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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第三章 惹かれ合う二人
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#69.告げないわけ

クラウド視点です。

 私が彼女に恋をしたのは一年前。湖の祭壇の式典の時だ。


 レイフィーラをエスコートする為に船に近づいた私は、彼女を視界に捕えて凍り付いた。成長した彼女の姿に目を奪われたのだ。元々美少女であった事は間違いないが、二年の時は彼女を子供から大人へと変えていた。


 淑やかに美しく。


 いや、こんな言葉では生温い神秘的な美しさを彼女は宿していた。着飾るとは正反対だと言える侍女のお仕着せ姿だというのに、私の眼は彼女を捕えて離れなかった。同時に今までに経験した事の無い強い感情が湧き上がって来て、戸惑い混乱し、一瞬自分が何処に居るのかすら解らなくなった。辛うじて式典を壊す事は無かったが、その場で自分の感情を整理する事は叶わなかった。


 その時自分に湧き上った感情が恋情だと気付くのにはそう時間は掛からなかた。私の想いは「クリスに傍に居て欲しい」と言う強い想いだったからだ。ただその強さには恐れおののいた。彼女を私の侍女とすると早々に決めてしまったことを逆に後悔する程。


 ──二人きりで仕事に成るだろうか?──


 そんな思いを抱きながら新年に入って彼女が私の侍女として付いたわけだが……そこは彼女の優秀さに救われたと言うべきだろう。仕事中の彼女は侍女その物で、ものの見事に気配を消すのだ。視界にさえ入れなければその存在を意識することは無かった。


 ただ情けない事に彼女と目を合わせられなくなった。二年前とは全く違う強い想いを持っているのに。いや、日に日に増す想いに押し潰されそうに成っているにも関わらず。と言うべきだろう。


 彼女の一挙手一投足その全てを見ていたい。たった一日の休暇でも彼女が傍に居なければ落ち着かない。笑顔を向けられ心臓が爆音を奏でるなど日常茶飯事。他の男に笑顔を向ける彼女など想像もしたくない。挙げたらキリがないが私が彼女に恋をしている事は疑いようがない。それなのに……。


 そして何より私は、彼女の想いが知りたくてしょうがなかった。


 だが訊けなかった。彼女の想いを知るということは自分の想いを告げることに他ならない。側妃を嫌がっている彼女にそれを告げてしまったら彼女は離れて行くかもしれない。そう思うと決定的な言葉は何一つ告げることが出来なかった。


 そんなもどかしさを胸に半年程が経過した頃。丁度婚約者候補の令嬢達と立て続けに会う機会があって私が精神的に疲れていた頃に、彼女の方に変化があった。仕事中の彼女に視線を送ると直ぐにそれに気が付くようになった。また、普段の立ち位置が若干遠くなった。どちらも些細なことではあるがこちらの気持ちに彼女が気付いたのだと思う。


 これで向こうから何かしら言ってくれれば。


 そんな馬鹿な期待をして更に数ヶ月が経った頃、何が切っ掛けかは分からないが今度は彼女の方が目を合わせられなくなった。

 いや、現時点でも私は碌に彼女の目を見ることは出来ないのだからお互い様なのだが……。兎に角「もしかしたら彼女も」と思ってしまったのは無理からぬことだろう。加えて私は彼女から何かしら言ってくれることを期待してしまった。


 丁度それと同じ頃、王宮では一つ問題が生じていた。


 王太子の就任に先だって私の御披露目をする為デビュタントのパートナーとして向日葵殿の大階段を下りることが決まったのだ。いや、問題はそのパートナーだ。

 候補として上がったのは二人。一人は私の最有力婚約者候補と言われるシルヴアンナ嬢。もう一人が、アントニウス様と婚約しているローザリアだ。


 普通に考えればローザリアにはアントニウス様がいるのだからシルヴアンナ嬢の一択でしかない。だがそうなると、セルドアの次期王太子がイブリックの公太子より先に出ることになる。セルドアの面子としてそれはどうかという話が浮上した。

 更には、シルヴアンナ嬢には従兄弟に同じ年の子爵令息レイノルド・ルアンがいる。又従兄弟の私がパートナーに成るのは不自然なのだ。王家とて「他意はない」と反論することになるだろうが、どうやってもシルヴアンナ嬢を「重視している」という見方は避けられない。

 かと言って、ローザリアを選び一国の太子を押し退けるのも憚れる。


 いずれにしても、多少問題にはなってしまうこの二択に、王族の中でも意見が割れ議論は紛糾した。最終的にはソフィア様の「主役は飽くまでデビュタントよ。パートナーに序列は関係ないわ」の一言でシルヴアンナ嬢に決定したわけだが、エリントン家出身のソフィア様の言でシルヴアンナ嬢を選んでしまって良かったのだろうか?


 それは兎も角、この決定で思わぬ余波が出てしまった。ローザリアが引きこもったのだ。ローザリアは思った以上にこの件を気にしていたようだ。特に私の言動を。


 私はこの件でアントニウス様を押し退ける事に反対していた。ローザリアとアントニウス様が今一つ上手く行ってない事は知っていたが、それを理由に社交でのパートナーを崩すことは出来ない。仲が悪かろうと婚約者は婚約者だ。


 だがローザリアはそうは考えてくれなかった。私が色々知っているとローザリアに伝わっていたのが逆に仇となった形だ。レイフィーラの人質の件では色々動いたのに、自分のことには動かない私に対して疑念を抱いていた。「私は大事にして下さらない」と。「優先順位の問題であってローザリアを見捨てるようなことはしない」と丁寧に説明したら事なきを得たが、危うく誤解されたままローザリアをイブリックに送るところだった。


 この件では彼女には頭が上がらないな。彼女の助言が無ければ気付かなかっただろう。ローザリアの不安の本質に。


 いや、頭が上がらないのはこの件ではなく何も告げずにいたことだ。言うべき言葉を言わなかった私に原因がある。確信は出来ないにしても彼女の想いに気付いていたのにも関わらずだ。……情けない。


 結局私は彼女に何も告げることなくこの日を向かえた。言い訳をするなら「今日のことは私が決めたことではない」だが、これは彼女に告げなかった理由にはならない。怖かったのだ単純に。


 決定的に拒否されるのが。


 恋とはこんなに臆病になるモノなのだな。






 大人数が控え室を使う「年越しの夜会」では幾ら王宮一巨大な建物の向日葵殿でも部屋の数が足りなくなる。ましてや、合わせて三人も上位貴族と王族の娘がいる今年のデビュタントでは、例え公爵令嬢であっても決して広い部屋は充てられない。

 寧ろ狭いと言えるその部屋の扉をノックし入室を許可する声に従って中に入ると、そこに居たのは中等学院で見知った顔、シルヴアンナ・エリントン嬢だ。


「座ったままで失礼しますわクラウド様。堅苦しい挨拶はお嫌いでしょう?」

「ああ構わない。ここには誰も来ないからな」


 相変わらず上から物を言う人だ。いや、彼女の場合幼少期の子供扱いのままなのだ。産まれたのは四ヶ月しか変わらない筈なのだけどな。


「……クラウド様は緊張なさっていないのかしら?」


 対面に腰掛ける私を見ながら質問するシルヴアンナ嬢の声には確かに多少の緊張が孕んでいた。


「しないこともないが、式典には何度も出ている。大きな違いはないだろう? 貴女は珍しく緊張しているようだな」

「当然ですわ。一生に一度のことですもの。お母様やお父様は勿論、ソフィア様も私の支度に協力して下さったのよ? 恥を掻くわけにはいかないわ」


 本当に珍しい。いつも堂々として余裕の笑みを浮かべているこの人らしくないな。


「一生に一度とは限らない」


 睨まなくても良いだろう。現実は貴女だって理解している筈だ。


「何の為に貴方の風避けを買って出ていると思っているのかしら?」

「それは貴女も同じ筈だ。

 それに、最有力なのは事実でしかない。「魔才値、家柄、才知、人望、容姿。どれを取ってもシルヴアンナ・エリントンを上回るクラウド王子世代の令嬢は存在しない」これが貴族での貴女の評価だ」

「家柄以外は探せば居そうなモノだけれど?」


 まあ個人的には容姿と才知、人望には心当たりがあるが……。


「貴方の想い人なら幾つかわたくしを上回るのかしら?」


 なっ! ……昔からやりずらいなこの人は。3,4歳の時から会話で勝ったことがない。本当に言いくるめられてばかりだ。その点クリスはこちらを言い負かそうとはして来ない。どちらとの会話が楽しいが一目瞭然だ。


「誰もそんな話はしていないが?」

「話して頂けなくともそれぐらい分かりますわ。ちょうど一年ぐらい前かしら? クラウド様が恋をなさったのは」


 だから嫌なのだこの人は。ソフィア様並みに核心を突いて来る。しかもソフィア様なら孫に対する加減があるが、この人は容赦がない。


「……誰かに話したりは?」

「するわけないですわ。それをしたら何の為の協定か解らなくなるものね」


 私達はお互い無駄に多い縁談を遮る為に「婚約者候補協定」を結んでいる。仲良くしているように見せかけ二人の縁談が無理に進まないようにする目的もあるのだ。ただ、そのお陰で彼女の取り巻きは彼女が正妃になると疑っていない者が多い。まあいざとなればこの人自身がどうにかするだろうが……。

 ああ、それより後宮の方が噂が広がっているか。まあ実際は何の根拠もない噂話で、後宮なら封じ込めるのも難しくないだろう。


「それよりクラウド様。わたくしと同じ年の侍女見習いで凄く綺麗な娘がいるかしら? 門のところで物凄い美人の娘を見たの。間違いなくデビュタントだわ」

「そもそも私は後宮で生活していないから侍女見習いとは接点がない。貴女の目を引くような美人だとしたら噂になるが、聞いたことはないな」


 まあそういう噂はいつも気にしてないが、三年もあったら私の耳にも入る。


「そう残念ね。中等学院にはいなかったから侍女見習いだとばかり思ったのだけれど……」

「デビュタントでは無かったのでは?」

「わたくしが来たのは五時頃よ。その時間で門の中にいたのだからデビュタントなのは間違いないわ」


 何故この人はそのデビュタントに拘っている?


「デビュタントは高々80人程度。そこまで見目を引くなら階段を下りている間に見付けられるのでは?」

「ならクラウド様も探して下さります? 金髪で青いドレスのご令嬢」


 金髪……クリスか!


「やっぱりあの娘だったのね。クラウド様の想い人」


 それが狙いか。






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