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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
27/219

#26.友人要請

「友人、ですか?」

「ああ」


 側妃に付いて少し論争みたいになったあと、他愛もない話をしながらのんびりと池の周りを歩き、ちょうど半周ぐらいした時に切り出したクラウド様の本題は「友人になってくれ」でした。

 因みに側妃論争の結論は「相手と子供による」というなんともいい加減で曖昧なモノです。「そんなの人任せ過ぎて嫌だ」と言ったらクラウド様はなにやら落ち込んでいました。ああ、そう言えば下位貴族の令嬢に恋したのでしたね。大丈夫ですよクラウド様。誠実に向き合えばきっとどうにかなります。


「私では不適格だと思います。身分では無く能力で」


 能力面でクラウド様に付いて行くには相当な努力が必要です。それで自分のやりたいことが出来なくなったら大問題ですからね。

 まあ今のところ明確な長期目標は見えていませんが、短期目標は侍女見習いの修了し後宮官僚として残ることです。エミーリア様に直接訊いたところ座学の関係でまだどういう扱いになるか分からないそうで、「期間が定まっていない」という大いなる欠点を持った目標ですが。


「同世代でクリス程高い能力を持った者など……いなくもないが、柔軟で視野の広いクリスは友人としてとても貴重だ。忌憚の無い意見を言って貰うには侍女という職務は邪魔だし、時に友人として対等に過ごすことも必要だろう?」


 さっきからずっと思っていますが、本当に10歳足らずですか貴方は。


「随分と私のことを買って下さっているようですが、私はそれほど優れた人材というわけではありません。買い被りです」

「いや。クリス程優れた人材はいない。それに能力が高いだけで友人にと誘っているわけではない。クリスは信頼に足る人間だ」


 ……去年の夏至休暇の時もそう思いましたが、クラウド様は何故私を信用しているのでしょう?


「私が裏切らない保証は何処にもありませんよ?」


 クラウド様のその赤い瞳が何故か寂しそうに揺れました。……なんか可愛い。なんだろう? 仔犬? 捨てられることを察した仔犬ですね。「捨てないで!」と必死に訴えている仔犬が此処にいます。


「何故笑う?」


 わぁ! 顔に出てしまいましたか。これは失礼しました。


「申し訳ございません。クラウド様がちょっと可愛いく見えてしまって」

「可愛いく?」


 小さく呟き肩を落としたクラウド様は、隠しもせずにため息を一つ吐きました。そんなに落ち込みますか?


「ただ友人の件はお受けします。でも2人キリの時だけですよ?」

「ああ勿論それで構わない。ありがとう。宜しく頼む」


 おお! スマイルです。キラキラ王子様のキラキラスマイルです。やっぱり絵に成ります。眼福です。それにしても浮き沈みが激しいですね今日のクラウド様は。こんなに感情豊かな人だったのですか? 新たな発見です。


「こちらこそ宜しくお願い致します」


 そう言って笑い掛けるとクラウド様は目を逸らしました。何故でしょう? 失礼では?






 その後、テンションが高めのクラウド様に庭を出るまでエスコートされました。

 まあ友人をエスコートするのは不自然ではありませんし、私はあまり見ませんが女性に対しては紳士なクラウド様がエスコートを申し出るのは不思議なことではありません。しかし、何故あんなにテンションが高かったのでしょうか? かなり饒舌に今日の昼餐会の同席者の話なんかをしていました。どれだけ友達が欲しかったのですか?

 因みに同席者とは友人関係をあまり作りたくないそうです。確かに癖の有りそうな方々でしたね。ルンバート様以外は。まあルンバート様は……流石に家族でない人が受け入れるのは難しいですかね。この国では。


 ただ饒舌なクラウド様の話を聞いていたら、疑問が一つ浮かびました。今日の昼餐会のあのテーブルに居るべき人物が居なかったのです。


 それは、シルヴィアンナ・エリントン様。


 前にもお話した、現時点でクラウド様の婚約者の最有力候補です。考えてみれば公爵令嬢であるその人があのテーブルに居ないのは物凄く不自然なのですが、彼女の席は有りませんでした。席順を記した紙にさえ書かれていませんでしたので急に欠席したわけでもありませんし、子供は子供で集められていたので大人の方に居たということもないでしょう。何故居なかったのか大いに疑問です。


 そんなことを考えながら後宮へと続く長い渡り廊下と階段をひた歩いていますと、漸く後宮の正門見えて来ました。今はそれを覆うように巨大な屋根が造られていて迫力が半減していますが、嘗ての王宮の正門だったことを感じさせるその大きな門の手前には近衛騎士様が三人が常駐していて、門の向こうは後宮武官の詰所になっています。


 外の人間が後宮に入る時はその両方で厳しい検査を受けなければいけませんが、後宮の侍女である私は出入り許可証である精巧な一角獣が彫られた木版を見せれば簡単な荷物検査だけで入ることが出来ます。

 因みにこの木版を無くすと大抵はクビです。番号が振ってあるので後宮内の安全は保たれますけどね。


 そんな木版を近衛騎士様に見せて門を潜ると、そこに居たのは、


「っていうことは陛下もお渡り無し――――」

「ナビス様?」


 ナビス様。情報収集してましたね? 武官さんもそれは守秘義務が課せられるモノだと思いますよ?


「お帰りクリス」

「先程はありがとうございました。トルシア様には?」

「大丈夫言ってあるわ。それより話ってなんだったの? 愛の告白?」


 興味津々ですねナビス様。あ、武官さんも目が爛々としています。確かに私もあの状況で誰か連れて行かれたら何があったのか気になりますし、そういう話の可能性を考えないでもありませんけど。

 いえ、クラウド様は私にそういう気はないでしょう。なにより、年齢より大人で紳士なクラウド様ですから好きな人には優しくするでしょう。クラウド様は私に対してもデフォルトの無愛想ですからそういう感情は皆無でしょうね。

 それに、恋愛感情があったら友達関係が成立しただけでテンションなんか上がらないと思います。表情にも瞳にも恋情が宿っていたとは言えませんし、クラウド様は純粋に友人が欲しかったのでしょう。


「違いますよぉ。友達になってくれと頼まれました」

「友達? ……ヘタレた?」


 私が微笑みながら首を横に振って答えると、ナビス様は残念といった仕草を見せました。後半が聞こえませんでしたが、なんと仰ったのでしょう?


「なんですか?」

「いいえ。こっちの話よ。友達要請されただけの割には随分時間が掛かった気がするけど?」


 その目は疑っていますね? 色っぽい話だったと決めつけないで下さい。ないですからね。本当に。


「ちょっと論争をしていまして」

「論争?」

「はい。側妃は辛い立場だなぁという話で少し」


 ん? 要約し過ぎかな?


「だからか」


 私に聞こえない声でなにかしら呟いたナビス様は、何故か納得したような顔で頷き、考え込んでしまいました。


 ……何か隠してませんか?


「クラウド様はああ見えて甘えたがりだわ。レイテシア様やレイフィーラ様と離れて寂しかったのでしょう。話し相手になってあげなさいね」

「はい」


 声は優しいのに強い口調のナビス様に、つい返事をしてしまいましたが、レイテシア様がそれを言うなら解りますが……立場は兎も角ナビス様ってそんな方でしたか? クラウド様に母や姉のような感覚を抱いているのでしょうか?


「まあ結局命令には逆らえないのだし、力ずくでも側妃にするんだろうけど」


 ナビス様の最後の呟きは全く聞こえませんでした。





2015/10/27まで毎日二話更新します。午前午後で一話ずつですが時間は非常にランダムです。

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