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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第三章 惹かれ合う二人
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#73.馬鹿な幼馴染と優しい親友

さて、誰視点?

 前世の私には馬鹿な幼馴染が居たわ。一緒に劇団を立ち上げた馬鹿な幼馴染が。


 名前は橘玲たちばなりょう。長身で優顔の彼は一つ年上のご近所さんだったわね。紆余曲折を経て、というより私に振られてプレイボーイに成った彼が、まともな恋をしたのは前世の私、二見杏奈ふたみあんなが大学二年の時。


 劇団を立ち上げて二年目。軌道に乗り始めた頃、良く手伝いに来ていた一条のお嬢様、藍菜に玲は恋をした。一年近く前から手伝っていた藍菜を好きに成った切っ掛けは良く分からないわ。でも、久々恋煩いに苦しむ玲を横目で見て楽しんでいたわね。藍菜は小柄で華奢な本当に可愛い娘だし、眼の保養になったわ。

 まあ藍菜の方に「杏奈さんと玲さんってお付き合いをしているのではないのですか?」と訊かれた時は驚いたけれど、もっと驚いたのは藍菜が玲のプレイボーイ気質に気付いていなかったことかしら? 「優しい紳士的な方だと思っていました」と言っていたので全力で否定したわ。


 それは兎も角、真理亜さんが抜けて藍菜が劇団に入ったあと、二人は徐々に距離を縮めて行ったわ。ただ明らかに藍菜も気がある素振りを見せているのに、馬鹿な幼馴染は告白一つしない。痺れを切らしてケツを蹴り上げてやったら、色々飛ばしてプロポーズをしたらしいわ。まったく馬鹿にも程がある。藍菜とはその頃既に親友と呼べるぐらい仲良くなっていたから、馬鹿の馬鹿っぷりをたっぷり聞けて良かったけれど。


 ただ藍菜の方はそうは行かないで随分と悩んでいたわ。「普通に告白してくれれば」なんて言っていたわね。「無理に応えないで良い」と一言言ったら、藍菜は「恋人には成る」と玲に返事したみたいね。


 付き合い始めた二人の交際は遅々として進まないモノだったわ。驚くほどにね。会う時間が少ないとか、デートの回数が少ないとか、そんな理由ではないわ。寧ろ劇団の練習の度に顔を合わせるのだから一般的なカップルよりも多かった筈よ。


 理由は三つね。先ずは単純に玲がビビりだったこと。一条家のご令嬢と付き合う時点で尻込みするのは解るけれど、藍菜は普通の女の子だったわ。恋愛ごとには疎くても、ちょっと弱気な優しい女の子。なのにあの馬鹿は手を繋ぐ事すら躊躇してた。まあ藍菜の方は藍菜の方で恋愛ごとに関して無知過ぎる部分があったのだけど……。


 二つ目は、真理亜さんね。そもそも何故この人が劇団に入ったのかは分からないのだけれど……。上森さんは、元々俳優志望の学生を探していて真理亜さんを見付けたと言っていた。そして真理亜さんが高校の後輩である玲そして私を引き込んだのが実際の経緯なのだから、真理亜さんは劇団を立ち上げたかったわけではない筈ね。やっぱり玲目当てだったのだと思うわ。だからあんなことを……。

 話が逸れたわね。退団した時あれだけ揉めたのに、僅か一年で劇団に戻りたいなんて言い出した真理亜さんに邪魔されて二人の距離が縮まらなかったのは間違いないわ。上森さんが何度「君はもう部外者なのだから口を挟むな」と言ったか……。もっと言えば真理亜さんが抜けた穴を埋める為に頑張って、主役として認められ始めていた藍菜がそれでどれ程傷付いたか分からない。


 三つ目は、前世の私。二見杏奈。事ある毎に藍菜は私に対して「杏奈さんは玲君の事が大事ではないのですか?」とか「玲君も杏奈さんの事を大事に思っていると思います」とか、自分の彼氏なのにそんなことばかり私に話す藍菜が積極的に玲に近付いて行くとは思えなかったわ。そして────


 二人が付き合い初めて約一年。なにか凄く不満を抱えてそうな玲にそのことを尋ねると「藍菜が触れさせてくれない」という答えが返って来たわ。「ああやっぱり」と思って、藍菜にその話をしたら「勘当されるから無理」という答えが返って来たの。あれは本当に大爆笑させて貰ったわね。「本気でそんな事を言う親はいない」と言ったら、後日親に確認を取って来たと言うあの子に再び大爆笑したわ。


 やっぱり身体の関係というのは大きいのか、それ以降の2人は順調その物に見えたわ。劇団内でも良い距離感でやり取りする二人を微笑ましく見ていた。


 ただ、そういう相談事をする相手が私しかいなかった藍菜が私に詳しい話をしなくなったわ。いいえ。当時の私はそう思っていたけれど、結果的に言えば藍菜の玲への想いが強くなったわけでは無かった。正確に言えば、どんどん想いを強くする玲に、藍菜は付いて行けなくなった。

 きっと玲は藍菜の初めてを手に入れることによって暴走し始めたのだと思う。「藍菜は自分の想いに応えてくれる」と。元々有った差が更に開いて行ったとしたら藍菜にはどうする事も出来ない。


 そこに追い打ちを掛けたのが、他でもない私。


 見かけ上仲良く成った二人を私は微笑ましく見ていたわ。ただそこに嫉妬が無いと言えば嘘になる。その嫉妬を見抜いたのが他でもない藍菜だった。藍菜は元々私と玲が恋人だと思っていたぐらいで、私達の関係を壊したくないと思っていた。

 だから藍菜は「辛いのなら話して下さい。譲るとかそういうことではなくて、私には玲君も杏奈さんも大事な人なのです」そう私に告げた。私は「藍菜が辛い思いをするだけ」勝手にこう考えて受け流したけれど……。


 それから数ヶ月経って、突然玲が私の元を訪ねて来た。


「藍菜に何を言った!」


 本気の怒りを私に向けていた玲を何とか宥めて話を訊き出すと、私は自分の愚かさを知ることになったわ。「藍菜と玲の気持ちの差に何故気付かなかった?」と。同時に、馬鹿な幼馴染に沸々と怒りが湧いて来て自分を差し置いて説教したわ。「相手の気持ちを考えろ!」って。

 玲はそれを聞いて藍菜の元に行ったみたいだけれど「私はもう玲君の恋人には戻れません。どんな想いを向けられてもそれに応える自信がないのです」そうハッキリ告げられたらしい。


 のちに「杏奈さんに譲るなんて只の言い訳です」なんて言っていたけれど、それは絶対逆だわ。本気で応える気に成ったら応えられた筈。だって藍菜はたった数ヶ月で上森さんの想いに応えてたわ。貴女が上森さんを男性として好きに成ったのはいつ? 付き合い始めた後ではないの?


 その後は多少ギクシャクしたけれど、三人の仲が平常に戻るのにそれ程時間は掛からなかった。一番は藍菜が玲に普通に接していたからね。勿論劇団の活動中限定で。そして同時に私と玲をくっつけようと画策し始めたわ。ちょっとお節介過ぎる気もしたけれど玲の事も心配していたみたいね。


 そして二ヶ月後、藍菜は劇団の団長上森さんと付き合い始めたわ。上森さんが藍菜に惹かれていたのは劇団員の周知の事実で、藍菜さえも気付いていた節があった。ただ玲と交際中だった藍菜を上森さんが奪うような真似をする筈はない。皆舞台袖で溜息を吐く上森さんをただ見守っていたのだから、めでたしめでたしだったわ。他の劇団員には「最初から杏奈と玲がくっ付いていれば良かったの」なんて言われてしまったけれど。

 ただ、藍菜は苦しんでいたわ。私達二人には自分の存在が邪魔なのだと。まあそれは殆どそのままの言葉を真理亜さん……安藤真理亜が言ったからだけれど、私は本気で藍菜の恋を応援していたし、玲も本気で好きになっていたと思う。藍菜も私さえ居なければ玲をもっと好きになっていただろうし、邪魔なのは私だったのかもしれないわ。……そんな事を今更考えても何の意味もないわね。だってもう────


 終わってしまったのだから。






 藍菜が玲を振ってから半年。私の大学の卒業式の日。


「杏奈。僕だけの天使になってくれるかい?」


 乙女ゲームか! という突っ込みを頭の中で入れつつ、嬉しさのあまり高鳴る心臓を止めることが出来なかった私は、


「玲が私だけを見ていてくれるなら」


 以前私が玲を“振った”台詞をそのまま吐いた。


 当然と言えば当然だけれど、この時の私は全く予期していなかった。玲との幸せな時間が残り数ヶ月しかないなんてことを。




答えは……秘密です。ただ予想はし易いと思います。

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