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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第四章 恋する二人
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#79.デュナ

「何でその場で断らない!」


 怒らないで下さい!


「断りました。でもお慕いしている人の名前が出せないから説得力が無いのです」


 クラウド様が言ったのですよ。二人の関係が大きく変化したのは秘密にして置こうと。


「お茶なんてしないと突っぱねれば良いだけだろう。よりによってなんでアントニウス様なんだ。どうしようもないなあの大公家は」


 ハドニウス様は兎も角アントニウス様はどうしようもないと言う程ではないですよ?


「私が男爵令嬢であることを忘れてませんか? それに対してアントニウス様はイブリックの公太子です。簡単には断れません」


 身分の違いを忘れていますクラウド様。


「想い人がいると言うだけで充分だろう!」

「言いました。でも具体的に名前が出せないのですから向こうだって断わる為の嘘としか考えないのです。クラウド様が秘密にしていなければ私だってちゃんと断れました。下位貴族令嬢からも求婚されたって良いではありませんか。断れば済むだけなのですから」


 良く考えたら下らない理由です。元々無愛想にしているのですから簡単に断われますし秘密にする理由になりません。正妃関連の話にしても、シルヴィアンナ様との噂を利用して他の令嬢の動きを抑え込んでいるのですし、この間のビルガー家の舞踏会のお陰でシルヴィアンナ様との噂も過熱状態が収まったわけです。均衡が取れた状況なら私の名前が側妃候補として上がることで大きな動きがあるとは思えません。


「……秘密にしている理由はそれだけではない」


 何故言い難そうなのでしょう? 私にも話せないことがあるのでしょうかね?


「正妃のこと……というわけでもなさそうですけれど。何か大きな理由があるのですか?」


 教えて下さい。


「来年から私は魔法学院の寮に入る。これはある種の義務だ」


 そうですね。そもそも魔法学院の決裁権を持っているのが王太子ですから絶対不合格にはなりませんし、上位貴族の令息に対しても義務のように課している高等教育は、王族男性の義務とも言えます。ただその余波で上位貴族令嬢にも義務のようになっているのは……。


「はい。存じ上げていますが……」

「分からないか? 寮に入るのだ。後宮など滅多に渡れない」


 確かにそうですが、それって詰まり……


「魔法学院の寮に私も付いて来いと?」


 確かに、王太子の公務をこなしながら学院で学ぶことになりますから秘書は必要です。ただ、王族と上位貴族、留学生は一般生とは別の個別の棟になるらしいのですが、所詮は寮ですから広さは高が知れています。そこに三年……。


「そうだ。もっと言えば、“妃として”一緒に居て欲しい」


 はい? 矛盾していませんか?


「あ! もしかして側妃になったのを秘密にして付いて来いということですか?」


 いや、まあ、三年もクラウド様の理性が持つとは到底思えませんし、私も傍に居たい気持ちはありますから理解は出来ますが……。


「それが私の理想だ。勿論我が儘なのは解っているし、クリスが嫌ならそこまでする積もりない。ただ、その方が一緒に居られる時間が長いのは間違いない。それに結婚せずに純潔を失いたくはないだろう?」


 個人的にはいずれ結婚する相手なら良いと思いますが、王族貴族の女は結婚する時生娘が常識ですからね。そうでないとなかなか初婚同士の結婚には至れませんし、そういう貴族の常識から言って結婚前に純潔を失うのは憚れます。「ふしだらな女」というような評価は受けたくありませんしね。


「そもそも側妃になったことを秘密にすることが出来るのですか? 公布されますよね?」


 出来るから言っているのだと思いますが……。


「国民に公布するのは事後報告で問題ない。元々あとから発表されることも多いしな。問題になるとしたら私とクリスの周囲の人間がどれだけ秘密を守れるかだ。噂が大きくなって社交界で騒がれるようになったら発表せざるを得なくなるだろう」


 側妃を迎えたら、その側妃の個人情報と共に側妃の“名前”発表するだけですからね。正妃と違ってパレードとかはありませんし問題はないと思いますが……噂になったら離れなければいけないというのも辛い気がします。


 あれ? 私側妃になる気満々ですか?


「……一応まだ側妃になると返事をした積もりはないのですが?」

「分かっている。それに厳密には側妃ではない。側妃の一種ではあるがな」


 え?


「準正妃という制度がある」






 側妃には4種類あるそうです。


 一つ目は「側妃」としか呼べない普通の側妃です。ララナ様は勿論、パトリシア様達お三方もこれに属しています。

 二つ目が以前お話した救済措置のによって輿入れした「形式側妃」です。大半は連れ子で、お手付きが無い限り簡単に後宮から出かけられる側妃です。

 三つ目が貴族が強引に後宮に娘を押し込む「籍外側妃」です。籍外と呼ばれるだけあって籍の入っていない「後宮に住んでいる貴族令嬢」です。押し込んだ貴族は娘の「生活費」を大量に納めなければ成りませんが、お金さえ払えば後宮に押し込めるので「籍外側妃」が後宮に殺到したことがあるそうです。この制度の影響で侍女見習いに年齢制限がないそうですね。

 四つ目が正妃を決めかねた時正妃候補を側妃として後宮に入れる「準正妃」です。普通の側妃と正妃になる可能性がある側妃を区別する為に出来た制度だそうです。


 クラウド様は私をこの四つ目「準正妃」にしたいそうなのです。ただそうなると一つ問題が起きるのです。


 パトリシア様を例に挙げますと、つい此間までパトリシア様は、パトリシア・デュラ・セルドアスと言うお名前でしたが、伴侶であるクラウディオ様が王位を退きましたので今はパトリシア・デュハ・セルドアスと言うお名前です。また、ジークフリート様の実弟ジラルド様は、ジラルド・デュマ・セルドアスからジラルド・デュア・セルドアスにお名前が変わりました。


 どういうことかと言いますと、まずはデュマですがこれは直系を示しています。そしてデュラが現国王の側妃の系譜。デュアが側妃を含めた王弟の系譜、デュハがそれ以外の継承権が関わる王族の系譜です。あと継承権の関わらない王族、愛妾の子や連れ子、養子などでは何も付きません。○○・セルドアスと言うお名前になるのです。

 そして重要なのが直系の準正妃になられる方のお名前なのですが、仮に私が「準正妃」になると、


 クリスティアーナ・デュナ・セルドアス


 と、なるそうです。無論この名前を公布する事に成りますので、私が「準正妃」である事がバレバレになるのです。とんでもない状態に陥る事が目に見えています。


 え? それはそうですよ。


 ビルガー家での舞踏会を思い出して下さい。殺到した令嬢の大半が側妃にしか成れない方々ですが、魔技能値が極めて低い私が「準正妃」とされた事実が公表なんかされたら、彼女達は皆「正妃になれるかも」と、更なる闘志を燃やすに違いありません。それこそ「籍外側妃」が後宮に殺到してしまうかもしれませんからね。


 それを避けるには「準正妃」になったことを隠すか……私を正妃としてしまうしかないでしょう。


 クラウド様が私を「準正妃」としたがっていることから分かる通り、私が正妃になるのは百パーセント不可能。というわけでもないようで、クラウド様は曰く「上位貴族を納得させるのが大変だが無理な事は全く無い」だそうです。


 ただ肝心のジークフリート様は、反対はしていませんが賛成ではないようですね。


 え? 別に嫌われてはいませんよ? 


 確かにメリザント様の事件の時はジークフリート様に言いたいように言わせて貰いましたが、私を嫌っている雰囲気はありませんでした。クラウド様と一緒に晩餐後のお茶に同席しましたから間違いないありません。ただ私を正妃にしたいと言ったクラウド様に対しては何も仰らずに考え込んでおられました。


 でも大丈夫ですかクラウド様? 私の魔技能値は1なんですが……。


 いえ、だから。まだ側妃になるとは言ってませんよ?




次回 2015/10/29 0時更新です。

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