いつもの朝
改めて始まります。村長さんちの次男坊です。第二幕!
「エルグラン様、朝で御座います。今日は、とても寒いので暖かいホットチョコレートをご用意いたしましたよ。」
聞き慣れた優しい侍女の声、寒くてまだ温かな布団に包っていたいが、起きないで眠り続けると彼女がかわいそうなので重い瞼を開いて、いつも重みを感じる胸に包る滑らかな毛の塊を撫でる。
規則正しい息遣いと連動している丸い毛玉に唇を寄せて、チュッと唇を鳴らして上体を起こす。
「おはよう、マーサ。伽羅も起きようよ。ホットチョコだってさ。」
《くぁあああ…寒いのヤだから、もうちょっと寝てたい。》
「もう…朝のチューはちゃんとしたからね。」
毎朝、赤ちゃんの頃から一緒にいる伽羅にキスをして起きるのが、決まり事の様になっている。
伽羅は、俺が生まれる前から居たオルトロスの子供。
黒い毛で覆われ、手足は真っ赤な薔薇の花びらみたいな毛色。本当のこと言うと怒られるから言わないけど、赤い靴下みたいなんだ。
目つきは、子猫みたいなのに鋭くてカッコいい。金色の目も背中の翼も素敵だと思う。
マーサは、おばあちゃんセイレーン。優しくて声が綺麗なんだけど、怒らせるととっても怖い。
お母様もマーサのことを母親の様に慕っているから、二人揃って叱ってくることもある。
この間、伽羅と一緒にちょっと屋敷の門から出ただけですっごく怒られた。
俺は、ちょっと変わってる魔人だから外に出るときは、お父様とお母様の許可が必要で、あまり門の外に出たことがない。
他の魔人がどういう感じなのか見たことがないからわからないけど、俺は一目で毛色の違う魔人だってわかるらしい。
外に出れない理由は、それだけじゃなくて…俺の他の兄妹が、家族旅行の最中に何者かに攫われて未だ行方不明なんだって。
お父様は、北の王様の側近で純粋な魔族。お母様は、元人間の覚醒魔人。
人間のお母様は、二人が攫われた悲しみと憎しみで魔人になった。
覚醒魔人になると、子供が出来にくくなってしまって、より一層二人は子供を切望していた。
そして、待ちに待っていた子供が俺。
また、攫われてしまうんじゃないかって心配している。
「マーサ、お父様はもうすぐ帰って来る?」
「ええ。奥様宛の手紙に書いてありましたからね。」
《また、沢山下らないもの買ってくるんじゃない?》
「伽羅…そんなこと言っちゃメッ!」
いつものようにマーサに手伝って貰いながら普段着に着替える。
今日は、真っ白いブラウスにブラウンの暖かいズボン。体が冷えないようにふっかふかのセーターを着て、温かいホットチョコを一口飲む。
魔国の北にある俺の家は、防寒対策ばっちりだけど、大きな屋敷だからどうしたって寒い。
全部の部屋の暖炉に火を入れるわけにはいかないからね。
「エル、起きてるかしら?」
「お母様だ!」
控えめなノックの後から聞こえてくる大好きなお母様の声に、慌ててコップを置いて立ち上がると、伽羅が気を利かせて俺の口の周りについたチョコをせっせと舐め始め、ちょっとざらつく舌の感触にくすぐったさを感じながらも笑わずに堪え、舐め終えた伽羅を抱きかかえて少し冷たくなってるドアを開ける。
そこには、優しく微笑みフードカートに手を添えて立っているお母様が居た。
お母様は、真っ白な肌でプラチナブロンドのふんわりしたロングヘア―の美人です。
覚醒魔人になったので、瞳はアメジストの様に紫色でキラキラしています。
自分の母親なのに恋しちゃいそう。とっても素敵です。
おっと、寒い廊下にいつまでもお母様を立たせておくわけにはいきませんね。
「おはよう、お母様。」
「エルは、お寝坊さんね。ママ、待ちきれなくてご飯を持ってきちゃったわ。」
「ありがとう。マーサ、お部屋で食べてもいいよね?」
マーサは、分かっていたようでお母様からフードカートを受け取り、手際よくテーブルにセットしていきます。
本当は、お手伝いしたいんですけど、手を出すと叱られてしまうのでお母様と一緒に椅子に座って、マーサの動きを見学。
時々、伽羅がつまみ食いをしようとしてるけど、マーサの一睨みで手が引っ込んでいて、見ていて微笑ましい光景。
こういう時、決まって俺は胸が痛くなる。
幸せで、心が温かいのに何かが足りない。
行方不明の兄妹が居ないからだろうか…お父様が留守がちだからだろうか…
無意識にブレスレットを触っていると、お母様が顔を覗き込んできた。
「エル?どうしたの?」
《いっつも朝はボーっとしてるよな。》
「ううん、何でもない。ってか、ボーっとなんてしてないし!」
宝石と金属で出来てるブレスレットなのに、切ないような寂しいような気持ちになると心なしか暖かくなる不思議なお守り。
俺が、生まれた時に握ってた宝石を使って作られたものなんだけど…本当に不思議なんだよね。
石に名前が彫られてて、それが今の俺の名前になった。
お父様もお母様も俺にしっくりくる名前だって言うので即決したらしい。
俺自身もしっくりきている。
うーん…でも、この名前ってあんまりいい話聞かないから一回調べたいな。
「お母様、今日は図書館へ行きたいんですけど…ダメですか?」
「……借りたい本を教えて頂戴?」
「やっぱり、外に出たら駄目なんですね…」
「………ごめんなさい。」
また、お母様に悲しい顔をさせてしまった。猛省です。
伽羅の視線が突き刺さってきそう。
マーサの溜息まで聞こえてきて耐えられなくなってきたので、朝食を一気に搔っ込んでナプキンで口を拭いて逃げ出すことにした。
「俺こそごめんなさい!遊戯室に行ってきます!伽羅、行くよ!」
《えーーーーー!!まだ、紅魚食べ掛けなのに!》
「好きなもの最後に取っておくからでしょ!先に行ってるからね!」
暖かい部屋から廊下へ出ると、一気に冷気が吹きつけてきて、頬が少しピリッとするけど、あの場の空気よりはマシだと思って、眩しい日差しが照らす廊下をジョギングがてら走った。
窓の外から見える景色は銀世界。
雪が薄っすら積もっていて、光を反射してキラキラ輝いている。
この景色もあと少しでおしまい。
もうすぐ優しい暖かな季節に代わる。
北の国だから雪の季節か暖かい花の季節しかない。
花の季節になると沢山の魔族やモンスターで、普段静かな北の国が賑やかになる。
魔国の観光地って感じかな?
俺の家は、北の国の中心に近い海沿いの土地で、お父様が治めているのは、街が二つと村が5つ。
領地の多さから優秀さが伝わる。
北の王様の側近中の側近だから、家にいることも少ないけど、すっごく強いし、人間だったお母様を特別に奥さんにすることができた。
自慢の凄いお父様…ちょっと過保護で、お母様にも俺にも甘々なのが玉に瑕なんだけど、それもまたご愛敬!
早く、お父様帰ってこないかなー。
《エル様!廊下を走ってはいけませんよ!》
「外に出られないんだから、これくらい見逃してよー。」
《いけません!廊下は、侍女や執事、モンスターだって歩いているんですからぶつかったらどうするんです!》
口煩いモンスターに捕まってしまいました。
伽羅の兄で白檀は、頭が三つあるケルベロス。
交互にしゃべってくる時はいいんだけど、興奮すると一斉にしゃべり出すからすっごく面倒臭い。
しかも、三つとも真面目だから本当に困る。
つまり、説教が三倍。
「以後気を付けます!遊戯室へいってきまーす!」
《《《エル様!!走ってはいけないと申しましたけど、高速スキップも同様ですぞ!!!》》》
やっぱり煩い。同じこと言っても声量×3だからね!廊下って響くから本当に耳が痛いよ。
これだから俺も伽羅も白檀が苦手なんだ。声量抑えてくれたらいいのに…自分で煩くないのかね。
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