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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
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#6.中等学校と侍女見習い

 女官長のエミーリア様が私を「特殊な立場」と称した理由は二つあります。


 一つは、王太子妃レイテシア様が要請され、王様が命令書を出されて雇われた侍女見習いだということ。

 もう一つは、新年から雇われる侍女見習いの大半が、満12歳の令嬢だということです。


 え? 何で12歳? それは順を追って説明します。


 セルドア王国の一般的な国民は、満9歳の1月から三年間初等学校に通います。これは義務ではありません。家の仕事を手伝う子供も沢山いますし、貴族の親戚や従家、騎士の家などでは侍従侍女として奉公に出すことも少なくありません。また貴族の、特に上位貴族の子女は実家が教育を施す方が多いそうです。


 12歳迄はこんな感じで貴族でもバラバラに過ごすのですが、満12歳になった貴族の子女は三年間中等学校に通う義務があります。ややこしいのがこの中等学校が三種類有ることです。


 1つ目が中等学院。王都の貴族街の真ん中に在る普通の学校です。“貴族の子女には”入試はありません。寮も在りますが、大半は何処かしらの貴族屋敷から通います。

 2つ目がお兄様が入った騎士学校。正確には騎士学校中等部です。騎士学校は王都の中央街の端、貴族街寄りに在ります。王都の区画についてはいずれお話したいと思いますので今は貴族街に近いということだけ覚えておいて下さい。騎士学校は全寮制で高等部の卒業生の大半が騎士に成ります。高等部から入ることも出来るそうですが、試験は魔法学院より難しいそうです。

 そして3つ目が王宮の侍女見習いです。倍率を考えると最難関がこの“学校”ですね。侍女として仕事をしながら徹底した淑女教育を施されるのです。当然座学もあります。割合はそれ以外の方が多いそうですね。住み込みですから寮生活以上に“学ぶ時間”が長いです。


 序でに魔法学院について話しておきましょう。魔法学院は王都の南区に在ります。まあ“外れ”の方だと考えて下さい。高等学校ですから義務ではありません。よって難しい入試があります。特に魔法の試験は厳しい線引きがされる筈なのですが……。兎に角、名前の通り魔法を学ぶ学校です。研究機関も兼ねているそうです。


 そういうわけで私は、3つ上、お兄様と同じ年のお姉様方と同期扱いされることになったのです。あ、同期というよりは同級生ですね。

 因みに最初の三日間は仕事ではなくて後宮の規則と侍女の心得を学ぶ為の研修でした……本当に日本の企業みたいですね。






 後宮に入って二週間が経ちました。王宮と言えども侍女見習いに与えられる部屋に高級な家具などはありませんが、二人で使っても広さは充分です。田舎では滅多に見ない冷房の魔道具も有って、暑い日でも快適に過ごせます。あ、王都エルノアは恐らく亜熱帯に属するので暖房は必要ありません。


「参りましょうクリスティアーナ様」


 朝の身支度を整えた私はルームメイトに声を掛けられました。

 当然三つ年上のそのルームメイトは、薄い桃色の髪と琥珀色の瞳を持った彼女はミーティア・ダッツマン様。あどけない顔をした小柄な彼女は、まだ子供の雰囲気が漂っていますが、将来性充分の美少女子爵令嬢です。少し気の弱い所が気掛かりですが芯は強そうな方ですね。

 残念ながらまだまだよそよそしいのです。最初よりは砕けた話もしているので少しは仲良くなれたと思いますが……。2人きりのルームメイトとギクシャクしたくはありませんからこれは要努力ですね。


「はい、ミーティア様」


 後宮官僚にはお互いの呼び方に明確なルールがあります。身分や年齢、家柄に関係無く、自分の上の階級と同格の人は名前に「様」を付けて呼び、階級が下の人は「さん」を付けて呼びます。侍女見習いは当然一番下の階級なので全員「様」です。皆歳上なのに「様」と呼ばれるのは違和感ありありです。自室の中でまでそうしろとは言われていませんので、ココでは必要ないと思うのですが……。


 日の出と共に起きて手早く身支度を整えて向かう先は、朝の連絡会を行う侍女次長ポーラ様の部屋です。勿論寝室ではありません。次長階級の部屋には執務室がありますので向かっているのはそこです。

 ポーラ様は王太子妃様のお世話をする侍女達のリーダー、班長で、私達2人の教育係です。同期は50人程いるのですが最初は全員が後宮に配属になりました。侍女見習いは皆後宮に配属みたいですね。ま、出入りが大変だから当然ですが。


 現在後宮に住む王族は全部で32人いらっしゃいます。内訳は、6歳未満の子供が8人。6歳以上10未満の子供が5人。お妃様が16人。10歳以上の女性王族が3人です。王宮に住む成人した(15歳以上)男性の王族は6人ですから、王族であることを考えると1人で沢山の女性を囲っているとは言いにくいです。

 話を戻しましょう。6歳未満の王族の方は母親と同じ部屋扱いですので専属の侍女は付きません。よって配属先は24箇所です。全員に2人ずつ配置出来る多人数が採用されているのは「3ヶ月で半分辞める」からだそうです。

 まあ大半が貴族かそれに近い家の令嬢で英才教育された方々ですからね。肉体労働には向かないのでしょう。侍女として大成するのは、自分の部屋は自分で掃除していた私みたいな田舎貴族令嬢でしょうね。


 とは言っても油断していたら置いてきぼりをくらいます。頑張ります!


「今日の予定は以上です。今日も抜かりなく職務を全うして下さい。それからクリスティアーナさん、ミーティアさん」


 朝の連絡会の終わりにポーラ様が私達を呼びました。何でしょう? 朝の連絡会は職務の話しかしない筈なのですが……。私は頭に疑問符を浮かべたまま、ポーラ様を見つめました。


「今日淑女教育はありませんね。午後の妃殿下の散策に同行して下さい」

「「畏まりました」」


 淑女教育は週に一日(6日に1日)休みがあります。私の場合は、座学が皆と別の場所で一対一になるので少し日程が異なりますが、休みは基本的に同じ日になるそうです。

 座学以外の淑女の嗜み講座はマナーを中心にダンスや音楽、刺繍、果ては護身術まで多岐に及びます。なにせ授業時間を早朝から深夜まで臨機応変に使えるわけですから、あらゆる種類の教育が可能なのです。それ以外にも侍女として仕事があるわけですから、中学生の女子としては異様にハードと言わざるを得ません。「半分辞める」も嘘ではないでしょう。






「クリス!」


 その赤褐色のパッチリしたおめめを爛々と輝かせた少女は、私の顔を見るや否や実妹バリのボディーアタックを敢行して来ました。私の周りの同僚の侍女さん達が驚いた顔をしています。王女様の抱擁を受けて私も抱き返します。


「お元気そうで何よりですレイフィーラ様」


 前に会った時は苦しそうな顔ばっかり見ていましたから元気そうなのはとても嬉しいです。顔色も良いですし体調は万全そうですね。


「お外で遊ぶ約束をしてたのにクリス帰っちゃうんだもん!」


 そう言えばそんな事も言いましたね。あの時私は、「治ったら外でいっぱい遊んであげるから今は大人しくしてて」という病気の子供を寝かしつける常套句を使いました。そして王宮から助っ人が駆け付けた時点でお役御免でしたから、レイフィーラ様が全快する様を見ていなかったのです。


 ああ、改めて見ると本当に可愛いですね。物語に出て来る幼いお姫様その物です。本物のお姫様ですけど。


「申し訳ございません。今日は一緒に居られますから」


 腰を落として目線を合わせながらそう言うとレイフィーラ様は破顔しました。はい。笑顔は最高です。まあ、傍に居られるのは間違いないんですが、遊べるわけではないんですよねぇ。






 なんて思っていたものの、私から全く離れようとしないレイフィーラ様に屈して、結果的に手を繋いでお喋りしながらお散歩する事になりました。

 レイテシア様とレイフィーラ様、妃殿下の次男3歳のキーセ様、そしてポーラ様を中心とした侍女陣と一緒に広い広い後宮の庭を散策しているのですが……あの女性はいったいどなたでしょうか?


 バラ園の真ん中に1人の女性が居ます。濃い茶色の長い髪をしたドレス姿の妙齢の女性です。王族だとしたら後宮でも一人で散策することは無い筈ですし、当然侍女のお仕着せではありません。女官はもっと地味な、あんなに身体のラインを強調するようなドレスは避ける筈です。侍女を遠ざけた王族の方でしょうか? それにしては……。


 その女性は此方に気付くと直ぐに歩いてきました。ゆったりとした艶っぽいその歩みからは挑発的な空気を感じます。何か嫌な感じです。


 それに気付いたのでしょう。レイテシア様が歩みを止め、私達もその場に留まりました。


 妖艶と言うのでしょうか? 思わず観察してしまったその方はそんな言葉が似合う容姿の方です。単純な美しさという意味ではレイテシア様やお母様の方が上だと思いますが、それとは違う空気を持った方ですね。まあ、母性を感じさせるその部分は妃殿下が大敗しているようですが。


 いいえ! 断じて違います! 大きさが全てではありません!


「お久しぶりでございます。レイテシア様」


 空気が凍り付きました。女性にしては低いその声も、レイテシア様を見下すようなその表情も、間違いなく妃殿下を挑発するモノだったからです。レイテシア様の顔が硬くなり、侍女達にも緊張感が漂いました。


「久しぶりねモイラ。ベニートは健勝かしら?」


 妃殿下の声が硬いです。というか冷たいです。べニートって……あ!


「愛妾の息子」


 思わず漏れた声が他の人に聞こえて無かったのは僥倖でした。






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