ、ブルーノは語った。
きっと、側に彼をよく知るポールや兄弟が居たら違っていただろうと。
優しい光が降り注ぐ中、ボロボロになって動かなくなった少年をどうにかして手当てしようと思ったが、自分たちの奴隷の紋が消えたので、これは普通の治療では駄目なのだと、一刻を争う事だとブルーノとストラトスだけで魔国へと向かった。
目の前で、少年の兄弟たちが化け物と戦っていたが、彼らの最優先は少年。
迷うことなく彼らは行動に出れた。
少年は、瘴気に対して耐性があったので、人国よりも進んでいる魔国を選んだ。
魔国に到着して間もなく、治療できそうな人物と会えるとなった時、自分たちを保護していた貴族たちがおかしくなってきた。
感づいたブルーノとストラトスは、その場から姿を消すが、他の魔人に狙われて少年を奪われそうになった瞬間、少年の体が光る灰となって宙を舞い、溶けるように消えた。
少年が消えた途端、おかしくなっていた魔人や貴族たちが正気を取り戻し、何度も謝罪してくれたが、すべてか無駄になってしまった彼らには届かなかった。
一方、ポールは、何とか少年との約束を果たして合流しようと急ぐが、廃墟のような街に言葉を失った。
とんでもないことが起こったという事以外分からなかった彼は、少年を探した。
探していくうちに、少年はこの世には居ないのかもしれないと何度も思ったが、探すことをやめられなかった。
少年探しに夢中で仲間の行方も分からなくなり、気がついたら魔国の近くの森で強い特殊モンスターと対峙していた。
命辛々勝つことができたが、疲労困憊している彼の前に神の使いが現れた。
以前、少年と親しげに話していたのを覚えていて、少年に神の使いについて説明したのを思い出した。
”ああ…エルはやっぱり…”
深い悲しみと絶望、自分に対する怒りでいっぱいになり、そこから記憶が無くなった。
フラフラと森の奥へと歩きながら覚醒魔人へと変化し続け、そのまま谷へ落ちた。
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