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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第四章 恋する二人
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#82.模擬討論会

 今年の夏至の「建国祭」には王都エルノアでパレードが行われ、新国王夫妻と新王弟夫妻そして新王太子が御披露目されました。ゆっくり進むオープンタイプの馬車の上で無愛想に手を振るクラウド様は滑稽でしたが、女性を中心に王都の住民にはそのイケメンぶりが知れ渡ったことでしょう。

 クールイケメンですか? 個人的にはどうにも好きに成れません。笑わない人の傍にずっといたいとは思いません。まあ私には笑ってくれるから好きになったわけですけどね。


 いえ、もういい加減「妃にして下さい」と言うべきなのです。実際たった九日間離れていただけで再会した時嬉しくてしょうがなかったわけですから、クラウド様から離れるなど無理なのです。ですからもうそれを口に出来れば話は終わりなのですが、いざとなれば恥ずかしくて口に出せずに一ヶ月程が経過してしまいました。

 クラウド様はあれ以来、仕事ではなくなる度に頭を撫でたり髪に触れたり手を握ったり、一ヶ月ずっとそんな調子ですからね。欲情はホンの少しですが恋情は全開ですし、爆発する前に返事をしたいのですが……。


 少しで良いからきっかけを下さいクラウド様。もう一度プロポーズをしてくれたら間違いなくその場で「はい」と言いますが流石にそう都合良く言ってくれないのです。最近はアピールが多様化していますし……主に接触方面ですけど。


 話は変わりますが、クラウド様は王太子でありながらまだ中等学院に在学中ですので毎日王宮から学院まで通っているわけです。

 とは言うものの、去年の太子就任発表から王位継承式までは社交に引っ張りだこだったわけですから、その間は随分と低い出席率でした。それでも成績を落とさず首位を守っているというのですから流石という以外ありませんが、パレードも終わり御披露目は終えたと言える夏至休業明けからはほぼ毎日中等学院まで行くことになるでしょう。


 あ! 中等学院の夏至休業は侍女見習いの倍、夏至の前後四週計八週間です。長いですね。でも、中央に大臣の職を持つ上位貴族達はそんな長い時間ずっと領地で過ごすようなことはしません。夏至から三週間程経った今頃になると上位貴族は既に王都に帰っているということです。そして、親が帰って来るなら一緒に子供が帰って来ることも当然珍しいことではありません。






「治水技術は発展著しい。農業技術も日々進歩している。ブローブ平原の重要性は例年増してしいるのだ。ルギスタンを潰してでも手に入れる価値はある」


 過激な方ですね。まあビルガー家は数代前から積極外征を主張しているそうですからこの方がそう主張するのは当然ですけどね。何せこの方、ビルガー公爵家の嫡子エリアス・ビルガー様ですから。エリアス様は真っ赤な髪の美丈夫です。私と同じ年だそうです。


「また随分と過激なことを仰いますわねエリアス様は。積極果敢なビルガー家らしいと言えばらしいですが、情勢はそれを許していないのではありませんこと?」


 エリアス様に反論したのはクラウド様の正妃候補の一人ハンナ・ヨプキンス様です。ハンナ様は小柄で儚げな淑やかそうな美人さんですが、内実結構気の強い方です。高飛車ではありませんが選民意識は高い方ですね。


「女の分際で偉そうな口を利くな」

「仮とは言えここは議論の場だ。相手の意見を聞く気がないならここから出ていけエリアス」


 容赦ないですねクラウド様。まあ模擬とはいえ討論に相応しい発言ではありませんでしたね。問答無用で叩き切るなんて討論ではありません。この場合出て行くべきなのはエリアス様の方で正解ですね。

 はいそうです。今この場で行われているのは討論会です。次世代の上位貴族達が集まって親達と同じ議題で模擬討論会を開いているのです。まあ女の子もいるので目的は次世代の交流でしょうけど。

 因みに私がやっているのは速記です。今世の私は本当に器用で色々なことが出来るのです。


「まあまあ兄上。そう厳しい言い方をすることもないでしょう。エリアス様。ここは戦場ではありませんから、女性が口を出すことをそこまで忌避する場ではありませんよ。それからハンナ様。御家を貶めるような発言は謹むべきです」


 胡散臭ぁ〜い!


 ウィリアム様が胡散臭さ全開の笑みで場を収めようとしています。凄く久々見ました。ウィリアム様の似非スマイル。王宮内ではだいぶ使用頻度が減っていたので、最近は廊下ですれ違っても見ることはなかったのですが、久々全力の胡散臭い笑顔を見ることに成りました。あれが女性受けするというのですから疑問です。何処がいいのでしょうか?


「そもそも何故模擬討論などする必要在りませんわ。こんなことは時間の無駄です。クラウド様。二人のお茶の時間に致しませんこと?」


 ヴァネッサ・ベルノッティ様。ぶれませんね貴女は。


「ほらカイザール。お茶の準備をしてらっしゃいな」

「はい姉上」


 そして双子の弟だというカイザール・ベルノッティ様。貴方は何故姉に下僕のような扱いをされて素直に従うのでしょう? 一年半クラウド様に付いていて何度と無くこの二人を拝見していますが、この双子の姉弟は本当に謎の関係の姉弟です。

 因みに姉は黒髪で弟は綺麗な黄色髪です。色が違い過ぎますけど本当に双子ですか? あ、流石に失礼ですね。


「二人とも席にもど……」


 議長のウィリアム様の制止を聞かず二人は討論会場を勝手に出て行ってしまいました。ウィリアム様もあまり強くは言ってませんが、無視する二人の感覚は理解出来ません。


「何を考えているのだベルノッティは」


 呆れたように言ったのはエリアス様です。


「丸々は同意出来ないが、この討論の無意味さは同意出来る。この討論は美しくないのだ。美しくないモノなど私には必要ない」


 ……貴方の顔は確かに綺麗ですが、心は全く美しくないと思いますよオルトラン・ヘイブス様。こんな所で再会するとは思ってもいませんでした。リシュタリカ様はだいぶ変わられたのに、性格が変わってなさそうなのがとっても残念です。


「どうするクラウド殿下。止めにするかい?」


 提案したのはヨーゼフ・クライアン様です。この方は爽やかで普通の方ですね。ちょっと安心しました。ヨーゼフ様は緑の髪のゴリマッチョさんです。


「いや続ける」

「そうかい。早く帰ってミラに会いたいのに」


 止めたかったのですか? ヨーゼフ様は残念そうです。ぶつぶつ何か言っていますけれど、良く聞こえません。でも落ち込んでいる感じからして帰りたかったみたいですね。


「しかしクラウド様。ベルノッティ侯がいなくなっては議論の意味がないのでは?」

「そうだな。そもそもエリントンがいないし」

「三派閥の中二派閥の長がいないのでは討論会も意味がないでしょう。止めにしませんか?」


 次々勝手に話し始めてしまって速記が追い付かなく成ってしまいました。そもそも許可なく出て行くことがおかしいのですけどね。早業で呆気に取られましたけど。


「黙れ。勝手に話すな」


 クラウド様の怒気の籠った声が響くと会場は一気に鎮まりました。それほど大きな声ではなかったのに一言で従わせてしまう。これもクラウド様が王太子に選ばれた理由の一つなのでしょうね。


「討論は続ける。ウィリアム、整理しろ」


 ウィリアム様に討論に戻るよう促したクラウド様は少し浮かべていた怒気を消していつもの無愛想顔に戻りました。


「では先程のビルガー公の――――」


 胡散臭い笑顔を浮かべたままのウィリアムが議論を整理し討論は再開されました。


 それにしても個性的過ぎる方々です。半数は来年から一緒に魔法学院で学ぶ方々ですし……ご苦労様ですクラウド様。






 そんな討論会の数日後。クラウド様の元にこんな書き出しの手紙が届きました。


「クラウド・デュマ・セルドアス。貴殿に決闘を申し入れる」





2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。

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