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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第四章 恋する二人
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#76.太子就任

 四月十五日。クラウド様の誕生日です。今日は国中で大騒ぎをしています。特に王都エルノアやその周辺では並みの騒ぎではないようで、エルノアでは毎年夏至に大きなお祭り「建国祭」がありますが、明らかにそれを上回る規模のお祭り騒ぎになっています。


 え? クラウド様の生誕祭?


 そんなモノではありません。この騒ぎの原因は、在位34年、御歳57歳の国王クラウディオ・デュマ・セルドアス陛下が35歳の王太子ジークフリート・デュマ・セルドアス殿下に王位を譲るその継承式です。


 王位継承がこんな騒ぎになるとは全く知らなかったですが、セルドアス家が守り受け継いで来たモノの大きさを伺わせますね。まあ継承とはあまり関係ない便乗的な商売が罷り通ってしまうのは問題と言えば問題ですが、王家に対する信頼や親しみが大きいのは事実と言えます。


 王位継承式はレイフィーラ様がイブリックに行く時に使った湖の畔の祭壇で行われました。式は先ず、純白の軍服を着て赤いマントを纏ったクラウディオ様が豪奢な船に乗って祭壇に現れるのです。そしてクラウディオ様が船から降りるとそのまま儀式に入りまして、薄い灰色の軍服を着たジークフリート様に赤いマントと剣、王冠を託すのです。続いて赤いマントを纏ったジークフリート様が船に乗り込みますと船は湖を一週、その間に白い軍服を着たジークフリート様が祭壇に降り立つのです。


 白い軍服が二つある! という突っ込みは脇に置いておきまして――体型が違うことも充分ありえますし――今日行われる儀式はこれだけではないのです。


 午前中に王位継承式が行われた湖の祭壇から場所を移しまして、今は王宮の迎賓区にある石楠花殿の大ホールに来ています。

 立派な玉座のあるこのホールは別名「謁見の間」と呼ばれているのですが、本当の謁見はもっと狭い普通の部屋で行われますので、向日葵殿が出来てからはこういう大きな儀式にしか使われなくなったホールだそうです。

 とっても広いのですけどね。今だって「年越しの夜会」程ではありませんが、沢山の来賓が集まっているのです。王族が全員集合しているのは勿論ですが、上位貴族は直系だけでなく分家まで、子爵家も半数は呼ばれていますし有名どころの商家も招待を受けているようです。

 それから忘れてはいけない外国からの賓客です。敵対国と言えるルギスタン帝国から神聖帝国ゴラ、更には東の大陸一の大国ヘイダール連邦まで、50を越える国から王族やその名代が西の大陸ゴラの西端の国セルドアに集まっているのです。「西の盟主」の名は伊達ではありませんね。

 あ、ルギスタン皇家の代理人を含めて何人かは王位継承式だけで帰ってしまったようですけど。


 そんなトンでもない特権階級の方達が集まって今行われているのは、正妃の指名式です。

 今度正妃になるのは当然レイテシア様と決まっていますが、候補者全員――レイテシア様とララナ様の二人だけ――が前に出て指名する形式が取られています。これは「選んだ」という演出ですね。


 そして指名式が終わるとそのまま就任式に移行して、その後がいよいよ太子指名式と就任式です。


 え? いよいよでもない?


 いえいえ、いよいよです。待ちに待ったと言って言いぐらいです。何故なら石楠花殿での式典が始まってから結構な時間が経過しているからです。

 今日ここで最初に行われたのは、セルドア国王の持つ諸々の肩書きの継承式でした。それが嫌になるぐらい長いのです。「西の盟主」と言うのは通り名ではなく本当に「盟主」の部分がありますから、他国(小国)の現役の国王様まで混ざっての継承式には延々と時間が掛かりました。その後更に、王弟詰まり国王代理官の任命式を経てやっと正妃の指名式に至ったわけですから、紛れもなく、いよいよです。


 ジークフリート様の前で跪いたレイテシア様に、王妃の冠が授けられました。純白のドレスを纏ったレイテシア様からは、いつもの愛らしさではなくて神々しさを感じます。とっても綺麗です。


 ふと思いました。ララナ様は普通の若草色のドレスを着ていますから、純白のドレスを着ているのはレイテシア様一人だけなのです。これでは指名式の「選んだ」という演出の意味がない気がします。白系統のドレスにしたらどうでしょうかね?


 名実ともに正妃となられたレイテシア様がジークフリート様の真横の正妃の椅子に腰掛けて、いよいよ太子指名式が始まります。


 ああなんかドキドキして来ました。……クラウド様は本当に王に成るために頑張っているのですから、指名されないなんてことありませんよね?


 王族の席の横、ホールの端で王族に何か問題があった時対処するだけで基本的に眺めているだけの一侍女が自分の事のように緊張するのもおかしな話ですが、私はそれだけクラウド様に惹かれているということです。


 はっきりクラウド様に想いを告げて以降、たった一週間ですが私はクラウド様の猛攻を受けているのです。

 しかも、今までの遠慮の勝った、逃げたくなると言った私に気を使うような口説き方ではなくて、絶妙な加減で恋情を向けて来られるのです。甘やかしたのは失敗だったと思いつつも、心臓は高鳴り心は踊る一週間を送りました。私の心が完全にクラウド様のモノになるまでそう時間は掛からないでしょう。


 王と王太子以外の王族男性の正装である近衛騎士と同じ黒い軍服。その軍服を纏った継承権のある王族の男性が次々と呼ばれています。呼ばれた方は玉座の前の空間まで出て行きまして、継承位順に並んで跪いていきます。

 一番に呼ばれたクラウド様はちょうど私と反対、ジークフリート様から見て一番手前の一番左にいますから様子を伺うことは出来ません。ああ、お兄様から見えますね。今度どんな顔をしていたか訊いてみましょう。

 あ! お兄様はジークフリート様の斜め後ろでずうっと控えています。面は付けていませんが鎧姿で延々と直立不動ですから大変だと思います。

 因みにお兄様の隣に居るもう一人の近衛騎士様も結構なイケメンです。誰が決めたか知りませんが、顔で選んでいますね?


 次の国王となる方を現国王が予め指名して置くという考えに基づいた地位である王太子は、継承権のある方なら誰を指名しても規則上問題ありません。

 詰まり、正妃と違い王太子の候補者は王族男性の大半なのです。しかもこの場合皆黒い軍服を着ていますから「選んだ」感じは正妃の時の数十倍です。


「それではジークフリート陛下。次代の国王となる太子をご指名下さい」


 これは完全に演出です。王太子を「選んだ」という演出がかなり大袈裟になされていますね。「王位は王に相応しい男子に授けられる」と王室典範にも書いてあるのですから当然ですけど……。

 ただ実際のところ、正妃の息子以外が選ばれるのは稀です。この辺りも私にとって側妃という立場が足枷になる要因です。無理なら無理な方が子供にとっては良い気もしますが、王家としてはそうは行かないのでしょうね。


 ジークフリート様は候補者全員を見渡すような仕草を見せたあと、じっくり間を開け視線を一点に集中させました。


「クラウド・デュマ・セルドアス」

「はっ!」


 確かに呼ばれた名に、覇気のある返事をしたクラウド様。良かったです。

 いえ、「分かり切っているのに無駄な演出でドキドキした」というわけでもないのです。事実として、式典の予定表や公式発表の文の中にクラウド様の名前は一つもありませんし、リハーサルなんかもありません。当日の気分で指名する人が変わったとしてもその方で決定してしまうのです。

 なんて言いつつ、日取りをクラウド様の15歳の誕生日に合わせているぐらいですから、先ずもって有り得ませんけどね。


 その後の王太子就任式の最中、私が全く王族の席に気を配ることが出来なかったのは語るまでもないことでしょう。今世の初恋の人の晴れの舞台でしたしね。多めに見て下さい。まあ誰も文句は言いませんけど。


 兎にも角にも、太子就任おめでとうございますクラウド様





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