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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第四章 恋する二人
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#94.初夜

 結婚式から帰って来て夕食を終えると直ぐ、私はアビーズ様とリーレイヌ様のお二人にお風呂に入れられました。いえ、クラウド様が何か指示した様子はありませんでしたよ。でも王族しか使えない筈のお風呂に入れられたのです。

 恥ずかしがる私を二人は隅々まで研いていきました。当たり前です。他人に身体を洗って貰うなんて三歳で卒業したのですから。

 たっぷり時間を掛けた入浴が終わったら、バスローブを着て髪のお手入れをしました。これは自分で。何故なら単純に慣れているからです。


 そして、ドコからか持って来られた純白の夜着。


 クラウド様。準備万端ではないですか。サイズもピッタリですし、ややもすると透けてません? 透けてますよね。流石に恥ずかしくて拒否しましたよ。最初は。でもそこは亀の甲より年の功。アビーズ様に宥めすかされて結局着ることになったわけです。


「・・・」


 寝室の扉の前で立ち止まった私。緊張してますね。前世の記憶が役に立っていません。いえ、前世はもっと怖がっていましたから、一応役に立っていますね。


「大丈夫お綺麗です。お手付きにならないなんてあり得ません。それにクラウド様に見せる為にその夜着を着たのでしょう? ここで躊躇していても仕方ありませんよ」


 リーレイヌ様は優しい口調で促していますが、前半部分はまったくの無意味です。そういう緊張の仕方もあるのでしょうかね?


「はい」


 ああ、緊張で声が裏返ってしまいました。


「全てクラウド様にお任せすれば大丈夫ですよ」


 アビーズ様。本気で仰っていますね?


「ふー。分かりました」


 大きく息を吐きながらノックをすると、


「なんだ?」


 直ぐにクラウド様の返事がありました。


「クリスティアーナです」

「良いぞ」


 扉を開け寝室に入りました。奇しくも、クラウド様と出逢ったあの部屋に。


「鍵を閉めてくれるか?」


 私が扉の中へ一歩踏み出した瞬間にクラウド様の声が耳に入りました。……普通は女性の部屋に男性が訪ねて来るのでこういうことはやらないですよね。まあ仕方がないのですが。


「はい」


 指示通り鍵を閉めて、振り向くと部屋着姿のクラウド様が間近にいました。


「本当に綺麗だクリス」


 片手で頬に触れながら、情感たっぷりに放たれた言葉に心臓が跳ねました。綺麗とか美しいとかクラウド様からはもう聞き慣れている筈です。なのに……。


「純白のドレス姿も言葉に出来ないぐらい綺麗だったが、今のクリスも本当に美しい」


 そう言いながら私の顎を持ったクラウド様は、勢い良く私の唇に自分の唇を重ねます。三度目のキスは、最初のお互いにの想い確かめ合うような甘い口づけでも、今日の誓いのような軽いキスでもなく、情欲を吐き出すような貪るような接吻でした。


 暫しの間唇の蹂躙を無抵抗に受け入れていた私。数十秒後漸く解放されたと思ったら、突然屈み込んだクラウド様。そして次の瞬間には、


「きゃ」


 私は再びお姫様抱っこされていました。歩き出したクラウド様が向かう先にあるのは当然ベッドです。

 視線が高くてゆっくり歩いてくれていますが、思っていた以上に怖いです。私の両手は無意識にクラウド様の頭に伸びしがみついていました。


 優しく寝台におろされた私は、少しひんやりとした柔らかな肌触りのシルクのシーツと、頬に触れながら私を見下ろし被い隠すような体勢になったクラウド様に挟まれました。もう逃げ場はありません。いえ、最初から逃げる気はありませんが、これだけは言っておかなければなりません。


「クラウド様」

「ん? 嫌だったか?」


 優しい声です思った以上に冷静なようです。


「いいえ」


 首を横に振るとホッとしたような笑みを見せたクラウド様。本当に私のことを大事にしてくれる人です。そう考えただけで胸がいっぱいに成りました。


 クラウド様を好きになって、愛せて良かった。


「今日は本当にありがとうございましたクラウド様」

「結婚式は私が計画したことではない」

「いいえ。クラウド様が私を大事にしてくれたから、皆に祝福して貰えて、両親にお礼が言えたのです」


 少し困った表情を見せたクラウド様ですが、やがて、頬を撫でる指が頭に移り、目を細めて私を愛でる優しい笑顔に戻りました。


「私が私の筋を通したかっただけだが、それが結果的にクリスの不安を取り除けたのならば、それはそれで良しとするか」

「はい。例え結婚式が無かったとしても、両親が祝ってくれただけで私の不安は解消したと思います。だからありがとうございました」


 嬉しさが込み上げて来て自然と笑顔になった私。クラウド様は更に笑顔を深めて優しい瞳で私を見詰めていました。

 暫く笑顔で見詰め合っていると急に真剣な表情になったクラウド様が口を開きます。


「どんなことがあっても私は君と共にある。そして絶対に守る。君の笑顔を。愛しているクリスティアーナ」


 クラウド様の赤い瞳が輝いています。その光には、デビュタントの時のような射ぬくような、逃げ出したくなるような鋭さはありません。いっぱい愛情が載せられた優しい赤い瞳が私を包んでいました。


「私も。私も愛していますクラウド様」


 次の瞬間訪れた四度目のキスは、愛情に溢れた優しいくちづけでした。






 五度目以降のキスがとても激しいモノだったのは、話すまでもないことですよね? まあ五度目はまだマシでしたが六度目から後は……。

 色々と問題がありますので詳しい話は割愛させて頂きますが、まあ……とってもあつい夜を過ごして、クラウド様と一つに成れたということです。前世同様、いえ、前世以上に何も出来ませんでした。


 そして────何度も意識を飛ばしました。


 私は華奢な割には体力がある方だと思うのですが、クラウド様とは結構な体格差が有りますし、夢中になっていたクラウド様が加減出来たとは思えません。しょうがないですよね。初めてなんですから。

 それに、クラウド様は大人びているとはいえまだ15歳です。ここまで自制出来ただけでも偉いと思います。


 なんて考えていると目の前の綺麗な顔の瞼が開き赤い瞳が私を捉えました。寝ている時は幼く見えますが、瞼が開いただけで大人びて見えます。成人が15歳のセルドアでは子供でも全体的に大人びて見えますけどね。


「おはようございますクラウド様」


 ん? 反応がありません。まだ起きていませんか?


「……おはようクリス」


 暫く沈黙したあと痺れるような優しい笑みをくれたクラウド様です。良かったです。一瞬覚えていないのかと思いました。

 因みに私は今クラウド様に腕枕されている状態で、布団はかぶっていますが……。


「昨夜は夢中になってしまった。私はクリスを傷付けたりしなかったか?」


 心配してくれるのですね。嬉しいです。


「大丈夫です」

「しかしクリスは何度も……」

「大丈夫です。私はクラウド様に何をされても傷付いたりしません」


 そう言ってその逞しい胸に抱き付くと、クラウド様は優しく頭を撫でてくれました。それが凄く心地良くて甘えたくなります。


「ん!」


 クラウド様は急に私の肩に手突いて引き剥がしました。私はそのまま寝台に転がされ、クラウド様は上半身を起こして私から更に距離を取りました。


「クラウド様?」

「済まない。痛かったか?」


 いえいえ、あの勢いなら床に転んでも痛くはありませんよ?


「大丈夫ですけど……」

「ああ。男の身体とは厄介なモノなのだ」


 え? ……あ!


「流石に朝からは……今日は朝食を摂ったら出発ですし」

「だな。大丈夫だなんとかなる」


 本当に大丈夫ですか?


 クラウド様は誤魔化す為なのか、私に布団を被せると昨夜脱ぎ散らかした部屋着を羽織りました。


「クリスに渡さねばならなかった物がある」


 渡す?


 部屋の端まで行ったクラウド様は直ぐに戻って来て、小さな箱を私の目の前に差し出しました。

 因みに私は布団を被ったままです。何故なら着替えがないからです。あんな透け透けの夜着は日の光がある時には着られませんから。


「「誕生日プレゼント」ですか?」


 ハニカミながら告げたクラウド様と私の声が被りました。差し出されたのは間違いなく、宝石箱です。


「ふっ。そうだ」


 声が被ったことで少しお互いに笑い合ったあと、クラウド様が開けた小さな宝石箱の中には、赤い宝石の付いた指輪が入っていました。宝石は私が渡したモノと同じぐらいの大きさですね。


「違うアクセサリーも考えたが結局は指輪にした。付けてくれるか?」

「はい。とっても嬉しいです」


 指輪を付けるような仕草をみせたクラウド様に応じて、片手で布団を抑えたまま起き上が――――れない!






 寝たまま指輪を付けて貰い、寝台の上で朝食を摂り、お姫様抱っこで馬車まで運ばれることに成った私でした。目撃者は少ない状況を作って貰いましたが、お兄様と目が合って顔面から火が出る思いをしたことは、お話したくありません。


 ああそう言えば、これ以降お兄様がクラウド様に稽古をつける様子を良く見るように成りましたね。結婚したとは言え準正妃、側妃ですから、義理の兄弟になったとは言い難いですが、お兄様はお強いですし良い先生だと思います。


 え? 私情を挟んでいる?


 聞かなかったことにします。






2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。

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