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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
序章 出会いそして~
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#2.銀髪の王子と金髪の天使

本日4本更新一本目。次は20時です。

 二日前の昼前、突然騎士が我がボトフ男爵家の屋敷に来ました。


 いえ、我が家は屋敷とよべるほど立派な家ではありません。でも、ド田舎なゴバナ村で考えれば納屋と馬屋、蔵まである立派な家です。日本だったら古くからある農家さんって感じですね。母屋の大きさもそんな感じです。


 ゴバナ村はゴルゼア要塞から単騎駆けで一時間足らずの場所に在る小さな山裾の農村ですから、騎士が訪ねて来るのが珍しいということはありません。ただ普通は、食料や燃料を売ってくれとか、ちょっと休憩させてくれとか、至って平和な用件で、今回みたいに「要塞に人を寄越してくれ」なんて話は初めて聞きました。物心つく前からゴバナ村で暮らすお祖母様でさえ、初めてだそうです。

 そんな特殊な要請に応じて要塞に赴くと、なんとこのセルドア王国の王女様が熱病を患ったと聞かされました。他にも熱病を患った人がいて、私は得意の生活魔法を使って王女様の看病をする事になったのです。集まった女性達の中で歳が一番近かったですからね。只今「可愛い王女様を看病して仲良くなっちゃおう作戦」を実行中です。


 幸い私には前世日本で生活していた記憶があります。今まではお菓子作りぐらいにしか役に立たなかった知識ですが、今回は少し役に立つかもしれません。勿論診断なんか出来ませんし感染症なら私が危ないかもしれませんが、放って置く方が危険な気がするのです。これはただの勘です。一切根拠はありません。


 しかぁし! 断固として主張します。そんな事よりも目の前で苦しんでる王女様を助けることの方が、ずっとずっと大事なことなのです!! 






 少し乱れた髪を直し扉に近づくと、ノックもされずに突然扉が開きました。その向こうに立っていたのは――――


 キラキラ王子様?


 サラサラな銀髪を肩までのばした、将来有望そうな綺麗な顔をした私より小さな男の子でした。男の子だから同じ年か一つ下ぐらいでしょうか? ただ何より目についたのは、


「綺麗な眼」


 パッチリ大きな真っ赤なおめめてす。彼は、私が中に居るとは思ってなかったのか、ドアノブを持ったまま部屋に入らず固まっています。私の呟きは耳に入らなかったのでしょうか?


「あのぉ……王子様ですか?」


 王子様もいらっしゃると伺っていましたので間違いないと思います。だってキラキラしてるし!!


 ……思考が幼児化しているのは気のせいでしょうか?


「え? あ……ああ」


 王子様は答えながらそっぽ向いてしましました。なんでですか? 何故だかぶすっともしていますし、何か粗相をしましたか?


 あ! 自己紹介しないで相手の身分を訪ねてしまいましたね。しかも相手は王子様。これはマズイでしょうか? お母様を目標に外見も内面も美しい女性を目指して頑張っている筈なのにまだまだのようです。


「私レイテシア様からレイフィーラ様の看病を仰せつかっている者でクリスティアーナ・ボトフと言います。宜しくお願い致します王子様」


 名乗ると同時にスカートをつまみ上げ、お母様の見よう見まねで練習している淑女の礼をしてみました。まだまだ拙いです。要修行です。


「王太子ジークフリートが第一王子、クラウド・デュマ・セルドアスだ」


 ……何故そっぽを向いたままなんでしょうか?


 あれ? 耳が赤いです。クラウド様も熱病ですか? だとしたら早く休まなければいけません。


「失礼します」


 一歩近付いてクラウド様のおでこに手を伸ばします。最初は上体を引いて私の手を避けようとした王子様ですが、直ぐに私の意図に気付いたようで、素直に受け入れてくれました。


「うーん。熱は有りませんね。身体がダルかったり重かったりしませんか? あ! ドアを開けて置くのは良くないですね。入って下さい」


 私が部屋に導くと王子様は無言のまま部屋に入って来て扉を閉めました。


 ……無口な方なのでしょうか? それとももう嫌われてしまいましたか?


「体調は大丈夫ですか? 四人も罹っている方がいるのですから気を付けて下さいね」

「問題無い」


 王子様はボソッと応えてくれました。レイフィーラ様が寝ているので私も声を抑えていますが、王子様の声はそれより遥かに小さいものでした。そう言えばさっきの自己紹介も随分と小さい声でしたね。


「ここには何を? レイフィーラ様のご様子を見にいらしたのですか?」


 王子様は照れているのか私の問いかけに少しだけ首を縦に振って答えます。他に理由が考えられませんし、間違いないでしょう。優しいお兄様なのですね。私も今世では3つ上のお兄様が居ます。お兄様に優しくして貰えるのはとても幸せです。勿論お兄様に限らず家族皆優しくしてくれますが、中でもお兄様が一番私に甘いです。少しシスコンだと思います。


「なら手を洗って頭巾とマスクをして下さい。弱っているレイフィーラ様が更に別の病気にかかったら大変です」


 医療技術は然程発達していないこの国ですが、食事前に手を洗う習慣があるのが救いですね。


「ああ」


 無愛想な方なんですかね? 表情筋が動いていません。


 魔法で出した水で手を洗って貰い頭巾を被った王子様ですが、マスクに苦戦中です。意外に不器用なのでしょうか? 後頭部に手を回すと紐が結べないようです。因みに頭巾は侍女が良く使う物ですが、マスクは綺麗そうな布に紐を付けた手作りです。


「貸して下さい」


 王子様の後ろに回り込み紐を受け取ります。


「ん」


 王子様が妙な声をあげました。


「どうかしましたか?」

「なんでもない」

「着けますよ。痛かったら言って下さい」


 力加減をしながら後頭部でマスクの紐を結びます。


「大丈夫ですか?」

「ああ。ありがとう」

「どういたしまして」


 ん? 今マスクの下で笑いませんでしたか? 案外人見知りなだけかもしれませんね。


「ではどうぞ。たぶん起きないと思いますが」

「顔を見に来ただけだ。別に構わない」


 やっぱり無愛想にそう言った王子様は天蓋の中へ入って行った。


 人見知りで照れ屋さんなキラキラ王子様? 見た目の割に物語の主役とかには成れなそうな方ですね。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ゴルゼア要塞に入ってから丸二日以上会っていなかったレイフィーラの顔を見に「あまり近づくな」と言われていた妹の寝室を訪ねる。寝ていると思っていたので音を立てないよう扉を開けた途端、私は絶句した。


 光の当たり方で白くも見える背中まで真っ直ぐに伸びた淡い金髪は、少し動く度に軽やかに揺れる。パッチリした瞳は吸い込まれそうになるような深い青。白磁の肌は彼女の華奢な身体をより一層脆く儚く見せていて、村娘が着るような綿の白いワンピース姿は逆に彼女を神秘的に魅せている。


 天使。


 ありふれた表現だが純粋にそう思った。後から考えたらこの時点で私は彼女に囚われていたのだろう。それに加えて、彼女は「綺麗な眼」と呟いた。媚を売って来る貴族令嬢にすら気味が悪いと言われる私の赤い瞳。彼女は最初にそれを「綺麗だ」と言った。この時は只その発言に驚いていて何も言い返せなかったが本当は嬉しかった。礼を言うべきだっただろうか?


 だがその後はがっかりした。結局「王子様」に興味を持っただけだと思ったからだ。堅苦しい挨拶には辟易していたし、馴れ馴れしく身体に触れて来る令嬢も少なくない。レイフィーラが近くに居なかったら声を荒げて拒絶しただろう。ただ、スカートを摘み上げてした淑女の礼は大人のそれに見えてビックリしたな。


 しかし、予想に反して媚を売って来なかった彼女はレイフィーラを本気で心配しているようだ。そして、生活魔法とは言えこの年で完璧に使いこなす令嬢などまず居ない。男でも珍しいだろう。素晴らしい才能の持ち主だ。短時間で浮き沈みを繰り返す己の心に戸惑う私は、彼女の言いなりになっていた。それにしても、口を覆ったり髪を隠す事にそれ程意味は有るのだろうか?


「ん」


 紐を渡す時彼女の指が私の手に当たった。なんてことは無い小さな接触に私の心臓が跳ねた。私は一体どうしたと言うのだ? 先程額を触られた時にも不自然に警戒をしていた気がする。


「どうしましたか?」

「なんでもない」

「着けますよ。痛かったら言って下さい」


 彼女の小さな手が私の髪に触れている。なんなのだろうかこの心地よさは?


「大丈夫ですか?」

「ああ。ありがとう」


 平時なら礼を言おうなどとは思わないのに何故? そんな動揺をしていると、


「どういたしまして」


 自然な笑みを彼女に返されて思わず自分の頬が緩んでいるのを感じた。マスクをしていて良かった。


「ではどうぞ。たぶん起きないと思いますが」

「顔を見に来ただけだ。別に構わない」


 レイフィーラの顔を見に来ただけなのは事実だが、平静を装う為に妙に素っ気ない返事になってしまった。失礼では無かっただろうか? ……何故私は今気分が沈んでいる?




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