結婚問題勃発!?
鼻血気絶から復活した本国の少年は、俺が逃げ出さないように手を掴んだまま、間抜けな詳細を偉そうな口調で部下たちに説明していた。
隣で聞いていたけど、噴き出してしまいそうだったよ。
”不審者だと思って話しかけたら、性別を偽る子供に誘惑された。そうしたら鼻血が出過ぎて気を失った。”
間違ってる部分があるのが、気になるところではあるけど、大体あってるから口を挟むのをやめた。
下手に口を挟んで話が進まなくなったら、この後宿に帰るのが遅くなっちゃうもん。
少年は、部下に説明し終えると、俺に向き直ってまっすぐ見つめてきた。
「我は、本国から来たエルグラン・ルイス・ダークライだ。我を誘惑するとは、お前はいい目をしているな。」
「誘惑してないからね…男だって言っても信じないから確認する?って聞いただけでしょ!」
「同じことではないか…我以外にそのように淫らに誘うんじゃないぞ。」
「姉様!この子いう事聞いてくれないよ!」
男同士なんだから見せたってどうってことないじゃないか!
それを誘うだなんて…言っても聞いてくれないので助け舟を出してもらおうと姉様を見たんだけど…ダメだこりゃ。
顔は、真顔なんだけど鼻の穴がピクピク動いている。
これは、興奮を我慢している時の顔だ。そして、思考が遠くの地へと旅立ってしまってるから話しかけても反応があまりない。
「あのさ…離してくれる?」
「名前も聞いていないのに離せるわけないではないか。」
名前をやたらめったら言うのは良くないって言われてたけど、俺と同じ名前をこんなに堂々と言ってるんだし、夜会に行くメンバーみたいだから言っても問題ないよね。
ちょっと考え込んでから意を決して告げてみることにした。
「……エルグラン…俺の名前はエルグラン・ランチアだよ。」
「…っ!お前も夜会に招待されてる者か!という事は、服装から見て北の国の貴族か…ふむ…すべてが片付いてから事を進めても問題ないな。」
何を考えているか分からないけど、考え込みながらニヤニヤし出したりしてるからロクでもないことだってことくらいわかる。
一応、何を考えてるか確認しておいた方が良さそうだね…
「問題ないって……どういうこと?」
「あの忌々しい小国の夜会を無事終えたら、お前が、我の花嫁になるという事だ。」
「……ふぇえええええええ!?」
本当に話聞いてない人だな!
俺は男だって言ってるのに…確かに、国によっては同性婚も重婚も認められてるけど…俺の国じゃあまり一般的じゃないよ!
ってか、俺の気持ちは!?男を置いといたとしても、会ったばっかりで結婚って!!
王族って自分中心で話を聞かない傾向があるけど、この人最上級だよ!
「それは、姉として認められません。」
「姉様!」
「何故だ!本国の瘴気なら弱めることのできる魔道具がある。問題ないだろうが!」
姉様が、やっと妄想の旅を終わらせて戻ってきてくれたようです。
キリッとして表情で、相手の少年を威圧に負けず睨んでいます。姉様、カッコいい!
それにしても、この子何言ってるの!?
ナンパからの求婚ってどういう神経してるの?
理解が追いつかないことが続いて恐怖すら感じるよ!
どうしようもない気持ちからか無意識に空いている手で姉様の袖を掴んで寄り添った。
「この子にちょっとエッチなことを言われたくらいで鼻血を出すような人に、この子の夫が務まるわけありません!」
「グッ!…その通りかもしれん…だが、一緒に過ごせば免疫もついて慣れるというものだ!」
俺は言葉を失ったよ。
エッチなことなんて言ってないのに…姉様にも話が通じていなかったのか。
というか、妄想の世界と現実の堺が分かっていないのかもしれない…旅の間、チョイチョイあったもんね。
ポールの膝に座って休んでるだけだったのに、黙って見ていた姉様が、いきなりすごい剣幕でポールと俺を引き離したりしてたし、兄様にお菓子を分けてあげた時も「お幸せに…」とか言い出したりもしてた。
話が通じない二人のやり取りに、脱力感半端ないです。
「二人とも…俺、宿に帰ってもいいかな…」
「何を怒っているのだ?」
「怒ってるんじゃなくて呆れてるの!」
ぶんぶん振って手を強制的に解いて少年から離れ、姉様の手を引きながら宿に向かって足早に歩きだした。
まったくもう!折角の楽しい気持ちがひっちゃかめっちゃかで終了しちゃったよ!
両頬を膨らませてプリプリ憤っている俺の隣で、姉様とまだしつこく付いてくる本国のエルグランがオロオロしている。
すると正面からポールと兄様が歩いてきた。
天の助け!
「兄様ぁあああ!!」
姉様の手を放して、両手を広げて待ってくれている兄様の胸へと飛び込みます。
はふん。兄様のいい匂いと温もりに癒されて、変にため息が漏れてしまう。
「おっと!…どうかしたのか?」
「ちょっと離れてただけで、これなんだから…コイツは甘ったれだな。」
「いいんだもん!俺は、兄様に甘えるのが仕事!」
「俺に甘えてもいいんだぜ?」
「……裸でからかわないなら甘える。」
ポールが、俺をからかう特有の笑い方で、茶々をすぐに入れてくるんだから…兄様の腕の中で唇を尖らせて悪態をついていると、すっごい殺気を放った目で本国のエルグランが睨んできました。
なんなんだろ…この子。
俺は結婚を了承してないんだし、兄弟なんだからそんな顔しないでもらいたいんだけどな。
「そんな目で見ないでよ…」
「お前が、我の花嫁なのに他の男と抱き合っているからだろうが!」
「「花嫁!?」」
「違う!!!!」
兄様とポールが一気に殺気立ってしまい、慌てて訂正をするも後の祭りで…
広い道の真ん中で、俺サイドVS本国サイドでの睨み合いが始まってしまいました。
暫く睨み合いが続くと、騒ぎを聞きつけたお父様とお母様が駆けつけ、間に入ってくれて、とりあえず解散しないともっと大きな騒ぎになるからと相手サイドを宥めてくれて、宿に帰れるようになりました。
宿へ向かっている時、皆、口を開こうとしても言葉を出さず、すぐに口を閉じたりしていた。
お父様が、珍しく怒気を放っていたからだと思う。
宿に着いて、両親の指示でしばらく外出をしてくるよう、仲間たちは追い出され、俺と両親だけになった。
「災難だったな…夜会が無事に済んだら、北の国で結婚相手を早く探そう。」
「お父様!?」
「本国に命令されても婚約者が居れば、ボトヴィッドが断っても北の国の面目が一応立つ。」
「あなた…それでは、この子が可哀想ですわ。」
「仕方がないだろ。私は、この子を他所の国に行かせる気はない。」
お父様は、仕事モードの顔つきで俺とお母様を見つめ、俺達の頬にキスをしてから自室へと戻っていった。
結婚…考えたこともなかった。
現実を受け止めきれない俺をお母様は、優しく包み込んでくれた。
ゆっくりと頭を撫でてくれるお母様の手が、とても心に沁みて、やりきれない切ない気持ちから抱きしめ返した。
「お母様…結婚ってまだまだ先の話だと思ってた…」
「私もよ…でも、パパのいう事も分かる。」
お母様もお父様も俺とどうやったら一緒に居られるかをずっと考えてくれてる。
領地で、俺を外に出さなかったのも、名前を外部に漏らさなかったのも、その為だと物心つき出した頃から言われていた。
俺も一緒に居たい。
でも、その為に婚約者を急いで決めていいのだろうか…
だいたい、何だか分からないけど、危険ばかり舞い込んでくる非力な俺の婚約者…強い人じゃないと、きっと無理だろうな。
婚約者に守ってもらう…そんな姿を想像しただけで恥ずかしい!
強くなれるようにポールに相談してみよう!それがいい!




