第一章 不思議な学園と個性的な生徒たち 1
お姉ちゃんの魔法によって、私達は家から約五秒も経たずに、バスターミナルへたどり着きました。この魔法、本当便利が良いですね…… ちょっと早めに覚えたいかも。
あ、でも。魔法を扱うのは自分の属性に合った魔法しかダメなのでしたっけ…… ?
魔法には『属性』と呼ばれるものがあり、自身の属性と同じタイプの属性魔法しか使えないというお話をお姉ちゃんから聞きました。先程の魔法が自分と違う属性だったら幾ら知識を覚えても、タイプが違うため使えないのです。
「私の属性…… なんだろう?」
「それは学園に着いてからのお楽しみね♪ 私の予測だと『光』が近いかも?」
「光です?」
「そうそう、学園でも最初で習うと思うけど。属性にはそれぞれ火、水、風、土、光、闇っという六つに分かれていて、性格占いだとよく属性を使ったりするから、私の可愛いし優しい天使のようなアリスは光かなーって♪」
「お、お姉ちゃん。私が天使だなんて言い過ぎです」
「そうかなー?」
お姉ちゃんは笑顔でそう言うと、私の頭を優しく撫でる。お姉ちゃんが私の頭を撫でる光景を他のおじいちゃんやおばあちゃん達が、微笑ましそうにこちらを見て、私は一気に気恥ずかしくなりました。
「と、ところでお姉ちゃん。何でバスターミナル何かに来たのです?」
「それはどこぞのポッタッターと同じような事がこれから起こるからよ」
「あっ、展開が読めました」
っていうか、お姉ちゃん。それモロに答えを私に教えてくれてますよね…… ? 普通はそれこそ、驚かせるためのネタにするとかありそうな展開ですけど。
「ふっふっふー♪ きっと、アリス驚くぞ~!」
一人内心で突っ込みを入れていると、お姉ちゃんの楽しそうないたずらを成功させようとする声が聞こえ、ずこーっと、ずっこける。
わざとかと思ったら何と素でした。
それからしばらくして。
バスターミナルに一つのバスがゆっくりとやってきて、自動ドアをゆっくりと開けて、乗車するお客様を呼び込みます。駅員さんのダンディーな声がなかなか渋くてイケてます。
ここまでは普通。
だけど、行き先の表示が……
『メルヘン学園直行便』
いやいやいやいやいやいや、普通、こんな一般人達も利用する公共施設でその表示は色々アウトでしょう!!!
「これ大丈夫なのですか!?」
「何が?」
「普通の人が見たらメルヘン学園行きとか見たらずっこけそうですけど……」
「あぁ、なるほどねー。大丈夫よ、普通の人にはこのバスが見えてないから」
「バスが見えてない?」
「運転手さんが透明化させる魔法を掛けてるの、これで安心して生徒が乗れるってわけ」
お姉ちゃんはウインクして私に説明すると、バスからゆっくりと降りてくる、キリッとしたバス運転手のお姉さんを見て続きを言います。
「ちなみに、このままでは乗れないから、私は勿論、貴女や他の生徒が乗るかをああやって運転手さんがバスから降りて確認するの。あの人は熟練の魔法使いだから、一発で魔力を持ってる子を見分けれるし、バスの中で乗車する人を待つより簡単ってわけね」
「ふむふむ」
お姉ちゃんが説明を終えると同時に、既に私達の目の前まで運転手さんがやってきて、鋭い視線でじっとこちらを見て問いかけました。
「メルヘン学園の生徒ですか?」
「その通りよ」
「それでは失敬して、…… お二方、ご乗車をお願いします」
彼女はそれだけ言うと、私達から離れて、他にも生徒らしき人達にも同じように話しかけに向かっていきます。そういえば言葉の途中で何を唱えたのでしょうか? ちょっと気になります…… それにしても、彼はなかなかに威圧感があって少し恐かったですね……
「あの人はあんな感じだけれどアリスもきっと慣れるわ、凄く優しい人だから」
「そ、そうなのですか? ところでさっき運転手さんが何かボソボソ呟いてましたけど」
「私達に透明の魔法を掛けてくれたの、これで透明のバスに乗っても一般人から見ても怪しまれないわけ♪」
「なるほどです…… でも、それなら今もし、私達を見た人とか居たら、消えたと思われるんじゃ」
「目撃した人を見かけたら彼が丁寧に『施す』から」
「へ、へぇ……」
お姉ちゃんはそう黒い笑いをしながら意味深な事を話すと、私の手を取って、「それじゃあバスに乗りましょ♪」っと元気よく言いました。
バスへ乗り込み、しばらくして。
生徒達が乗り込むのを確認したバスの運転手さんは、バスの運転席へ向かって座ると、「発進します」っとだけマイクで言い、自動ドアを閉めます。
それから、バスのエンジンを起動し、運転を始めました。
エンジンが動くと共に、車内が揺れだし、バスが前進すると窓の景色も前へ動きだします。
とうとう、自分の家から離れて学園へ向かうのだと改めてその時実感し、私は胸の内にこの先どうなるのだろう…… 本当に魔法使いになれるのかな…… ? 学園の生徒達と仲良く出来るかな…… っとか、様々な思いが渦巻いて、お姉ちゃんについ、その不安を呟きました。
「学園生活…… 上手く出来るかな……」
「大丈夫よ、アリス」
お姉ちゃんはそっと私の手に自身の手を重ねて呟くと、にっこりと笑って、私を励ましてくれます。
「アリスなら絶対上手くいく…… だって、私の自慢の妹だから。それに、私も居るし不安になったらガンガン頼ってくれても良いんだから」
「お姉ちゃん…… ありがとう」
私は胸の奥が温かくなり、お姉ちゃんの優しい手を握り返します。
そうですね、自分は何を心配しているのでしょう。こんなに頼りになるお姉ちゃんが学校に居てくれて、私をサポートしてくれる。だから、心配なんてするような事は無いじゃない。
そんなこんなで数分後。
「そろそろ驚くような事が起こるわよー♪」
もう色々と十分に驚いて、突っ込みを入れて貰ってますけど、これより更に驚く事があるみたいです。
もしかしてのもしかしてと思い、私は冗談交じりに、お姉ちゃんへ答えを言ってみました。
「バスが飛ぶ…… とかですか?」
「良く分かったわね! 流石アリス、私の妹!」
いや、ポッタッターと似ているならばどうあがいても、空を飛ぶ乗り物=今のバスとしか思えないのですがあの。
「今からこのバスは離陸態勢に入ります、シートベルトを着用し、お立ちの生徒様方は死ぬ気で吊り革を握っていてください」
クールビューティーなバスの運転手さんに、そんな物騒なマイクでのアナウンスをされて、私含めて知らなかった生徒達は急いでシートベルトを付け出します。ちなみに、立っている生徒たちは十字を切りながらつり革握ってました。彼女達の武運を切実に祈るばかりです……!
アナウンスが終わり、ものの数秒も経たない内に今まで地を走っていたバスは突如浮き出し、それにより車体は一瞬揺れ、私含めた他の新入生も「キャー!!」っと叫びました。
「大丈夫大丈夫、すぐに慣れるから♪」
「だとしても今は恐いいいいいいい!!」
呑気なお姉ちゃんに、飛行機もまだ乗った事が無い、空を飛ぶ経験なんて初めてな私は泣き言を叫びます。
だけど、揺れてから上へ上へと向かう感覚が無くなった後は、徐々にバスが安定しだし、私はようやくほっと一息を吐きました。
「はぁぁぁ、何かまだ学園に着いてないのに、一気に疲れました…… 初めて空を飛ぶ乗り物に乗ったけど、本当に恐いですね……」
「そういえばアリスってジェットコースター苦手だったっけ?」
「はい……」
「それは確かにキツいかも。離陸の時、すっごく楽しみ」
「鬼ですか」
「姉です」
いや、今の黒い笑顔はどう見ても鬼でしょう!? しかも、楽しみって言ってましたし……
「ちなみに、アリス。窓の外を見ても恐らく見えないけど、このバス以外にも何台かちゃんと空を飛んでるのよ」
「私達が乗っているバス以外にですか?」
「そうそう♪ 透明化を施してるから分かりにくいけど、私達の後ろにも何台か付いてきてるしねー♪」
「へぇ…… 」
確かに言われてみれば、このバス一台分の生徒しか居ないわけがありませんから、普通に何台も用意してますよね…… しかし、言われなければ全く気が付きませんでした。
「その新鮮な感じ本当、懐かしいわぁ。私だって一緒に同乗した先輩に言われなければ全く分からなかったもの」
「先輩ですか?」
「えぇ♪ 頼りになる凄く素敵な先輩。だけど、もう卒業したからこの学園には居ないけどね……」
そう呟くお姉ちゃんは、今までに見たことが無いくらい悲しそうでした。きっと、私がお姉ちゃんに憧れているように、お姉ちゃんもその人の事を憧れていたのでしょうね……
私は先程不安を感じていた自分に、励ましてくれた姉と同じように手を重ねました。
「ふふっ、ありがとう、アリス」
「お互いさまです♪」
「でも、そろそろ着陸だから気を引き締めないと、さっきより恐いわよー」
「人が励ましてるのになんてことを、でもありがとうございます。オコトバニアマエマス」
私はパッとすぐに手を離し、意味は無いだろうけどギュッとシートベルトを掴んで、心の準備を整えます。
「間もなく、着陸に入ります。前回同様なので以下省略」
ちょっと待ってください、バスの運転手さんあまりにもそれは適当では?
彼女がアナウンスを言い終えると同時に、エレベーターがグングン降りていくような感じ、それとふわっとお尻が浮くようなGを感じて、私と他の生徒達は一緒に叫ぶのでした。