近くて遠い恋
聖と大和に告白された凛。
大和に告白されたことを、沙羅に打ち明けられずにいた。
凛、沙羅、聖、大和の関係はどうなっていくのかー!?
沙羅に、どんな顔をすればいいんだろうー。
今までなら、大和に告白されて、素直に喜べたはずなのに、今は、罪悪感でいっぱいな感じだ。
家に帰っても、その気持ちは抜けないままだった。
「凛ー!ごはんよ」
自分の部屋で、宿題をやった後、ぼんやりしていたら、お母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。
「は~い!」
あたしは、返事をすると、リビングへ下りていった。
「よぉ!」
リビングに行くと、聖がちゃっかりと、うちでご飯を食べながら、くつろいでいた。
「お母さん、どうして聖がいるの?」
「どうしてってー。聖君の家、誰も帰ってきてないんですって。だから、夕ご飯誘ったのよ。うちも、今日は、お父さん遅いし、聖君がいてくれると、賑やかだし……ついでに、大和君も誘っちゃおうかしら?」
お母さんは、大和を呼びに行こうと、玄関の方へ行こうとした。
「お、お母さん!大和だって忙しいだろうし……急には無理じゃないかなー」
何とか思いとどめるように、慌ててお母さんを引き止めた。
「それもそうねー。急だと悪いわね。また、今度にしましょうか」
お母さんは、納得するとキッチンへ戻って行った。
今は、大和と話す言葉がみつからないから、顔を合わせたくない。
「凛、どうしたんだよ?今日、1日。おかしいぞ」
食事が終わって、ソファーに座ると、聖はテレビのリモコンのスイッチを押しながら、あたしを見た。
聖、気づいてたんだー?
「せ……聖の気のせいだよ。そんなことないから」
告白されたなんて話したら、聖はどう思うだろう……?
「凛ー!ココア入れたから、取りに来て。お母さんは、聖君の家で帰ってきてるか、様子見てくるから」
キッチンの奥で、お母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。
「はーい」
ココアを取りに行くと、聖に出してあげた。
「サンキュー」
聖はカップを手に取ると、ココアを飲もうとした。
「アチッ!」
熱かったのか、聖は顔をしかめながら、口を押さえた。
「大丈夫!?」
あたしは、聖の方へ目をやった。
「やけどしたかも……」
「えっ!ちょっと、見せて」
慌てて、聖の顔を覗き込むと、聖の口元へ手をやろうとした時、聖は、あたしの腕を掴んだ。
「せ、聖ー?」
どうしたんだろう……?
あたしは、改めて聖の顔を見ると、聖は、真剣な瞳であたし見つめていた。
「凛、俺に隠し事はなしだからな」
「やだなぁ~。さっきも言ったけど、聖の気のせいだって言ったじゃない」
苦笑いしながら、耳たぶに手をやった。
昔から聖は、あたしが隠し事をしていると、すぐに見抜いてしまう。
「気づいてないかも知れないけど……」
聖の指先が、そっと、あたしの耳に触れる。
「……!!」
ドキンドキン……。
聖に触れられて、急に心臓の鼓動が騒がしくなる。
「凛が、嘘つくときって、耳たぶ触るよな~」
そう言うと聖は、あたしの耳たぶを軽く引っ張った。
「やだなぁ~。じ、自分の癖くらいわかってるよ」
あたしは、また、耳たぶに手をやりそうになって、慌てて抑えた。
「で?何があったんだよ」
「……」
これ以上、隠すことは難しそうだ……。
あたしは、仕方なく、大和に告白されたことを打ち明けた。
「何だよ、それ……」
打ち明けた後、聖は愕然とした。
「あはは……。本当、大和ってば何考えてるんだろうね」
あたしは、ココアを飲みながら、苦笑いをする。
「あいつらが別れたら、凛はどうするんだよ?」
「どうって……」
何て言っていいのかわからず、言葉に詰まってしまう。
「凛……」
困っているあたしを見て、聖は優しく、あたしを抱き締めた。
「ごめん……。凛のこと、困らせるつもりはなかったんだ……」
「聖……」
聖の優しさに、キューンとしてしまう。
「でも、大和の奴。今頃、凛のこと好きだなんて、気づくのが遅すぎ……。三浦さんのことだって、どうするつもりなんだか」
「……」
沙羅に事情を話して、あたしと付き合いたいってことは、別れるってことだよね……?
その時は、大和か聖か選ばないといけないー。
「凛……」
聖は、あたしの瞳を覗き込むと、ゆっくりと顔を近づけた。
キスされる……!
ドキンドキン……。
そう思ったら、あたしの心臓が、また波を打って速くなっていた。
聖の唇があたしの唇に触れる瞬間、あたしは無意識のうちに、顔を背けていた。
「ごめん、嫌だよな……」
聖が、寂しそうに謝ると、あたしから身体を離した。
「ち、違うのー。ただ、びっくりして……」
「いいよ。大和に告られたって聞いて、俺も少し焦りすぎたかな~。凛の気持ちが一番大事なのに」
ソファーから立ち上がると、聖はぐ~んと背伸びをした。
「おばさん帰ってこないけど、多分、お袋も帰ってるだろうから、俺は帰るかなー。凛、お休み」
「……おやすみ」
聖が出て行った後、パタンとソファーの上に倒れた。
今まで、幼なじみだと思っていた聖に、キスされそうになったなんて、信じられないー。
何分か経ってから、お母さんが帰ってきた。
「ごめんね、凛!遅くなって。聖君の家で帰って来てたから、聖君に伝えようと思ったら、つい、聖君のお母さんと話が弾んじゃって」
お母さんは、ウキウキした声で食べ終わった食器の洗いものを始めた。
「凛、どうかしたの?」
あたしの様子に気づいたのか、洗いものをする手を止めると、お母さんがキッチンから顔を出す。
「何でもないー。ちょっと、疲れただけ……」
「そぉー?なら、いいんだけど。じゃあ、先にお風呂に入ってらっしゃい」
「はーい」
お母さんに言われて、ソファーから起き上がると、お風呂に入ることにした。
明日、聖に逢ったらどんな顔をすればいいんだろう……。
顎まで、お風呂のお湯に浸かりながら溜め息をついた。
「凛、おはよー!」
翌朝、いつものように、家の前で聖が待っていてくれていた。
「お、おはよー」
あたしが、聖に挨拶した時だった。
「聖、凛、おはよー」
とっくに、学校へ行ったと思っていた大和が、家の中から出てきた。
「大和……。どうしたの?沙羅と一緒に学校に行くんじゃないのー?」
「沙羅には、断った。今日から、今まで通り凛達と学校へ行くからって」
「えっ……」
あたしは、一瞬、言葉に詰まってしまう。
「大和、お前ー」
聖も、何も言えずにただ、大和を見つめていた。
「凛、大和君。好きな子ができたから、あたしと別れたいって言うの……」
その日の昼休みのことだった。
沙羅に呼び出されて校舎裏へついて行くと、悲しそうな顔で話した。
「……」
沙羅に話したんだ……。
「好きな子って、やっぱり、凛のこと……?」
「……ま、まさかぁ~。大和とは、ただの幼なじみだし……」
大和、誰を好きなのかは、まだ言ってないみたいだー。
「でも……前にも言ったけど、大和君は、絶対、凛のこと幼なじみ以上に想ってるよー」
「……」
あたしは、何も言えず、目を閉じた。
「り、凛……。大和君のこと、取らないでー!!このまま、幼なじみでいて、ね!?」
沙羅は、あたしの肩を掴むと、声を荒立てた。
「さ、沙羅!落ち着いて」
何度か落ち着かせようとしたけど、沙羅は興奮した状態で、あたしの肩を激しく揺すった。
「沙羅!何、やってるんだよ」
大和が慌てて、駆けつけてきた。
「大和……」
「廊下の窓から、沙羅と凛が見えたから、慌てて来てみたけどー、何があったんだよ!?」
「だって、大和君が別れたいって言うから……、凛のことが原因だと思って、今、聞いていただけよ……」
あたしの肩から手を離すと、沙羅はうなだれた。
「だからって、凛を困らせるようなことは、やめろよ……」
「そんなに、凛のことが心配ないなんだね……やっぱり、好きな子って、凛なんでしょ?」
「……」
大和は、観念したのか静かに頷いて見せた。
「やっぱりね……ずっと、そうなんじゃないかなと思ってたんだー」
沙羅は、瞳に涙を浮かべながら、顔を背けた。
「さ……沙羅」
あたしは、心配になって、沙羅の身体に触れようとした時、沙羅は、パシッとあたしの手を払いのけると、逃げるように駆け出した。
「待って、沙羅ー!!」
急いで追いかけようとした時、大和に腕を掴まれて、引き寄せられた。
「凛、行くなよ。沙羅には、わかってもらえなかったけど、凛のこと好きな気持ちだけは、変わらないから」
大和にそう言われて、心臓の鼓動が速くなる。
ドキンドキン……。
「か……勝手すぎるよ。大和から沙羅に告白しておいて、今更……あたしのこと好きだなんてー」
でも、大和のこと言えないか……聖にも大和にも、ドキドキしてる自分がいるなんて、あたしも勝手だよねー。
あたしは、そっと、唇を噛みしめると俯いた。