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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
34/219

#33.処遇と処分

 一番驚いたのは、リーレイヌ様もといメリザント様が標的にしていたのは私だったということです。未だに謎多き犯行ですが、それについては皆あまり疑問を挟んでいません。実に不快です。


 クラウド様は私に恋心なんて持ってません! 絶対!


 陛下がクラウド様を嫡子と認定した王族の晩餐会以降、メリザント様はかなりヒステリックになっていたそうです。行動に制限が付いたわけではありませんが、クラウド様が後宮に来る時は皆警戒度合いを上げていました。

 但し、後宮にメリザント様の味方となる人はほぼいません。唯一と言って良いのが彼女に付いている侍女達ですが、側妃に付いている侍女は基本的に権限の少ない普通の侍女です。何か大きなことを仕出かすのは難しい筈。と言うのが後宮官僚の間の共通意見でした。

 だからと言って警戒を怠るようなことはしないソフィア様とエミーリア様は、メリザント様本人にきちんと監視を付けていました。


 そんな中起きたのが今回の事件です。


 事件後話を訊きに行った後宮武官に対してメリザント様は、初め「わたくしは知らないわ。侍女見習い何をしようとわたくしには関係ないわ」とだけ言っていたそうです。メリザント様が指示を出した証拠は全くありませんからね。実際後宮武官さんも「何か知らないか?」としか聞けないのです。

 ただ、そこで引き下がるようなら後宮武官の名折れ。クラウド様のことで揺さぶりを掛けられたメリザント様は到頭「わたくしはダッツマンを狙えなんて言っていない」と口走ったそうです。その後は流石に黙秘を貫いたそうですが、事後処理を任されていた武官次長は、標的が私であったと結論付けました。それはお姉様の証言と照らし合わせた結論だそうです。


 私は動機にならない!


 と一応抗議しました受け入れられず仕舞いでした。どうにも友人要請以降そういう勘違いが後宮内で罷り通っている気がするのは気のせいでしょうか?

 ただそうなると、メリザント様がそれを信じて犯行に及んだということになって、辻褄が合ってしまうんですよね。


 え? その場に居合わせたわけではないのにメリザント様と武官さんのやり取りを良く知ってる? その質問はナビス様にして下さい。


 それからお姉様はどうやら「貴女が来ないならクリスティアーナを誘うから別に良いわよ」と脅されて付いて行ったようです。

 これに関しては説教させて貰いました。脅されたにしても誰かに告げてから付いて行くなり、多少騒ぎを起こすなり、場所が後宮で彼女達の味方がそれほどいないことぐらい分かっているのですから「何かしら痕跡を残すように」と。まあお姉様が無事だった安心感から先に泣き出してしまったので説得力は無かったでしょう。

 お姉様は最後に「クリスちゃんを悲しませるようなことは絶対にしない。だからクリスちゃんも無理はしないで」と言いました。それを聞いた私がお母様の雷の心配をして戦々恐々としてしまったのは、また別の話。


 あ! お母様がこの事件の詳細を知ることはないですね。なにせ後宮の中だけで起きたことですから。僥倖です。


 話を戻しましょう。メリザント様の標的が私だったのなら、リーレイヌ様が私からお姉様に勝手に標的を変えたということに成ります。その理由は全く分かっていません。他ならぬリーレイヌ様が何も話さないそうです。

 最終目的が何だったのかも分かっていませんし、私にしようとしようしていたことをお姉様にしたのか、それとも全く別のことをしたのかそれすらもハッキリしていません。

 そもそも、クラウド様を標的にするなら殺害というのが最も説得力がありますが、私を標的にして人質にでもする積もりだったのでしょうか? それでクラウド様の嫡子認定が解ける筈はないのですが……。


 事件のあらましはこんな感じです。ハッキリ言って、メリザント様の目的を中心に、計画の詳細など殆ど何も分かっていません。

 ただ、残念ながらリーレイヌ様達は私とお姉様を立ち入り禁止区域で監禁した現行犯です。動機はハッキリしなくてもそれは事実として認定されています。せめて牢ではなくて普通の部屋なら誤魔化しが利いたのですが、どうにもなりませんでした。当然そうなると、リーレイヌ様達は処分を受けることになったのです。


 侍女見習いを辞任するという処分を。


 私もお姉様も気絶させられただけで外傷は有りませんでしたし、リーレイヌ様達も含めて職務放棄をしたとも言えません。監禁は重罪ではありますが、次期王太子というデリケートな問題も孕んでいて、罪人として罰するのは待ったがかかったということです。短期間でゼオン子爵家にも根回しがされたようですしこの処分に関して今後何かしら動きがあることはないでしょう。


 リーレイヌ様達は、事件から一週間後ひっそりと後宮を去りました。最後に一目だけ見たリーレイヌ様は流石に笑顔ではありませんでしたが、憑き物の落ちたようなすっきりした顔をしていました。お話は出来ませんでしたが前を向けているならそれで良い気がします。


 そして、後宮で目下一番の問題となっているメリザント様の処遇ですが――――






「実家病療ですか? 側妃様なのに?」


 ソフィア様が仰られたことをそのままおうむ返しにしたお姉様。まあ聞き返したくなる気持ちは解りますが、もう少し考えてから発言しませんか?


「実際には離縁よ。メリザントが後宮に戻ることは先ずもってあり得ないわ」


 容赦無く言い放ったソフィア様の声と顔には、少しの憂いと後悔とそしてたくさんの怒りが含まれています。たぶんこれはメリザント様に対するモノだけではないでしょう。


「離婚はなさらないのですか?」


 正妃は離婚出来ませんが側妃は離婚出来ます。まだ30歳で子供を産める身体であるメリザント様を欲しがる貴族家ぐらいあると思います。ルセデイア侯爵家と繋がりも出来ますし。


「継承権を持った子供の居る側妃が離婚するのは中々難しいのよ。侯爵家からも離婚の申し出は来ていない。それに、仮にウィリアムが王太子の位を継いだとしたらその時生母が王と離婚していたら色々面倒だわ」


 ……やっぱり側妃って中途半端で報われ難い立場ですね。侍女見習いの中には側妃狙いで王子様に近づこうとする方がそこそこいるのですが、現実を知ってしまうとそんな気は失せるのではないでしょうか? そういう方の大半は実際半年以内で辞めて行きますし。まあ辞める理由は様々ですけど。


「政略上の問題もあります」


 突然会話に入って来たのは挨拶を交わしたきりずっと黙っていたエミーリア様です。流石のエミーリア様もこの状況では殆ど発言しないのですね。


 と言うのも今この状況、実はスゴいんです。ソフィア様とお話しているこの部屋はなんと、正妃の間の居間なのです。


 え? 応接室ではありませんよ? 正妃の間の“居間”なのです。

 国王陛下すら滅多に立ち入らない完全プライベートな空間です。そんな部屋に今ソフィア様は勿論エミーリア様。更にはクラウディオ陛下そしてジークフリート王太子殿下が集合しているのです。何ですかこの陣容は? しかも私達が座っているのにジークフリート様は立ったままなのです。皆で集まる必要は無い気がするのですが……。


「政略上ですか? 王家とルセデイア家の?」

「細かいことは気にするな。要はルセデイアにも離婚させたくない理由があるということだ」


 訊くなということですね。解りました。


「なんか複雑です。夫婦なのに離れて住んでいて、いえ、会うことが出来なくて、しかも離婚も出来ない。いくら貴族でも、政略結婚でも辛い気がします」


 私の同情的な意見に女性陣はほぼほぼ同意的な空気を見せました。それに対して、


「自業自得ではあるがな」

「自分がそういう立場であることを理解出来ていなかったからな。メリザントは」


 男性陣はメリザント様に否があるとお考えのようですね。ただクラウディオ様なら兎も角ジークフリート様がそれを言うのは間違いです。ここはハッキリ意見を言わせて貰います。


「それは理解させなかったジークフリート様にも原因が有ると思います。側妃だって奥さんなんですからちゃんと向き合うべきです」


 女だけのせいにするな! と叫びたいですが自重して置きます。貴方が立たされている意味を少しは考えてから発言して下さい。


「クリスちゃん」


 私がヒートアップするのを感じ取ったのでしょう。お姉様が私を制止するような手つきをしながら、心配気な声で呼びました。大丈夫です。頭の中はそれほど熱くなっていません。


「ふふ。だってジークフリート。どうする?」

「どうすると訊かれましてもメリザントはもうどうにもならないでしょう?」


 あ、なんかクラウド様とレイテシア様のやり取りと一緒だ。


「確かにメリザント様はどうにもならないかもしれませんがモイラ様は? 放って置かれるのですか?」


 ナビス様によるとメリザント様ほどではないにしてもモイラ様も放置状態にあるそうです。だったらなんで愛妾なんて後宮に入れたんだ! とも思いますが、追い出すことも選択肢に含めてちゃんとして下さい。継承権は無いにしてもモイラ様の長男ベニート様も王族ですから、追い出すのは中々難しいでしょうけど。


「ふっ。クラウドも大変だな」

「そうかしら? 楽しいじゃない」

「他人事ならな」


 私の「ちゃんとしろ!」発言に何故か楽しそうに笑う両陛下です。ジークフリート様は考え込んでしまいました。生意気と怒られないで良かったです。

 因みにここまで私の言いたい放題が許されるのは正妃の間の“居間”だからに他なりません。最初にそう前置きされていなければここまで言いませんよ?


 その後お姉様を交えて両陛下と少しお話をしました。そして解散のような空気になった後、ソフィア様はこう切り出しました。


「実はもう一人呼んでいるわ」


 え? もう一人? 事件の当事者はもう居ない筈ですけど……。


「会いたく無いなら帰すけれど会いたくないかしら? ウィリアムには」






2015/10/27まで毎日二話更新します。午前午後で一話ずつですが時間は非常にランダムです。

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