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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
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#28.国を背負う者

「セルドアスの次代を担う者として私はクラウドに期待をしている」


 その言葉は間違い無く、陛下がクラウド様を嫡子として認めたということです。

 ただ、ざわめきが末端の王族や侍女達に限定して起こっているのは、根回しが済んでいたという確かな証でしょう。まあクラウド様を良く知っている方なら根回しが無くても当然と考えるとも思いますが、これだけの人数が居ればこの場で反対なされる方が居ても不思議ではありません。

 家族でも根回しが必要って……王族って大変ですね。


「意義がある者は今すぐ申し出よ。でなければ今後一切口を閉ざせ。いや、閉ざさなくても良いが、ソフィアに迷惑は掛けるな」


 冗談とも本気とも取れる陛下のその言葉で、会場のざわめきはその一切の姿を消しました。そして暫しの沈黙の後、再び陛下が口を開きます。


「無いようだな。クラウド!」

「はい」


 陛下が低く重厚な声を会場に響かせると、クラウド様が覇気のある声で返事をしました。


「覚悟はあるな?」


 この方が国王陛下であることを証明している。そんな印象を抱かせるような低く重く響く声。侍女の大半と王族の一部の方がその影響で硬直してすらいるその声に動揺することなく、クラウド様は陛下に対して真剣な眼差しを向けています。まだ小さい身体ですが、その強く惹き付けられるような眼差しだけは負けていないように見えるのは、私の贔屓目でしょうか?


「白き軍服をこの身に纏う覚悟ならば、疾うに出来ております」


 まだ子供の声ではありますが、陛下の問いに対して明確に是と答えたクラウド様の声には、強い決意が含まれていました。クラウド様は10歳ですが王の重みを理解していないとは思えません。理解した上でああもはっきり仰ったのでしょう。やっぱり凄い人ですね。


「うむ。白き軍服を纏い赤いマントを翻すお前の姿を楽しみにしているぞ」


 何故そういう決まりが有るのか解りませんが、セルドア国王の正装は白い軍服に赤いマントという出で立ちなんです。特に軍服は格好良くて、ちょっとした所に金糸を用いた刺繍が施されたりしたとっても素敵な軍服なのです。しかも、舞踏会などでも公式参加する時はその白い軍服を着るのが決まりなのです。

 当然ですが、浮きます。どう考えても浮きまくりです。タキシードや燕尾服の中で一人だけ白い軍服なんですから。本人はどこへ行っても注目を浴びる国王陛下なのですから慣れているでしょうけれど、問題はそのパートナーです。恋愛結婚なら諦めが付くでしょうが、正妃様は政略結婚で付随して来るモノが大き過ぎます。

 ソフィア様ぐらいの大物とかレイテシア様みたいなお姫様なら大丈夫だと思いますが、上位貴族の令嬢ですら尻込みしてしまうのではないでしょうか?


 まあ男爵令嬢はまず正妃には成れないので私には関係のない話ですが。






 晩餐会が終わりホールの片付けが侍女達によって行われている最中に、私は呼び出されました。ホールの“段の奥にある”控え室に。


「入りなさい」


 戦々恐々としてその控え室の扉をノックすると、聞き慣れてはいないのに誰の声かハッキリわかる声が返って来ました。他ならぬ正妃ソフィア様の女王然とした声です。


「失礼致します────侍女見習いクリスティアーナ・ボトフ。お召しにより御前に参りました」


 緊張しながら扉を開け震える足をなんとか止めて部屋に入った私は、扉の近くで跪きました。


「そんなに畏まった礼は必要無いわ。ここは後宮。しかも控えの間よ」

「はい」


 その場で立ち上がり部屋を見渡すと、中央のソファーに両陛下が並んで座っていました。その向かいのソファーに座っている銀の髪は……クラウド様ですね。私の事は丸無視ですか?


「座りなさい」

「え! いえ、しかし……」


 ソフィア様が私をクラウド様の隣へ座るように促しました。……私侍女なんですが。


「いいから座りなさい」

「……はい」


 強制ですね。有無を言わせない強い口調でした。何故呼ばれたかも甚だ疑問ですが、クラウド様の隣に座るなんて有り得ません。何をお考えなのでしょう?

 恐る恐る座ると、ソフィア様の顔に笑みが浮かびました。何度見ても綺麗なお顔です。長身の迫力美人ですから幼く見えることはありませんが、50を超えているようには決して見えませんね。


 ついソフィア様の顔をじっと見つめてしまった私。何気にソフィア様にも観察されていた気がします。序でに隣のクラウディオ様にも。品評会ではありませんよね?


「セリアーナの小さい頃にそっくりだわ」

「え! 母をご存知なのですか?」


 ソフィア様もですか! お母様の有名人度合半端ないですね。


「当然だわ。セリアーナも侍女見習いだったのだから」


 あ……そうでしたね。どうにも忘れがちですがお母様は侍女見習いから魔法学院に進んだ人です。そして魔法学院で素敵なロマンスを得ました。やっぱりお姉様には魔法学院に進んで頂きましょう。お兄様とのツーショットの為に。


「わたくしに付いていたわけではないけれど彼女の事は良く覚えているわ」


 お母様程の美人だと王太子妃の目にも留まったということですね? 流石ですお母様。引く手数多なお母様を社交界に出すことを、今でもお父様は嫌がります。美人度合でお母様に負けていないのはソフィア様とレイテシア様ぐらいですし、当然と言えば当然ですね。


「お母様はどんな侍女だったのですか?」

「自分だけでなく周囲も明るく出来る子だったわ。困っている人が放って置けないものだから良くトラブルに巻き込まれていたけれど。頑張り屋で優しい、可愛らしい娘だったわ。そういう面でも似ているのかしら?」


 おお! 私の出しゃばり体質はお母様譲りということですね? ただ私は明るい性格ではありますが、頑張り屋で優しいとは違います。諦めが悪くてお節介な人間です。程度の問題ですが、私はブレーキが利かないタイプです。ダメだと解っていても踏み込んでしまう……。


「本題に移って貰っても宜しいでしょうか? 彼女は侍女見習い。忙しい身である事ぐらいご存知でしょう?」


 私とソフィア様がお母様の話題で盛り上がりそうになるのを遮って横から不機嫌な声がしました。思わず声のした方に振り向くと、そこには仏頂面のキラキラ王子様の顔がありました。思った以上に近くに。

 私が少しびっくりして身体を引いてしまうと、クラウド様は「なんで驚く」そんな雰囲気で怪訝そうに顔を歪めました。なんかゴメンナサイ。


「……本題は他でもない彼女の事だ」


 深く腰掛け直した陛下は威厳のある声で話始めました。先程のホールでのソフィア様のやり取りとのギャップが大き過ぎます。今は皆の前で挨拶をする時の厳格な雰囲気に近いですね。

 私も居ずまいを正して陛下と目を合わせます。ああ先程の母の話で緊張がとけていますね。流石ソフィア様狙い通りですか?


「クリスティアーナ・ボトフ。君はクラウドの友人に成った。違うか?」

「はい。確かにクラウド様から友人となるよう乞われましてお受け致しましたが、まだ何をしたわけでもありませんが……」


 友人要請以降一度も二人きりにはなっていませんから本当にまだ何もしていません。今後もそう簡単にそうはならないでしょうし友人なんて言っても言葉だけです。


「先程の話でも分かる通り、この子はいずれ国を背負い立つ身。それは解っているな?」

「承知しています」


 ……友人関係を止めろと言われるのでしょうか? いえ。そんな事で呼び出したりしませんね。元々形だけですし人伝で充分な筈です。


「本当に解っているか?」


 ドキッとするぐらい低い声で質問した陛下ですが、目の奥がずっと笑っているので怖くないのです。


「陛下。友人一人に杞憂する理由は無い筈ですが?」

「お前は黙っていろクラウド」


 クラウド様が少し呆れた声で口を挟みましたが有無を言わさず陛下が遮断します。


「国を背負うのが大変な事とは、実感は出来なくとも理解はしている積もりです。

 ただその重荷は本来、一人で背負うべきモノではありません。本当に一人で背負ってしまったら国は崩壊の道を辿ると思います。

 そして共に国を背負うのは、何も正妃様や大臣様方だけではないでしょう。時には側妃様であったり騎士様であったり侍女や女官であったりする筈です。もっと言えば、市井の職人商人農民場合によっては奴隷でも、国を背負い支えていく場面がある筈です。そんなモノは、実際にそう“思う”かどうかの違いであって、国を支えているのは自分だなんて、傲慢な思い上がりに過ぎないでしょう。

 勿論程度の差は大きいと思いますし、国王は替えの利かない存在ではありますが、国を背負い立とうという人が自分を支える人一人選べないのだとしたら、それはその方に国を背負う資格が無いのだと思います」


 私が一気に言い切ると陛下とクラウド様は唖然としていて、


「その通りよクリスティアーナ」


 ソフィア様は満面の笑みを浮かべていました。




2015/10/27まで毎日二話更新します。午前午後で一話ずつですが時間は非常にランダムです。

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