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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
28/219

#27.取り巻きその四

「リシュタリカ様。ご一緒して宜しいですか?」


 昼食後のお茶を楽しむ私達3人に寄って来た4人の少女達。その中の一人が、淑やかに物腰低く声を掛けて来ました。深い緑色の髪を侍女らしく結ったその少女は、リーレイヌ・ゼオン様です。中背ですが女性としては体格の良い方なので大きく見える方です。


「勿論よリーレイヌ様」


 リシュタリカ様が少し硬い表情になって返しました。かく言う私も恐らく「何しに来たの?」そんな顔をしてしまったでしょう。特に嫌いなわけではありませんが距離を取っていたのはリーレイヌ様達の方です。警戒しない人の方が少ないでしょう。


 リシュタリカ様に促されて席に着いた4人ですが……お茶を飲むだけで会話がありません。本当に何しに来たのでしょうか? お姉様はいませんでしたが、去年6人でお茶をした時は普通に会話をしていたのでこの状況は謎です。


「リーレイヌ様はメリザント様付きですよね。どんな方なのですか?」


 お姉様。話題が強引過ぎませんか?

 プライベートな時間とは言え、後宮内で侍女が主人のことを悪く言うことは出来ませんのでこの質問は「話題に困っている」と言ってしまったのと変わりませんね。

 お察しの通り?レイテシア様付きの侍女陣の間ではメリザント様の評判は良くありませんから、多少なりとも人となりが気になるのは理解出来ますが……お姉様はこういう天然な部分がありますね。


「……侯爵家出身らしい気品を持った淑やかな女性ですわ。強い矜持でご自分を研くことに日々精進する立派な方よ」


 “立派な方”の所以外は嘘偽りの無さそうな意見ですね。まあ見方を変えてしまうと酷い言葉になりそうですが……。


「レイテシア様はどんな方ですか?」


 質問したのは、元リシュタリカ様の取り巻きその二、いえ、その二と呼ぶよりその四と呼んだ方がしっくり来ますね。元リシュタリカ様の取り巻きその四、ケイニー様です。

 ケイニー様はトリウェル男爵家のご令嬢で、白に近い灰色の髪を肩まで伸ばし薄茶色の瞳を儚げに揺らす小柄で華奢な少女です。お姉様は華奢でひ弱そうに見えて瞳の色はしっかりした芯の強いタイプですが、彼女は本当に吹けば飛んで行ってしまいそうな儚げな方ですね。

 侍女見習いとしてよく一年やって来れたと思うと同時に、何故リシュタリカ様の取り巻きになったのかが良く解らない人です。


「レイテシア様はルダーツのお姫様ですからやはり気品がありますね。それから快活で包容力の有る方です。クラウド様を相手にする時なんかは茶目っ気を出して可愛らしいですよ」


 茶目っ気ってお姉様。あれはからかっているだけではないでしょうか?


「リシュタリカ様。ソフィア様は?」

「見掛け通りの素敵な女性よ。淑女ってああいう人のことを言うのね。初めて「この人みたいに成りたい」と思ったわ」


 ん? リシュタリカ様の瞳が輝きましたよ? これはあれですか? お三方路線に乗る予兆ですか?


 お茶の時間が終わるまでという短い時間ではありますが、ケイニー様以外の3人は、その後も殆ど話すことはありませんでした。何しに来たのでしょう? 本当に分かりません。

 因みに残りの二人は、ラッテリーヌ様とロッテリーヌ様の双子で、ダン士爵令嬢です。ダン士爵家はゼオン子爵家の従家だそうですから、リーレイヌ様の取り巻きと言った方が正しいですね。


「ではリシュタリカ様。またご一緒出来たら嬉しいですわ」

「ええ。わたくしも」


 何故か丁寧に挨拶だけしてリーレイヌ様達三人は去って行きました。ケイニー様だけ残して。


「……どういう積もり?」


 少しの沈黙のあとリシュタリカ様がケイニー様に質問しました。その声は問い詰める質のモノではなく、ただ単に疑問を投げ掛けているだけのようでした。それを訊いて答えが有りますか?


「……リーレイヌ様はたぶん私が邪魔だったのだと思います」


 予想外です。明確な答えが返って来ました。


「ゼオン家に関係ない人は要らないということですか?」


 確かにケイニー様だけゼオン家とは関係ないですが、元々仲が悪かったわけではないですし今更突き放す理由が解らなくないですかお姉様?


「分からない。けど、リーレイヌ様は年末辺りから私を遠ざけて、ラッテとロッテにも優しくなくなりました」


 年末辺りというとリシュタリカ様とリーレイヌ様が決別した時期ではないですね。あれはお姉様がダンスのパートナーにリシュタリカ様を誘った少しあとの筈です。


「わたくしは関係ないということ?」

「たぶん関係ないと思います。暫くはリシュタリカ様がいないだけでリーレイヌ様は何も変わらなかったから」


 年末にゼオン家かその周辺で何かしらあったということでしょうか?


「それは兎も角。私またリシュタリカ様の側に居ても良いですか?」


 不安気に少しうつむきながら訊いた儚げな美少女の顔は、少し赤くなっていました。可愛いですがアブナイ方向性を感じたのは私だけでしょうか?


「好きになさい」


 リシュタリカ様が満更でもなさそうなのは、私の見間違いではなさそうです。






 クラウディオ・デュマ・セルドアス


 現セルドア王国国王陛下の御名である。

 一度戦場にその咆哮が響けば、闘わずして敵は背を向け、赤褐色の鋭い瞳に光が宿ればその長身の美丈夫の前に全ての者がひれ伏す。白い軍服を纏いて真っ赤なマントを翻す姿には圧巻の一言だ。その神秘的な気配を前に槍を向けるどころか瞼一つ動かせはしない。

 その勇名は戦場いくさばだけに留まりはしない。機知に富み慈悲の深い治世で国は富み民は生を謳歌している。「西の盟主」の「賢王クラウディオ」仮に乱世であったならばその勇名は大陸だけに留まりはしなかった。


 誰が評したか知りませんがクラウド様のお祖父様の一般的な評価です。世間では「中興の祖」なんて評されている優秀な王様なのですが、後宮で本人を見てしまうと誰もそれを信じません。


 今日後宮では、舞踏会が開けるぐらい広いホールを使って男性も含めた王族全員が集まる晩餐会が開かれています。当然両陛下が上座に着いているのですが……。


「ソフィアもう少し傍においで」

「充分近いと思いますわ陛下」


 侍女達も含めれば百人を越える人が集まっているホール。そこから一段高い非常に目立つ場所で、イチャついていると言うより迫っている国王陛下です。言っておきますがアラフィフですからね。

 別に今日の陛下が特別おかしいわけではありません。「正妃様を矢鱈と構いたがる陛下」標準装備です。それ以外にどんなオプションが有るのでしょうか? 私は見たことがないので知りません。


 ホールの方に目を移しますと、両陛下に一番近い席にジークフリート様とレイテシア様の王太子夫妻がいます。そして、その次の席にはクラウド様が居るのです。当たり前ですがクラウド様の地位は並大抵のモノではありません。単純な比較は出来ませんが、全世界で考えても数えられる順位ではないでしょうか?


 対してウィリアム様はと言うと……。


 クラウド様の次はキーセ様。その次がレイフィーラ様です。お姫様でもやっぱり正妻の子供は扱いが違うのです。レイフィーラ様の次は第二王子(ジークフリートの実弟)ジラルド様とその正妻とその実子達。続いて第三王子と────陛下の子供と孫、詰まり直系が並ぶと今度は王弟殿下の正妻と実子実孫。そうして初めて陛下の側妃とその子供が並びます。詰まる所、遠いのです。クラウド様とウィリアム様。


 正妃の子と側妃の子は。






 普通の交流会と思われたこの晩餐会が思わぬ波紋を産んだのは、最後の挨拶で陛下がこんな話をしたからでした。


「セルドアスの次代を担う者として私はクラウドに期待をしている」






2015/10/27まで毎日二話更新します。午前午後で一話ずつですが時間は非常にランダムです。

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