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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
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#23.二年目

「こんなことを言う立場ではございませんが――――」


 リシュタリカ様のいないタイミングを見計らって、気配を消して私達の所に来たのは、燕尾服の着こなしが見事なヘイブス伯爵家の執事長ベイク様です。彼は真剣な眼差しで前置きをしたあと直ぐに本題に入りました。


「これからもお嬢様と仲良くして頂きたく存じます。宜しくお願い致します」


 年相応の柔らかさと真剣見を帯びた声で懇願して来た彼は、丁寧に深く頭を下げました。私とその隣に居たお姉様は眼を見合わせて微笑み合い、


「「こちらこそ。宜しくお願い致します」わ」


 と同時に返しました。


「ありがとうございます。お嬢様に貴女方のようなご友人が出来て本当に良かった」


 お爺様世代の人にこういうことを言われると素直に照れてしまいますね。まあまだちゃんと友達とは言えませんでしたが、リシュタリカ様はきちんとお姉様に謝罪して下さいましたし、お姉様もそれを受け入れました。もう友達と言っても良いでしょう。


「それから先程の私のご無礼。誠に申し訳ございませんでした」


 穏やかな笑みを浮かべたベイク様は、そう言うともう一度深く頭を下げました。


 心配してくれる人が居て良かったですねリシュタリカ様。






 冬至休暇二日目をお姉様、リシュタリカ様と一緒に過ごした私。それ以降は妹リリアーナを甘やかしながらのんびりベイト伯爵邸で過ごしました。


 そこで発覚したのですが、嬉しいかな寂しいかなリリが生活魔法をマスターしていました。リリの魔技能値は102。お兄様の120やクラウド様の119には及びませんが、国内では(世界的にも)最高標準です。生活魔法程度は簡単に扱わなければいけない数値ですので、当然と言えば当然ですが、私としては……ああ、本当に諦めが悪いですね。


 話は変わりますが、ベイト家の直系には私の二歳下の男の子がいます。名前はルンバート様。90台の魔技能値の持ち主です。

 彼はヘイブス家のオルトラン様以上の美形なのですが、オルトラン様が中性的な美少年だったのに対して、ルンバート様の外見は、美少女です。しかも、服装まで完璧な。

 始めはトランスジェンダーを疑いましたが、どうやらそうではないようでして、経緯は全く分かりませんが、男の娘なのです。


 当然のように、母親以外の家族には距離を置かれていた彼ですが、今回のベイト伯爵邸滞在でなんとかその見えない壁の破壊に成功しました。

 方法は単純です。「可愛いは正義」を彼の家族と家人達に浸透させたました。ルンバート様は本当に可愛いので、「なんとかなる!」と気合を入れて実行したのです。具体的には「何が悪いのですか?」「これが女性の服装だって誰が決めたのですか?」「可愛いいではないですか!」を連呼しました。

 まあ、私などが少し間を取り持った程度で壊せる壁だったのですから、ベイト伯爵家の皆さんもこのままでは良くないという思いが心の何処かにあったのでしょうね。


 と、言うことで、冬至休暇中に義理の従弟とその家族との仲の取り持てた私は、実の妹を少し羨ましく思いながら後宮に戻りました。






 侍女見習いを三年勤めたあと取る進路は主に3つです。


 一つ目が、後宮に、正確には王宮に官僚として残る出世街道です。侍女見習いの修了試験とは別にもっと難しい採用試験に合格する必要があります。年3人〜5人で3つの中では一番少ないです。

 二つ目が、魔法学院に進む魔法士団員や治療婦との二者択一の道です。当然魔法学院の入試に合格する必要がありますが、侍女見習いを三年勤めていれば筆記は簡単だそうです。元々侍女見習いは貴族やその親戚が中心で、魔才値も平均的に高いですから毎年10人前後が魔法学院に進むそうです。魔法学院卒業後王宮に戻ることも珍しくありません。

 三つ目が、何処かの貴族家に侍女として就職するという否出世街道です。王宮の侍女見習いを勤め上げていれば就職先には困りませんが、飽くまで侍女でしかありません。雇用先の家風によっては酷い扱いを受けるでしょう。魔法学院に進んだ人と同じように出戻りすることもあります。当然ですが、最初からこの選択肢を選ぶ方は極少数です。基本的には落選した方々ですね。

 勿論全員ではありませんが、大半の侍女見習いが選ぶのがこの3つのいずれかです。


 私がどうなるのかは全然分かりません。そもそも私が侍女見習いをしているのは王様の命令ですからね。通常は中等教育の終わりにも相等してしまいますし、三年で侍女見習いの卒業というわけにはいかないでしょう。なんか凄く変な扱いになりそうですね。あ、元々ですか?


 私は兎も角、去年の卒業生達は例外なくいずれかの道をお選びになったわけで、レイテシア様の侍女として一緒に働いたアリシャ様も、魔法学院に進まれました。ただ勿論、出ていく方が居れば入って来る方も居るわけで、私には二歳上の後輩が出来ました。歳は上ではありますが、新人というのは初々しくて可愛いモノです。


 そして、侍女見習い二年目が始まった私には他にも幾つか変化がありました。


 一番重要なのは、私がレイテシア様の侍女から外れ、レイフィーラ様の侍女になったことです。


 はいそうです。レイフィーラ様がレイテシア様の部屋「王太子妃の間」から離れたのです。当然、レイフィーラ様付き侍女の陣容は新たに組まれることになりました。

 結論として、ポーラ様やナビス様は勿論、お姉様ともバラバラになってしまいました。まあ幸い去年一年一緒に働いた正侍女のトルシア様がレイフィーラ様付き侍女陣の班長に成りましたから一応は安心です。

 ただ、レイフィーラ様の人見知りも直ったわけではありませんし、お仕事面では苦労が増えるかもしれませんね。因みに「正侍女」の「正」というのは階級です。その辺りの話は後程。


 それからお仕事にはあまり関係がありませんが、クラウド様が後宮を出て、王宮の居住区にお部屋を移されました。クラウド様はレイテシア様と一緒にお食事なされることが頻繁にあったので顔を合わせる機会は度々ありましたが、今年はだいぶ減りそうです。

 クラウド様は超の付くようなイケメン候補生ですからね。観賞機会が減るのは残念です。とは言っても実のご兄妹ですからね。レイテシア様やジークフリート様も交えて一緒に晩餐することも多いですし、顔を見る機会はそれなりにある筈です。


 それより私はお姉様と部屋が離れてしまったことが残念です。まあ侍女同士の私室の往き来が禁止されているわけではないので会おうと思えば会えるでしょう。


 因みに色々な余波でリシュタリカ様が正妃ソフィア様付きに成りました。恐らくこれはエミーリア様の思惑です。私達とは打ち解けましたが、クラスメイトや先輩侍女達とリシュタリカ様はまだ距離がありますからね。生まれからして身分が上のソフィア様に丸投げした形でしょう。

 まあそれで状況が改善されるとは限りませんが、去年に引き続き嗜み講座では一緒ですから、お姉様も含めて3人でお茶することは出来ます。

 ただ私としては、リシュタリカ様よりリーレイヌ様の方が色々不安です。リーレイヌ様はリシュタリカ様に、と言うよりヘイブス伯爵家に媚を売るような人ですからね。上としては御し易いでしょうが、同格からすると嫌なタイプです。何事もなければ良いのですが……。


 そんな感じで結構大きく状況が変わったわけですが、やることに大きな変化はありません。侍女として働きながら淑女教育を受けるだけです。


 頑張りますよぉ。





次回 2015/09/30 22時更新予定です。

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