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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
31/219

#30.お姉様を探せ

「お姉様。ミーティア様を朝から見ていないのですが、何かご存知ですか?」

「ミーティア? あ、桃色の髪の…そう言えば、手伝って貰う約束だったわね。一度も見かけて無いけれど──誰か見たかしら?」

「──いいえ見ていませんわ」


 パトリシア様の問いかけに、その場に居た全員が首を横に振りました。


「レイテシア様からは何も連絡は無かったわ。約束を反故にするような子なのかしら?」


 お姉様は遅刻や寝坊をする人ではないので何かしら他に理由がある筈です。パトリシア様に連絡が行ってないとすると侍女の仕事で何かあったとは考え難いですし…。


「ミーティア様に限ってそれは有り得ません」


 お姉様は一方的に約束を破るような真似は絶対にしません。誠実で優しい人なのです。一年同じ部屋で暮らしていればこれぐらいは分かります。

 逆に言えば今の状況が異様です。連絡無しにお姉様が来ないなんて本当に嫌な予感しかしません。刺繍に夢中になっていてお姉様が来ていない事に二時間近くも気付かないなんて妹失格です。


「……なら様子を見て来てくれるかしら?」


 断言する私を少し驚いたように見ていたパトリシア様は、少し考えてから私に指示を出しました。


「畏まりました」

「体調が悪いようなら休ませてあげなさい」

「はい」


 急ぎ足で去年一年間使っていた私室に向かいましたが、鍵が開いていて中はもぬけの殻でした。

 侍女見習いには私室の鍵が配給されません。要するに「高価な私物を私室に置いて置くな」という暗黙のルールなのです。それは兎も角お姉様は居ませんでした。鍵が開いている時点で嫌な予感しかしませんでしたが予想通りです。


 そして、王太子妃の間を訪ねても、


「クリスティアーナさん? どうなさったのですか?」

「ミーティア様は居ますか?」

「ミーティアさんなら朝食のあと菊殿に向かいましたよ。ご一緒ではないのですか?」


 当然の様にお姉様は居ませんでした。


「今朝から一度も菊殿には来ていないのです。菊殿に向かったのは間違いありませんか? お姉様が何か勘違いをしていたとか?」

「本人が菊殿に行くとハッキリ言っていたから勘違いとかはないでしょう」


 だとしたら余計に嫌な予感がします。後宮は、外からの悪意に対しては十二分に守られている場所ですが、その分内側の悪意には脆い部分がありますからね。と言うか、お姉様はチョット抜けている部分の有る方ですから心配です。自己防衛の意識が低いのです。いえ、普通に後宮で生活している分には殆ど必要ない意識なのですけれど……。


「ミーティア様をお見かけしたら菊殿まで連絡を下さい」


 そうポーラ様に言い残した私は、先程以上の早足で一度菊殿に戻りました。増々湧き上がって来る悲観的な考えをどうにか打ち消しながら。






 パトリシア様に報告をした私は、許可を貰いお姉様を探すことにしました。菊殿と本殿の間に居た人に手当たり次第「桃色の髪の侍女を見ませんでしたか?」と訊きまくったわけですが、一人もお姉様を目撃していないようでした。

 そしてその後は闇雲に探し回っても仕方がないということで、侍女が良く使う食堂やお風呂場又は焼却炉や洗濯場はたまた正門など、侍女が訪れることの多い場所で訊き回ったわけですが……。


 どうにも手詰まりになった頃、本殿の近くで声を掛けられました。


「クリスさん」


 振り向くとそこに居たのはナビス様でした。ナビス様に「さん」と呼ばれるのは毎回違和感があります。一年経っても慣れませんでした。


「はい。何でしょうか?」

「焦っても成果は上がらないわよ? それに、少しは先輩を頼ったらどうなのかしら?」


 焦っているのは確かですが、只の予感で動いてるだけなので先輩を頼ることではありませんよ?


「私的な事とか考えているわね?」


 わ! 心の声がダダ洩れですか?


「図星って顔ね」

「……でも何があったかはまだ分からないですし。私が勝手に捜しているだけで私的なことには変わらないかと」

「何が起きているのかわからない。その時点で後宮では問題なのよ。

 それに、貴女のお姉様は私達の可愛い後輩なのよ。貴女もね。そして可愛い後輩の為には一肌も二肌も脱ぐわよ?」


 笑顔でウィンクをしたナビス様。妙に似合います。ナビス様は、身長はそれ程高くないですがスタイルは抜群で、少し吊り目の姉御肌美人です。しかし、アラサーで独身なのです。勿論これは本人に禁句です。セルドア王国は結婚が早いですからね。行き遅れどころの騒ぎではないのです。

 とは言え頼もしい援軍です。ナビス様はこのまま後宮に居続ければ確実に侍女長に成ると言われていて、異様な程人脈の広い方ですからね。


「はい。お願いします」

「相変わらず良い返事ね。貴女のそういう所は本当に好きよ」


 優しく笑い掛ける顔は本当に綺麗で何故結婚出来ないかが不思議です。いえ、多分する気がないのでしょうね。






 焦ってもしょうがない。でも心配ですお姉様!


 そう思いながらナビス様の情報網に頼らせて頂きました。そして――――結果浮かび上がって来たのは、実に意外な人でした。


 真っ青な髪を短く切り、赤褐色瞳を鈍く光らせる整った顔の少年。確か誕生日はもう過ぎていますから、9歳に成ったその男の子は、人好きのする、いえ、胡散臭い笑顔を常に浮かべている王子様です。

 そう。ナビス様の情報網に引っ掛かったのは、


 ウィリアム・デュラ・セルドアス様


 現セルドア王国王太子ジークフリート様の側妃メリザント様の長男です。

 勿論、ナビス様の情報源はウィリアムご本人ではありませんが、主が敵対する可能性がある陣営の人から簡単に情報を引き出しているナビス様の手腕は、見事としか言えません。そう本人を誉めたら「情報は力よ」とニヒルな笑みを浮かべていました。敵に回してはいけない人です。


 さて、肝心のウィリアム様ですが、情報源の侍女さんに仲介して頂き、なんと本人に直接話を訊きました。いえ、習慣的にしないだけで会話や質問が禁止されているわけではありませんよ? ただ私達侍女見習いは、ウィリアム様のように直系に近い方と話すのは最小限に留めるよう“指導”されているのです。今はそんなことを言ってられる状況ではありませんが。


 そうしてウィリアム様とお話したら「桃色の髪の侍女見習いなら他の侍女見習い三人と一緒に蓮殿の方へ行った」とのことでした。蓮殿と菊殿は本殿を挟んで全くの反対側です。しかも、侍女見習い三人。それを聞いた私は戦慄を覚え、次の瞬間蓮殿へと足を向けていました。ただ、


「ウィリアム様はお帰り下さい」


 何故かウィリアム様も付いて来たのです。半分走っている私が帰るように促しても、一切帰る素振りを見せません。……何の積もりでしょう?


「確かに蓮殿の方に行ったが、目的が蓮殿だとは限らないぞ」


 私の言葉は無視ですか?


「ウィリアム様はお帰り下さい。王子様を巻き込むわけにはいきません」


 よりによって侍女も付いていませんし、何で付いて来るのですか?


「お前は本殿の侍女だろう? また迷子になるぞ」


 ぬぬ。本人が忘れていたことをわざわざ覚えているとは質の悪い人ですね。


「迷子になったのはあの時一回だけです。それに今はレイフィーナ様付きですから百合殿です」

「どっちにしろ蓮殿とは反対側だし、一回でも迷子になったのは事実だ」


 ……どうしても付いて来る積もりのようですね。


「何があっても責任は取れませんよ」


 そもそも責任の取りようがないです。侍女見習いの職を辞したところで大した意味はありませんしね。


「主に何かあって責任を取るのは侍女だろう?」

「私の主はレイフィーナ様です」

「……まあ良い」


 何に納得したか分かりませんが、ウィリアム様はその後何も言いませんでした。





2015/10/27まで毎日二話更新します。午前午後で一話ずつですが時間は非常にランダムです。

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