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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第三章 惹かれ合う二人
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#60.恋人未満

 私に対するクラウド様の瞳に恋情が含まれていると気付いたのは、クラウド様付き侍女に成って直ぐ、詰まり今年に入って直ぐのことです。


 初めは当然勘違いかと思いましたし、目を合わせてくれないものですから確信とは程遠いモノでした。しかし、四月に成ってクラウド様の王太子就任が発表されると、状況は徐々に変化し初めました。

 急激に社交の回数が増えたことによって女性に、厳密には貴族令嬢に冷たいクラウド様を良く目撃するように成ったのです。

 ただこれも、最初は無愛想が強く出ているだけかと思いました。クラウド様が無愛想にする相手はなにも、貴族令嬢相手だけではありませんからね。クラウディオ様相手では崩されますが、ジークフリート様や上位貴族のご当主相手でも無愛想なのですから、それほど不自然なことでもありません。縁談を持ち込まれるのが面倒だからそうしている、ぐらいに思っていました。


 しかし、ことはそう単純ではないと思い初めたのは、上位貴族令嬢相手の合同お茶会の時です。

 少し歳の離れた方もいらっしゃいましたが、出席者は皆様正妃候補と言える方々でしたし、人数も高が知れています。上位貴族の令嬢は皆様見目麗しい方ばかりですし、一対一になる機会もある筈です。眼福です。などという私の考えを、ものの見事に打ち砕いたのは他ならぬクラウド様でした。クラウド様は上位貴族の令嬢達を冷たくあしらっていたのです。

 あれを見て無愛想の行き過ぎだなんて思えません。間違いなく拒否です。それでも一切屈せずにクラウド様に挑んで行く逞しいご令嬢は何人もいらっしゃったのには驚き、逆に称賛しました。それは兎も角、これでクラウド様が私を特別扱いしているのはほぼ確定してしまいましたし、恋情があるという疑いが益々強くなりました。

 その後は畳み掛けるように、婚約者候補も毎回袖にし、一対一に成っても一切話し掛けず紳士的ではないクラウド様を見せ付けられる嵌めになったのです。


 そして私には、特にプライベートの私には優しく紳士的なクラウド様。そこに何かしらあると思わない方が異常です。


 知らない方が良い事ってありますね。


 なんとなく気が付いた時点で意識してしまった部分はあったのですが、はっきり態度に現れることは無かったように思います。でもダメです。他人に確認を取ってそれが予想を上回る返事だったりすると、しかも自分が初恋だなんて聞かされたりするともうダメです。意識せずにはいられません。

 だって、クラウド様が私を特別扱い、というか、はっきり女性として扱っている数少ない相手の一人なのは間違いないのですですよ? もっと言えば、クラウド様が女性扱いしている王族以外の女性を、私は私以外見たことがないのです。

 初恋の部分に関しては盛大に異議を唱えますし、まだシルヴィアンナ様という救いが残っています。それから、中等学院でも基本的に女の子には無愛想だと言う情報は人伝に聞いた話でしかありません。更には、クラウド様は未だ明言はしていません。だからハッキリはしていません。


 ですが、意識をしないのは無理です。


 いえ、意識どころではありませんね。情けない事ですが私も目を合わせられなく成ってしまいました。クラウド様も目を合わせて来ないままなのが救いなのですが、向こうもそれに気付いている節も有ってドギマギしてしまいます。


 ドギマギするって……まんま私も恋をしているみたいですね。


 うーん。どうでしょうか? 恋愛関係無しに好きか嫌いかと訊かれれば「好き」と明言出来るぐらいクラウド様とは親しい友人には成っていますし、仕事のパートナーとしてはとても上手くやっていると思います。こんな状態ですが、侍女としての職務に支障は出していませんしね。


 ただ、男性としてどうかと訊かれると……嫌いではないです。


 クラウド様は将来極めて有望な王子様で生活が安泰なのは間違いありません。長身細マッチョのイケメンで、外見は文句の付けどころがありません。剣にも魔法にも秀でていて頼り甲斐のある戦士でもあります。そして、責任感が強くて柔軟な頭も持つ優しい紳士。優しくて紳士なのが私に対するモノだけだとしたらそれはプラスの要素にしかなりませんし……これだけ揃っていたら周りはきっと言うでしょう


「選ばない方がバカ」


 それは理解出来ますし、私だって魅力的に感じます。でもそれだけで恋をするかと訊かれれば答えは否です。「惹かれてなんかいない」と断言出来るわけではありませんが、いえ寧ろ「少なからず惹かれている」と行った方が正しい気がしますが、やはり側妃と言う立場には腰が引けますし、相手からは何も言われていないのです。


 あれ? クラウド様が好きだと言っている気が……うーん。それを単純に訊かれると「今は微妙」という答えが一番適切な気がします。ただ、何か切っ掛けがあれば好きに成っても不思議ではないです。元々顔は好みですし、二人きりなら笑顔も見せてくれますからね。


 え? いや、だからぁ、クラウド様の方は「状況証拠」しかありませんからね?






「単純な結婚への不安感?」


 そうです。マリッジブルーってヤツですね。

 中等学院の制服から部屋着に着替え、ソファーで私の淹れた紅茶を啜りながら私の話に耳を傾けていたクラウド様は、相変わらず目を合わさずに私の言葉をそのまま返して来ました。


「今のローザリア様にあるのは、結婚に対する単純な不安感だと言うのが彼女の周りの侍女の見解です」


 まだ一年近く先の結婚が不安なるというのはかなり深刻な話のような気もしますが、アントニウス様のお茶会主催発言以降、侍女達も注意を払っていましたからね。そこまで見当違いということもないでしょう。


「しかしローザリアは中等学院にも行かず部屋から出なくなったのだ。アントニウス様にお茶に誘われても行かないと言うらしい。明確な理由のない単純な不安感でそうしているというのは説得力がない気がするな。何より本当に結婚するのは一年近く先のことだ」

「確かに一年も先の結婚に今から不安を募らせるとは思えないでしょう。でも一人の侍女の見解というわけではなくて複数の侍女の見方ですから、見当違いということもないかと」


 この半年、この件は後宮官僚が色々と動きまして、ローザリア様はアントニウス様を嫌っているわけではないと分かりましたし、側妃や妾を毛嫌いはしていないことも分かりました。まあ本心を吐露するかと言えばそれはまた別でしょうが、心から嫌っているモノを表に出さないのもまた難しいですからね。我々としては「様子見」という状態にあったわけです。


 ですが、思っていたより早くローザリア様の不安が表に出てしまいました。


「侍女は信頼出来る者達だが、大きな理由がないというのも……何かしら見落としたりはしていないか? ローザリアが傷付くような何かを」

「きっとですが、一個一個は些細なことなのだと思います。例えば、今更ですが自分が愛妾の子だとか、アントニウス様が他の女性にも興味を示しているとか、イブリックがどんな所かとか。あとは、結婚と関係ないですがデビュタントのこととか、中等学院のこととか。色んな不安が折り重なってローザリア様の今の行動に成っているのだと思いますよ」


 マリッジブルーってそういうモノだって言いますし、そうでなかったら何かしら周りに話しているのではないでしょうか?


「……だとしたら一つ一つ解決するなど無理そうだな」

「ですね。一番良いのは相手の男性に不安を取り除いて貰うことだと思いますけど……。

 とは言うものの引きこもったのが四日前ですから、その前に何かしら切っ掛けがあった筈です。引き金になった出来事さえ特定できれば引きこもるような今の状態は解消出来るのではないでしょうか?」


 マリッジブルーは解消出来なくても、このまま放って置くわけにはいきません。


「四日前。場合によっては五日前の出来事か……ん!」


 クラウド様は何かしら閃いたような仕草を見せました。心当たりがあるのでしょうか?


「いや、流石にそれは……どう考えても……」


 珍しくぶつぶつと何か呟いているクラウド様です。


「クラウド様?」

「あ、いや、スマナイ。何でもない」


 何でもないということはないでしょうけど、あまり踏み込み過ぎるのも良くありせんし……。


「あ、もう一杯くれないか?」

「はい。畏まりました」


 クラウド様の斜め前に立って話していた私は、振り向いてワゴンの上でお茶の準備を始めました。当たり前ですが、お茶葉と容器さえあれば生活魔法で何処ででもお茶は楽しめます。

 そしてこういう時です。背中から必要以上の強い視線を感じるのは。というか、本来主の方に身体を向けて作業すべきなのですが、それをすると余計に強く視線を感じてしまうので不作法にも主に背を向けて作業をしているのです。今のところクラウド様は何も言いませんので暫くこのままになるでしょう。


 お茶を淹れた私が、顔を先行させた形で振り向くと、


 ん!


 クラウド様の真っ赤な瞳が私の目に飛び込んで来ました。キラキラ輝いていてとても綺麗で、それでいて強い想いを孕んでいるような。そんな目が私を捕えていました。

 こういうことは最近良くあります。そして少しだけ見詰め合ってお互いに目を逸らすのです。逸らしたあとのなんとも言えない照れ臭い空気がどうにもむず痒いです。


 ……なんか付き合う前のカップルみたい。


 そう思った瞬間顔が真っ赤になったろう私が、そっぽを向いてお茶を差し出し、直後に隣の書斎に逃げ込んだのは内緒の話です。





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