町は刺激で溢れてる
今日は、恵瑠達がエルグランへ旅立つ日です。
すっかり、姉様は姫と仲良くなり、見送りへ一緒に行くことになりました。
姉様と二人だけでの行動は初めてなので楽しみです。
お父様とお母様は、兄様も連れて行った方がいいと言いましたが、兄様とポールが辞退したので強く要求できません。
二人が断った理由は、姉様一人でも大丈夫だと判断したこと。
あとは、姫と姉様の会話を聞きたくないからだそうです。
それだけで、お母様は納得していました。
承諾したことのもう一つの理由は、お父様も昨日お母様と町を探索したそうで、この町は安全という答えを出しました。
この町は、温泉施設が多いから、盗撮、盗聴等の防犯魔道具が進んでいるそうです。
姫に、どうしてこんなに進んでいるのか聞いたところ、この町には魔道具を作る職人が2人もいるそうです。
1人は、達人級の腕前を持つ女性の職人さんで、もう1人は、優秀なお弟子さんで自立してもいいくらいの腕前だから魔道具の研究や技術が確保できているんだって。
原動力となる魔石は、近くの採掘所から確保できるとあって、増産が可能。
採掘所があるのが凄いと思うよ。
採掘所とは、人間達で言うダンジョンのこと。
魔国は、全体的に魔素の多い瘴気で覆われてるから、ダンジョンとなると瘴気が溜まりやすくて、岩の成分と相性がいいと無限に魔石が取れる。
ただ、相性がいいってのがなかなかなくて、無限に取れるところは採掘所。
量が決まってしまっているところは、養石所となる。
養石所は、一定の量を取ってしまったら、数年間取ることを禁止される。
禁止している間に、新たな魔石が育つってわけ。
お父様の広い領地には、養石所が5か所、魔道具職人が3人、建築技術者が4人いる。
領地には、街や村がいくつかあるから、この町だけでこの資源は、とても豊富だと言える。
お父様が、これだけのものに恵まれていたら領地管理しやすいだろうなーって羨ましがっていた。
でも、俺は、お父様よりも白檀や他の人が領地を管理している姿ばかり見ていた気がするよ…
姉様と俺は、今回ラフな格好でお屋敷へと徒歩で向かいました。
見送りに行くのに籠をチャーターするのもどうかと思うし、俺はマントを被って居れば問題ないから歩きたいって懇願した。
宿を出るなり、姉様が俺を抱きかかえて暗躍スキルを使おうとしたので、丁重にお断りしましたよ。
あれは…慣れてないとこの後一日中響くからね。
姫を見送った後、姉様と町を見て回りたい。
歩いて40分くらいで屋敷に着くと、既に大きな籠とお供する使用人たちが綺麗に整列していた。
その先頭に砂霧さんが居たので手を振りながら駆け寄った。
「砂霧さん!!お見送りに来ました!」
「これはこれは。お二人が、姫様の良き友人となってくださったので心置きなく旅に出られます。」
「うん!俺も友達が一緒なら心強いもん!」
リンッと透き通る鈴の音が響き、視線を向けると見たことないような綺麗で繊細な刺繍が施されたドレスのようなコートのような服を着ている恵瑠がいた。
真っ赤な布に金色の糸でとても目立つ。
「よく来てくれたな。向こうで会おうぞ。」
「うん!一緒に頑張ろう!ところで…その恰好って…」
「これか。これは、この国の民族衣装だ。もちろん、籠に乗り込んだら脱ぐけどな!」
「…恵瑠様がずっと着ていられるわけないって思ってた。」
「「ねー。」」
ビックリです。
二人はとっても仲良しです。声を揃えて話たうえ、笑い合いながら抱き合いだしました。
姉様は、普段無表情なのに、姫とは優しくも楽しそうな笑顔で会話してます。
しかも敬語じゃない!何が二人をこんなに近づけたんでしょうか。
「姉様と姫は、とっても仲良しなんですね。」
「そなたが切っ掛けと言ってもいい。」
「俺?」
「ふふふ…気にするな。では、私は出発する。」
俺の肩を叩いて、豪華な籠へと凛とした姿勢で乗り込んでいった。
扉が閉まると小さな窓が開き、顔を覗かせてきたが…さっき乗り込んでいった人ではないような早着替えぶりだった。
長い髪は首元で一つに纏められ、温泉施設で貸出してくれていた作務衣というものを着ている。
「なんだ、その顔は。」
「恵瑠様の早着替えに呆れてるのよ。」
「乗り込むまでが公務だ。籠の中は楽に過ごす!」
「「本を読んで」」
また、二人はケラケラ笑いながら指を指し合っていた。
本当につい最近仲良くなったのだろうかと思うほど意気が合っている。
俺は、呆気にとられたまま二人のやり取りを見ているしかなかった。
二人は、別れを惜しんでから姉様が、籠から離れると出発していった。
「姉様…寂しくなるね…」
「ええ…でも、すぐにまた会えるから…」
行列の姿が見えなくなるまで残る使用人の人たちと見送っていた。
そうそう、姫の両親なんだけど…姫が旅立つ前にと作ってくれたお菓子を食べ過ぎて、またお腹を壊して動けなくなっているそうで…使用人の人に聞いたら、よくあることなんだそうです。
売っていない美味しいお菓子を作るのが、姫の特技だそうで、両親はそのお菓子の大ファン。
毎回、姫の制止を振り切って全て食べてしまうそうで…姫も言ってたけど困った親ですね。
けれど、姉様の話を聞いて驚いた。今回は意図的にそうしたそうです。
体調を崩せば、両親を連れていけないと世間にも国にも言えるからと。
姫の優しさに、俺も姉様もウルッときてしまいました。
俺もお父様とお母様に何か理由を付けて国に帰ってもらえないかと考えましたが、姉様に叱られてしまいました。
相手の安全を思ってやる方はいいかもしれないけど、やられる方は身を斬られるよりもつらいのだと。
そう言っている姉様は、何かを思い出したのか半泣きでした。
誰か大事な人に似たようなことをされたのかもしれません。兄様に過去やられたのでしょうか?
「姉様、気を取り直して遊びましょう!今日は、俺とデートしてください!」
「はい!」
「姉様!鼻血!」
慈愛に満ちた笑顔で鼻血を垂らすのは、流行なのかと思ってしまうほど最近よく遭遇します。
姉様の鼻血を拭いてから手を繋いで店が沢山ならぶ通りへと走り出しました。
この町名物の饅頭というのを食べなくては!
あとは、扇子という折り畳み式の団扇とお面も見たい!
二人で笑い合いながら色々な店に入って、美味しいものを食べ、扇子やお面も見ました。
お面は…これって言うのがなくて購入を断念しました。
扇子は、素敵な和紙というもので作られたピンク色の物を買い、姉様にプレゼント!
とっても喜んでくれて、店先で号泣されて困ってしまいました。
「あ…この店を見てもいいかしら?」
「うん…ってここは!俺は外でお菓子食べて待ってるよ。」
「そう?それじゃすぐに戻るわ。」
姉様、子供の俺でも下着専門店に入るのは恥ずかしいです。
クスクス俺を見て笑ってから、姉様は嬉しそうに店内へと入っていきました。
俺は、さっき買った焼き菓子をモソモソ食べながら壁に凭れかかり、出てくるの大人しく待つ。
うん、出てこないよね。
ポールが言ってたけど、女の人の買い物って長い。
ードンッ!-
「ふえ?」
「怪しい子供だな…貴様…」
のんびりお菓子を食べていたら不意に壁に押し付けられ、動けなくなって混乱していると俺よりも少し背丈のある薄紫色の肌をした少年にマントのフードを取られてしまいました。
突然のことに思考が付いていかず、初めて見る魔族に目を見開いて見返すしかできません。
「な…なんなんですか…」
「…貴様、女だったのか…すまん、下着屋の前でいつまでも動かないフードを被った奴がいたものだから。」
「ああ…そう言われればって…俺、男だよ?」
「からかうな。貴様のように綺麗な顔した男がいるわけないだろ。」
「いるもん!…そんなに信じられないなら…確認してみる?」
やっぱり、鼻血が流行っているようです。
目の前の男の子は、超上級魔族特有の青い鼻血を噴き出して俺の両肩を掴んで顔を近づけてきます。
超上級魔族…魔国中心部にしか住んでいない魔族で、独特の生態をしています。
まず、肌の色が薄紫や紫色をしていて、髪は白髪。血の色は青い。
金色の瞳をしていて妖しい魅力がある。
「あの…近いです…」
「貴様が、我を誘うからだ…」
「誘ってない!確認するかって聞いただけ!」
「それが誘っているというんだ!確認など…ベットでしかできないだろうが…」
「…トイレで出来るよ?……にゃぁあああ!!」
少年が、大量の鼻血を拭いて倒れてしまいました。
どうしよう…周りを見てもザワザワ騒いで遠巻きに見てくるだけ。
超上級魔族ってだけで珍しいのに、俺に向かって迫った挙句鼻血を出して道に倒れ込んでるなんて…俺が第三者でも遠巻きに見てるだけかな…
どうしよう…
「何があったの?」
さすが!姉様が、騒ぎを聞いて店から出てきてくれました。
手に、しっかり会計済みの袋を持っているというのはスルーしますよ。
いつもの涼しい顔をしてフードをさりげなく被せ直してくれ、倒れている少年を抱き起し、超上級魔族だと分かると眉間に皺がよりました。
「……っ!!」
「貴様ら、その方に何をした。」
「姉様!」
兄様のような現れ方をした黒装束の人たちが、姉様の首に刃物を当てて立っていました。
全然分からなかった。
俺みたいに、弱い子供が分かるはずもないだろうけど…怖い。
「姉様にそんなことしないで!その子が、俺と話してて鼻血出しすぎて気絶しただけだよ!」
「そんなバカなことがあるわけがない!この方は高貴な方だぞ!」
「知らないよ!その子を渡すから姉様に触らないで!」
「エル!逃げなさい!」
「やだ!!姉様、さっき言ったでしょ!」
怖くて震えが止まらないけど、この場で姉様の言う通り逃げることは出来なかった。
足手まといなのは分かる。
でも、逃げたら…姉様と会えなくなってしまう気がする。
俺は、無力だけど姉様の盾になるくらいならできる。元はと言えば、俺がこの子に因縁を付けられたことが切っ掛けなんだし、姉様は何も悪くない!
必死の思いで姉様に縋り付いた。
「やめよ…その子供は、何も悪くない…」
「エルグラン様!しかし…!」
「我は、やめよと言っている…」
エルグラン…俺と同じ名前…この子が、本国から夜会に呼ばれた子供…
本国でも身分が高い人。
黒装束の人たちが一斉に刃物をしまって、少年に片膝をついて頭垂れた。
少年はそれが当然だと言わんばかりに、鼻血を袖で拭いて立ち上がった。
部下を威嚇する魔力を体に纏わせるように発している堂々とした姿は、まさに王を思わせる。
鼻血噴いてたけども!




