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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第三章 惹かれ合う二人
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#55.金髪

 王都の貴族区や中央区の繁華街、騎士学校の周辺等は治安が良く、昼間なら女性が一人で出歩いていても襲われる心配は皆無と言って問題ありません。また、ド田舎のゴバナ村に犯罪の匂いは全くありません。村中知り合いなのですから、罪を犯したら直ぐ誰の犯行か判ってしまいますしね。


 ただ、その間に在る町や村、道まで治安が良いかと訊かれれば、残念ながら答えは否です。


 ある程度大きな町やゴバナ村と変わらないような寒村ならば、余程のことがない限り昼間女性が一人で歩いても犯罪に巻き込まれたりすることはないでしょう。

 ただそれ以外の場所はやはり、治安は悪いと言わざるを得ません。比べる基準が日本ですからこういう感覚になるのだと思いますが、そういう場所では、「絶対に日中でも一人歩きはするな」とお父様には良く注意されました。多少過保護な部分があると思いますが、これを破って何かあったら目も当てられません。

 だから諦めてベイト伯爵邸に一ヶ月お世話になる。という選択肢が無いわけではないのですが、血の繋がらない義理の伯父の家で流石にそれは気が引けますし、休暇を取った意味があまり無くなってしまいます。


 ということで、私は今ゴルゼア要塞に向かう馬車に乗っています。いえ、ベイト伯爵家の馬車ではありません。王都内で移動するだけなら馬車を出して貰うことが出来ますが、往復十日掛かるゴバナ村は遠すぎです。

 ゴバナ村への足に困った、いえ、実際には全く困ってなどいないのですが、私が使った手段はルダーツへ向かう隊商に同行させて貰うという平民の方が旅をする時良く使う手段です。


 え? 隊商なんか信用出来ない?


 いえいえ。この隊商は大丈夫です。何せ後宮御用達商会の隊商ですから。

 初めからゴバナ村への足に困ることは予測出来たわけですから、後宮を出る前にこの隊商には連絡を入れてありました。ただ勿論、こちらの日程に合わせてくれる筈はありませんから、四日程、いえ、初日にはお兄様に会いに行きましたから三日程待たされることに成りましたし、当然のように、有料です。

 まあなんだかんだで王都で五年弱働いたことになる私には大した金額ではありません。それに当たり前ですが、一から馬車を手配するより遥かに安いので文句を言うモノでもありませんね。実質護衛付きですし。


「イブリックへ行った事がある?」


 目の前に座って私とお喋りしている四十代の男性は、黒く長い口髭が横に伸びクルンと上に巻いた商会の副会長、ベスタ様です。ベスタ様は普段は温厚で好奇心旺盛な方のようですが、交渉事となると一転して切れ味鋭い弁舌をみせる方です。

 というのも、私がこの隊商に合流した丁度その時、飛び込みの商談が行われていまして、子爵様本人相手に丁寧ながら一歩も引かないベスタさんを目撃しました。ユンバーフ様とは方向性が違いますが、この人も凄腕の交渉人です。


「はい。レイフィーラ様の侍女として」

「ああ成る程。ということは帰って来たばかり?」

「はい」

「ん? レイフィーラ様っていつ帰って来たんすか?」


 ベスタ様の隣に座った青年が会話に交ざります。細身で小柄なその青年はベスタ様のお弟子さんでラヒタル様。二十代ですからなんとも言えませんが、会話する限りまだまだ修行中と言った印象です。というか、本当に商会の方ですか?


「十日程前です」

「今回の荷はその一団が王都に持ち込んだ物がたくさんあるのをもう忘れたのか?」

「あ、そっか。イブリックの物なんてそういうのしかねえよな」


 イブリック最寄りの港町キューラルならイブリックからの輸出品が出回っているようですが、エルノアやそれ以外の町でイブリック産の物を見掛けることは殆どありません。陸路は馬車ですからね。当然と言えば当然です。


「まったく……それにしても侍女見習いが人質に付いて行くことがあるのですな。初めて知りました」

「いいえ。私はもう侍女見習いを修了しています。二年前。レイフィーラ様が人質となる前に」


 私が事実を話すと、ベスタ様は探るような眼で私を観察しました。


「……13歳と伺ったが?」

「はい。あと一ヶ月足らずで14に成りますが」


 年齢を訊いただけでまたもや私を観察し始めたベスタ様はそのまま沈黙し、暫くしてから私に笑みを向けました。


「いや、失礼した。てっきり一年目の侍女見習いが仕事に耐えられず帰るところだとばっかり思っていたがトンだ思い違いをしていた」

「いえ。ベスタ様に失礼なことなど一つも」


 失礼なことをされた覚えはありませんよ?


「いやいや。後宮官僚と侍女見習いでは大違いですぞ。貴女方は国の宝だ」


 ベスタ様が軽い口調で言ったその言葉は、冗談にも社交辞令にも聞こえませんでした。セルドアの男性でもそんな風に思う方がいらっしゃるのですね。


「ありがとうございます」


 ここは素直に受け取って置きましょう。私が褒められたわけではありませんしね。


「そう素直に受け取られるとどう返して良いか分からなくなりますな。

 して、話しは変わりますが、貴女のご母堂はもしやセリアーナ・ベイト様では?」


 え?


「はい。今は結婚してセリアーナ・ボトフですが。母をご存知で?」

「ああそうでしたな。我がルドリック商会が後宮と結び付きがあることはご存知だろう? そこで少し話したことがある程度ですな。その金の髪を見た時直ぐに結び付けるべきだった」


 他に全くいないわけではないそうですが私は見たことがありませんし、この国では珍しい金髪を見てお母様を彷彿する方は少なくないでしょうね。


「え? 金の髪だったらいたじゃないッスか。あれはヘイブス領に行った時だから去年か?」

「金髪がいたのはビルガー領だ。あれは明らかに市井の娘だった。彼女とは全く雰囲気が違う」


 あ、本当に他にも居るのですね。具体的な話を聞いたのは初めてです。というか、私はそんなに「市井の娘」と雰囲気が違うのでしょうか?






 こんな雑談をしながら馬車に揺られること五日。ゴルゼア要塞に着いた私は、迎えに来てくれたボトフ家の馬車で二年五ヶ月ぶりの我が家に帰りました。

 ただ、皆で馬車に乗って来ましたので、家族との再会はゴルゼア要塞の前という微妙なシチュエーションでしたが、リリもお母様もお父様もとても嬉しそうで流石に泣かずにはいられませんでしたね。

 因みに最初に泣きそうになっていたのはお父様です。お父様の場合は嬉し泣きではなさそうでしたけど……。


 なんだかんだで二週間しかない実家での滞在期間。今回は出来るだけ家族と一緒に居ることにしました。

 ただ、お父様もお母様も昼間は仕事で一緒にはいられませんし、村の子供ともだいぶ仲良くなったリリも二週間ずっと私と居るわけにはいきません。来年から初等学校に通うわけですから友達との関係を疎かには出来ないでしょう。五歳上の私は邪魔にしかなりませんしね。


 ということで、昔仲の良かった村の友達に会いに行ったのですが……哀しいかな距離が出来ていました。いえ、仲が悪くなったわけではないのですが、明らかに話が合わないのです。正直二年半前もその兆候はありましたが、この二年半で一気に。という感じですね。流石にイブリックから手紙は書けませんし仕方がないのですが、それ以上に正式に侍女となったことが大きいようです。


 残念ながら私は、彼女達から見て遠い人になってしまったようです。では、彼女達が侍女に憧れていたのか? と問われればそういうわけではないのですが、身分の違いを実感してしまいました。自分の選んだ道ですが、寂しいモノは寂しいです。


 彼女達に選択肢がある時代が来るのでしょうか?






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