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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第二章 人質の侍女
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#42.脅しの理由

 船を降りて大公城に向かうまでの間に街で買い出しをしたところ、アントニウス様の侍女さんが言っていた通り、香油も石鹸も現地調達が出来ました。香油の質は今一ですけどね。あんまり質が悪いようだったら送って貰えますから取り敢えず半月使って様子見です。ただ石鹸は良質なモノが揃っていてどれを使うか迷うぐらいです。重いので沢山は持って帰れませんが女性には良いお土産に成りますね。


 なんて話を皆にしたら「来て早々帰る話をするな」と突っ込まれました。


 ですよねぇ。


 来て早々と言えば、大公様とお妃様が来て早々のレイフィーラ様の部屋に挨拶に来ました。ついさっきのことです。レイフィーラ様に用意された部屋は大公城の一角というか一棟なのですが、大公様の部屋からはかなりの距離があるそうです。


 なのにわざわざ来るとはどういうことなのでしょうね?


 間違いなく大事な人質ではあるでしょうが、大公夫妻が来て早々揃って挨拶に来るのは流石に異常な気がします。サラビナ様の「あれはどう考えても脅しですわね」という意見が正解なのでしょうか?

 確かに私もそれを聞いて納得しました。しましたけど、レイフィーラ様が人質になることは外交交渉で正式に決まったことなのではないでしょうか?


 あれだけの戦力ですから当然陛下も了承していることでしょうし……本気でレイフィーラ様を人質に出したくないなら断われたのではないでしょうか?


 そんな話を荷解きをしながら侍女陣でしていると、


「外交交渉で決まったのは確かだが、陛下もジークフリート様も納得しているわけではないぜ」


 近衛騎士のアブセル様が話に割り込んで来ました。彼はまだ21歳ですが、今回一緒に人質生活を送る騎士の中では一番強くて攻撃魔法は勿論治療系魔法にも長けた魔法戦士だそうです。船には一番弱かったですけどね。

 因みにお顔はお兄様の四割引きぐらいのフツイケメンです。正直微妙なラインですが、黄色い髪を短髪にして爽やかなスポーツマンタイプなのでモテないことはないと思います。


「納得していないのに人質として行く事を許したのですか? セルドアの方が立場は上ですよね?」

「だからと言って一方的に何かを押し付けるのは外交ではないだろう? 向こうの要求とこちらの要求をすり合わせてこうなったんだ」


 イブリックがレイフィーラ様を望んだとは聞きましたけど……今の話だと「断れなかったけど脅しはする」みたいな話になってしまいませんか?


「ローザリア様とアントニウス様の婚約がある以上、人質交換は避けられませんわ。問題は誰が行くかと言う話ですけれど、相手が太子を出すと言って来たらそれ相応の人を出す必要があります。

 序列で言えばクラウド様、キーセ様、ウィリアム様それに続くのがレイフィーラ様ですから、吊り合わないのは確かですが、無茶苦茶な要求とは言い切れません」


 あ、そうですね。アントニウス様の存在を忘れていました。でも明らかに吊り合わない人質を要求して相手の怒りを買ったらどうするのでしょうか?


「そもそも、太子をやるから姫を寄越せなんて要求が無茶苦茶な気もするわ。何の為の人質交換なんだか分からない」


 ラフィナ様の意見にも一利ある気がしますね。


「でも結果的にセルドアも同意したからこうなったわけですよね。それでその……あの船団を引き連れて来るのはちょっと狡いというか」


 私が甘いんですかね?


「ああ脅しのことか? あれは違うぞ」

「え? 脅しではないのですか?」


 違うのだとしたらなんなのでしょうか?


「いや、脅しは脅しだろ? ただレイフィーラ様を要求して来たこと自体ではなくて、交渉の時に公国側に色々問題があってな。なにせジークフリート様まで出て行ったぐらいだから」

「ジークフリート様が?」


 トルシア様が顔をしかめています。そんなに異常なことなのでしょうか?


「王太子様がそういう場に出るのは珍しいことなのでしょうか? 賓客をもてなすのは太子様の役割では?」

「いや。出て行ったのは外交官との交渉の場だ。大公相手なら当然だが、一外交官相手に太子が出て行くことなど珍しいどころの騒ぎではない」


 レイフィーラ様の話ではないですが、吊り合わない相手のところに出て行ったということですね。


「おかしくない? ジークフリート様が出て行く程の問題がイブリックにあったのなら、何故交渉が成立したの? 今の話だと破談になっても不思議ではないわ。いいえ。破談になりそうな話だわ」

「それは色々理由があるが一番は相手の外交官に交渉負けしたってことだな」


 今の話だとセルドア側からも相当な抵抗があったと思いますし、絶対的に不利な場面を覆してしまう外交官ですか?凄いですね。


「……お嬢ちゃん。楽しそうだが何かあったのか?」


 え? ああ、また顔に出てましたか?


「その外交官が凄い人だと思いまして。ジークフリート様とも渡り合ったということですよね?」

「……確かにジークフリート様にも負けてはいなかったし、俺が睨み付けても全然応えて無かったようだが、敵だぞ?」


 え? それは違いますよ?


「敵ではありません。だってローザリア様がこの国に嫁ぐのですよ? 私達がそんな意識でいたらローザリア様が肩身の狭い思いをすることに成ります。ましてや脅しを掛けたなら、尚の事私達はイブリックの人達と友好的に接する必要があります。男性は敵味方で物事を考え過ぎです。そして仮にその外交官や大公様が敵だとしても、この国の全員がセルドアの敵に回るとは思えません。仲良く出来る人とは仲良くすべきです」


 勿論警戒するなとは言いませんし、レイフィーラ様は全力で守りますが、だからと言って険悪にする必要はありませんよね?


「クリス。あんた時々本当に歳が分からなくなるわ」

「それは同感ですが、クリスさんの言う通りイブリックは敵ではありません。慎重に行動する必要はありますが、相手に悪意があると決め付けて行動するとローザリア様がご苦労なされることになるでしょう。それは我々侍女の、いえ、後宮官僚の望むところではありません」


 他人から聞いた話だけで相手を描くのはとても危険で愚かなことですからね。先入観はそう簡単に覆せることではありませんが「曇り無き眼で見定め決める」ことが大事です。でもカヤさんみたいな悲恋は御免願いたいです。あのシーンは好きですけど。


「どっちにしてもあの外交官は厄介な相手だし、大公の狙いも分からない。油断するな」






 アブセル様のそんな忠告もあって警戒はしながらも、此方からは出来るだけ友好的に接するようにして一週間が経過しました。第二王子のジラルド様が帰られてからも三日が経ちますが、特筆して大きな動きはありません。

 大公様やその親族との昼餐や晩餐、お茶会等は毎日のようにありますが、事前に希望すれば護衛監視付きで街に出ることも出来ますし、本を読んだり音楽を奏でたり限られた範囲ですが庭を散歩したり、侍女の仕事を含めて後宮の生活と大きく変化した部分は今のところありません。

 まあまだ一週間ですからね。何か問題が起きる方がおかしいですけど。


 ああそう言えば、大きく変化したところもありました。それは単純に、男性が近くに居るという点です。私は全く気にならないですが、ラフィア様とサラビナ様は意識してしまっているようで、船の上では気にしていませんでしたが部屋を出る時は必ず鏡を見てから出て行きます。やっぱり女の子ですね。

 人質に付いて行くと結婚して帰って来ないってこの辺りにも原因が有りそうですね。ただラフィア様が意識しているのは……この話はまた後日。


 そして肝心のレイフィーラ様ですが────元気です。多少人見知りを、特に大人の男性に対して人見知りを発揮してしまった場面はありましたが、あの程度は八歳の女の子には許容範囲です。問題なく挨拶も出来ていますし友好的なムードが作れていますね。

 まだまだ大公様が何故レイフィーラ様を望んだのかが謎ですが、順調な人質生活が始められたと言えるのではないでしょうか?


「失礼」


 ノックがされて侍女の控えの間の扉が開き、アブセル様が顔を見せました。何ですか?


「ユンバーフ・アシュマンが来ている」

「はい?」


 ユンバーフ・アシュマンと言えば凄腕外交官のことですよね? それがレイフィーラ様に何の用ですか?


「何の用ですか? あまりレイフィーラ様には近付けたくはないのですけど」

「いや、レイフィーラ様じゃない」


 は?


「お前とラフィアに話があるそうだ」


 私とラフィア様?






2015/10/27まで毎日二話更新します。午前午後で一話ずつですが時間は非常にランダムです。

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