近くて遠い恋
今まで、幼なじみだと思っていた聖に告白された凛。
大和のことを好きなことを知っていた聖は、「返事はいらない」と言ってくれたけど、何だか、気になっいたー。
「おはよー!凛」
一週間が経ったある日。
いつものように、学校へ行く用意をして、外へ出ると、家の前で大和が待っていた。
「おはよう……。珍しいね、いつも沙羅と登校なのにー」
付き合い始めてから、毎日かかさず、沙羅と一緒にいる大和が、今朝は家の前で、待っているなんて珍しい。
「今日、沙羅は日直なんだ。だから、先に学校に行ってる」
「沙羅と上手くいってるんだね……」
前は、沙羅のことで相談にのっていたのに、最近は、大和から相談にくることはなくなった。
「上手くいってるって言うか……俺……」
「ーー?」
どうしたんだろう?
そういえば、沙羅とデートしてから、少し、大和の様子が変なんだよねー?
沙羅に子犬をあげた時の大和は、いつもと変わらなかった。
でも、次の日からの大和は、沙羅といても、何だかぼんやりしているように見えて、気になってはいた。
「凛、俺さ……」
大和が何か言おうとした時、
「悪い!遅くなって」
聖が、慌てて家から出てくると、髪の寝癖を気にしながら、こっちに早足で歩いてきた。
「おはよー、聖」
「凛、おはよー。あれ?……大和がいるなんて、珍しい」
「沙羅は、日直なんだって」
あたしは、歩きながら聖に言う。
「ふーん。でも、久し振りだな、3人で学校へ行くの」
「本当だねー」
何だか、前の頃に戻ったみたいで、ホッとする。
「三浦さんに大和、捕られて凛の奴、寂しがってたんだぜ」
「ちょっ、ちょっと聖ー!」
大和のこと、まだ吹っ切れてないのに、あたしが、大和のこと好きなのバレたらどうするのよー!?
「そうだったんだ……?ごめんなー。これから、なるべく朝、一緒に行くようにするから」
大和は優しく、あたしの頭にポンと手をやった。
そんなこと言われたら、きゅーんとしてしまう。
「い、いいよ。無理しないで……。沙羅が寂しがるし」
あたしは、無理に作り笑いをした。
隣にいた聖は何も言わず、あたしを切なそうに見ていたなんて、知るよしもなかった。
「今日の体育は、男女合同でバスケットを行います」
6時間目の体育の時間ー。
体育館で、先生がみんなに呼びかけた。
あたしと沙羅は、後半で試合をやることになったので、後半クラスの子達と、体育館の隅に座った。
「凛、大和君のことなんだけどー」
沙羅は、男子のバスケの試合を眺めながら、少しためらった顔をさせた。
「大和がどうかしたのー?」
「何だか、最近、あたしといても上の空って言うか……」
「……」
やっぱり、沙羅も大和の様子に気づいてたのかー。
「大和君から、何か聞いてない?」
沙羅に聞かれて、あたしは、静かに首を振った時だった。
「危ない!!」
クラスの子達が、あたし達の方に向かって、大声で叫んだ。
バスケットボールが、あたしと沙羅めがけて飛んできた。
沙羅は上手く逃げられたけど、あたしは、逃げようとして、足を挫いてしまい、上手く逃げられず、ボールが頭にあたってしまった。
「凛ー!?」
沙羅が、心配した顔で、あたしの身体に触れようとした。
「凛、大丈夫か!?」
聖と大和が、慌てた顔で駆け寄ってきた。
「あ……頭に軽くボールがあたっただけだから、大丈夫だから……」
あたしは、ゆっくりと立とうとした時、挫いた方の足に、ツキンと痛みが走った。
「……っ」
もの凄い痛みに、顔をしかめてしまった。
すると、大和が、あたしの身体をヒョイッと抱き上げた。
「ちょ、ちょっと、大和!大丈夫だから、下ろして」
あたしは、慌てた顔で、沙羅を気にしながら言った。
「足、怪我しているのに、何が大丈夫なんだよ?いいから、保健室行くぞ!」
大和は、保健室へ向かって歩き出した。
背後では、
「きゃ~!!大和君にお姫様抱っこされてたよ、凛!?」
「2人って、付き合ってるの!?」
「えっ、でも沙羅と付き合ってるんじゃなかった?」
「そうだよねー。な~んだ、幼なじみだから心配なだけかー」
色々と噂しているのが、聞こえてくる。
まずいよ……。沙羅が、いるのに……。
あたしは、血の気が引いた気分になる。
保健室に着くと、静かにあたしを下ろした。
「先生ー?」
大和は、キョロキョロ保健室の中を見たけど、留守みたいだ。
「仕方ないな~」
溜め息を着くと、あたしの足を見てみた。
「あーあ。こんなに腫れてる」
挫いた足を見ると、さっきは、腫れていなかったのに、プクッと赤く腫れていた。
大和は棚から、湿布と包帯を取り出すと、腫れてい場所に湿布と包帯を巻いてくれた。
「ありがとう、大和……」
「はぁー。良かった……足の捻挫だけですんでー」
大和は、安心した顔であたしを見た。
「や……やだなぁー。大和ってば、大げさすぎるんだから……」
こんな優しくされたら、勘違いしちゃうよ……。
「凛、大丈夫か!?」
キュッと唇を噛んだ時、聖が心配した顔で、保健室に入ってきた。
「もぅー!聖までそんなに慌てて」
「だって、あんな光景を見たら心配になるってー。」
「……」
「あと、先生がこのまま帰るようにってー。だから、凛の着替えと鞄を持ってきたから」
制服と鞄を、あたしの前に置いた。
「ありがとう」
「凛、送ってくよ」
急に、大和がそんなことを言い出した。
「えっ、駄目だよ。送ってもらうわけにはいかないよ……」
大和、何考えているの?これ以上、一緒にいたら沙羅が誤解しちゃう……。
「大和!教室で、三浦さんが待っているんだぞ!凛のこと、幼なじみでしか思ってななら、中途半端な優しさはやめろよー!?」
聖が、強い口調で、大和の胸倉を掴んだ。
「や、やめて!聖」
あたしは、慌てて聖をとめる。
「行こう、凛!」
聖は胸倉を掴むのをやめると、あたしのことを支えながら保健室を出た。
「ごめんー。少し言い過ぎたかな……でも、大和の奴、何考えてるんだろうな?」
言った後で、聖は後悔しているみたいだ。
「きっと、大和が優しくしてくれるのは、幼なじみもあるけど、あたしのこと弟妹みたいに思っているから、心配なだけなんだよ……」
あたしは、俯き加減で顔を曇らせた。
きっと、そうだよ……。だから、愛情とは関係ない。
あたしは、自分にそう言い聞かせた。
「俺なら、凛にそんな顔させないのになー」
「ありがとう……あーあ。聖のこと好きになれば、良かったのにな~」
あたしは、苦笑いしながら聖を見た。
「……じゃあ、今からでもいいから、幼なじみじゃなく、俺のことも見てほしい」
急に聖が真剣な顔で、あたしを見た。
「えっ……?」
突然の聖の言葉に、あたしは驚いた。
「俺……本当は、子供の頃から、ずっと凛のことが好きだったんだ……」
「……!!」
あたしって、本当、鈍感過ぎる。
ずっと、聖が想ってくれていたのに、全然、気がつかいなんて、あたしって本当、鈍感もいいとこだよね……。
そんなことも知らずに、大和の話ばかりして、聖はどんな気持ちで聞いていたんだろう……。
「はぁ~。凛が、大和のこと好きなの知ってたから、告らないようにしてたのになー」
聖は、頭に手をやると、深い溜め息をつく。
「聖……」
あたしは、言葉に詰まって、何も言えなかった。
翌朝ー。
学校へ行くと、沙羅に話があると、屋上へ呼び出された。
「沙羅……。話って何かな?」
沙羅の顔を見ればわかる。多分、大和のことだよね……?
「大和君のことなんだけどー。大和君が凛にしていることって、幼なじみ以上に思えるの」
沙羅は、少し寂しそうな顔をさせた。
「幼なじみ以上って……」
「だからー。彼女にしてあげてるみたいってことだよ……」
「やだなぁー。沙羅の考え過ぎだよ……。大和は、幼なじみとして心配だから、いつも助けてくれているだけじゃないかなー?」
あたしは、苦笑いをする。
「そうなのかな……?」
沙羅は、不安そうに呟く。
「そうだよ……ほら、予鈴が鳴るから、教室に戻ろう」
あたしは、沙羅を促して教室へ戻った。
大和があたしをー?まさかね……。
「凛!消しゴム持ってないか?」
教室へ戻ると、聖が慌てた顔で、あたしの所にきた。
「忘れたの……?」
「そうなんだ。だから、凛なら余分に持っているんじゃないかと思ってさー」
期待の眼差しであたしを見た。
「う……うん。2個持ってるから貸してあげる」
「サンキュー!」
聖は、笑顔でお礼を言う。
昨日、聖に告白されて、どんな顔をすればいいのかと思っていたのに、今朝も、いつも通り、家の前で待っていてくれていて、聖は、いつもと変わらなかった。
何だか、昨日、聖に告白されたなんて嘘みたいー。
あたしは、消しゴムを筆箱から出すと、貸してあげた。
「サンキュー」
聖は、消しゴムを受け取ると、自分の席に戻ろうとした。
「せ……聖。昨日のことなんだけどー」
あたしは、告白のことが気になって、聖を呼び止めた。
「昨日の?」
「こ……告白のこと」
「あのことなら、返事はいらないからー。ただ、俺の気持ちだけわかっててほしかっただけだし」
「ちょっと、何?谷本君、凛に告白したの?」
あたし達の会話を聞いていたのか、沙羅が口を挟んできた。
「うん。でも、振られたけどね」
「そうなんだ……」
沙羅は、少し顔を曇らせた。
「ち、違うから……大和のこと好きだから、断ったわけじゃないからー」
あたしは、慌てて誤解を解いた。
本当はまだ、大和に対する気持ちが、心の片隅に残っているけど、とりあえず、今は穏便に済ませておこう……。
「良かった~。凛も大和君のことが好きなのかと思った」
沙羅は、ホッと胸をなで下ろした。
「みんなで、何の話してるの?」
噂をすれば、大和があたし達のこと会話に、入ってきた。
「大和君ー。聞いて!谷本君が凛に告白したんだって」
「ちょ、ちょっと。沙羅ー!」
あたしは、慌てて沙羅を止めた。
「聖……。凛のこと好きだったんだ?」
驚いた顔で、大和は聖を見た。
「子供の頃からな……って、大和には関係ないことだろ?」
「あ、ああ……」
聖に言われて、大和が動揺している。
大和、どうしたんだろうー?
「凛、助かったよ」
1日の授業が終わると、聖は消しゴムを返しにきた。
「どういたしまして」
あたしは、消しゴムを受け取ると、帰りの用意をした。
「凛、一緒に帰らないか?」
「うん……」
あたしは、頷くと、聖と一緒に昇降口へ向かった。
「とうとう、雨が降り出したね……」
朝は、どんよりとしていた空も、昇降口を出る頃には、雨に変わっていた。
「いけねー!傘、忘れた」
空を見上げながら、聖は肩をがっくりと落とした。
「しょうがないな~。一緒に入って行こう」
あたしは、傘を広げると、聖に傘をさしてあげた。
学校から出ると、道も狭い場所が何ヶ所かあるので、聖の肩に時々、自分の肩が触れる。
前は、2人で傘をさすことなんて、当たり前だったのに、こうして、2人きりでいると、聖に告白されたことを想い出して、何だか意識してしまう。
あたしが、ぼーとしながら歩いていると、急に聖に肩を引き寄せらた。
「……!!」
ドキンドキン……。
心臓の鼓動が音をたてて波打った時、スレスレで、あたし達の横を車が通り過ぎて行った。
「……」
何だー。車が来たから、助けてくれただけか……。
「今の車ー。結構、スピードが出てたな」
聖は、少しつよめの口調で言った。
「あ……ありがとう、聖」
聖に引き寄せられて、余計に、意識してしまう自分がいる。
「本当ー。この道、危ないから気をつけないとなー」
聖は慌てて、あたしの肩から手を離した。
「そ、そうだね……」
あたしは、ドキドキした心臓の鼓動を押さえながら言った。
「助かったよ。また、明日な」
聖は家の前に到着すると、玄関に入ろうとして、ふと、こっちを振り向いた。
「凛……返事はいらないって言ったけど、やっぱり、俺と付き合ってくれないか?考えといて」
そう言うと、聖は家の中へ入ってしまった。
「……」
聖は、あたしの気持ちを知ってて言ってくれているのに、何も応えられないなんて、聖に、申し訳ない気持ちでいっぱいだったー。
「起きろ、凛!」
翌朝ー。
目を覚ますと、聖が目の前に立っていた。
あたしは、寝ぼけまなこで、目を擦りながら起き上がった。
昨夜は、何だか寝付けず、結局、朝方にとろっと眠っただけ。
「どうして、聖がここにいるの……?」
「ごめん。凛が遅いから、呼びに来たら、おばさんに、起こしてきてくれって頼まれたものだからー」
時計を見ると、もう、7時40分を過ぎていた。
学校まで、徒歩で10分位だけど、さすがにまずい。
「あ、あたし。今日、日直だったんだ!」
聖に外で待っててもらって、急いで支度をした。
「行ってきまーす!」
あたしは、支度が終わると、勢いよく玄関のドアを開けた。
「お待たせ!聖」
あたしも聖も、慌てて学校へ向かった。
「凛、遅かったね」
学校へ行くと、沙羅が珍しいと言う顔で、あたしを見た。
「寝坊しちゃった~。ちょっと、職員室に行ってくるね」
急いで、職員室に日誌を取りに行った。
「失礼しました~」
先生から日誌を受け取ると、廊下で大和が待っていた。
「大和……。どうしたの?」
大和がいるとは思わなかったので、あたしは驚いた顔をさせた。
「凛ー。ちょっと、話があるんだ」
「……?」
大和に言われて、誰もいない屋上へ行くと、大和は真顔で、あたしを見た。
「ど、どうしたの?」
あたしは、大和に見つめられて、無意識に目を逸らしてしまった。
「凛ー。聖に告られて、返事したのかー?」
「まだだけど……って言うか、大和には関係ないでしょ?」」
どうして、そんなこと聞くの?
「聖と付き合うなよ……」
「何?急にー。わかった!幼なじみで、3人でいられなくなるから、寂しいんでしょ~?」
「……」
「今頃、寂しいとか言わないでよね!先に彼女を作ったのは、大和なんだから!」
わざと明るく言ったけど、大和はためらいながら、あたしを見た。
「この前、沙羅と映画館に行ってわかったんだ……。凛と映画を観るほうが何倍も楽しいってー。それに、凛が男達に絡まれていたときも、無意識のうちに助けに行ってた……」
「……」
「……いつも、一緒にいすぎてわからないなんてー。今頃、気づくなんてバカだよな……」
「大和……?」
何を言っているのかわからず、ただ大和を見つめることしかできないでいた。
「俺……凛のことが好きだ!」
大和は、真剣な瞳で、告白した。
「……!!……でも、大和は沙羅のことが好きだから、付き合い始めたんだよね……?」
あたしは、戸惑った顔で大和に言った。
「沙羅は、憧れみたいなものだったんだ……。」
「ど……どうして?今頃、そんなこと言うの……?大和から告白したのにー」
困惑した顔で、大和を見た。
「沙羅には事情を話して、凛が良ければ付き合いたい」
「勝手なこと……言わないでよ」
居たたまれなくなって、思わずその場から、立ち去ろうとした。
「凛!返事、待ってるから」
大和の声が、いつまでも耳に残っていたー。