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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第二章 人質の侍女
47/219

#46.イケメン度

「リューク・ファンローイ様?」


 誰ですか?


「クリスが昨日踊っていた男だ」


 いえ、踊っていた人は沢山居るんですが?


「イブリックで重要な方の中にそんな名前有りましたか?」


 来る前に重要人物はチェックしましたから中枢に近い方なら頭に入っていますが、そんな名前は無かった筈です。イブリックは正直小さい国ですから覚えなければならない方も大した数ではありませんし、忘れたりはしていないでしょう。


「重要ではないと言えば確かに重要ではない。だが今は重要な奴だ」

「勿体ぶってないでさっさと先を言いなさいよ」


 ラフィア様はアブセル様に厳しいです。これは裏返しだと思います。


「覚えて無いか? 長い黒髪で灰色の目立つタキシードを着ていた奴。歳は16」


 ああ、丁度名前を聞いて無かった人だ。良かった特徴を覚えておいて。


「覚えてるみたいだな。まああの顔なら忘れないか。というか名前覚えとけよ」


 はいゴメンナサイ。昨日はあの後も踊り続けていたので訊きそびれました。どう考えてもあの会場で私が一番踊っていた気がしますし勘弁して下さい。お陰で今日は筋肉痛でフラフラです。侍女として肉体労働に慣れていなかったら途中でバテていたと思います。

 それは良いとして、アブセル様。顔ってなんのことですか?


「そんな特徴的な顔でしたか?」

「え?」


 珍しく反応したのはサラビナ様です。彼女は無口というか薄幸系ですね。女性としては体格が良いので気配は薄く無いですけど。


「美少年だったわ。あの中では一番」


 一番の美少年ですか? というか、ちゃんとそういう所を見ているのですねサラビナ様。これは根掘り葉掘り訊きたくなってしましますよ?


「……クラウド様には遠く及ばないと思いますけど」


 ん? 考えてみたら私の周りって美少年が沢山いますね。お兄様にクラウド様、ウィリアム様、ベニート様。キーセ様も一応美形ですね。それから方向性が違いますがルンバート様。父親世代でもイケメンは多いですし、私の基準が異常なのでしょうか?

 いえ、そんなことはありませんね。此処に居る人は毎日王族と顔を合わせているわけですから、皆イケメンを見慣れている筈です。


「やっぱりクラウド様が出て来るのね?」


 なんで嬉しそうなんですかラフィア様?


「皆様クラウド様の方がカッコイイと思わないのですか?」

「いや、それは思うけれど……なんて言うのかしらね。セルドアの王族は手の届かない場所に在るモノじゃない? けれどあの辺りになると一人の人間として見られる感じかしら?」


 元々魔法戦士の家系ですから当然ですが、セルドアは王を神格化していません。なのに間近で見ているラフィア様がそういう扱いをしているのが以外です。確かにクラウド様もジークフリート様もクラウディオ様も序でにソフィア様とレイテシア様も相当な美形でカリスマオーラの持ち主ですが────


「そんなに凄いモノでしょうか? 皆感情のある普通の人間だと思います。それに身近な私達にそんな扱いをされたら王族の方たちが平穏に過ごす事が出来なくなってしまいますよ?」

「雰囲気が全然違うじゃない。普通の、という所には盛大に異議を唱えたいわ。まあでも王族の平穏を守るのは確かに私達の仕事ね」


 いえ、幾らカリスマオーラが有っても普通の人間ですよ?


「そんな事よりあの美少年がどうしたの?」


 サラビナ様はそっちを気にするのですね?


「クリスが奴と踊ったあと凄い剣幕で睨んでいた令嬢達が居た。奴のハーレムの連中だな」


 ハーレム? そんなモノが在るのですか? あ、抽象的な話で実際に囲っているわけではないですね。


「私はあそこまで群がるような男だとは思えないけど、イブリックでは確かに頭一つ抜けているかもしれないわね」

「まだ子供だけどクラウド様世代の上位貴族は美形揃いだから余計霞んで見えるわ」


 ……サラビナ様は美形チェックに余念が無い方のようですね。子供まで抑えているなんて、マニアですね?


「ハーレムの方の怒りを買うような粗相をしましたか?」


 普通に踊って普通に別れただけだと思いますよ? 名前は聞き逃しましたけど。


「いや、そうじゃない。お前を敵視していたから気を付けろと言う話だ。要は嫉妬してたんだよ」

「嫉妬? 普通に踊っただけですよ?」


 あの人は別に私とだけ踊っていたわけではないですよね?


「ええ。貴女はそうでしょうね。でも自分が憧れている異性と楽しそうに踊っている相手には少なからずそう思うモノだわ」

「私はダンスを楽しんでただけで、誰と踊ってても────」

「そこまでは見て無いのよ。都合の悪い所には目は向かないの」


 そう言えばそうでした。

 私は前世で飛び切りの嫉妬心に遭遇した事があります。まああの人は異常な、極めて盲目的な人でしたし、そうでなければあんな事はしないでしょうが……。兎に角。嫉妬に狂った女性の恐ろしさは身を持って体験したことがあります。あの時の感覚や感情を明確に覚えているわけではないのが幸いですね。


「……リューク・ファンローイ様ですよね? 分かりました。出来るだけ近づかない事にします」

「ああ。近づかないのが一番だ。そしてそれを理解した上でこれをどうするかだな」


 アブセル様は懐から取り出した手紙を私に渡しました。


「何?」


 これって流れからして……。


「ファンローイ家からのお茶会の招待状だ。勿論クリスへの」


 ですよねぇ。






 ──出来るだけ近づかない事にする──そう思っててもそう簡単に出来ないモノで、断り切れなかったお茶会へと駆り出されました。

 ファンローイ家はイブリック島西部の水源を管轄する大きな家の一つで国内では有力な家の一つだったのですが、外交とは無関係の水源の管轄ということでノーマークだったようです。

 レイフィーラ様相手のお誘いだったのなら断れたのですが、侍女を招待すると言われたら無下には出来ませんし、駐在文官に「他意は無いだろう」と言われてしまったら波風立てるわけにもいきません。未成年者ということでサラビナ様の同行は許されましたが、不本意にも招待された私です。


「女性を教育する制度ですか?」

「はいそうです。侍女見習いはただの下働きではありません。立派な教育制度です。学問は勿論ですが、淑女として必要な嗜みを学ぶことが出来ます。侍女として働きながらですから大変ですけれど、侍女見習いを修了した女性は素敵な人ばかりですよ」


 以外に知られていないのですね。イブリックにとってセルドアは非常に重要な国ですので、もっと知られているかと思ってました。


「貴女はもうそれを終えていると?」

「はい。まだ一年目ですが今は正式な侍女です」


 私はどうやらレイフィーラ様の友達として来たと思われてたみたいですね。まあこのお茶会の出席者の認識ですが……残らずそう思われていたみたいですね。そこまで驚くことですか?


「確かにご同僚の方々は皆ダンスも上手でしたわね。立ち振る舞いもしっかりしていてとても素敵な方達のようでしたわ」


 壮年のご婦人が褒めて下さいました。この方はファンローイ家のご当主の奥様ヒルベルタ様です。小柄でおっとりした美人さんですね。母子だけあってリューク様と似た顔立ちの方ですが、正直リューク様より美形度合いが高いです。お母様程ではありませんが、セルドアの上位貴族と並んでも遜色ないでしょうね。


「ありがとうございます」


 お茶会はその後、和やかに進みました。リューク様以外は大人ばかりでしたが、粗相をすることなくやり過ごせたと思います。何事も無く平穏無事に終わってなによりですが、大公城に戻る時に奥様が外まで見送りに出て来ました。ご丁寧にお土産まで持って。

 いえ、最初は断りましたよ。ただ奥様から直接「リュークにはわたくしから今後貴女に関わらないように言って置くわ。それからこれはわざわざ来て貰ったお礼なの」と言われてしまえば受け取らないわけに行きません。裏がないことを信じながら。


 ただ、残念ながら私が警戒すべきなのはリューク様本人ではなく彼の周りの女性達ですから、これで一段落というわけではありません。女性の嫉妬は相手の男性の行動と無関係に起きるモノですからね。


 本当に勘弁して欲しいです。





2015/10/27まで毎日二話更新します。午前午後で一話ずつですが時間は非常にランダムです。

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