#18.魔才値
「クリスちゃん!」
最後に「これからもっと仲良くして下さると嬉しいですわリシュタリカ様」なんてアドリブを利かせたお姉様。やはり緊張していたのでしょう。私室に戻ると私の名を呼んで抱き付いて来ました。ギュッとされたので私もギュッとします。
お姉様。密かに豊かに成長していますね? 窒息するかと思いましたよ? いえ、そこまでではないですが誕生日プレゼントを渡した5月にハグして貰った時より成長しています。まだ13歳なのに……。
因みにプレゼントしたのは瞳の色に合わせて薄っすらと黄色い長手袋です。序でに日光という敵に付いてお話しました。
「上手く行きましたねお姉様。カッコよかったです。それにダンスも素敵でした」
「クリスちゃんは私を持ち上げ過ぎよ?」
「そんな事はありません。これは私の本心です」
私は、特に今世の私は嘘が苦手なのです。嘘を吐かずに誤魔化すことは出来ますが、少しでも嘘を吐くと不自然な程気持ちが沈んで、それが表に出てしまいます。家族にはそれが嘘を吐いた時だとバレていますので嘘は吐けなくなりました。それを知らない人でも落ち込む私を心配してしまうのでやはり嘘は吐けないのです。
リシュタリカ様に対して「仲良くしたい」と言ったのも嘘ではありません。ただ「出来ないかなぁ」とは思っています。ああでも、リシュタリカ様はある意味素直な方ですから大丈夫かもしれません。それより伯爵家に媚を売っているリーレイヌ様達の方が難しそうです。
「じゃあクリスちゃんのお陰ね。ありがとう」
ふふ、と笑ったお姉様は本当に可愛らしくて天使のようでした。はい。美少女の笑顔以上の癒しなどありはしません。
「礼を言うのは早いですお姉様。今日は確かに成功ですが、今後リシュタリカ様がどういう態度になるかは分かりません」
今日は一緒にダンスをして少なからずお喋りをしていたみたいですが、今後どうなるかはまだまだ予断を許しません。要警戒です。
「そうね。でも私が少し自信を持ったのはクリスちゃんのお陰よ。だからありがとう」
お姉様はそう言って満面の笑みを見せました。眼福です。こうなったら本当にお義姉様になって頂きたいですね。
「ところでお姉様。お姉様は魔法学院に進む予定ですよね?」
「うん。後宮に残りたいとも思うけれど、せっかく才能があるなら魔法も専門的な勉強をしたいわ」
私の唐突な質問にちょこっと首を傾げたお姉様。可愛いです。
侍女見習いを勤め上げてから魔法学院に進む例は少なくありませんし、学院から後宮に戻って来ることも難しいわけではありません。ただ、魔法学院で三年間過ごしてしまうと同期とのキャリアには大きな差が出来てしまうので、後宮官僚として出世したい人の中には入学出来るだけの才能を持っていたとしても魔法学院に進まない人もいます。お姉様の言う「後宮に残りたいとも思う」とはそういう意味です。
「でもそれがどうかしたのクリスちゃん?」
「私にはお姉様と同じ年の兄が居るとお話しましたでしょう?」
「あ! とても優秀な方と伺いました。なんでも魔力量が二百以上有って技能も百を越えるとか。剣も優秀な方だそうですね」
おお? 意外にお姉様が食い付いて来ました。これは幸先が良いですね。
「はい! お兄様はとっても優秀でとっても優しいんです。爽やかでカッコイイのですよ。
お兄様をお姉様にご紹介出来たら良いのですけれど」
「え? ええ、そのうちに?」
好感触を得て興奮気味に話すとお姉様は少し顔を引きつらせて誤魔化しました。逃がしませんよぉ。
「じゃあ年末のベイト伯爵家のお茶会にお姉様をご招待して頂けるように頼んでみます」
伯爵の正式な誘いなら断われませんからね。強制参加です。まあ結ばれるかどうかは本人達次第ですが、出逢いの機会ぐらい作っても良いですよね?
「え? ベイト伯爵? クリスちゃんが?」
「お母様は前ベイト伯爵の養子ですから一応親戚なんです。良いですか?」
困った顔のお姉様も可愛いですねぇ。あ、別に私に嗜虐趣味はありませんよ。ただ美しいモノと可愛いモノが大好きなだけです。
「えっと、それは、出来れば遠慮……あ! お兄様がそれだけ優秀ならクリスちゃんも凄い魔才の持ち主なのでしょう? ボトフ家は屈強な魔法戦士の家系ですものね」
あ。ダメです。
大丈夫な筈なのに。
諦めなきゃいけないのに。
今は嬉しい、楽しい時間なのに。
私には、再び流れ出した涙を止めることは出来ませんでした。
この国、いえ、この世界には魔法の才能を測る魔導具が在ります。
魔才測定器
名前の通り魔法の才能を測定数値化出来るその魔導具は、古くはセルドア王国の建国以前から存在し、その数値は極めて正確性の高いモノとして絶大な信頼を置かれています。大事な事なのでもう一度言いたいと思います。
その数値は信頼されています。
数多の経験者達によってそれが証明されている。と、言い換えても良いでしょう。実際、魔法学院の入試ではこの数値で線引きがされますし、数値が良ければ王族貴族が囲い込むこともあります。他でもないお母様は、この数値の影響で平民の家からベイド伯爵家へと養子に迎えられました。
魔才測定器で測れる数値は二種類。魔力量と技能です。ただ重要なのは、飽くまで“才能”の数値だということです。才能ですから当然、数値が良ければ魔法が使えるというわけではありません。数値が良ければ魔法を習得し易く成長が早いのです。特に技能の値は実際の魔法の力量に直接的な影響を与えるとされていて、魔法学院入学はこちらの数値で基準が設けられています。
具体的な数値の話をすると、平民の平均的な技能値は10前後で努力すれば生活魔法が、下位貴族の平均が20~25ぐらいで相当努力すれば普通魔法が、上位貴族の平均が40ぐらいで普通に練習すれば普通魔法が、それぞれ使えるようになる“可能性がある”値です。
因みに魔法学院は、貴族やその親類ならば30以上。平民ならば50以上です。50あれば大半の人が然程苦労せずに普通魔法を習得出来ます。
また魔力量も似たような数値になっています。ただ、同じ魔法でも術者によって魔力の消費効率は大きく異なるらしいので、魔力量の値自体は参考にしかならないそうです。とは言いつつ、少ないと直接的に影響が出るようでして、魔力量10で普通魔法を使うのはほぼ不可能とされています。実際、平民で普通魔法を使える人はかなり貴重な存在です。
序でにお話して置きますと、生活魔法と普通魔法に明確な線引きはありません。戦闘で役に立たない小規模の魔法が生活魔法、主に戦闘に用いる大きな魔法が普通魔法です。
セルドア王国の国民は、五歳の誕生日を迎えると魔法士団の出張所で(勿論本部でも可)魔才測定器を使用し魔法の才能の判定を行います。
ですので、子供達は皆五歳の誕生日を楽しみにしているわけです。当然です。そこで才能があると判定されれば魔法学院への道が開けるわけですし、何よりまず魔法を使えるかもしれないのですから!
はい。私もその例外ではありません。楽しみにしていましたとも。子供が魔法を使うのは危険だということで、判定前には教えて貰えなかった魔法をやっと教えて貰えると喜んでいました。
はいそうです。その通りです。
魔才値は遺伝的要素が強いことが分かっていましたしね。お父様もお母様も、序でにお兄様も“天才”と称される百以上の技能値を持っていたのですから、疑ってすらいませんでした。
自分に魔法の才能が無いなんてことを。
クリスティアーナ・ボトフ
魔力量:499
魔技能:1
次回 2015/09/26 12時更新予定です。




