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領主さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第1章 北の国から
11/50

東の国の大きな街

なんと…今日はお祝いすべき素敵な日です!

ポールという凄腕の護衛が増えたことでお父様が、外出の許可をくださいました!

ポールに元気づけられて、落ち込んだ気持ちが少し浮上し、元気モリモリ朝食を食べている時に聞かされた俺は、はしたなくもその場で踊ってしまいましたよ。

こんな湧き水のように沸き上がって止まることのない嬉しい気持ちを解消するには、下手だけど踊るしかありません。

何をしよう!何を食べよう!何を見よう!何を買おう…ああ、楽しみで顔が緩みっぱなしです。


「はー…伽羅、どうしよう!嬉しくて嬉しくてたまらないよ!窓から見ていたケーキ屋さんにも行きたいし、この土地ならではの物も食べたい!あとはね、あとはね…」

《ははは、興奮してまとまらなくなってきてるじゃないか。》

《そういう伽羅だって、さっきから尻尾が落ち着いてないよ?》


時々冷静なツッコみを入れてくるブルーノは、見た目と話し方で判断したら子供っぽいけど、中身はすっごく大人だから、俺が両親の部屋から出て行った後で、色々言ったんだと思う。

じゃなかったら、今まで許してくれなかった両親が、護衛が増えたくらいで許してはくれないもの…

可愛いのにしっかりしているブルーノに、沢山お礼をしなくては!


「ブルーノ…色々ありがとね…」

《ふわわぁぁああああ!そんな…沢山…ちゅー…グルゥゥゥウウウ!》

《はい、そこまで!!》


お礼を込めて沢山ブルーノをモフモフ撫でまわして、顔中にキスをしまくっていたら、伽羅に横入りされてお礼タイムが終了した。

途中からブルーノの喉が、凄い唸り声みたいな音を上げだしたから少し驚いたな。

俺が、離れても毛を逆立てて威嚇している伽羅は、ヤキモチ妬きだから、今回みたいにブルーノを構っていると直ぐに割って入ってくるので困ったものです。


《……危なかった…伽羅が入ってこなかったら発情して人体変身(メタモルフォーゼ)するところだった…》

《そんなことしたら切り刻んでやる…あの子は俺のなんだからな。》

「何こそこそ話してるの?」

《《なんでもない!》》


二人は、仲が良いせいか、たまに俺抜きでコソコソ話をしています。

俺も仲間に入りたいって言ったら、大人になってからって言われてしまいました。

子供には難しい話なのかも…伽羅も子猫に見えるのに俺よりは大人だもんね。一応。


「伽羅が止めなければ、私かポールさんが止めていましたよ。ブルーノにお礼のキスは禁止です。」

「兄様!伽羅は、良くてブルーノがダメだなんて可哀想です!」

「…挨拶でもなんでもキスは禁止にする。お前の身がパパは心配だからね。」

「お父様まで…心配することなんて何もないのに…」


俺は、不満いっぱいだけど、姉様もお母様もウンウンと何度も頷いていたので決定事項のようです。

仲良しキスは、伽羅が一番初めに教えてくれたことなのに…これから言葉だけで気持ちを表現しなくてはならないから大変だな。ちゃんと伝えられればいいんだけど…

そうだ!今日の目的、其の壱は本屋さんで本を買う事にします!

それで、世の中の色々なことを勉強してみたら、お父様とお母様のいう事が分かるかもしれません。

そうと決まれば、一日というのは短いものなので、無駄にしない為にも急いで支度をして、街に行かなくては!


「今日の目的は、本を買うことにしたので本屋に行きます!支度が済んだら行きましょう!」


はりきっている俺は自分の割り当てられている部屋へ走り、荷物からあれこれ出して鏡の前でファッションショーです。

今迄、人前に出ることがなかったので服装が変じゃないかとっても心配。

北の国と東の国では服装が少し異なるので、服も一着買う予定ではいるけど、それまでに着る服が決まらない。


「伽羅、どうしたらいい?変じゃない?」

《…あのさ…言い辛いんだけど…マント被るの必須だからね。》

「えーーーーーーー!!!そんなーーーーー!!」


外出が許可されたし、北の国じゃないからマント無しだと思ったのに―!!

東の国に来てからマントつけると暑いんだよなぁ…仮面的なものも探してみよう。

でも、子供用のってあるかなぁ…こういう時、器用に何でも作れる人がいればいいのに…あれ?居たような気がするんだけど思い出せない…

まぁ、いっか!



身支度を済ませてロビーで待つ兄様とポール、ブルーノと合流して、両親と姉様がいないことに首を傾げた。三人ともまだなのかな?


「兄様、姉様とお父様とお母様は?」

「三人は別行動。本当なら一緒に行動したかったらしいが、人数が多いと目立ってしまうからと気を使ってくれたよ。」

《確かに…メンツだけ見ても目立つよな。》


伽羅がじろじろとメンバーを見回し、尻尾を左右に振りながら溜息を吐いた。


「俺は、鎧を脱いでいるんだから問題ないだろ。」

「うん…なんていうか…自然?」


一瞬、何故かモブって言葉が浮かんだんだけど、意味が分からない言葉だったから口にしなかった。

口にしたら、ポールに怒られそうな気もしたし。

するとブルーノが、体を揺らして笑いながらポールの前に歩み出た。


《この子…気を使って、自然だってさ。》

「何が言いたい…ああ、いい!言わなくてもいいからな!」

《モブ…》

「言うな!!!おまえ、会わない間に、かなり性格が悪くなったぞ!」


ブルーノは、モブって言葉の意味を知ってるみたいだ。

やっぱり、世間一般で使われている言葉だから耳にしたことがあったのかな?


「ブルーノ、モブってどういう意味?」

「お前は知らなくていい。ブルーノも余計なこと教えなくていいからな!」

「モブとは、どこにでもいる有り触れた容姿のことですよ。」

「ストラトス!!」


ポールは、変態よりもモブって言われる方が嫌みたいです。

有り触れた容姿…確かにそうかも。他の兵士とか騎士に混ざったら分からないと思う。

絶対口に出して言わないけどね。

ポールは、この間から仲間になったはずなのに、兄様と姉様とブルーノとは昔からの仲間だったからかすぐに打ち解けてふざけ合うようになっていた。

少しだけ、羨ましく思ってしまう。

俺もポールとふざけ合ったりできるようになるのかな?

兄様と姉様とふざけるっていう事は想像できないけど、ポールは気さくだからいけそうな気がする。


今日の予定は、本屋に行く。ポールの新しい鎧を探す。

本屋は、俺の用事で鎧は…東の国じゃ、ポールは変な有名人になってしまってるから鎧をチェンジして他人のふりを決め込むそうです。

俺みたいな子供が、あの鎧を着たポールと歩いていたら、すぐに兵士が飛んできそうだもんね。


三人と二匹で和気あいあいと話をしながら歩いていたら、あっという間に本屋にたどり着いた。

本屋は、大きな長方形の建物で、見たことないシンプルな作りになっていた。

4階建ての建物で、世界中の様々な本が売っているという。

入口に、案内代わりの魔石で作られた案内石があり、音声で色々と本のある場所や内容を説明してくれる。

案内石は持ち帰り不可で、入口から外にもって出ると警告音が鳴り響くというので注意するようにと、兄様が教えてくれた。

店の中でしか使えない物なのに、お土産的な考えで持ち出す人がいるんだって。

1グループ3つまで案内石を借りて行っていいそうで、ポールと俺と伽羅、兄様とブルーノそれぞれ1つずつ借りて店内を回ることにした。


まずは、エルグランのことが知りたいな。

地理や歴史、観光ガイドのコーナーに行ってみたが見当たらない。


「何を探してるんだ?」

「あの国の本を探してるんだよ。」

《…それならないよ。》


伽羅が、俺の耳元まで飛び上がって囁くように話し始めた。

エルグランは、東の国の端に面しているから、この国ではエルグランと話すだけでも周りは警戒するそうだ。

この国の人たちは、ほぼ正体不明の隣国に恐怖すら抱いている。


「あの国の人は…とっても怖いのかな…」

「…怖いんじゃないのか?信じるものを失った人間は、理性も失う…善悪の判断も曖昧になる…俺がそうだったようにな。」


覚醒魔人…お母様もポールも辛いことがあってなった魔族。

エルグランの魔人も辛いことが多くて、すべてを憎んでいる…そんな魔人に、俺は会って無事でいられるんだろうか…

ブルッと震えると、ポールがいきなり片手で抱き上げ、空いているもう一方の手で背中を何度も摩ってくれた。


「大丈夫だ。そんなに怖いなら、いっそのこと奴隷を代理に仕立て上げるか?」

「奴隷を?」

「俺とストラトスとリブラ、ブルーノが居れば、一時凌ぎだが、身代わりでも十分乗り切れるはずだ。」


奴隷を身代わり…でも、解決できるわけじゃない。一時的なものなら…意味がない。

それに、偽物だと分かったら、ボトヴィッドにも迷惑が掛かる。

兄様たちも無事では済まない。

俺が怖いのを我慢すればいいだけの話、子供だからって恐怖を理由に我が儘言えない。

決心を新たにした俺の顔を見ていたポールが、温かな微笑みを浮かべて額を擦り合わせてきた。


「俺が側にいるから大丈夫だ…」

「うん。有難う…怖いのなんてどっかに行っちゃったよ。心配かけてごめん。」

《おい!いい雰囲気醸し出してんじゃない!!》


猫キックでポールの頬を何度も蹴って伽羅が邪魔してきた。

まったく…キスしてないんだからいいじゃないか。

おでこコッツンもダメなのかな…


「伽羅もおでこコッツンする?」

《する!する!する!する!する!する!する!》

「必死過ぎるな。」


頭が取れちゃうんじゃないかって位、激しく頷く伽羅を抱いて、額同士をグリグリと擦り合わせて笑いあった。



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