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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第四章 恋する二人
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#87.新たな候補者

 十一月下旬。私の乗った馬車は今朝ゴルゼア要塞を出まして、今はルダーツ王国の中央部に位置する王都ルドラーツへ向かって北進しているところです。


 え?


 勿論仕事ですよ? クラウド様も序でにお兄様も一緒です。まあお兄様は、騎乗して馬車と並走中ですけどね。


 何故ルダーツに来ているかを話す前に近況報告をしたいと思います。


 一ヶ月と少し前、アントニウス様はローザリア様を連れて帰国の途につきました。最後に先王弟クラウザード様にエスコートされて船に乗って行くローザリア様は、涙目ではありましたが凛々しくてとてもお美しかったです。

 式典そのものは小規模でしたが見送る群衆の数は王位継承式と変わらないように見えました。民衆にとって誰の娘だろうとお姫様はお姫様なんですよねぇ。その感覚は解ります。

 湖から運河へと入って行く船を見送りながら、私は涙を流してしまいました。ローザリア様が本当の意味で帰って来ることはありませんからね。まあ、あったらあったで問題なのですが……。


 あれ以降アントニウス様とも上手く行っていたようですし、クラウド様を変に意識している様子もありませんでした。いえ、それは元々ですね。いずれにしてもハドニウス様という問題は残っていますが、二人の仲が良好ならば乗り切れるでしょう。


 お幸せにローザリア様。それから貴女が守り通した秘密は絶対に明かしません。


 次に私の話です。予想外にも、王太子就任後の方が就任前より自由になる時間が多いです。副侍女になったあとも王太子を支える為に同じぐらい勉強をしているのにも関わらず時間が自由になる理由は、侍女侍従が五人体制になったことが一点。もうひとつはクラウド様本人が就任前より自由になる時間が増えているからです。

 勿論公務の量は格段に増えているのですが、日程表の半分を黒く染めていた社交がごっそりと無くなった為就任前よりも随分と時間に余裕が出来ました。その余裕の半分を私の為に使っているのが現状なのですが……良いのでしょうかね? 嬉しいことには変わりないのですが、王太子様が一側妃(婚約者)に割く時間としては多すぎる気がします。


 ただ私の場合、時間が空くとやれ刺繍だやれ縫製だとドレス作りの手伝いをすることになるのである意味助かっているのですけどね。ちゃんとした休日以外は休んでいる気がしませんので。まあ嫌ではないどころか楽しんでやっていますが。


 そして私はまだ結婚していません。婚約者のままです。実のところ側妃が輿入れするには当主の同意すら必要ありません。陛下が本人に勅命書を叩きつけるだけで済むのですが、流石にそれは王権の乱用と取られますし、クラウド様はきちんと筋を通したいようですね。だから今回色々と画策しているわけですが……上手く行きますかね。


 王族に限らず貴族の結婚は全て当主が決めることで、本人の同意の必要性などそもそも皆無なのは事実なのです。流石にそこまで問答無用なやり方は忌避されてはいますが、親が決めた相手と唯々諾々と結婚するご令嬢も少なくはありません。

 そんな中で本人同士が望む結婚をするなんて贅沢とも言えるのですが……私の為に無理し過ぎな気がするのです。嬉しいのですが、変なマリッジブルーに落ちている最近の私です。


 まあお兄様を始め事情に詳しい人にその話をすると、共通して「それはクラウド様の我が儘」と言うのでそう思うことにしているのですが……。


 近況報告はこれぐらいにしましょう。


 クラウド様は現ルダーツ国王の甥に当たり、クラウディオ様に先だって三年前に退官した先王陛下の孫なのです。そこに王太子就任の挨拶に行くのは当然と言えば当然です。そうでなくても同盟国の新王太子として一度はルダーツ王家に顔を出す必要があるでしょう。

 そんな理由で今ここに居るわけですが、こんな妙な時期になったのは間違いないなく私の為です。本人が納得する為。というのが周りの見方ではあるのですが……誕生日に合わせる理由は私の為以外ないですよね?






「魔力量が214魔技能が135がだそうだ」


 凄いですね。お兄様を上回るような数字なんて居るとは思いませんでした。しかも平民で。


「そこまで凄い魔才値なら確かに魔力が暴走したという話も納得が出来ますが、その方が今まで放置されていたというのが……」


 二ヶ月程前。セルドア東部のとある町で奇妙な事件がありました。「深夜に町の郊外の納屋が大きな爆発音と共に粉々に吹き飛んだ」という事件で、周囲から全身打撲痕が出来た変死体が一つ見付かったのです。捜査に当たった騎士逹は(騎士は警察も兼ねる仕事です)魔力の暴走が原因と結論付け、犯人の捜索に当たりました。そしてつい最近御用と相成ったわけですが、その犯人が特筆した魔才値の持ち主だった。という情報が、今朝クラウド様の元に届いたのです。


「いえ、リーレイヌさん。数値的には兄や母とそう大きく変わらないので魔才値と魔力の暴走は結び付かないと思います」

「アンドレアスやセリアーナ殿が魔力を暴走させたなど聞いたことがない。魔才値と暴走は直結しないだろう。だが放置されていたということは、魔才測定を受けていなかったか、あるいは後天的に変化したか……」


 後天的に変化ですか、滅多に起こり得ないことが起きた可能性も確かに否定出来ませんね。


「後天的に変化した時に暴走が起きたと考えると辻褄は合いますね」

「確かに。だが後天的な変化とはそんなに急激にするモノなのか?」


 それを私に訊かれても。殆ど例のないことがどのように起こるかなんて分かりません。


「それをわたくし逹がここで推理し合っていても栓のないことでございますクラウド様。大事なのはそこではございませんでしょう? 一番問題なのはビルガー領での出来事だということですわ」


 アビーズ様がそのキャリアを感じさせるゆったりとした口調で会話の方向性を変えました。結果をみると、ビルガー領だったということは今のクラウド様にとってとても重要なことですね。一応私にも。


「ビルガーか。事件は恐らく事故という形でケリを付けて……正妃候補がまた増えるわけか」


 犯人は14歳の少女。クラウド様の一つ下の女の子だったのです。そしてビルガーということは、


「三つの派閥が奪い合うということになりますね。正妃の座を」


 エリントン公爵家のシルヴィアンナ様。ベルノッティ侯爵家のヴァネッサ様。そして今回魔力を暴走させた、ビルガー公爵家の養女になるであろう飛び抜けた魔才値を持った少女。セルドアの三つの貴族派閥の長の家にそれぞれ候補者が立ってしまうことになります。正妃選びが更に混沌とするのは目に見えています。


 私を正妃に選ぶなど無理なのではないでしょうか?


「忘れてはいけませんよリーレイヌさん。正妃の候補は目の前にも居るのです」

「いえ、アビーズ様私は……」


 正妃を望んでいるわけではない。いえ、状況が許すならそれが良いと思います。何よりクラウド様がそれを望んでいるわけですから。ただ……。


「平民出身のわたくしが何を言っても説得力がないでしょうが、わたくしは貴女が正妃に相応しくないなど微塵も思いませんよ。クリスティアーナさんならば立派に役目を果たすでしょう」


 アビーズ様……。


「言いたい奴には言わせて置けば良い。そんなことを言う奴は所詮身分を鼻に掛け相手の力量を見極めようとしない選民主義者だ。相手にすることはない」


 暴言とも言える言葉を軽く良い放ったクラウド様を見ると、その目は「大丈夫だ」と言わんばかりの優しさを宿していました。


「だから、そう不安そうな顔をするな」


 クラウド様の声には私を大事に思う気持ちが沢山含まれていて、私がそれを嬉しく思っているのは間違いありません。そして同時に伸びて来た手を受け入れて頭を撫でられることに対して何の戸惑いもありません。そもそも私は正妃に成りたいとは思っていませんし、正妃候補が一人増えたところで今更です。しかし――――


 しかし何故、私はこんなにも不安なのでしょう?






2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。

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