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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
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#8.侍女見習いの一日

「お前侍女になったのか?」


 相変わらず無愛想な王子様です。人並みに挨拶するだけで女の子が寄って来ると思うのですが……爽やかで紳士的なイケメンお兄様を見慣れている私には、超イケメン候補生のキラキラ王子様も残念イケメン以外何物でもありません。


「はい。新年からレイテシア様に侍女見習いとして付かせて頂いております」

「本当に働いているのか?」


 素直に返事をしただけなのに何か不服なのでしょうか? クラウド様の無愛想な声と顔が強張った気がします。


「学業と仕事の両方は大変ですが、充実してます」


 9歳ということで気を使われているのか肉体労働はあまりしていませんので、仕事の方は無難にこなせていると思いますが、淑女教育、特に座学が並大抵の分量ではないのです。僅か三週間でセルドア王国の建国前から現在迄の歴史を叩き込まれました。小テスト付きで。侍女見習いはやはり大変です。


「クリスは綺麗で可愛くてとっても頭が良いのよお兄様。きっとお兄様より」


 随分と慕われてしまったようです。レイフィーラ様はご自分を棚上げして私を持ち上げています。何も出ませんよ?

 それに対してクラウド様は無表情です。この王子様は無愛想ですが無表情ではなかった筈ですが……事実何度か笑っている所を拝見しましたし、実の妹に対して笑い掛けたりしないのでしょうかね?


「どういう積もりでしょうか?」


 クラウド様は何故かレイテシア様に向けて質問しました。その声は硬質で実の母を責めているようです。何故でしょう?


「どうとは?」

「彼女を侍女見習いにしたのは母上以外に考えられません。何故そのような事を?」


 うーん。さっきまでの和やかな家族団欒が壊れてしまいました。というか、クラウド様は何故私が侍女見習いになったことに反対、いえ、反発しているのでしょうか?

 因みに同僚には私が侍女見習いになった経緯をこの間レイフィーラ様と再会した後お話してありますので、皆様ご存知です。


「レイフィーラが望んだからよ。それに、クリスは可愛いじゃない」


 悪い? そんな口振りでからかうように話すレイテシア様。息子で遊んでいますね?


「それだけでしょうか?」

「他に必要? 王太子妃にそれぐらいの権限があることぐらい知っているでしょう?」


 濫用と言えば濫用かもしれませんがこれぐらいは権限の範囲内でしょう。何せ王太子妃には王妃から委譲される形で予算の一部の決裁権があるぐらいですから。


「理由をお聞きしているのであって咎めているわけではありません。クリスティアーナ嬢を侍女見習いとしたのはレイフィーラが望んだからだけでしょうか?」


 からかわれているのが気に食わないのでしょう。クラウド様の声には怒気が含まれています。


「そうよ。それ以外を敢えて挙げるならそうねぇ、金髪だからかな? こんな可愛い娘が浚われたりしたら国の損失だわ。そうは思わない?」


 王太子妃様は物凄く大袈裟な言い回しで明るく仰いました。確かにこの国で金髪は珍しいですし、私はこの母譲りの金髪を大事にしてケアをしていますが、冗談でもそれを然も国の宝のように扱われるのは畏れ多いです。


「もう良いです。この話題は止めましょう」


 クラウド様は私を、正確には私の髪をじっくり眺めた後話を打ち切りました。その時小さくため息を吐いたのは見間違いではないと思います。


 その後再開した家族の団欒、母子と兄妹の語らいは和やかに進みました。

 とは言うものの、クラウド様は少し不機嫌なのか無表情にレイテシア様の質問に答えるだけで、会話と言うより面談のような感じでしたね。母子仲が悪いようには見えなかったので、反抗期なのではないしょうか? レイフィーラ様に対しては多少表情が出るのでそうなのでしょうね。

 ただ、キーセ様はだんまりでした。こっちの方が将来心配ですね。まあ私の心配することではありませんが。






 侍女見習いの一日は日の出と共に始まります。朝起きたらまずは顔を洗い、手早く侍女のお仕着せに着替えます。

 後宮侍女のお仕着せは、濃紺のブラウスとロングスカートに白いエプロンというテンプレです。何の色気もありませんね。階級は肩に付けるコサージュの色で判断出来ますが、出世しても服装は変わりません。まあ小さなアクセサリーを身に付けるなど多少のオシャレは許されるようですが、見習いにそんなことは出来ません。


 話を戻しましょう。朝起きたら直ぐに主人別の早朝会議が開かれます。夜番の侍女さんを交えての短い連絡会が終わったら、直ぐに朝のお勤めです。

 まずは自分たちの部屋とその前の廊下を掃除します。これは主人逹が起きる前に済まさなければなりません。この時一部の侍女は朝食の準備の手伝いをします。因みに食事を作るのは専門の方です。後宮内で作っているので勿論女性ですね。


 主人逹が朝食を摂っている間に主人の間の居間や執務室、書斎などの掃除をします。王族の女性は朝食も時間を掛けて摂る習慣がありますので、時間は結構あります。

 それが終わると今度は侍女たちが朝食を摂ります。動いた後で少し遅めの朝食なので結構食べられますね。後宮のパンは焼きたてで美味しいです。流石にスイーツはありませんが、新鮮な野菜や果物を毎日食べられるのは幸せなことです。


 朝食が終わると侍女見習いは淑女教育に入ります。大抵は、午前中が座学で午後は淑女の嗜み講座です。昼食を使って実践しながら食事のマナーを叩き込まれたりもします。

 私の場合はお母様が然程マナーに煩くなかったのでマナーは不得意分野です。傾向として上位の貴族の令嬢ほどマナーはしっかりしていますね。逆に平民(騎士家や商家等)の方は苦戦しています。


 午後の淑女教育が終わると主人が夕食を摂る時間になっていますので、先輩侍女と合流して寝具や入浴の準備をしたり、または給仕をします。ただ私は給仕をさせて貰えません。後宮の食器は銀製が多くて重いのです。私にはまだ無理という判断になりました。


 主人の食事が終わると手早くダイニングの掃除をします。レイテシア様とレイフィーラ様の場合はこのタイミングで入浴なさいますのでその手伝いと同時進行です。王太子殿下やクラウド様と一緒に食事をなさる時も有りますのでこの辺りは流動的ですね。

 お渡りの予定が有る時は入浴時とその前後に色々しなければなりませんが、普段は入浴が終わったら昼番の侍女の業務は終わりです。夜番の侍女と合流し夜の連絡会が終わったら解散、大抵はそのまま一緒に夕食を摂ります。


 侍女見習いが恐ろしいのは、この後に週二日座学があることです。時刻にして午後8時から二時間の苦行です。何をそんなにやることがあるのかとお思いかもしれませんが、座学の時間は午前中四時間が基本なんです。授業の内容は非常に濃いので中等学院に遅れることはないと思いますが、授業の絶対時間を確保しているようですね。

 夜の座学が無い日は「明日まで」の課題が大量に出るので、夜の座学の有る日の方が早く寝れたりもします。私の場合は課題や座学が終わったら入浴して、髪のお手入れをしてベッドに入ります。


 これが侍女見習いの一日です。自由時間は殆どありませんし、前世を考えるととても厳しくはありますが、充実した毎日が送れています。お給料も結構良いんです。とっても遣り甲斐があります。


 それではまた明日。


「おやすみなさい」





次回 2015/09/10 12時更新予定です。


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