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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第五章 新婚生活と魔法学院
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#97.侍女のお茶会

 魔法学院の入学式から三日。勇気の出せなかった私はまだクラウド様と問い詰める事が出来ていません。言い訳するなら、訊く事自体は出来るのですが自分の過去の経験を問い詰められそうで怖いのです。そうなると言い訳みたいな話をするしかなくなりますからね。他ならぬ「前世の記憶」という嘘としか思えないような話を。


 午後三時頃授業から寮に戻り部屋着に着替えたクラウド様は、ソファーにどっかりと腰を下ろすと私達侍女にお茶会があると言い始めました。いえ、お茶会と言っても、


「侍女同士のお茶会ですか?」


 なんですかそれは?


「ああ。明日昼食後だ。良くは知らんが、この上位貴族寮で生活している侍女同士は伝統的に交流する習慣があるそうだ。エリアスがそう言った」

「エリアス様? グレイ様からではありませんの?」


 そうですねアビーズ様。普通に考えれば院生会の会長グレイ・ベイト様から通達が来る筈です。公爵令息とは言えエリアス様から話が来るのは不自然です。


「我々と同世代の侍女同士限定らしいからな。グレイには居ないのではないか? 今年に入って既に一度開催していて、オルトランやカイザールの侍女はもう出席したらしい」


 ん?


「ヴァネッサ様の侍女は参加なさっていないのですか?」

「ヴァネッサは勿論ハンナやシルヴィアンナの侍女は参加しない。男子寮限定らしい」


 男子寮の同世代の侍女のみ……随分と限定的なお茶会ですね。


「妙に条件の多いお茶会ですね。それでどうなさるのですか?」

「君達三人で参加する理由はないだろうな……」


 侍女が三人も居る事の方が珍しいでしょうし、同世代ならもっと少ないでしょうしね。


「不参加というのもあれだし、アンリーヌ行けるか?」

「私ですか!? そういうのはクリスティアーナ様の方が……お茶会にも慣れてらっしゃるでしょうし、私は初対面の方とはあまり……」


 いえいえアンリーヌ様。侍女としてクラウド様のお茶会に付いて行くことは度々ありましたが、私も自分でお茶会に出た経験は殆どありませんよ?


「私は論外ですしアンリーヌ様も社交的とは言い難い方です。クリスティアーナ様が適任ではないでしょうか?」


 論外ではないと思いますよリーレイヌ様。


「女性同士であれば何がある訳でもありません。クリスさんにも息抜きは必要だと思いますわ殿下」


 まあ襲われたりはしないでしょうね。


「クリス……どうだ? 行きたいか?」

「行きたいとは言いませんが、嫌ではありません」

「……まあ良い。最初はアブセルを同行させて様子を見る」


 近衛騎士を同行って……女の子同士ですよ? 相変わらず過保護な方ですね。






 翌日。

 昼食を終えた私はアブセル様と一緒に上位貴族男子寮の中心部に在る遊戯棟に向かいました。遊戯棟は、学院の休日に上位貴族令息達が集まって文字通り遊戯に勤しむ場所です。そこに在るサロンで今日のお茶会が開かれるわけですが……。


「近衛騎士殿。今男は入れませんぞ」


 遊戯棟の扉の前に紺の軍服を着た中年の王国騎士様が立っていてアブセル様が通せんぼされました。

 何故でしょう? 騎士がここをガードしていると言うのは凄く不思議なことです。いえ、上位貴族寮自体を王国騎士様達が警固していますから、寮内に王国騎士様が居る事は珍しくないのですが、此処に居るのは侍女達の筈ですから……主が頼めば侍女の警備はしてくれるでしょうが、問題は「何故頼んだか」です。


「何故だ?」

「女性のみの集いですから男性は入れません」


 男性を入れない為にガードを置いているのですか? ……侍女ですよ? 中に居る筈なのは。


「中を覗かせてくれないか? クラウド様はこの侍女を大事にしているのだ。危険に晒すわけにはいかない」

「それは皆様同じです。此処に居るのは皆上位貴族令息様方が大事にされている方々。男性をお入れする訳には行きません」


 この騎士様が嘘を吐いているようには見えませんが……大事にされている方々?


「分かりました。私だけ入ります」

「クリス!」


 そんなに警戒する必要はないと思いますよアブセル様。


「アブセル様がずっと傍に居られるわけではありません。それに中に居るのは女性だけなのですよね?」

「はい。間違いなく」


 迷いなく返事をした騎士様は顔をクシャッとさせて笑いました。やはり嘘を吐いているようには見えません。


「では入れて下さい」

「……ここで待っているから何かあったら逃げて来い」


 アブセル様……中に居るのは侍女ですよ?


 騎士様が取次ぎ中に入るとそこに居たのは、


「クラウド殿下の侍女のクリスティアーナです。同世代の侍女の方がいらっしゃると伺ったのですが、そうではないのでしょうか?」


 老女と言って良いぐらい年配の、黒いお仕着せ姿の女性でした。


「エリアス・ビルガー様の侍女の一人、イルゼでございます。今日はビルガー家の主催ですのでわたくしは出席者ではなく手伝いにございます」


 ……何故か訝し気な顔を向けられてしまいました。何か粗相でも? というか、同じ侍女でも出席者と手伝いが居るのですか?


「どうぞ。此方でございます」

「はい」


 イルゼ様に付いて歩き案内されたのは、噴水の在る庭に面した屋根の有るテラスでした。大きな白い丸テーブルが置かれたその場所に集まっていたのは────


 確かに同世代の女性たちですが、5人中4人がドレス姿なのは何故でしょう? 上位貴族の使用人もお仕着せを着る方が一般的なのですが……皆美人さんですね。しかも、つい先日クラウド様を囲っていた着飾った貴族令嬢達より一段上の。


「王太子クラウド殿下の侍女。クリスティアーナ・ボトフと申します。本日はお招きありがとうございました」


 淑女の礼を取って挨拶すると、一部には興味深そうに、一部には嫌厭されながら、ジックリ観察されました。上から下まで。いえ、濃紺のお仕着せ姿ですから下まで観察しても意味はありませんよ?


「流石は王太子様と言ったところかしらねぇ」


 私を嫌悪するような目で見ていた深い緑色の髪をした長身の女性が口火を切ると、


「そうですね。とってもお綺麗です」

「敵わないなぁ」

「デビュタントの……」

「王都のお屋敷で一度お会いしていますよね? あの時はまだ子供でしたが面影があります」


 皆が口々に私を評しました。品評会ですか? それよりも、王都のお屋敷でお会いしている? 今世の私は記憶力が良いのでちゃんとご挨拶した方なら大抵は憶えている筈なのですが……あ!


「あの────オルトラン様の侍女さんですか? ヘイブス家でお会いした。いえ、挨拶はしていませんが、お顔を拝見したことがありますよね?」


 二十歳以上に見える茶色の髪の方にそう言うと、


「あ! はい。リシュタリカ様のお友達としてお屋敷に来られていた方ですね? もう随分と前ですが」


 その隣に座っていた、私と同じ歳頃の華奢な黒髪の女性が答えました。


「6年ぐらい前ですね。侍女見習いの一年目の冬至休暇でしたから」

「え? 六年前で侍女見習いの一年目ということは今年二十歳になるのですか? 十九歳?」


 五人の中で唯一お仕着せを着ている黄緑色の髪の侍女さんが尋ねて来ました。


「いいえ。私は九歳で侍女見習いに成ったので今年で十七です」

「九歳で侍女見習いってなれるの? 中等学院と同じような試験があるんじゃ無かったぁ?」


 最後の一人。黒髪をおさげにした小柄な女性が発言しました。


「試験は受けていないのです。私は偶々レイフィーラ様と仲良く成って後宮に入れられたので」

「へ~。それでクラウド様を射止めたのなら大したモノだわ」


 え? 射止めた?


 もう準正妃の事がバレているということですか? いえ、そんな筈はありませんね。オルトラン様の侍女は明らかに私が来る事を知らなかったようですし、何より上位貴族の侍女である……筈の彼女たちが知っているのなら、既に大騒ぎに成っているでしょう。


「……射止めたとはどういうことですか? 私はクラウド様の侍女なのですが」


 表向き侍女なのは間違いありませんからね。実際秘書の仕事は続けていますし。


「此処に居るのは表向き皆侍女だよ。貴女もそういうことだから此処に来たんじゃないのぉ?」


 へ? 


「そういう事とは?」


 何を仰っているのでしょう?


「この子知らないで来たの? この集まりは侍女の集まりではないわよ」

「違うのですか?」


 ではなんの集まりなのでしょう?


「この集まりは────妾の集いよ」


 妾!




2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。

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