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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第三章 惹かれ合う二人
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#68.王子の恋?

クラウド視点です。

 彼女を見初めた時その容姿に見惚れたのは間違いない。そして、普段の交流会で貴族令嬢達に取るような態度で彼女に接してしまった私はそのことを悔やんだ。

 彼女と上手く交流が図れなかったのが何故そんなに嫌だったのか理解出来なかった私は頭を悩ませ考え込んだ。そして母上に何を悩んでいるかを訊かれると、あったことをそのままに彼女の話をした。


「それは恋よ」


 嬉しそうに言う母上の言葉。私は素直にそれを信じた。確かに「笑顔を見たい?」という質問も「悲しませたくない?」という質問も答えは是であったし、「大事にしなさい」という言葉も受け入れるに充分な感情が私の中にあったからだ。


 だがあれが本当に恋であったかと問われれば今では疑問符が付く。


 出会いから半年後、彼女は陛下の命令で侍女見習いになった。

 母上が何故そんなことを頼んだのかは未だに良く知らないことだが、レイフィーラの友達だとか、私の恋だとか、そんな理由で母上が権力を振りかざすとは思えない。何度訊いても母上にははぐらかされるが、何かしら理由がある筈だ。


 それは兎も角。侍女見習いとして後宮で奮闘する彼女には驚かされてばかりだった。

 最初は何故周りがそんなに彼女を高く評価するのか解らなかったが、ちょっと観察してみるだけでそれは簡単に理解出来た。年齢を偽っているとしか思えない落ち着いた言動に明確な人生設計、常に周囲を和ませる明るい笑顔、自分より他人のことを優先する優しさ、努力することを一切躊躇しない向上心。彼女の教育を担当していた女官達には王子として教育されている私を遥かに上回る知識量があると聞かされた。男爵令嬢がどうやって身に付けたかは疑問だが彼女なら不思議ではない。そんな納得をしてしまう程彼女は優秀だった。


 そんな観察のお陰で私の初恋が後宮で噂になってしまったわけだが、幸い大きく広まる前にお祖母様が止めてくれた。クリスとの噂自体は大した問題にはならないが、今もって婚約者のいない私にそういう噂が立つとどうしようもない行動を起こす馬鹿な貴族も居るのだ。九歳だった私に政略の無い側妃の縁談など馬鹿にも程がある。

 その後、仕事以外の話をクリスとするのは基本的に禁止された。元々仕事中に話し掛けたのは一度だけで、以降は普通に侍女として接していたのだから問題は無かった。もっと言えばレイフィーラと楽しそうに会話をする彼女を見ているだけで満足だったのだ。


 この辺りが恋とは言えない部分だろう。自分に向けた笑顔でなくても満足出来てしまうのだから。


 ただ、翌年。居住区に部屋を移すと、その笑顔すら見る機会がぐっと減ってしまったのだ。無性に寂しさを覚えた私はクリスに友人要請をした。

 いや、自分が恋心を抱いていると思っていた当時の私は、それを告げる積もりでいたのだ。ただその直前で「側妃は嫌だ」と言ったクリスに告白する気には成れなかった。

 クリスは男爵令嬢。男爵令嬢を正妃にするには様々な条件を突破する必要があるが、残念ながらクリスには突破出来ない条件が存在する。それは他ならぬ――――


 魔才値だ。


 厳密には、実際的な魔法の能力に直接関わる魔技能の値だ。明確な規定は存在しないが、魔技能値1しかないクリスが「条件を満たした」とされるのが難しいのは間違いない。

 そして、元々魔法戦士の家系であるセルドアス家は、正妻に魔才値の高い女性を迎えるのが伝統だ。他の条件は無視出来ても、魔才値だけは無視出来ない。もっと言えば、魔才値さえ高ければ平民出身であろうが正妃になった例が歴史上存在する。

 例えば、平民出身で頭抜けた魔才値を持っているクリスのご母堂セリアーナ様も、生まれた時代が違ければ確実に正妃候補として名が上がった筈なのだ。まあ、父上の婚約者は幼少期に政略で母上と決まっていた為そんな話には至らなかったというのが実情だがな。


 いずれにしても、セルドアの王家は魔技能値を重視している。それが1しかない彼女が正妃となるのは、極めて難しいと言わざるを得ない。


 側妃が嫌と言われた直後に彼女に思いを告げることなど出来る筈がない。ただ結果的に良かったかどうかは別にして、彼女が友人要請を受けてくれたことで私の気持ちは思っていた以上に高揚した。彼女と話すことが出来るようになるのが純粋に嬉しかったのだ。年に数回しかなかったが私はその友人としての時間を本当に楽しみにしていた。

 この辺りだろうな。恋心を持っていたと疑わなかった理由は。ただこの時の私はクリスにどう想われているかは全く気になっていなかった。今考えれば恋していたとは言えないだろう。


 ただ、私の気持ちが恋情であると信じていたのは何も私だけではない、周囲も――――。


 友人要請から数ヶ月。場所を一目に付かない居住区の庭に限定しているから、簡単に“事実”は広まらない。私とクリスが親密であるという噂は存在するが、それは非常に限定的だから気にする程でもない。そんな考えの甘さが思わぬ事件を招いた。


 腹違いの弟ウィリアムの母親、側妃のメリザント様が暴走したのだ。


 結果的に何事も無く終わったが、この一件でクリスが側妃に対する忌避感を強めたのは間違いなかった。監禁されたのだから当然と言えば当然だが、彼女の考えは違う。「自分もああなり兼ねない」だ。彼女とメリザント様は全く違うのに何故そういう考え方になるのかは解らないが、側妃を嫌がる理由を増やしてしまったのは本当に失敗だった。


 その後の一年程が平穏だった一番の理由は、正妃と女官長が私に関する噂を徹底的に排除していたからだ。二人は思った以上にメリザント様の一件を重く見ていて、「クラウド王子に関する噂禁止令」なるものを後宮官僚に徹底していた。流石に侍女見習いには通達されていなかったが彼女達の本気が伺えた。


 二人の関係が次に大きく動いたのは、レイフィーラのイブリック行きが決まった時だ。


 彼女関係なしに私はこの決定自体に反対だった。「ハドニウス大公は信用出来ないし、レイフィーラを求める理由が分からない以上交渉は破談にすべきです」そう父上に話したら「ローザリアの結婚は破談に出来ない」と一言で切られてしまった。それでも食い下がったら今度は「お前はローザリアを軽視し過ぎだ」と追い打ちを掛けられた。

 そして、イブリックに嫁ぐのがローザリアであったと決まったのは年齢的に適任者が他に居なかっただけ。そう聞かされた。確かに私の世代の王族は、男は何人も居るが女はレイフィーラとローザリアしかいない。選択肢が無いのだ。その程度のことも考えずにレイフィーラを守ろうとしていた私は、この時からローザリアに余計な心労を掛けていたのかもしれないな。


 ただこの時気付いた。私は酷く限定的なのだ。守りたいと思う相手が。


 レイフィーラとルティアーナ。この実の妹二人は迷いなくそう思う。母上も守りたいと思うが母上を守るのは私では無く父上だ。実弟キーセも大事とは思うがキーセは男だ。自分の身は自分で守らねばならない。その他の王族や後宮官僚、私の身を守ってくれる近衛達。そしてセルドア王国の全国民。程度の違いはあれど私にとって大事なモノである事に替わりは無い。


 しかし、自分の命を捨ててでも守りたいと思うのは実の妹二人と────


 クリスティアーナ・ボトフ。


 彼女を合わせた三人だけだ。そして妹二人はいずれどこかに嫁いで私の近くには居なくなる。だから「彼女のイブリック行きは絶対に阻止する」そう思って動いたが結果的にそれは叶わなかった。


 この時の行動で、周囲は私が彼女に恋をしている事を確信したようだし、私もそれを否定しなかった。そう思い込んでいたのだから当然だ。

 しかし、今にしてみればそれは恋とは呼べないモノだった。恋情が全く無かったかと訊かれれば微かな想いが無くは無かったかもしれないが、極々小さなモノだったのは間違いない。


 何故なら私は今、彼女に恋をしているからだ。




まだ引っ張ります。


2015/10/27まで毎日二話更新します。午前午後で一話ずつですが時間は非常にランダムです。

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