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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十三章 嵐の前
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#187.ルダーツの王太子

 三月の終わり。ルダーツ王国の王太子ルイース殿下がエルノアの王宮を訪れました。その翌日、王家主催の舞踏会に出席する為少し早く王宮に戻ったクラウド様が直ぐルイース様に接触を持つと、同盟国の王太子様はシルヴィアンナ様を招待したお茶会をしていました。そして何故か、杏奈さんは玲くんを伴って来たようです。


「やっとクラウド様の正妃候補から外れたと思ったら、今度はルダーツの正妃に成って欲しいなんて言われるとは思いませんでしたわ」


 はいそうです。ルイース様のセルドア訪問の目的は、シルヴィアンナ様を正妃に迎えることだったのです。当然、これが決まったらサンドリーヌ様は離縁されるそうですね。簡単に出来る筈のない離縁ですが、ルイース様は一切躊躇することなくそれをシルヴィアンナ様に告げました。詰まり、サンドリーヌ様のやったことは離縁に相当することだと言うことです。どうやら浮気話は、本当の理由を隠す為の隠れ蓑のようですね。


「そうは言っても、ヴァネッサもハンナも婚約式の準備を終えているし、レイフィーラが嫁ぐわけにもいかない。貴女以外いないのだから仕方ない」


 ルイース様の母親はジークフリート様の実の姉テルフィア様なのです。詰まりクラウド様から、いえ、レイフィーラ様から見るとルイース様は父方からも母方からも従兄に当たります。そんな二人が結婚出来るわけがありません。ルイース様の正妃に相応しい上位貴族の女性というと、セルドアにはもうシルヴィアンナ様以外残っていないのです。

 なんて、堅実内政派がシルヴィアンナ様を正妃に推していないかと訊かれると、そうでもないのですけどね。内政派の中でも過激な部類に属するヨプキンス伯爵家なんかは未だにシルヴィアンナ様を推しています。まあ、リシュタリカ様が未だに下りていないことがその原因なので、外征派がリシュタリカを下ろせば状況は変わるでしょう。


「殿下の言い様ではシルヴィアンナ様が余り物のようですが、私にそんな積もりはありません。留学していた頃から申し上げていた通り、貴女がクラウド様の正妃候補で無かったら、というより、あなた方に騙されていなかったら私は迷い無く求婚していました」


 レイノルド様が居る前でそうはっきり告げたこの方は、ルイース・アブレイス・フォン・ルダーツ様ご本人です。

中背なのは長身のクラウド様との対比にはなりませんが、銀色の髪で濃い青色の瞳というそのゲームの登場人物らしい色彩は対比になっていますね。因みにお顔は無愛想で冷たい印象を受ける正統派イケメンのクラウド様を優しく爽やかにした感じです。クラウド様は私と二人きりだと良く笑うので系統としては同じですね。というか、腹違いの弟であるウィリアム様やベニートよりルイース様の方がクラウド様に似ています。あ、血筋上当然ですね。


「わたくし一度も王家に嫁ぐと言った覚えはありませんので、嘘を吐いたことも騙した積もりもありませんわルイース様。他の縁談が全く無かったわけでもありませんし、本気で求婚するのなら出来たのではありませんか?」


 実際シルヴィアンナ様は色々な方と縁談が進んだことがありますしね。クラウド様の最有力婚約者候補だったのは間違いありませんが、求婚出来ないということも無かったはずです。


「私がシルヴィアンナ様を貰うとしたら、エリントン家だけに話をするのでは済みません。こうしてセルドアス家にも話を通す必要があります。次期王后最有力と言われる貴女に求婚するのは簡単な話ではありません」

「だからと言っても、好意を示すぐらいしてくれても良かったと思います。私にとっては寝耳に水ですし、シルヴィアンナにとっては迷惑なだけだ」


 珍しくレイノルド様が闘争心を見せていますね。いえ、前世から私や杏奈さんに近づく男性には攻撃的でしたね。結構束縛するタイプですし。


「レイノルド様はもっと穏やかな性格だと認識していたのですが……。ご本人に迷惑と言われれば引き下がるしかないが、現状婚約もしていない方にそれを言う資格は無いと思いますが?」

「迷惑は迷惑ですわね。ただ、わたくしが迷惑と言っただけでルイース様が引き下がるというのは嘘ではありませんこと?」


 こんな情勢下でわざわざ他国の王宮に乗り込んで来て、その程度でスゴスゴ退散はしないでしょう。


「嘘ではありません。“全く”その気がないと判ったら直ぐにでも退散いたします。“本気で”迷惑と言われれば引き下がるしかありません」

「それでは結局どう取るかはルイース様しだいではありませんか。しかも、公爵令嬢のわたくしが自分で結婚相手を決められないことぐらいお分かりのはずですわ。詭弁も良いとこですわね」

「エリントン公が貴女のご意志を無視して結婚相手を決めるとは思えませんが?」


 いえいえ、ルイース様。それは少し視野が狭いですよ。


「エリントン公は確かにそうですが、内政派までそうとは言えませんルイース様。クオルス様のご意志だけで堅実内政派が動いているわけではありませんから」

「……クリスティアーナ様はレイノルド様の味方ですか?」

「レイノルド様というよりシルヴィアンナ様の味方です。シルヴィアンナ様を強引に連れて行くようなことをしたら、私は全力で反対します」


 ルイース様がそんなことをするとは思えませんし、ルダーツの王太子では強制力は皆無ですけど。


「あなた方の関係はいったい……」

「親友ですわ」

「私が学院にいた頃は全くそんな素振りは無かったあなた方が? この一年の間に何があったのです?」


 ……クラウド様の侍女として数回お話しただけの私を覚えていたのですか?


「そんなことは良いでしょう。シルヴィアンナとしてはどうなのだ。貴女がはっきり嫌だと言えるのなら、エリントン公もごり押しなどしない。この話はそれで終わりだと思うがな」


 そうですね。


「残念ながらわたくし、一時期諦めてクラウド様の正妃に成るしかないと思っていたこともありますの。今はレイノルドに対する想いも強くなりましたからそこまでではありませんが、クリスティアーナ様がいなければレイノルドとのことも以前のままでしたわ。レイノルドと結ばれることがわたくしの望みではありますが、絶対に嫌だというほどルイース様を嫌ってはいませんの」


 杏奈さん。これってもしかして……。


「だそうだ。従兄弟として言わせて貰えば、シルヴィアンナを攻めるのは止めた方が良い。攻略するなら周りからだな」

「……本人の気持ちが一番重要ではないか?」

「いや、シルヴィアンナを落とそうとする諦めた方が良い。本気で連れて帰る積もりならエリントン公か父上を説得するべきだ」


 ここは王宮の居住区なので何の問題もありませんが、プライベートでは二歳上のルイース様にため口なのですねクラウド様。


「何故そうなる?」

「クリスがシルヴィアンナに付いているからだ。シルヴィアンナの望みを阻もうとすればルイース、お前がクリスの“標的”になる」


 私はスナイパーか何かですかクラウド様。


「標的? クリスティアーナ様の?」

「ふふっ。ついこの間上位貴族を一網打尽にしたクリスティアーナ様の標的になったら、二度とエルノアの土は踏めなくなりますわよルイーズ様」

「杏奈さん!」


 大袈裟過ぎです。一網打尽って何ですか。そんなことをした覚えは全くありませんよ。


「上位貴族を一網打尽?」

「一網打尽は言い過ぎだが、外征派と内政派の一部以外は今、クリスの正妃就任に賛成している。男爵家出身のクリスが“説得”したということだ」

「説得……セルドアの上位貴族を?」

「ああ。重臣会議でな」


 説得なんかした覚えはないのですが……。


「どうする。帰るか?」


 黙ってしまったルイース様にクラウド様が質問しました。


「……エルノアまで出て来て何もしないで帰るわけにはいかない。社交には出て様子を見させて貰うよ。それに、出来れば正妃はセルドアから迎えたい」

「何故かしら? ルイース様なら引く手あまたでしょう? 今の夫と離縁してでもルイース様と添い遂げたいという貴族令嬢は一人や二人ではないのではありませんか?」

「だからです。セルドアの貴族令嬢ならばルダーツに嫁ぐことに抵抗ありますから騒ぎにならない。私も女性の方も焦らず冷静になって考えられる」


 クラウド様程では無いにしてもルイース様も相当なイケメンですからね。国内で選ぶとなると大変なんですね。ってあれ?


「離縁は決まっていないのではなかったのですか? 何故正妃を選ぶ必要が?」

「あ!」


 どうやら口を滑らせたようですね。


「やはり離縁は決まっていることなのか。何があった?」

「……はあ。まあ良いか。内密に願いますよ」


 ルイース様の視線はレイノルド様とシルヴィアンナ様に向きました。


「勿論ですわ」

「シルヴィアンナを諦めるなら黙っています」


 交換条件を付けるのですか?


「それはズルくないかレイノルド」

「陛下にしてもクオルス様にしてもシルヴィアンナをルダーツの正妃にするのは利点が大きい。私には周りを固めることは出来ないのですからこれぐらい言って当然です」


 効果覿面でしたね杏奈さん。


「その強気をお父様の前で出せれば疾うにわたくし達は婚約していたわレイノルド」

「そうですよ。シルヴィアンナ様にまで煽られないと危機感が持てないなんて情けなさ過ぎます。グズグズしていたら浚われてしまいますよ?」


 大半がクオルス様の一存で動く堅実内政派が未だにシルヴィアンナ様を正妃候補から降ろしていない理由がこれです。玲君はクオルス様の前では緊張して一切力を発揮出来ていないので、クオルス様も「娘を頼む」とは言って無いそうです。情けないですねまったく。


「……スマナイ」


 それは何を謝ったのですか玲君。謝る前に実行すべきですよ?


「で? 何で離縁するんだ?」


 強引に話を戻しましたねクラウド様。


「……サンドリーヌは妊娠している」


 小さな声でそれだけ告げたルイース様は、少し俯いて黙り込んでしまいました。当然、ルイース様のお子さんではないのでしょう。


「セルドアと同じような後宮なら誤魔化しが利いたのだろうがな」


 ルダーツ城は誰がいつどの寝室に入ったかバレバレですからね。


「寄りによって、私が視察に出ている時期と符合したからな」


 視察の期間は長くとも一ヶ月程度の筈ですが……。


「それでルイース様。紹介出来る女性は結構いますが如何いたしましょう?」

「ああそうね。どんな方が宜しくて? 先程の話の通り上位貴族は残っておりませんが、わたくし共結構顔が広いですのよ?」

「切り替えが早いな」

「前にも言った通り、女は上位貴族でも政より色恋の話の方が好きなのですわ」


 当然、シルヴィアンナ様本人も例外ではないですよね?


「そうですね……出来れば侍女見習いを修了しているような、賢くて品のある女性ひとが良い」








2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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