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近くて遠い恋  作者: 夢遥
2/7

近くて遠い恋

目の前で、大和が沙羅に告白を目撃してしまって、ショックをうけた凛。


大和のことを忘れようとしたけど……!?





 あたしが、部屋に戻ったのは、涙が落ち着いてからだった。


「凛、何処に行ってたの?」


 先に、沙羅の方が部屋に戻っていた。


「え?あ、ちょっと、ジュースを買いにね……」


 何だか、沙羅の顔がまともに見られない。



「ねえ、凛。ちょっと、話があるんだけど……」


「う、うん……」



 話って、大和のことだよね……。



 あたしと沙羅は、人気のない廊下へ出ると、沙羅は恥ずかしそうな顔で、口を開いた。


「あ、あのね……。渡部君のことなんだけど」


「も、もしかして大和が飼っている愛犬に、子犬が生まれたこと聞いたの?」



 沙羅の話を聞きたくなくて、あたしはわざと話をずらした。


「大和ってば、子犬の里親を探してて、沙羅が犬好きなら、貰ってくれないかなんて言ったんでしょ!?でも、別に無理して貰わなくてもいいからね。あたしから、大和に言っておいてあげるからー」



 つい、沙羅の話を聞きたくなくて、話を逸らしちゃったけど、喋りすぎたかなー。


「凛、子犬のことじゃないのー。実はあたし、渡部君と付き合うことにしたんだ……」


「……へ、へえー。い、いつの間にそんなことになったのよー!」


 あたしは、わざと驚いたふりをして見せた。


「実は、さっき、渡部君から告白されたの」

 沙羅は、少し顔を赤らめた。


「そ……そうなんだ……?」


 あたしは、それ以上、言葉が出てこなかった。



「急に、ごめん。凛は、渡部君の幼なじみだし、言っておきたかったんだー」


「……」



 これから、2人をどうやって見たら、いいんだろうー?



 喉の奥で、熱い物が込みあがってきた。





 宿泊学習も無事に終わり、クラスに落ち着きが取り戻ってきた。


「凛ー。帰りにドーナツ食べてこうぜ」


 大和達のことで、落ち込むあたしに気を使って、甘いものが苦手な聖が、こうして毎日のように誘ってくれる。



「う、うん。でも、聖ー。無理しなくてもいいんだよ?甘いもの苦手なのにー」


「無理してないから」


 聖は、笑ってそう言った。




 毎朝、日課のように3人で学校へ行っていたのに、宿泊が終わってから、大和は沙羅と行くようにって、一緒に行かない日が多くなった。



 昇降口まで行くと、丁度、大和と沙羅も帰るところだった。


 あたしは、2人の近くに行けず、その場に立ち尽くしてしまった。


「行こう、凛」


 聖は、あたしの腕を掴むと、靴箱の方へ歩いていった。


「聖達も帰りか?」


 大和は、あたし達に気がついて、靴を履いている手が止まる。


「あ、あたし達、これからマック寄って行くんだけど、凛と谷本君も一緒に行かない?」


 何故か、沙羅はあたし達に気を使っているみたいだ。


「……」


 あたしは、大和をチラッと見た。



「そうだよな、みんなと食べた方が美味しいし、一緒に行かないか?」


 大和は、明るなく言ってくれたけど、今は2人を見るのが辛い。



「いいや、俺達は。大和達だけで行ってこいよ。行こう、凛」


 聖は、あたしを促すと昇降口を出て行った。


「せ、聖。待って!じゃあね、大和、沙羅ー」


 あたしは、慌てて、聖の後を追いかけた。



「三浦さん。いつも、俺達3人で一緒にいたの知ってたし。急に、自分が大和のこと独占したから、たまには俺達と一緒にいるように誘ってくれたのかなー」


 聖は、苦笑いする。


「……」



 確かに、いつも3人でいることが、多かったし、急に、大和が一緒にいなくなって、心にぽっかり、大きな穴があいたみたいだ。





 お店に着くと、早速、ドーナツを注文する。


 空いている席を見つけて、ホッと一息つく。


「でも、聖が断ってくれてよかった……。まだ、心の整理がついてないし、どうしようかと思っちゃった……」



「凛……」


 聖は、何か言いたそうだったけど、無言のまま、注文した飲み物のストローを口にくわえた。




 聖がいてくれなかったら、今頃、あたしー、独りで泣いていたかも知れないー。



「聖、このドーナツあまり甘くないから、あげる」


 ドーナツを聖のトレイの上にのせてあげた。



「サンキュー」


 聖は、笑ってドーナツに噛みついた。



 学校の帰り道、大和も一緒にいた風景が、こんなふうに、いないことが、当たり前のようになっていくんだ……?



 あたしの胸が、ギューッと締めつけられた。





 それから、1ヶ月が過ぎようとしていた時のこと。


「もー。大和君ってば、信じられない!」



 いつの間にか、沙羅が大和を呼ぶ呼び方が、『渡部君』から『大和君』に変わっていた。



「ど……どうしたの?沙羅」


「凛、聞いてよ~。大和君が、初めてデートに誘ってくれたのはいいんだけど、ホラー映画なんだよ!」


 沙羅が、ブツブツ文句を言った。


「……」



 あたしは、ホラー映画は好きだけど、沙羅は怖いのが苦手だからなー。



「それで、凛に相談にのってもらいたいんだけどー。大和君って、恋愛映画嫌いなのかな?どんな映画が好きなの?」


「大和……、恋愛映画は嫌いではないけど、すぐに寝ちゃうからなー。沙羅が、ホラー映画が駄目なら、コメディとかがいいかもー」



 大和のことは、忘れようとしてるのに、どうして、あたし……沙羅の相談にのっているんだろうー?



「わかった。ありがとう!」


 沙羅は、嬉しそうに自分の席に戻って行った。




 その日の放課後。


 大和も、沙羅との映画のことで、あたしに相談しにきた。


「凛ー!沙羅がどんな映画が好きなのか、教えてくれないかな?」



 ツキン……!


 沙羅……。

 大和ー。沙羅のこと呼び捨てで名前呼ぶようになったんだ……。



 また、あたしの胸がギューッと締め付けられる。



「凛ー?」


 大和が、あたしの顔を覗き込む。


「あ、ごめん……」



 あたしは、沙羅に映画のことで相談されたことを大和に話した。


「何だ。もう、凛の耳にもはいったのかー」


「でも、付き合って1ヶ月近くなるのに、まだデートしたことないなんて、沙羅のことほったらかしすぎじゃない?」


「なかなか、都合の良い日が合わなかったんだー。でも、やっとデートができると思ったら、ホラーは嫌だって言うしさ。映画のことで、沙羅と喧嘩になっちゃうし、参ったよ」


 大和は、大きな溜め息をついた。


「そりゃあ、そうだよー。沙羅、怖いの苦手だもの」


「俺も凛もホラー映画好きだから、沙羅も好きなのかと思って、誘ったのは逆効果だったわけかぁ~」


「大和ー。彼女のこと、わからなさすぎ」




 でも、あたしの好きな映画を、沙羅と観に行こうとしたんだ?



 何だか、嬉しいような複雑な気分だけど、沙羅はいい気持ちはしないよね……。



「沙羅に謝るしかないかー」


「そのほうがいいよ。沙羅の機嫌を損ねると、大変だから」


「お詫びに子犬をあげるとするかー」


 大和は、思いついたように、手のひらをポンとと叩いた。


「沙羅、大和から、子犬貰うことにしたんだ……?」


「丁度、犬を飼いたいと、思っていたところだったんだって」


「そ、そうなんだ……?」


「凛、いつも悪いな。俺の相談にのってくれて」


「う……ううん。幼なじみなんだから、いつでも言って……」

 あたしは、無理に笑顔を作った。



 あたしがどんなに大和の相談にのってあげても、大和は沙羅の彼氏ー。

あたしは、幼なじみでしかなんだよね……。






 日曜日ー。


 大和と沙羅のデートの日。


 あたしは、朝からそわそわしていた。



 大和の話では、映画館の前で10時に待ち合わせって言っていたはず。


 今頃かな?大和が出かけるの?


 何だか、2人のことが気になるな……。



 あたしは、深めの帽子とメガネとマスクをして、家を出た。


「行ってきまーす!」


 丁度、大和が家から出てきたたところだった。



 あたしは、大和に気づかれないように、そっと後をついて行こうとした。


「凛ー?」


 急に後ろから、声をかけられて、ドキッとする。


 振り向くと、聖が驚いた顔で立っていた。


「どうしたんだよ。そんな格好して?」


「あ、えーと。」


 大和のデートの後をつけようとしていたなんて、何だか恥ずかしくて言えない。



「もしかして、大和の後をつけるのか?」


 聖は、遠ざかって行く大和を見つめた。


「これじゃ、ストーカーみたいだよね……」



 あたし、何やってるんだろう……。



 急に聖は、あたしがかぶっていた帽子とメガネを外した。


「この格好じゃ、不審者に思われるぜ」


「そ、そうだよね……」


 あたしは、顔を曇らせた。


「行こう、凛!」


 聖は、あたしの腕を掴むと、大和の後をつけていった。


「せ、聖!?」


 あたしは、慌てた顔で聖の後をついて行った。


「2人で尾行すれば、バレても何とか、ごまかせるだろ?」


「聖……」


 協力してくれる聖に、何だかジーンとしてしまう。




 あたしと聖は、距離をとって大和に気づかれないようについて行くと、映画館の前で、緊張した顔で沙羅が待っていた。



 大和も緊張した顔で、沙羅と一言二言、話すと一緒に映画館の中に入っていった。



「凛、大和達が出てくるまで、どうする?」


 聖は、腕時計をチラッと見る。


「うーん。あ!あそこのお店、最近できたんだよね?1回、行ってみたかったんだ~」



 映画館の向かい側にある、大きなテラスのオシャレなカフェを指差した。



 聖はすぐに賛成してくれて、カフェで時間をつぶすことにした。



「今日は、聖に付き合ってもらったから、お礼におごらせて」


 窓際の席へ座ると、メニューを見ながら聖に言った。


「サンキュー。でも、今日は俺のおごりな?」


「え、いいよー」


 あたしは、首を左右に振った。


「でも、凛。お金持ってきてないだろ?」


「えっ……」


 聖に言われて、手元を見た。


 いけない!大和の後を尾行するのに、格好が気になって、お財布を持ってくるの忘れたー!


「凛は、昔からおっちょこちょいだなぁー」


 聖は思わず、苦笑いをする。


「ごめん……」


 あたしは、恥ずかしそうに俯いた。





 しばらく、カフェで時間をつぶすと席を立って、聖はレジへ向かった。


「凛、先に外で待ってて」


「うん」


 聖に言われて、あたしは店の外へ出た。



 映画が終わって大和達、もうすぐ出てくる頃かな……。



 ぼんやりと待っていると、大学生だろうか、2、3人の男の子があたしに声をかけてきた。


「ねえねえ、君可愛いね~!俺達と遊ばないー?」


「あ、あのー。連れがいるので、結構です!」


 あたしは、きっぱりと断ると場所を移動しようとした。


「いいじゃん!少しくらい。ね!?」


 独りの男の子が、あたしの腕を掴んだ。


「は、離してください!!」


 あたしは、逃げようとしたけど、腕を掴んだ手の力が強くてびくともしない。



 怖い!!

どうしよう!!このままだと、連れて行かれちゃうー!!


 聖、早く来てー!!



 絶体絶命の危機に陥った時だった。


 誰かに、肩をグイッと掴まれた。


「キャッ!!」


 あたしは、思わず悲鳴をあげる。




「凛、落ち着けって!俺だよ」


 あたしは、パッと後ろを振り向くと、肩を掴んだ相手は大和だった。



「チッ、何だよ!彼氏がいたのか」


 男の子達は、ボソッと吐き捨てると、あたしの前から立ち去っていった。


「大丈夫か?凛」


 大和は、ホッとした顔をさせた。



「凛!悲鳴が聞こえたけど、何かあったのか!?」


 聖が慌てて、走ってきた。


「聖ー。ちょっと、男の子達に絡まれて……」


 あたしは、恐怖で身震いをした。



「ごめん、一緒にいたのに……」



 責任を感じたのか、聖はしょんぼりした顔をさせた。



「あ、ほら!大和に助けてもらったから、無事だったし」


 あたしは、聖を元気づけようと、明るく振る舞った。


「助かったよ、大和ー。でも、彼女を置き去りにしてくるなよ」


 映画館の方へ目をやると、沙羅の姿はなかった。


 何処へ行ったんだろう……。


 あたしは、辺りをキョロキョロ見回すと、沙羅がとぼとぼと、こっちへ歩いて来るのが見えた。


「ほら、行ってやれよー」


 聖は、大和の背中を押した。


「ああ……」


 大和は渋々、沙羅の方へ戻っていった。


「大和の奴、三浦さんとデート中なのに、本当仕方ないな~。……て、俺も凛のこと独りで待たせたのも、悪いんだけどさ」


「……」



 あたしを助けに来てくれた大和、凄く焦った顔をしてた。


 今まで、あんな顔見たことないー。



「凛ー」



 急に、聖があたしの手をつないだ。


「聖?」


 あたしは、急に聖に手を握られてドキッとする。


「子供の頃は、よく、こうやって、凛と大和と手をつないだよな~」



 そういえば、そんな事もあったなー。


 あの時は、公園で3人で遊んでいたら、大切にしていたオモチャをなくして、探したけど見つからなくて、あたしが泣いていたら、聖と大和が「大丈夫だよ」って、2人があたしの手を優しくつないでくれたんだよね……。


 でも、次の日に、2人がオモチャを探してきてくれたのを覚えている。






 家に到着すると、聖と別れて、自分の家に入ろうとした時、


「可愛い~!」


 大和の家から沙羅の声が、聞こえてきた。


 あたしが、大和の家を覗いてみると、庭で大和と沙羅が、子犬を抱きながら2人で話して。


「あ、凛!」


 沙羅は、あたし達に気がついて振り向いた。


「今、どの子犬を貰うか決めていたんだけど、どれも可愛くて~。凛は、どれがいいと思う?」



 さっき、とぼとぼと歩いていた沙羅とは逆に、今度はテンションが上がっていた。



 確か、6匹くらい赤ちゃんがいたはずなのに、今いるのは茶色と白が混ざっている子犬と黒と白が混ざっている子犬の2匹しかいなかった。


「大和、あとの4匹は?」


「欲しいって言う人がいて、お袋が知り合いにあげちゃったからなー」



 家でも、お母さんが欲しいとか言っていたけど、お父さんが動物アレルギーで結局、やむ終えず断念することしかできなかった。


「大和君!あたし、この子にする」


 沙羅は、茶色と白が混ざった子犬を抱っこすると、頭を撫でた。


「わかった。あ、ゲージがあったと思うから、持ってくるな」


 大和は、急いで家の中にゲージを取りに行った。



「良かった。いつもの、大和君だー。さっきは、血相変えて凛のこと助けに行ったから、戻ってこないのかと思って、心配しちゃったけど、あたしの勘違いだったみたい」


 沙羅はホッと安心したように、溜め息混じりで言った。


「……」


 そんなに、いつもの大和と違ってたのー?


 あたしの胸がきゅーんとする。


「あ、そっか~。幼なじみとして心配だったからかも」


 沙羅は、ピンときたのかポンと手を叩いた。


 幼なじみだから……。


 それを聞くと、胸に重くのしかかってくる。


「お待たせー」


 大和が、ゲージを持って家の中から出てきた。



「大和君、子犬の名前何がいいかな?」


 ゲージの中に子犬を入れながら、大和を見る。


「今日から、飼い主は、沙羅なんだから自分で決めるのが一番だと思うけど」


「もともとは、大和君の子犬なんだし、一緒に考えようよ」


「しょうがないなー」


 大和はそう言うと、沙羅と肩を並べて縁側に座った。


「あ……あたし、そろそろ帰ろうかな」


 あたしは、何だか気まずくなって、2人に背中を向けると、庭を出て行こうとした。


「凛ちゃん!ちょっと待って。ドーナツ作ったから、持ってて」


 大和のお母さんが、ドーナツを持って家から出てきた。


「ありがとうございます!」


 あたしは、ドーナツを受け取る。


「凛~。あんまり食べると、ぶたになるから気をつけろよ」


 大和は、笑ってちゃかした。


「失礼ね!そんなに、食べないわよ」


 あたしは頬を膨らませると、ムスッとさせた。


「こら!大和、凛ちゃんに何てこと言うの」


「いてっ!」


 おばさんに、ぽかっと頭を殴られて、大和は頭を押さえる。


「大和が、デリカシーのないこと言うから、おばさんに怒られるんだよ~」



 久し振りだなー。今までみたいに、こんな風に話しているなんて……。



「はいはい、わかりました。ごめんな、凛」


 素直に謝るところが、大和らしい。


「大和に謝ってもらったし、あたしは帰ろうかな……。お邪魔しました」


「また来てね。凛ちゃん」


 おばさんが、にこやかに言ってくれた。



 庭を出る時、あたしはチラッと大和を見る。


 さっきまで、あたしだけを見て話してくれたのに、今は沙羅だけを見て楽しそうに子犬の名前を決めていた。



 チクン……!!


 あたしの胸に、また痛みが走った。

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