#34.お説教
会いたいとは思っていませんが会いたくないわけでもない。私に丸投げしたお姉様を少しだけ恨みがましく思いながら、私はウィリアム様に会うことにしました。
何処に行けば良いの? そう思った瞬間ソフィア様の「入りなさい」の声で直ぐに正妃の間の居間に入って来たウィリアム様。胡散臭い笑みを浮かべていない彼は、吊り目のクール系美少年です。こっちの方が断然カッコイイですね。まあ正直、私は正統派イケメンのクラウド様の方が好みですが。いえ、一番は大差でお兄様です。爽やかスポーツイケメンは並みではないのです。あ、でもクラウド様が優しく笑ったら互角ですかね。
ん? 話が逸れていますね。丁寧に挨拶したウィリアム様は早速本題に入りました。
「私は知っていたんだ。母上がおかしいことも。暴走気味で兄上を目の敵にしていることも。そしてお前を標的にし始めたことも。なのに誰にも何も話さなかった。済まない。私が母上を止めなかったばかりにこんな事態になってしまった」
へ〜。だからあの時付いて来たのですね? それにしても随分しおらしくなった気がします。雰囲気が柔らかくなった感じでしょうか。母親がこんな事態に陥って沈んでいるのかと思いきやそうでもないようですね。リーレイヌ様と同じで何か吹っ切れた感じでしょうか?
私が目配せをするとお姉様は優しく微笑みながら頷きました。さっきから丸投げですねお姉様。
「誰もそんなことは気にしてませんし、謝るようなこともありません。と言うか、分かっていたという意味では私達もリーレイヌ様がおかしいのは分かっていたのです。止めなかったのが悪いのだとしたら私達も同罪です」
「そうです。それを言うならば、わたくし達後宮官僚達やジークフリート様そして他の王族の方々も皆同罪ということになるでしょう」
私の言葉にエミーリア様が続きます。彼女も女官長として今回の事件を防げなかったことを悔やんでおられます。そして、
「そう。わたくしも同罪。いいえ。後宮を統べる者として察知出来た筈の事件を未然に防げなかった罪は一番重いわ」
後宮の長。正妃ソフィア様も。
あ、因みに男性陣2人は退室しました。忙しいですからね。その際ソフィア様とクラウディオ陛下とのラブラブなやり取りをお姉様と二人でマジマジと見させて頂きました。両陛下は歳こそ50代ですが美男美女ですからね。眼福です。
横にいたジークフリート様? 知りません。今回のことで私の中のジークフリート様の評価は地に堕ちましたからね。まあなんでメリザント様と拗れたかは何となく解っていますが、当事者なのに他人事みたいに言われたら腹は立ちます。
「ソフィア様。それを言うのならば後宮の治安維持の責任者は私です。一番罪が重いのは私でしょう」
「後宮に於ける事態の全ては正妃に責任があるわ」
……妙な言い争いをしないで下さい。
「私は重要な事を隠していたんだ。母上への警戒は兄上に対するモノだと知っていながら、お前を対象にしたことを知っても誰にも言わなかった。本当に悪かった」
ウィリアム様のその言葉には強い悔恨と謝意がありありと見えました。そんなに悔やむようなことでしょうか?
「うーん。そもそも今回の事件って本当にメリザント様が起こした事件なんでしょうか?」
「「「は?」」」
皆が私へと視線を移し、ソフィア様以外が驚きの声を上げました。ソフィア様は堂々としたいつもの微笑で興味深げに私を見ています。
「いえ、例えばリーレイヌ様に対してメリザント様が指示を出していない筈とか、そういう話ではありません。ただこの事件の根底に有るのは、嫉妬とか情念とかそういう感情的なモノでは無くて、もっと体制的な何かのような気がするのです」
「体制的? ……具体的には?」
「そうですね……後宮という存在は王家が存続する上で無くてはならない部分だと思います。でも、側妃にしても愛妾にしても制限が多過ぎると思います。例えば、手紙一つ検閲を通さないと送れないですよね。
勿論王宮の外まで出す手紙は色々な意味で検閲が必要だと思いますけれど、夫に対して書く手紙を検閲されるのってちょっと違うというか、恥ずかしいですし、正直に書けない部分が出て来ちゃう。そういう細かな部分で不満が溜まって行って、今回の事件になったと思うんです。
そうで無かったら、標的に私を選ぶなんてメリットが少な過ぎると思いませんか? メリザント様も本音の部分ではご自分の立場を理解していたのではないかと思うのです」
私が仮に正妃候補というならまだ納得出来ますが、成っても側妃にしか成れない私を標的にする理由は「鬱屈した想いが積み重なって」そんな感じだったのではないでしょうか?
「手紙……確かにそうだわ。その規則はきっと、側妃に嫉妬した正妃が作った規則でしょうね。自分に自信がない正妃が作った」
穏やかに微笑むソフィア様は本当に綺麗に見えました。自信ありありですね?
「……それはそうかもしれないが、私の罪とは無関係だろう?」
拘りますね。いつぞやみたいに誤魔化されてくれれば良いのに。
「前にも言いましたけど、子供は間違って成長するモノです。だから間違っても良いんです」
「お前もその侍女も死んでいたかもしれないのにか?」
あ、そこの部分で拘っていたわけですね?
「そうです。だって私もお姉様も生きてますもん」
そう明るく言い切るとウィリアム様は少し驚いた顔をして沈黙しました。
「偶々かもしれませんが、私もミーティア様も生きていますし元気です。ウィリアム様は間違えたかもしれませんが反省しています。それを次に生かして下さい。だってまだ9歳なんですよ? 成人まで6年も有るじゃないですか」
「もし死んでいたら?」
「仮定の話をしても意味が無いと思いますけど……そうですね。泣いて下さい。悲しんで下さい。皆に謝って下さい。そして────次に生かして下さい。諦めたら、そこで終わりです」
あれ? 丸々した先生のセリフになってしまいました。
「クリスティアーナさんは時折年齢を偽っているかのような話をしますね。ただ、わたくし達からすれば貴女も充分子供です。確かに間違っても良いし、それを糧に成長することは重要なことでしょう。
但し! 危険だと解っていて近づくのは論外です」
え?
「そうです。私に説教する権利は本来無かったのよクリスちゃん?」
ええ?
「貴女に何かあったらセリアーナに顔向け出来ないわ」
えええ?
エミーリア様には論理的に。ソフィア様には有無を言わせず。お姉様には同情心を駆られるように。正妃の間の居間はお説教場と化しました。勿論説教されたのは私です。まあ鬼モードのお母様程ではありませんが、暫くは自重の必要があるでしょう。
ただ、皆本気で怒ってくれたのは逆に嬉しかったです。私は上司や同僚にも恵まれましたね。最後に本人達にそれを言ったら、皆から目を逸らされました。お姉様は兎も角、エミーリア様とソフィア様の照れた顔なんて見られると思いませんでした。
何故かずっと部屋に居たウィリアム様には「変な奴」と一言言われましたけど……なんだかんだで言葉の裏も読めないお子様なんですね。
二年目の夏至休暇も五日目。去年と同じように王国騎士団の馬車でゴルゼア要塞まで来た私は、迎えに来たボトフ男爵家の馬車で家まで帰りました。一年ぶりの我が家には少し目が潤んでしまいました。帰って来たんだぁ。
玄関を開けて元気に言います。
「只今帰りました」
「姉様!」
お馴染みの声が響きます。半年ぶりのリリはだいぶ大きくなっていましたが、相変わらず可愛いです。ただ半年会っていないと一気に成長してしまうので少し複雑です。
妹の少し重くなったボディーアタックを受けて少し嬉しく寂しく思ったりしながら顔を上げると、
「お帰りなさいクリス」
微笑む鬼が佇んでいました。エミーリア様、レイテシア様そしてソフィア様というとんでもない3人からの手紙と言う名の報告書を持った鬼が。
もう勘弁して下さい!
2015/10/27まで毎日二話更新します。午前午後で一話ずつですが時間は非常にランダムです。




