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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
25/219

#24.大昼餐会

 少し時は流れ今は二月上旬です。新年から変わった環境にも慣れてきました。


 予想通りと言えば予想通りですが、侍女見習い二年目の生活は一年目と大きな変化はありませんでした。座学では相変わらず毎時間相当な分量の知識を叩き込まれますし、嗜み講座もモノによっては厳しいです。


 え? いや、まあ……私がマナーを苦手としているだけです。


 ジャガイモのホクホク感を味わうには一口サイズに切ったら物足りないではないですか! モグモグ食べた方が美味しいモノもあるのです!

 これは、誰にも理解されない孤独な戦いです。美味しいモノを美味しく頂くことの方が淑女であることより重要なのです! コックさんだって農家さんだって美味しく食べて貰う為に日々頑張っておられるのです。そうしないなんて食べ物に対する冒涜だ!


 と、そこまでは言っていませんが、行き過ぎたマナーも時折見られるのでそういう時は真っ正面から議論をしたりします。後宮官僚は結構論理的に物事を考えますので、皆真剣に考えてくれることが多いのですが、かといってマナーが変わるかと言ったら話は別です。後宮内ではどうにかなりますが結局は上位貴族がどう対応するかという話になりますし、大抵は状況が限定的過ぎてワザワザ変える気にはならないのです。晩餐会に丸のままのミカンが出て来るとか滅多にありませんしね。


 話を戻しましょう。淑女教育に大きな変化はありませんし、レイフィーラ様の側に侍女として侍っているのは去年と大差ありません。

 レイフィーラ様は人見知りも解消傾向にあるようでして、ご自分に付いた侍女達とも積極的に交流を図ろうとなさっています。思ってたように間を取り持ったりする必要ありませんでした。王女としての教育も始まっていますから忙しくなって来ましたが、生来の明るくて元気な性格で毎日楽しそうです。

 因みにレイフィーラ様付き侍女は全部で6人で、中3人が侍女見習いです。半分が見習いでしかも新人2人と私。


 こんな陣容で大丈夫でしょうか?


 最初はそんな風に思いましたが、今のところ大きな問題は起きていませんし、冷静に周りを見ますと12歳足らずのお姫様の侍女はみんなこんな陣容なのです。これで問題が起きたら私達の力量不足ということになってしまいます。6人でもきちんとレイフィーラ様を補佐して行かなければなりませんね。

 まあ、後宮から殆ど出ない12歳未満のお姫様に問題なんて起きようがないですからね。レイフィーラ様の場合は直系ですから、他のお姫様よりは多少公務が多いのですが、まだ6歳の少女が駆り出されるのは稀です。


 とは言え、今日は少し緊張するイベントなのです。レイフィーラ様としては随分と久しぶりに後宮を出て参加する今日の公務は、上位貴族の当主と奥様方そしてその直系の子供が集められる「大昼餐会」です。

 6歳未満の子供は参会しませんのでレイフィーラ様も初参加、実質初お目見えと言って良いでしょう。


 私は本来淑女教育でレイフィーラ様に付いていられないのですが、今日は普段は聞き分けの良いお姫様が珍しく言った我が儘の影響で、緊張感漂う昼餐会場で給仕をしています。

 あ、私は今年に入ってから給仕を任されるようになりました。お姉様程ではありませんが私も成長していますからね。


 ただ今日は昼餐会ですので、レイフィーラ様だけに給仕をするわけではありません。レイフィーラ様と、いえ、正確にはその隣のクラウド様と同世代の子供が集められたテーブルの、12人の給仕を担当することになったのです。まあ当然私一人ではありません。先輩も4人一緒です。

 因みにその12人の中にリシュタリカ様の弟、オルトラン様とベイト家の男の娘、ルンバート様もおられます。ルンバート様は流石に女装はしていませんが、嫌々なのが表情で分かってしまいました。


「クラウド様。本日のお招きと持て成し、御礼申し上げますわ。それから数いる貴族の子女の中から限られた者しか着けないこの席にわたくしが着けることを嬉しく思いますわ」


 食事終わりのお茶を給仕していた私の耳に、子供の高い声飛び込んで来ました。お礼を述べているだけなのに高飛車に聞こえるその声の主を先輩侍女に隠れて密かに確認すると、その方は黒髪の綺麗な赤いドレスの少女でした。ちょうど私と、いえ、クラウド様と同じ年ぐらいですかね。


「招いたのは陛下で、席を決めたのは官僚達だ。私は関わっていない。礼を言われる筋合いはない」


 最初からそうでしたが、クラウド様は相変わらずの無愛想ですね。せめてレイフィーラ様に見せるぐらいの笑顔を見せれば良いのに。

 と言うか、彼女は上位貴族の令嬢の筈ですから婚約者候補の一人ですよね? 大丈夫なのですか? そんな相手をぞんざいに扱って。


「仮にそうだとしても素晴らしい席を共に出来たことを嬉しく思いますわ。クラウド様はゆくゆくはこの国を背負い立つお方。この席はそうなった時そこに並び立つ者ということですわ。その席に選ばれた意味をお分かりですわね皆様?」

「当然だ。そんな話を今更するな」


 クラウド様以上に辛辣な言葉を返したのは真っ赤な髪の少年です。背も高くて身体つきも良いので初見では歳上に見えましたが、たぶん同じ年ぐらいですね。顔と雰囲気が幼いです。座席の位置からして公爵子息ですかね。


「行きますわよクリスティアーナさん」

「あ、はい」


 立ち止まってしまった私に先輩が下がるよう促しました。失敗失敗。






 どうでも良いですが、公爵子息様は真っ赤な髪でしたし、黒髪の少女の隣は黄色髪の少年でした。加えてオルトラン様は橙色で、ルンバート様は紫色です。緑色の髪の方もいらっしゃったようですし、何故あの席に居た方々は髪色があんなに鮮やかだったのでしょうか?

 確かにセルドア王国の貴族の髪色は多種多様で、社交界ではドレスと共に鮮やかな色彩を楽しめると言いますが、あそこまで鮮やかな色は珍しいですしそれが何人も揃うって……意図的ですか?


 そうだったら青い髪のウィリアム様も入れたらどうでしょう?


 なんていう冗談は兎も角、今回私は、公の場になればなるほど同じ王太子の息子でも正妃と側妃の子に差が出ることを実感してしまいました。

 後宮でも、陛下と王太子殿下が共に出席するような大きな晩餐会となると、クラウド様は陛下の近く、ウィリアム様は末席に近い位置になるのですから、今までも少なからず「そういうもの」という意識はありました。ただ、今回のような公の場となるとそれは更に如実に現れていました。


 何しろ、席が「遠い」ではなくて「ない」のですから。


 王位継承権の無い愛妾の子ならば解りますが、ウィリアム様はキーセ様に続く実質継承権4位(1位はジークフリート殿下)の人物です。今日の昼餐会の参加条件である「直系」という表現からは外れるかもしれませんが、国にとって大事な人材であることは疑い無いでしょう。

 しかし、事実としてウィリアム様は今日の昼餐の席から外されていました。その理由は間違い無く「側妃の子」だからです。

 ウィリアム様にも少し同情しましたが、私が気になったのはメリザント様です。あの方が今どういう心境なのか考えて、どうにも嫌ぁな気分になってしまいました。


 そんなことを考えていて、少し暗くなっていた私に昼餐会の解散後声を掛けたのは、


「ちょっと時間をくれ、話がある」


 無愛想な王子様でした。






2015/10/27まで毎日二話更新します。午前午後で一話ずつですが時間は非常にランダムです。

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