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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第二章 人質の侍女
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#40.大器?

 セルドア王国の王都エルノア。その南に在る湖エルノア湖の港には今、大衆が詰めかけている。この国の王女レイフィーラが人質としてイブリック公国に赴く際の出発式が行われているからだ。


 その絢爛豪華な式典には「王女が人質に成った」ことを印象付ける役割がある。


 大衆は怒り狂うだろう。


 その愛らしい王女が、


 もし、平穏な人質生活が送れ無かったならば。


 もし、その無垢な笑顔が奪われるようなことがあれば。


 もし、無事この国に帰って来なければ。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆




 予想通りですが、最後に家族やお姉様に会う事は出来ませんでした。そもそもお父様は長いことゴバナ村を開けるわけにはいきませんし、お兄様は魔法学院に進んだばかりです。元々会えるとしたらお母様とリリだけでしたが、忙しくて結局無理でした。

 まあ長めに取って貰った正月休みにどっぷり甘えたわけですから、文句を言えるわけはありません。ただ、女官と侍女として後宮に残ったリシュタリカ様とケイニー様には、昨日たっぷり励ましの言葉を頂きました。ケイニー様は兎も角、リシュタリカ様はこの三年で随分精神的に成長した気がします。いえ、精神だけではありませんね。女の私でも見惚れるような曲線美を持っているのが今のリシュタリカ様です。


 話を戻しましょう。


 レイフィーラ様の同行者の一団は、二百人からなる騎士と魔法使い、十人を越える外交員やその補佐官、親善に赴く第二王子ジラルド様とその近衆計五人、そして私達侍女三人と後宮武官一人という陣容です。


 これは必要数なのでしょうか? それともセルドアの面子なのでしょうか? どちらにしても驚く程の大所帯ですね。


 物々しいとも言えるこの一団は、先ず王都で船に乗って運河を東に進み大河ルドアを目指します。ルドアに出たらそのまま川を下り河口の町ブギまで南下します。そこで大きな船に乗り換えまして海岸沿いに東進します。そしてセルドア南東の港町キューラルから一路イブリック公国を目指すことになります。

 そんな行程でイブリック公国に至るには、三週間掛かるそうです。陸路の方が距離は短いですが、魔法で移動を補助出来る船の方が馬車より速いのです。

 とは言うものの、大人数を乗せて川を上れる程ではありませんので、復路は陸路で四週間弱掛かるそうですね。ただ往路は船旅ですので苦手な方は大変です。薬学は発達していないので酔い止めとかはありませんし、船酔いしなければ良いのですが……。


 人質の期間は一年八ヶ月です。一年半と二年の間で調整して決定したと聞きましたが、えらく中途半端な数字ですね。長いのか短いのかも微妙な数字です。ということで帰って来るのは来年の11月中旬辺りです。


 さて、どんな生活が待っているのでしょうか? 楽しみ九割不安一割ですかね。今世の私はこういう時本当にポジティブです。


 あ、どうやら考えている間に式典が終わったようです。到頭出発です。

 式典が行われた湖の港から桟橋を渡りレイフィーラ様が乗船します。とても立派な船ですね。私も主に続いて乗り込みます。


 うっ。これは……背中から大量の視線を感じました。まあ当然と言えば当然ですけど。


 勿論私はドレス等ではありません。エプロンはしていませんが侍女のお仕着せです。でもこういう公の場ですら侍女は離れられないのです。何せレイフィーラ様は未成年ですから。まあ私もですけど。ただ、侍女で私だけが別の船というのもおかしいので、一緒に乗るしかありません。順番はもっとあとでも良い気がしますけど……。


 近衛騎士様にエスコートされて甲板に降りた私達は、その後直ぐに上の甲板まで移動しました。セルドアの誇る運河は幅も相当ありますから、船も結構な大きさで四階建のようですね。


 その上甲板でレイフィーラ様の後ろに控えながら湖の畔に作られた港を眺めると、そこには実に多くの人が集まっていました。式典が行われる通達はされていましたからそれは当然ですが、その大勢の見物人が、皆一様にレイフィーラ様に対して手を振っています。やっぱり王族って凄いですね。


 レイフィーラ様も右手を胸の高さまで上げてゆっくり左右に振っています。愛らしくも王族らしい品のある姿です。レイフィーラ様も間違いなく成長してらっしゃいます。侍女として嬉しいです。


 そのまま少しして、船が桟橋から離れました。いよいよお別れです。


 残念ながら口に出せる状況ではありませんし、王宮の人達以外知り合いも見えませんが、心の中で言っておきましょう。


 いってきます。





「ああ〜緊張した」

「幾らなんでも緩み過ぎです。レイフィーラ様の前ですわよ」


 ラフィア様がため息を吐きながらテーブルに突っ伏すとトルシア様が窘めます。気持ちは凄く解りますが流石に油断し過ぎです。王族用のこの豪華な船室でも扉の向こうに居るのは近衛騎士様。詰まり男性なのです。「淑女としてあるまじき行為」なんてマナー教室の先生みたいなことは言いませんが、そんな所を見たら「幻滅した」なんて言う貴族男性は少なくないと思いますよ。


「私も緊張したよ。クリスだけだよ全然緊張してなかったの」


 はい? レイフィーラ様が摩訶不思議なことを仰っています。何故私が緊張していなかったと?


「クリスは凄いわ。トルシア様さえ緊張してたわ」


 比較的扉に近い位置の椅子に腰掛け話したのはサラビナ様。騎士家(平民)出身の後宮武官です。武官らしく体格の良い方ですが、黒髪をショートにして黒い軍服を纏うその姿は凛々しく美しいです。


「確かにトルシア様も緊張してたわね」

「あの状況なら年齢は関係ありませんわ。クリスさんが強心臓なだけですわよ」


 いえ、だから何故?


「私も緊張してましたけど」

「嘘ぉ? あり得ないわ。あんなに堂々としてて?」


 堂々としてた? なんかおんなじ様なことを昔言われた気が……あ! 前世の――――。無意識にスイッチが入っていたということでしょうか? 有り得ますね。緊張が度を越して切り替わるのは前世でも経験したことがあります。


「そうだよクリスはとってもカッコ良かったよ」

「ありがとうございますレイフィーラ様。レイフィーラ様も堂々としてらして素敵でしたよ」

「そう? ありがとうクリス」


 にこやかに笑うレイフィーラ様に誘われるように皆自然と笑顔になっています。レイフィーラ様。その愛らしさを少しはクラウド兄様に分けてあげて下さい。


「何はともあれこれから約二年。この五人で生活することに成ります。皆様宜しくお願い致しますね」

「はい。宜しくお願い致します」


 穏やかな笑顔を見せていたトルシア様が顔を引き締め纏めるようか言葉を告げると、私はそれに続きました。残りの三人も声こそ上げませんでしたが、頷き合っています。


 チーム、ですね。中々良い感じです。


 個人的には楽しみの方が多いですが、辛いこともあるかもしれません。ただこの五人なら乗り越えられる。そんな連帯感が産まれた瞬間でした。






 二週間後。


 航海は順調そのもの、とも行かず、いえ、航海そのものは順調なのですが、船に乗っているだけの一部の人達が気分が良いとはとても言えない状態に陥っていまして、“唯一の生き残りの”侍女として王家が外海を航海する時に使う巨大な船の上で奔走する嵌めに成りました。

 川を下っている間は皆なんとも無かったのですけどね。全長百メートルを越えるようなこの船でもやっぱり海は波の大きさが違いました。最初はレイフィーラ様も含めて皆初めて見る海を興奮気味に眺めていたのですが……。ただ、同僚の世話は仕方がないにしても近衛騎士様は騎士様達の方でなんとかして欲しいですね。まあ彼もレイフィーラ様の護衛としてイブリックに滞在する人だと言われたら無下には出来ませんが。

 とは言え、肝心の主がケロッとしていて侍女二人と武官一人の世話を手伝ってくれているのが僥倖です。だけど無理はしないで下さいね?


 そんな感じで航海は進み、レイフィーラ様を送る船団は今日、キューラル出てイブリック公国への航路に入りました。


 確かに、この一団には王太子弟のジラルド様もいらっしゃいますし、直系姫のレイフィーラ様が大事なのも解ります。でも――――


 港に寄る度に膨れ上がった護衛の数が総勢千人以上も居るのです。どう考えても多過ぎです。魔法使いもたくさんいるみたいですし、この船以外の船はどう見ても、軍艦です。


 攻め落とす気ではありませんよね?







2015/10/27まで毎日二話更新します。午前午後で一話ずつですが時間は非常にランダムです。

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