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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十三章 嵐の前
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#190.とある駐在文官の嘆き

とある駐在文官のお話です

 我が祖国、神聖帝国ゴラがセルドア王国に同盟を申し込み一週間。外務省は多少反応を見せたが、それ以外の反応は極めて鈍いと言わざるを得ない。元々無理難題だったわけだが、この男が我らの代表となっている間は早々動く筈がない。


「何故だ! 何故奴らは我らに靡かんのだ。迷いはしても靡いたのはホンの一部ではないか!」

「ルギスタンが示したのはブローフ平原の全域で、我らが示したのはゲルギオス殿下とレイフィーラ王女の結婚。誰がどう見てもルギスタンに分があります。我らに靡かなくとも仕方がないかと」


 そもそも、外務副大臣で伯爵位しか持たない貴方にセルドアの上位貴族が説得出来る筈がない。そうでなくとも和親条約や通商条約すら結んでいないセルドアにいきなり同盟を持ち掛けて成立する可能性は低いというのに、「同盟を結んでやる」ぐらいのモノ言いをしてどうにかなると思っているのか?


「肝心の王家がこちらを見向きもしていない。仕方がないで済む筈がないであろうが!」

「そう悲観することはないでしょうナブドラ伯。我らの義務を忘れていなければ、まだまだやりようはありますぞ」


 我が直属の上司ガブス。セルドア駐在局長のこの男も功名心が先行して視野が狭くなる気質の持ち主だ。男爵家出身の次男だという話だが、もう少しまともな人材は居ないものかな。


「ゲルギオス様の到着は二週間後に迫っている。それまでにどうしろというのだ。靡く靡かない以前にセルドアス家は表に出て来んではないか」

「セルドアは合議制を重視していて、王家の独断で決めることはあまりしないですからな。セルドアス家に拘る理由はありませぬぞ。そう。それこそビルガーの新公爵など狙い目ではありませぬか」


 王家への根回しを兼ねて内々に打診した時からセルドアス家の反応は鈍かった。二心の疑いを掛けているならこちらの真意を問い質すぐらいするだろうが、突然来訪したルダーツの王太子には歓迎する舞踏会を開くなど迅速な対応を見せながらこちらにはまるっきり無反応だった。

 しかも、クラウド殿下とルダーツの王太子、それからルギスタンの皇太子が一緒に控え室に入って暫く出て来なかったという話さえある。ガブスは大して気にしていなかったが、その後のことを考えればクラウド殿下とレイラック皇太子の間で何かしらやり取りがあったのではないか? だとしたら、王家はルギスタンとの同盟を確約している可能性まである。私達の要請が受け入れられないのも当然だ。


「そのビルガー公の交代劇も王家が仕掛けたモノである可能性が高いのですから、セルドアス家を崩さない限り筋道は付かないでしょう」

「お前はまだ諜報部の話など真に受けているのか? 奴らは手柄を横取りしたいだけなのだから我々の邪魔をするような話は放って置けば良い」


 残念ながらそれは否定出来ないのだが、だからと言って全てがその為とは限らない。本気で国の為に動く諜報員もいないことはない。ただ、誰が諜報員でどう動いているのか我々は知らない。信憑性の高低すら我々には判断が付かないのだ。それについて上に話すと「判断は上がする。必要な情報だけをお前達に渡している」そう答えが返って来る。ゴラの皇家は、我々末端の家臣達を信頼していない。ゴラより明らかに国力の劣る他の周辺国ならば兎も角、ゴラと互角かそれ以上の国力を持つセルドア相手にこれでどうにかなるとは思わないが……。


「だからと言ってセルドアス家を無視して話は進まないでしょう。そうしない限り我らの本懐は遂げられない」


 本国が我々に命じた「同盟を持ち掛けてルギスタンとセルドアの同盟を崩せ」これを実行するだけにしても王家を蔑ろにしてしまえばこちらの本気を疑われる。そうでなくとも疑われている可能性が高いが、王家に確信を持たれたら同盟を阻止することなど出来ない。


「合議を重視するセルドアではビルガー公爵を無視することは出来ない。ならビルガーで充分だ」

「幾ら合議を重視していても、最終的に同盟を結ぶのは王家です。セルドアスには我らの本気を理解させねばなりません」

「だが奴らは全く我らとの交渉の席につかんではないか」

「そうです。奴らは無駄に誇り高い。皇家の人間が出て来ない限り引っ込んだままでしょう。ならば王家はゲルギオス様の方で対応して貰うしかない。ナブドラ伯はビルガーを担当すれば良いのです」


 地道に根回しをすれば、セルドアス家だって相応の応対をする。本人が出て来ることはなくとも側近は出て来る。そうすれば、ゲルギオス様が来た時に王族と接触するのが簡単になる。ガブスもそれは承知している筈だが……もしやこの男、命令を無視して体裁だけ繕う気か?


「ガブス様それではゲルギオス様がいらした時に――――」

「着きましたぞナブドラ伯。今夜も?」

「鬱憤が溜まっておるからな。二人用意せよ」


 駐在文官の宿舎は娼館ではないのだが……。


「仰せのままに」


 はあぁ〜ダメだ。この調子では同盟を阻止するなんて不可能だ。






 神聖帝国ゴラは今、どちらかと言えば和平路線の現皇帝ベルギウス陛下を支持する保守派と、真正面から覇権主義を唱えるゲルギオス皇太子殿下を支持する革新派が真っ向から対立している。


 数年前、保守派はハイテルダルと連携してデイラードを叩こうと動いた結果失敗し、勢いを削がれた。逆に革新派はデイラードへ連合を呼び掛けたら直ぐにルギスタンにその動きを察知され、ルギスタンとセルドアとの間に停戦協定を結ばせてしまった。

 その結果両派閥の力は今非常に拮抗しているわけだが、陛下は兎も角保守派は年老いた貴族が中心で、19歳のゲルギオス様を中心に若手で構成された革新派は、これから力を伸ばす。勢いは間違いなく革新派にある。


 問題は、そのゲルギオス様本人だ。確かに、腹違いの二歳下の弟ライオス様より魔才値が高く皇帝らしい迫力ある外貌は持ってはいるものの、残念ながら政の才覚は未だに見せていない。正直クラウド殿下やレイラック殿下の方が優秀だ。それどころかゲルギオス様に対する評価は「平凡」が一般的で、六十代の魔才値があるというに魔法も「並」という評価だ。かと言って、ライオス様が皇帝に相応しい才覚の持ち主かと聞かれればそうではない。だからこそゲルギオス様が皇太子に選ばれたわけだが……。


 革新派は確実にルギスタンへ野心を見せている。今回の件も、完全に革新派が主導しているのだ。“今まで通り”デイラードを攻めるならルギスタンとセルドアの同盟を阻止する必要はない。

 「鉱山資源はあっても山と湖ばかりで開墾出来る土地が少ないデイラードより、温暖な気候で食料生産に優れたルギスタン」革新派が主張するこの理屈は理解出来るが、デイラードとの連合が本当に可能かどうかは置き去りだ。

 ややもすると革新派は、ゴラとハイテルダルだけでルギスタンを侵攻する積もりなのかもしれない。国力差を考えるとセルドアとの同盟さえなければそれは不可能ではない。しかし、イブリックという足掛かりを作ることに失敗した今、海路からルギスタンに攻めるのは厳しい。そして、いざルギスタン侵攻を開始するとなれば、セルドアが動かない筈はない。


 だとしたら今回の同盟。革新派は本気で結ぶ必要があるのではないだろうか? 少なくとも阻止が出来なければ自らの主張を変えるしかなくなる。素直に「魔砲」が恐いと言っていればまた話は別だったろうに……。






 この私の推測は正しかった。いや、現実は私の推測を上回った。四月下旬、ゴラがセルドアに同盟を申し込んで三週間が過ぎた頃エルノアに到着したゲルギオス様が、開口一番我ら駐在文官にこんなことを言ったからだ。


「皇太子を殺してでもルギスタンとセルドアの同盟を阻止しろ」






 本日2015年12月25日の18時にもう一話更新したあとは、明日12月26日から12月31日まで0時、8時、16時に一日三話ずつ更新します。それで本編が完結します。



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