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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

心肺蘇生

作者: 押友九太

小林君には1週間前に告白された。


他に好きな人もいなかったし、付き合うっていうのがどういうことかよく分かってなかったから(今でもあんまり分かってないけど)、なんとなくオッケーした。

そして土曜日の今日、初デートをした。

映画を見て、お昼を食べて、ゲームセンターで遊んだり服を見に行ったりした。

でもあたしはあんまり楽しくなくて…。

そんなことより別のことに対する興味で頭が一杯だった。


昨日学校で心肺蘇生法の実習授業があった。

もちろん実習する前から人工呼吸とか心臓マッサージとかは知っていた。

でもあんなことで死んだ人が生き返るっていうのが信じられなかった。

人が生き返るところ、一度見てみたいなって、思った。


一通りデートプランが終了してお別れって時になってあたしは、


今日、親いないんだ

と言った。


だからさ、今日うち来ない?


両親は昨日から旅行に行っている。

小林君は顔を少し赤らめてすごくびっくりした顔で喜んだ。

あたしも嬉しかった。


うちに一緒に帰って、小林君をあたしの部屋に通して座布団を勧めた。

小林君が座布団に正座したのがちょっと可笑しくて、足、くずしてもいいよって言った。

小林君が足を崩して楽になったのを見て話を切り出した。


あのさ、お願いがあるんだけど…

小林君


う、うん


ちょっと目をつむってもらってもいいかな?

小林君


い、いいよ

小林君緊張してるみたい。なんだかあたしも緊張してきちゃった。

口が変に突き出しているように見えるけど何考えてるのかな?


すぐに済むからね…。

本や新聞紙を縛るビニールの紐を2メートルぐらいに切ったものを3重にして、両手の手のひらに巻き付けて繋いで、小林君の後ろに回り込む。

手をクロスして紐と腕で輪っかを作って小林君の首に輪っかを通して、

そのまま一気に両腕を左右に引っ張った。


ぐっ…!

小林君の低い声が響いた。

やっぱり苦しいみたい。小林君は首の紐を外そうと両手で首を引っ掻いてもがいた。


あ、そんなに暴れないで。大丈夫、ちゃんと生き返らせてあげるから…。

小林君は足をバタンバタンと床に叩き付けて首をかきむしっている。

でもビニールの紐は首に食い込んで指を入れる隙間はない。3重にしてあるし簡単には切れない。


げ…げ…。

小林君が変な声を出して、その後5秒ぐらいでだらんと両腕を垂らして、足のバタバタも収まった。


ふぅ…。

小林君を仰向けに寝かせて、あたしはへたり込んだ。

ちょっと疲れちゃった。でもこれからが本番。

ちゃんと学校で習った方法で生き返らせてあげるからね、小林君。


まずは意識の確認から。


もしもーし、小林くーん。聞こえますかー?

…返事はない。目はしっかり見開かれてるんだけど意識はないみたい。

次は、呼吸の確認ね。

胸の上下運動はなし。口元に耳を近づけてみる。うん、呼吸もない。

ていうか舌がだらんと出ている。これじゃ人工呼吸出来ない。

中に押し込んでおこう。

えい。これで良しと。

さてと、それじゃ心臓マッサージからだね。

胸の真ん中に両手を合わせて置いて押し込む。


1,2、3,4…。

30回ほど押し込んだけど小林君の反応はない。

よし、それじゃ次はいよいよ人工呼吸だね。

学校では空気を通すガーゼを人形の口に当ててやったけど、うちにはガーゼがなかったから直接やるしかない。


ふふ、これってファーストキスになっちゃうのかな。

でも小林君イケメンだし、まいっか。

とりあえず気道の確保をする。右手で小林君の鼻を塞いで、左手で顎をクイっと上げる。

小林君の口に自分の口を重ねる。やっぱりちょっと照れちゃうけど、しょうがないよね。

そして小林君の胸を見ながら息を吹き込む。


フー…。

小林君の胸が少し膨らむ。良かった、ちゃんと空気が入っているみたい。

口を離す。シューという音が小林君の口から漏れる。

うん、これで一通りやってみたけど、まだ生き返らないわね。

もう1回心臓マッサージしてみよう。



3回の心臓マッサージと3回の人工呼吸をやってみたけど、小林君は生き返らない。

おかしいなあ。ちゃんと学校で教わった通りにやったのに。

もう1回だけやってみよう。



生き返らない。

なんだ、全然だめじゃない。嘘ばっかり。

人によるのかなあ。

とりあえず小林君はだめだった。役立たず。

ファーストキスもあげたのに。

ムカついたから頭を蹴ってみた。

もしかしたらショックで生き返るかもしれないと思いながら。

でもやっぱり生き返らない。もういいや。


つまんない結果になっちゃったけど、まあいいか。

もういらないし埋めちゃおう。


うちの家はそんなに大きくないんだけど一応庭がある。

この前お父さんがホームセンターで新しいショベルを買ってきてロッカーに入れていたのを、あたしは知っている。あれを借りよう。

ロッカーからショベルを出してみたけどすでに結構汚れていた。

まだ買ってから数日しか経ってないはずだけど。

とりあえず庭の一番掘りやすそうなところを探して、ショベルで掘り始める。


…10分ほど掘ってみた時。

何か固いものに当たった。

石でもあるのかなって思って、手でパッパと土を払ってみたら、お母さんが出てきた。

あれ、なんで?お母さん、今お父さんと旅行に行ってるんじゃなかったっけ?


あー…そっか、なるほど。

お父さんか。


変だと思ったのよね。最近ずっと喧嘩してたのに急に旅行に行くなんて言ってたから。

喧嘩の原因は多分お父さんの浮気だろうな。

二人の怒鳴り声はあたしの部屋まで聞こえてきてて、うるさいなってずっと思っていた。

最後に言い争ってたのが2日前。

それからお母さんを見ていなかった。

お父さんは、お母さんは先に旅行先に行ってて、後で追いかけるって言ってた。

昨日、お父さんは仕事から帰ってきてすぐにスーツケースを持っていそいそと出掛けた。


とりあえずお母さんの上に土を被せて元に戻して、

隣に新しく穴を掘る。

初めてやったけど、穴を掘るのって結構な重労働なのね。疲れる。

1時間ほどでやっと小林君を入れられるぐらいの穴が掘れた。

あたしの部屋から役立たずだった小林君を庭まで引きずってくる。結構重い。

でもなんとか穴に放り込めた。

土を被せて掘る前の状態に戻す。


さてと、

まあ愛人のところに行ってるんだろうな。

電話してみよう。


…もしもし、お父さん?今どこ?

―――嘘ばっかり、旅行じゃないでしょ?あたし知ってるよ?

警察に言ってもいいの?

―――うん、うん…。それじゃ家で待ってるから。


お父さんはやっぱり愛人のところにいたみたい。

それは別にいいんだけど、そんなことよりやっぱり人が生き返るところ、見てみたいな。


お父さんが帰ってきたらもう一回試してみよう。

首を絞めて殺したのがダメだったのかもしれない。

次は別の方法にしよう。

また失敗しちゃったらそのままお母さんと旅行に行ってもらおう。


でも今度は上手くいくといいな。心肺蘇生。

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