蒼天への旅路
蒼天に炎のような陽が鎮座し、それを仰げば一時だけ何も考えずにいられた。
「あー。やっぱ逝きよったわ。替えた包帯無駄やったな。お前らあっち運んどけよ」
ふいにかけられた呟きに目を向ければ、地獄の有様が地に揺蕩う。
重い足を引きずりながら聲のあったほうへ向かえば、昨晩ほんの少し、意識が還った者に、すでに蠅が集りだしていた。
「ほんのちょっとでも、楽にはなれたんやろうか……」
こんな想いは、ただの自己満足だと重々承知している。
しかし、まだ涼しい夜に目覚めた者に私がしてやれることなど高が知れているのだ。
歳も解らない。大きさで性別を見分けるくらいしかできない。
髪も焼けて頭皮諸共剥がれ落ち、衣服も肌に貼り付いたまま、使い古された包帯で全身隈無く包まれているのだから。
そうして翌朝、物言わぬようになり、虫が集りだしたら広場の端へ運ぶのだ。
同窓で学徒動員された、同じような顔をした隣組と二人で頷き合い、短く手を合わせてからカラダを運びだす。
照りつける陽が陽炎を作る広場の端には。
かつて、「人」だった「モノ」が穴にどんどんと運び込まれ、肉の山となっている。
「もう、今日焼かなあかんな。穴もいっぱいや……」
足側を持っていた者が、顔の下半分を覆っていた布越しに鼻をおさえ呟いた。
あと、どれくらいこんな毎日が続くのだろう。
何でも無かった「日常」は帰ってくるのだろうか。
取り留めも無く思考し、誰かの呟きに無言で頷くことでしか返事もできない。
陽が落ちて夜気が風を運んでくれば、またほんの一時、還ってくる者がいる。
「ア……アツ……ミ、ズ……」
その声が聞こえたら、貯蔵庫にひっそりと向かい、怪我の少ない者だけに使われる氷を少しだけ削って、隠し戻る。
「口、開けられる? ほんのちょっとやけど……」
溶け出す氷を、ひび割れた口に押し込んでやる。
閉じない瞼から一筋、涙のような一筋を零して掠れた声でいう。
「アリ……ガ、と……」
偽善と解っている。
もう次に言葉を交わすことは永遠に来ないと解っている。
それでも――。
炙られる朝があるのなら、末期の水を含ませる夜があっても良いではないか。
――同じ想いを抱えた隣組が、向こうでやはり氷を含ませていた。
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少々遅くなりましたが、原爆記念日に黙祷と、一編を捧げます。